09 絶体絶命
ボクは衛兵に連行され、また違う離れに向かっていた、先に見える二階建ての建物だ、あの奥の明かりが灯っている部屋が、ボクの運命が終わる場所。
馬鹿みたいにカッコつけて、ボクはレティシアを守った、どうしてこんな行動に出たのか、自分でも不思議に思う。
レティシアは良い子だ、あの子に酷いことするなんて許せない、だったらボクが、どうせ何の価値もないボクが代わりに、そう思ったのかもしれない。
ボクはどうなるのだろう、館の主はレティシアを犯すつもりでいたはずだ、そこへ男のボクが現れたとなったら。
きっと館の主は逆上する、ボクはボコボコに殴られるだろう、それだけで済むならまだマシで、普通に殺されるかもしれない。
気が付けば部屋の前まで来ていた、嫌な事は一瞬で来てしまう、足がガクガクと震え出す、覚悟を決めて来たはずなのに。
他の部屋に比べて重厚な扉だ、まるで防音効果を狙ったようにどっしりしている、やっぱり、奴隷を犯す専用の部屋なんだ。
衛兵がノックすると、ガコンとカギの外れる音がして、分厚い扉が静かに開く、現れた使用人の男により、中へ通された。
部屋の中は明るいが、電気とは違うみたいだ、壁にある照明は不思議に揺らめいている、まさか魔法なのか?
広い部屋には高級そうな調度品が並び、真ん中に大きなベッドが設置してある、拷問器具などは見当たらない、意外と普通の寝室だ。
ベッドの脇には丸テーブルと二脚の椅子があり、その椅子にはそれぞれ中年男が腰掛けていた。
一人は、でっぷりと太った五十代ほどの男で、白地に金の刺繍が施されたゆったりとした服を着ている。
もう一人は、中肉中背で歳は同じく五十代くらい、ブラウンを基調とした控えめの服を着ていた、先の太った中年と比べるとやや嗄れたふうだ。
今この部屋には、白服の太った中年男、ブラウンの中年男、扉を開けた使用人の男、ボクを連行してきた衛兵の男、そしてボクの五人が居る。
「アルッティ様、連れてまいりました」
「うむ、待ちわびたぞ」
アルッティと呼ばれた白服の中年男は、ボクを見るなり椅子から立ち上がった、やっぱりこの人が館の主か、まんま白い豚のようだ。
「ほーう、これはまた美形だのう」
などと言いながら近づいてくる、そして目の前まで来ると、おもむろにボクのズボンをぱんつごとずり下ろした。
いきなりの事でビックリした、突然何をするんだ。
……でも、今ここに居るのがレティシアだったらと考えると、はらわたが煮えくりかえる思いだ。
「ん? んん~~?」
アルッティは、ボクの真ん中にある想定外のモノを発見して、声を唸らせる。
ふ、ふん、女の子じゃなくて残念だったね?
やった、やってやった、不安に震える手足は隠せないが、心の中で一矢報いたと思った。
「アルッティ様、こちらでよろしかったでしょうか?」
衛兵は確認を取る、衛兵もボクが男だと知らなかったはずだ、女の子と間違えて連れてきてしまった、この白豚に怒られちゃえば良いんだ。
「ほう……ほうほう」
しかし、アルッティは予想外の反応を見せて、その胸中はうかがい知れない。
「よし、お前はもう下がって良いぞ、ご苦労だった」
「ハッ!」
命じられた衛兵は小気味良い返事をし、再度使用人の開けた扉から出て行った。
良いってどういうこと? ボク男なのに、何が起きているのか分からない。
「よしよし、怖くないぞ? ふふふ、かわいいね~」
アルッティは再度そんなセリフを吐く、まるで問題は無いとでも言うように。
どうしよう、背中に冷や汗が流れ落ちる。
「今日はまた変わった趣向ですな」
ブラウンの男だ。
「ジェリウス殿、たまにはと思い幼子まで用意してみたのだが、今日は初日から一番の当たりだぞ」
「それは楽しみですアルッティ卿、それにしても黒毛のシープ族とは珍しい」
「いやはや、まったくその通りだ、これをウチのオズマが道すがら拾ったと言うのだから、笑いがこらえきれぬ」
ジェリウスと呼ばれたブラウンの男は、アルッティと二人して高笑いしている。
まさかそんな、これはおしりをどうにかされちゃう流れだ。
女の子じゃないから犯されないと思った、でも違う、そんなの関係ないんだ、この二人は、今からボクを犯すつもりだ。
想定外だ、どんなにボコボコに殴られても笑って返す覚悟ならあった、最悪死んだって、納得できると自分に言い聞かせていた。
だけど、人としての尊厳をズタズタにされるコースは、どうなってしまうか想像がつかない。
元世界では、性的なイジメも姉達にされてきたが、それとはまた違う、決定的に犯罪臭がすごい。
そもそも、そんな行為は物理的に無理だ、ボクの体は小さすぎる。
この異世界で生まれ育ったわけじゃないから、今のボクに年齢は無い、強いて言うなら、元世界から数えて二十歳とも言える。
だけど、今は体が小さいのも事実だ、転移者効果で多少耐久力があったって、そんなの耐えられない。
何とかここまで生きながらえてきたけど、最後はこんな結末になるなんて。
「さぁ、こっちにおいで」
アルッティはボクをベッドの方へ促す。
「あ、あの……」
冗談じゃない、そうオロオロしていると、傍に居たジェリウスが、ボクの腕を強引に引っ張った。
「痛っ、やっ、イヤっ! やめて下さいっ」
ボクは抵抗した、どうせ死ぬか廃人なら、ここで戦って死んだって!
「こっちに来い!」
しかし、急にキレたジェリウスに続いて、館の主のアルッティと、部屋の隅に控えていた使用人の三人がかりで、ボクは簡単に抑え込まれた。
ボクの力が強いと言っても、大人一人に毛が生えた程度だ、三人に押さえ付けられたらどうにもならない、勝てるわけがなかった。
丸テーブルの上に、上半身をうつ伏せに押さえ付けられた。
右腕をジェリウスが抑え、左腕を使用人が抑え、そして、真後ろにアルッティがスタンバっている。
ボクのズボンとぱんつは、足元まで全部降ろされ、白くて柔らかなおしりがあらわになる。
「待ってください! 違うんです、違うんです!」
何が違うと言うのか、意味は繋がっていないが、とにかくやめて欲しかった。
「ダメだと思うんです、ボク、ダメだと思うんです」
「ほう? どうしたのだ?」
アルッティが、勝ち誇ったようにニヤつきながら聞き返してくる。
「ボク、まだそういうの無理だと思うんです」
「ほうほう」
「だからあの、怪我しちゃうと思うんです、し、しんじゃうと思うんですっ」
肩越しに後ろを見ると、「なるほどの~」などと、アルッティは全く気にしていない様子だ。
そして、その無駄に大きな両手が、ボクの柔らかなおしりに迫る。
もうダメだ、万事休す、ボクは観念して目をつむった。
――ダンダンダン! ダンダンダン!
その時、突然、扉がけたたましく叩かれた。
「何事だ!」
アルッティは不機嫌に声を上げ、使用人に扉を開けるよう命じる。
扉が開くと、先ほどとは別の衛兵が、青ざめた表情で勢い良く部屋に飛び込んできた。
「賊です! アルッティ様、領内に賊が侵入しました」
「何だと!? どういう事だ!」
ボクは、こんな事もあるのかと、偶然に感謝しながらズボンとぱんつをぎこちなく上げた。
「状況はどうなっているのだ、まったく騒がしい、早く収めないか!」
「はっ、それが、かなり大規模な襲撃でして、ここも危険です」
「な、なにぃ?」
自分に危害が及ぶ状況に気がつき、アルッティは急に取り乱す。
「ば、バカな、いや、こうしちゃおれん、早く出ねば」
そして、調度品の中にある数点の巨大な宝石や書類をデタラメにバッグへ詰め込み、ボヨボヨと腹を弾ませながら、部屋から出ようとした。
ボクはその隙を突いて、アルッティの横をすり抜け、薄暗い廊下へ飛び出す。
そのまま、来た方向へダッシュで逃げた。
「あっ、コイツ」
「捨て置け!」
そんな声が後ろで聞こえる。
防音効果の高い部屋の中では気が付かなかったが、外ではかなりの騒ぎになっていた。
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間一髪おしりは守れた、でも、決して状況が好転しているわけではない、賊が攻めて来たんだ、レティシアや犬娘達が心配だ。
あの部屋に居たせいで完全に出遅れている、ボクが何の役に立つかは置いといて、とにかく、少しでも早くレティシアの元へと廊下を走る。
「はっ!?」
ボクは息を呑んだ、廊下を戻る途中にそれは居た、差し込む月明かりに浮かぶシルエット、大きい、大柄な女の賊だ。
廊下の真ん中に仁王立ちしている、右手に握られた幅広の片手剣からは、ポタポタと血が滴り落ちていた。
ボクは、その迫力に、思わず尻もちをついてしまった。
女の賊は、乱れた髪をそのままに、月明かりを反射した冷たい眼光で、すくみあがるボクを見下ろしている。
すごい殺気だ、見据えられたボクは、背筋に走る悪寒が全身に広がり体が動かない、剣に血が……、この人、人間を殺してここに居るのか?
絶対的な命の危険を感じ、この場から立ち去ろうと足をもがく、だけど、腰が抜けて立ち上がれない。
ひぃひぃと、情けない声を漏らしながら、尻もちの体勢で少しずつ後退することしか出来なかった。
「ガキですぜアネさん、ケケケ」
賊はもう一人いた、背が低く腰の曲がった男が、廊下の影からぬめりと現れ、卑しく甲高い声色でそう言った。
女の賊が背の低い男に目配せすると、男は「ケケ」と気味の悪い返事をし、ボクに近づいて来る。
女の賊は男をこの場に残して、再びアルッティの部屋へと歩き出す、やはり略奪が目的なのだろう、あの部屋には高価そうなものが沢山あった。
背の低い腰の曲がった男は、座り込んでいるボクの脇を持ち上げて立たせ、背後にピタリと付くと、「歩け」と、短い指示を出す。
ボクはどうすることも出来ず、背の低い男の指示に従い、アルッティの部屋とは逆の、建物の出口に向かい歩き始めた。
・
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人が、倒れている、沢山の人が倒れている。
外へ躍り出ると、館の衛兵や使用人達があちこちに倒れていた、あの庭の真ん中で倒れているのは……オズマだ、ピクリとも動かない、死んでいるのか?
「そこへ入れ、ケケ」
背の低い男が指示した場所は本館のエントラスだ、そこには、捕らえられた奴隷達が集められていた。
「レティシアおねえちゃん!」
そして、その中にはレティシアもいた、他の奴隷と肩を寄せあって座り込んでいる、ボクは思わず駆け出し、レティシアに抱きついた。
「良かった、おねえちゃん、レティシアおねえちゃん!」
見たところ、ひどい目にもあってないみたいだ。
「ユーノちゃんも、無事で良かった」
二人して無事を喜んだが、賊の一人に「静かにしろ」と脅され、以降、ボクとレティシアは抱き合って怯えていた、あとは成り行きに身を任せる他ない。
廊下で鉢合わせた女の賊が戻って来ると、奴隷は立たされ、全員、賊と一緒に馬車に乗せられた。
「街の衛兵が来るぞ、急げ」
どうやら、女の賊がリーダーのようだ、その一言で馬車は走り出し、ボク達は街の闇へと紛れていった。
エロ規約に引っかかったのは、多分この回かなと予想します、なので、作中で主人公の年齢は不明ということを強調しました。さらに「ギリギリアウトセーフ」の状況を完全なセーフに修正し、「お尻くぱぁ」も取りやめました。何も起こっていません、かなり物足りなくなりましたが、完全にクリアしていると思います。
この「絶体絶命」にはエロを加筆したノクタ版が存在します、ショタ主人公ちゃんが、より凄惨な目に合うバージョンです。18禁のためなろうからリンクは貼れませんが、読める方はそちらの方もどうぞ。「ショタ魔王さま(R)」という題名です。