1話 プロローグ
「この一撃に……全てをかける! これで終わりだ魔王っ!」
「「ククク、来い! 勇者!」」
勇者の身体は女神アルテナより授かった『光の加護』の力によって光輝く。
そして先代の勇者たちが魔王を倒してきた『勇者の剣』に、限界まで高めた光の加護の力を流し込むと応えるように勇者の剣は反応する。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおっ!!」
ーー《《《『『天斬光閃っ!!』》》》ーー
ズバアァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!
渾身の一撃は光の速さで魔王を捉えた。
「「グァァ……ア……ッ!! ガハッ……!!」」
魔王の身体を抵抗無く鎖骨から腹まで突き抜けた。
魔王は力無く崩れ落ちた。
「「見事です……。私を倒すとは……」」
剣に貫かれた姿勢で魔王は話す。
「本当に終わりだ魔王……、お前は多くの人間と仲間を殺した! 消えてあの世で後悔するんだ!」
勇者は剣を魔王に突き立てる。
しかし何かが違和感があった。
勝利を確信したハズなのに不安が離れない。
次の瞬間……
「ぐはっ!!」
勇者の背中はドス黒い何かによって貫かれた。
それが何かは分からない。勇者の胸から勢いよく大量の血が溢れ出す。
「まだ……そんな力を……」
勇者は悟る。
「クソっ……」
もうこの傷は治らない。出血量が多すぎて身体から力が抜けて立つことすらままならない。完全に致命傷だった。
「「グフフ……、本当に見事に罠にはまってくれました。奥の手は最後までとっておくものですよ。それとアナタはもっと周りに目を向けるべきですね……。しかし残念ですが、この勝負は引き分けのようですね……」」
魔王は血を足らしながらニヤリと笑う。
「は……離せ……」
「離しませんよ……。私の欠片をこの世界においてきました。まだ私の野望も終わらせませんよ……。なので私も死ぬわけにはいきません……」
「な、んだと……」
「「これが何か分かりますか?」」
クボッ!
魔王は自らの胸に手を入れ何かを取り出す。
「っ!?」
それは禍々しいドス黒く光る魔石。
つまり魔王の心臓だ。
「「これは私のコアです。最後の貴方への抵抗として、もろごと消えてもらいますよ……ククク……」」
するとその魔石は王都を包むほどの光を放つ。
勇者はその光が何を意味しているか察した。
それは最悪な結末だった。
「では……ニ百年後にまた会いましょう……。勇者アベル……」
「く……そ……、や…めろ……」
そして瞬く間に全てが光と共に空中に粒子となって消し飛んだ。この世界から勇者と王都は無くなった……
物語はこの事件のニ百年後の話……
東京のとあるライブ会場。
俺はステージに一人立っていた。
20歳ソロギターリスト。名前は天照 神。
会場は超満員。
千五百人が限界の会場に二千人のファンが押し寄せていた。
入れないファンはせめてひと目見ようと出入口に人が集まる。
インディーズのソロギターリストとしては異例の賑わいをみせていた。
「きゃーっ!!」
「シン様ー!! 素敵ー!」
「シン様! 最高ーーっ!」
「今日は来てくれて本当にありがとう!これが最後の曲になります。聞いて下さい『畑の豆』」
「おぉぉぉぉぉっ!!」
「豆? 肉?」
「タイトルが秀逸だ!」
「やっぱりあいつは天才だ!」
タイトルでジワジワきているみたいだ。
狙い通りだ。
「行くぞーっ!」
新曲を披露し大盛況でライブは終了した。
◆◆◆
「ふぅ……」
俺は片付けを終えてギターを肩に背負う。
いつものように自販機で熱い缶コーヒーを購入し飲みながらスタッフ全員に声をかけていく。
「お疲れ様です! 今日はありがとうございました」
「天照さん、今日も最高でした!」
「むちゃくちゃ盛り上がりましたね」
「新曲すごい良かったです!」
「ありがとうございます!」
褒められるのは素直に嬉しい。
曲は自分の分身のようなものだから。
だけどここまでスムーズに来た訳じゃない。
バンドを何度か組んだが音楽性の違いで衝突を繰り返し何度も辞めた。その結果いつの間にかソロで活動していた。
逆に俺にはその方が良かった。やりたい音楽と自分の世界観が分かった。一人になって半年、以前より人が入りあきらかにリピーターも増えた。
それにはちゃんと理由があって、前のメンバーたちも面倒くさくて嫌がっていたPVを自分で作りネット配信した。それがちょっとした話題となり爆発的に知名度が上がったのだ。
「ふふ……」
俺は缶コーヒーを一気に飲み干した。
受付の奥から機嫌良くオーナー夫妻が出てきた。
「今日は一段と凄かったわね。また腕が上がったんじゃない?」
「天照くん、今日も良かったよ。特に最後の新曲は、君の世界観に引き込まれてたよ」
「それと、言おうか迷ったけど実は今日関係者が見に来てたんだよ」
「え? 本当ですか?!」
「ネットで君の動画を見たらしくてね。再生回数が伸びて目に止まったみたいだ。それで一度生で聞いて見たいと話があったんだ。このままのペースで人が集められればいよいよ本格的にデビューかもしれないね」
まじか?!まじかよ!?おっしゃーっ!
ついに夢だったメジャーデビュー出来るかもしれない。
缶コーヒーを高々に上げて俺は無意識にガッツポーズを決めていた。
「シンさん!? いよいよメジャーすか? すげー!」
「いや、決まったわけじゃないですよ」
その話を聞いていた他のバンドの人たちも俺に声をかけてくる。
「話は後日くるみたいだから、また連絡するよ」
「分かりました!」
一通り挨拶を済ませて、鼻歌を歌いながら愛車のアメリカンバイクにキーを差し込んで回す。
チュドドドドドドドォ……
エンジンがかかるとマフラーから野太い低音の一定のリズムが心地良く鳴る。
バイク最高だぜ。
愛車エンジンの暖気を済ませ、飲みかけの缶コーヒーを一気に飲み干した。そして自宅へ向けて単車を発進させた。
ふふっ、ニヤつきがとまらない。
今日は最高のライブだった。お客さんも盛り上がってた。自分の出来も良かった。自画自賛だ。
このままいけば本当にプロデビュー出来るかもしれない。
俺は心躍らせていた。
「ひゃっほーーっ!!」
なぜバンドをやり始めたって?
そんなのやる人間の動機は決まっている。
モテたいからだ!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドォ……
俺はテンションが上がりアクセルを開ける。
バイクは勢い増していく。
なっ!!っ?
バイクの走る目の前の路上に何かが現れた。
「ネコっ!!」
うそだろ!?
それが何か解らなかったがハンドルを切る。
俺は虫も殺さない人間なんだ!
っ!!!??しまった!!
目の前にはガードレールが迫る!
アメリカンバイクにはそれを曲がる性能もない。
キキキキキキキキーーーーッ!!!
俺は音楽家になるんだ!
ドンッ!
そこで俺の意識は途切れた。
次回、神様との出会い
死んだ俺の前には神様が……異世界転生へ