日常から非日常になりそうだ
『お兄ちゃん!私神様になりたいの。』
『そうか。じゃあ、頑張らないといけないな〜』
俺の名前は神崎雄也。特に何かが出来るわけでもな
い高校2年生だ。俺の妹の優月葉は中学3年
生。中学2年生から学校での職業調べ活動が始まって
たくさんの職業に触れる機会ができた妹は、次々に将
来の夢が変わってしまうようで...
『って...流せるか〜!』
『も〜、うるさいよ〜お兄ちゃん』
『...我が妹よ。一応理由を聞かせてもらおうじゃない
か。』
『あ、うん。私ね。なんでもいいから神様になりたい
の。どうすればなれるかなー?』
『いや!答えになってないから!!全くなってないか
ら!!!』
『こんな土曜日のお昼から騒いで2人ともどうしたの
よ?ずいぶん楽しそうじゃないの』
あまりの騒ぎっぷりにご飯を作っている途中の母が
俺たちの会話に入ってきた。
『いつも通り夢が変わったそうで今日も俺にその夢を
教えてくれたんだがな?今度は「神様になりたいん
だ!」とか言い出したんだよ。こいつももう少しで高
校生なんだろ?いい加減こんなこと言ってたらイタイ
だろ?母さん何とかしてやってくれよ〜』
母はわかったわと返事をしてリビングを出て行っ
た。しばらくすると母が手のひらくらいの小さな袋を
1つ持って戻ってきた。母の持ってきた袋を妹が開け
た。その中から出てきたのは水晶のように透明な角の
尖ったひし形の石だった。
『母さん、その石は?』
そう俺が聞くと母はこの石を握った時に赤く光ると
何かしらの神様の素質があるのだと答えて妹に手渡し
た。妹がその石を握った瞬間、なんと石は赤く光り輝
いたのだ。
『光ったね!…っていうことはわたし!神様になれる
んじゃないの??』
嬉しそうに喜ぶ妹を見て母は驚いたような表情で俺
たちにこう言った。
『あら!こんなにもキラキラと光っているのを見たの
は初めてよ!一番偉い神様のところに行ってどんな力
があるのか教えてもらいましょう!』
この後、妹の話で盛り上がった2人に俺が非現実的
だって思った事を言うことはできなかった。
そして次の日、俺と妹と母は一番偉い神様のところ
に行くことになった。
どんなところに神様は住んでいるんだろうと思って
いた俺の微かな期待は、一瞬にして消え去ってしまっ
た。
そう。母が連れてきたのは間違いなく隣の家だった
のだ。
『なぁ、母さん。まさか隣の老夫婦のおじいさんが
「一番偉い神様なのよ~」とか言うんじゃないだろう
な?』
『え?そうよ。でも、惜しかったわね。ここに住んで
いるおばあさんが一番偉い神様なのよ。ちなみにおじ
いさんは大天使様なの。いわば、お側遣いみたいな存
在なのよ。』
『まぁまぁお兄ちゃん!そんなことどうだっていいじ
ゃない!だってだって!私が何の神様にむいているの
かがわかるんだよ?』
『どうせ大した能力ないって~。そもそも俺は昨日か
ら嘘くさい話だな~って思ってたんだよ。』
そもそも母がなぜとなりのおばあさんが神様でおじ
いさんが大天使って知っていたのかわからなかったの
だが。
『あら?お隣の神崎さんじゃないの。今日はどんな御
用で?』
花壇の手入れをしている神様、いやおばあさんが声
をかけて来た。
母が妹のことを話すと驚いたような顔をしたおばあ
さんは俺たちを家に入れてくれた。
しばらく居間で待っていると大天使、いやおじいさ
んとおばあさんが部屋に入ってきた。
どこからどうみてもただの老夫婦にしかみえないん
だが。
『話はわかったわ。じゃあ優月葉ちゃん。私に利き手
を貸してくれる?』
妹はすぐに右手をおばあさんの方に差し出した。お
ばあさんがその手を握ると妹の手の甲によくわからな
いがマークが浮かび上がり赤く光った。
『この力…この力は全能の力?優月葉ちゃんの力は何
でも真似できる力のようね。』
その言葉を聞いてあまりよくわかってなさそうな妹
は大喜びしていたのだった。
『あのー、俺には何か力がありますか?』
『雄也君には何もないわ。』
『やっぱそうなのーーー!?』
こうして俺の妹が神様になるまでの日々が始まった
のだ。