12話 旅の目的
おそらく『ごめんね。助けられなくて』と言ったのだろう。死ぬ間際でも人の心配をしているなんて。どれだけ無念だっただろうか……。
目の前で人が死んだのは初めてだった。
何ともいえない感情だ。モヤモヤする。
「シン様、どうやら奴隷のようですね」
「奴隷?」
「はい、人間は奴隷を買うと聞いたことがあります。その者の首には奴隷の魔法がかかっておりました」
今はその魔法は消えている。
死んだからだ。
情報を見る。
シャーロット 女 18歳
性奴隷
両親の借金(無理な納税)により奴隷
落ちになる。
妹を守るため抵抗し拷問を受け死亡。
両親 反抗した為殺害される。
妹 クレア 14歳 性奴隷
なるほど、不憫な家族だな……。
またこの領主デーブスの被害者か……。
本来だったら、このままやり過ごすのが一番だろう。それが一番自然だからだ。だけど助けた事が必ず良いとは限らない。
でも関わってしまった。
知ってしまった……。
聞いてしまった。
彼女の最後の言葉を。
俺は……
「リリーいいかな?」
「シン様の仰せのままに」
リリーは頭を下げる。
俺の気持ちを察してくれたのだろう。
俺は決断する。
彼女を抱えて転移で宿に戻る。
彼女をベッドに寝かし俺は頭に浮かんだスキルを使う。
「リブァイブ」
彼女は光に包まれて、みるみるうちに皮膚や怪我が復元されていく。
すごい光景だ。自分でもびっくりだ。
すぐに心臓が動き呼吸をはじめる。
そしてゆっくり目が開いた。
天上を見上げて彼女が言う。
「私は……死んだんだ……」
っ!!?
彼女は自分の声が天井に反響しまだ自分が生きている事に気付く。本当なら声も出せず耳も聞き取れないハズだった。
「えっ?! 生きてる? 身体が治ってる!! うそっ! 喋れるっ! 目も舌もっ?!」
「おはよう。僕はシンだ」
シャーロットは僕らを見るとびっくりした。
「えっ、あっ、なんで? わ私はシャーロットと申します。私は確かに死んだ……んじゃ……」
「僕が生き返らせた。君が生きたいと望んだから。最後の言葉を聞いてしまったからね」
「えっ?! あのとき側に?? そ、そうですか……。シン様はすごい賢者様なのでしょうね……。こんな蘇生魔法を使えるなんて」
魔法ではないだけどね。
「ですが助けてもらって私には何も恩返しするものがありません……」
「恩返しはいらないよ。そんなつもりで助けた訳じゃない。ただの気まぐれだ」
ほんとに助けたのは偶然なんだから。
「それと君は一度死んだから、奴隷の契約も消えたハズだ。君は今から自由だよ。犯人たちも君のきれいな顔はもう覚えていまい」
シャーロットは自分の首の周りを確かめるように触った。
「え!? ほ、本当だ…解除されてる……」
彼女は驚いたあと、うつむいて複雑そうな顔をした。
「あっあのっ、私には帰る場所も行くあてもありません。両親も殺されましたっ!」
「それに…、わ私には妹がいますっ!失礼を承知でお願いを聞いてはくれないでしょうか!」
彼女は畏まって土下座をする。
「ど、どうか、どうか妹を助けては下さらないでしょうか! お、お願いしますっ!」
その娘は懇願した。
頭を地面に着けて必死に泣くのを我慢して。
この人たちを巻き込んでもどうしても自分には助けたい人がいる。都合が良いのも分かっている。何の力の無い自分では絶対にどうしようも出来ない事も分かっている。自分には藁にもすがる思いで必死に助けを求めるしかなかった。
「大丈夫だよ。君を助けた以上見捨てたりしない。必ず妹も助けると約束するよ」
「助けて下さる……のですか……?」
俺のまさかの返答に驚く。
「あ、相手は……貴族様ですよ……?」
「あぁ、大丈夫。貴族なんて関係ない。それに君が思ってる以上に僕らは強いんだ」
彼女の毎日は地獄だった……。
助けてと何度も叫んだ……。
だけどそれは死ぬその時まで叶わなかった。
助けてくれる人なんていない。
望んではいけない。
いつしか彼女はそう思っていた。
涙が溢れていた。
「あっ、あああ……あり……がとう、ござい……ますっ……」
シャーロットの頭を撫でてやる。
「さて、ホントどの世界にも悪党はいるんだな……」
俺はぼんやりしていたこっちでの暮らしの目標を決めた。
「リリー決めたよ。俺の旅の目的を……」
真面目な雰囲気を感じ取ってリリーは跪く。
俺は自分の手を見る。
「ずっと考えてた……、俺がこの世界に来た理由を……この力の意味を」
ここの人々は横暴な貴族のせいで普通の生活もままならない。普通に感じるはずの小さな幸せですら望んでも叶えることが出来ない。
シャーロットのように奴隷落ちし、どんなに泣いても叫んでも無残に殺され無念な想いで死んでいった者たちもたくさんいる。
神様はこの世界が近いうちに終わると言った。話の規模が大きすぎて分からなかったが、おそらく人間が大きく関係している。不思議と今ならなんとなく分かる。そしてそれが俺の役目だということ。
この世界は誰かが変えないと変わらない。
きっと俺はそれを変えに来たんだ。
「俺は誰もが幸せな世界を作りたい」
初めて俺はこの世界の目標を口に出した。
リリーは膝を着きながら顔を上げる。
「とても素晴らしい目的だと思います」
「手伝ってくれるかい?」
「喜んでお手伝いさせて頂きます。シン様」
リリーは顔には出さなかったが心底喜んでいるように見えた。
その時、俺の身体が少し輝いた。
ん?!なんだこれ?
「それは神様値が上がったんだよ」
??
頭の中で声が聞こえた。
「神様??」
「当たり! 昨日ぶり? かな。どうやら神様適合してるみたいだね。さすが僕が見込んだだけある。神様値が増えると出来る事が増えるんだ。神様から神様へプレゼントだ」
「そうなんですね。出来る事ってなんですか?」
「それはまた頭で考えれば分かるよ~。じゃあね~」
通信は途切れた……。
リリーを見るとこちらを見て驚いていた。
「シン様、今のはいったい……。シン様から部屋中に神気で溢れていました……。これほど濃い神気は初めてです……」
リリーは汗を流し驚愕している。
神気っていうのか。
「う~ん……何て言うのか、神様の神様から連絡があったんだ」
っ!?
「あの……? か、神様……って??」
シャーロットも訳も分からず驚いている。
雰囲気で冗談を言っているとは思えない。
「自分で言うのもなんだけど、僕はこの世界の神様なんだ。だからシャーロットは何も心配する事はないよ。貴族なんて目じゃない」
「か、神様? ?シン様が? えっ? えぇっ?!」
俺の斜め上の答えにシャーロットはパニクり始めた。
「そうです。シン様はこの世界の神様なのです」
リリーが頭を下げながら言う。
シャーロットは地面に頭を着ける。
「へへーっ!!」
江戸かよ。
「二人ともそんなにかしこまらないでよ。シャーロットは病み上がりなんだし寝てていいよ」
「いっ、いえ! 大丈夫ですっ!」
やりずらい……。
「俺は今からその悪党の所に行くよ。リリーもついてきてくれ。シャーロットは休んでいるといいよ」
「わ、私も行きますっ!」
え?くるの?殺されたばかりなのに?
「辛くなるけど良いの?」
「大丈夫です。い、妹を助けたいですし! あいつらが許せないです!」
シャーロットは唇を噛む……。
見かけによらず強い娘だ。
そうか、妹の為に今までずっと一人で立ち向かったんだもんな。
「分かった。一緒に行こう!」
しかしそうなると困ったな。助けると言った手前、また死なれたら気まずいな……。そういえば、なんか出来ることが増えたって神様いってたな。
どれどれ、『神具召還』なんてのがあるな。
とりあえず神具を召還するか。
神々すら滅ぼす力……
『神具召還』
バチバチバチッ!バチバチバチッ!バチバチバチッ!バチバチバチッ!バチバチバチッ!バチバチバチッ!バチバチバチッ!バチバチバチッ!
床から魔方陣のようなものが出現しバチバチとイナズマを放ちながら鎧に剣が刺さった状態で出てきた。
おいおい、むちゃくちゃ演出格好いいな。
二人は目を丸くしている。
剣を持ち上げる。まるで重さを感じない。
「凄いなこれ。重力を無視してる。さすが神具だな……」
俺は剣先を見つめる。
「シャーロット、これを装備するんだ」
「えっ、これっ? 私がですかっ?」
シャーロットは驚く。
「普通人間は装備することは出来ない。シャーロットは僕が生き返らせたことで身体に神気が宿ってる。だから装備できるハズだよ」
シャーロットが鎧を着ると、体に合わせて神具は形を変えた。
「ふぇー……」
と言いながら全身を鏡で確認している。
「シン様、凄いですね……。私もはじめて神話級アイテムを見ました」
「そんなにすごいのかな? まぁ神話級だから本来神様が装備するものだから見たことないのは当たり前か……」
「じゃあ悪党成敗に行こうか!」
「はいっ!」
俺たちは悪党アジトへと転移した。
次回、クレア救出
シャーロットの妹を助けるためアジトへ。シンは悪党を皆殺しにしていく。