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82 ミルクのプレゼント

 ナイトメアは凄まじく疾い、ゆっくり走らないと馬車が持たない。


「ぬん、ぬん、ぬーん! どうどう、どう」


 ミルクもナイトメアと化したサラマンディーヌを駆っている、加減して走るボク達の馬車とは別で、縦横無尽に砂漠を駆けていた。


「なんてスピードだ、経験したことのない疾さだ、流石に乗りこなすには練習が必要だな」


 以前、サラマンディーヌが初めてボクのバフ能力で強化された時、いきなり乗りこなせていたミルクだったが、ナイトメアはスペックの次元が違うらしく、慣れるまで時間がかかるようだ。


 まるで砂漠をゆく漆黒の弾丸だ、明らかに普通じゃない、というか最早未確認物体だ。周りに何も無い砂漠だからこそギリギリ視認出来るが、そうでなくては知覚するのすら難しい。


 そんなに早く走らなくても良い、むしろ普通を装う必要がある、だから改造馬車が耐えられる限界を探ったり、音の壁を突破しようとしなくていい。


 しかしまあ、ボクも気持ちは早る、だって次はゴールの王都なんだ。


 やっと勇者に会うことが出来る、ここまで色々ありすぎて、レティシアなんて勇者より強いとか言われていたけど、それでも何かしらの情報は得られるはずだ。


 やがて木々が増えてきて街道も現れた、まだ王都の影は見えないが、こんな遠い場所まで整備されているんだ、やっぱり今までの街とは規模が違う。


 徐々に道行く人も増え、左手を向くと遠くに街が広がっている、けっこう大きいが、あれは王都ではなく衛星都市メリキナだと言う、エメリーの故郷だ。


 今回はこのまま王都へ入るので寄らないが、エメリーか……元気でやっているだろうか、今もヴァーリーで冒険者をしているはずだ。


 最後に会ったのはトーマスと一緒にギルド食堂ジルミへ行った時だった、あの時は突然現れたエメリーにビックリして何も言えなかったけど、今なら挨拶くらいは交わせる気がする、時間が経って心の傷も癒えて来たし、余裕も出来た。


 フェリクスとエメリーの世界はボクとは毛色が違いすぎるけど、冒険者を続けているなら、また何処かで会うこともあるだろう。


 そんな事を思いながら、衛星都市メリキナを横目に通り過ぎる、正面にはついに王都ドリナが現れた。



「一つ訪ねたい」

「これはミルク様、お帰りなさいませ」


 グジク並に高い防御壁が王都を囲んでいる、それをほへーっと見上げるボクの隣で、ミルクが大門にいる門兵に語りかけている。


「セシルが王都に入ったか分かるか?」

「はい、勇者様の帰還はまだであります、勇者様は旅先の都合で、お帰りは少々遅れるとの報告は受けております」


 様々な出来事で足止めを食っていたボク達だったが、勇者はもっと遅れているらしい。


「いつ戻ってくるかは知らされてないのか?」

「私どもではそこまでは。ミルク様なら王宮へ行けば分かると思います」

「そうか、邪魔したな」

「ハッ!」


 ビシリと、門兵は格好良く敬礼を返した。


「勇者さま、まだ帰ってないみたいだねユーノちゃん」

「ねー」


 トーマスは勇者にあまり興味が無いようだが、レティシアはまるでアイドルにでも会いに来たかのように、ミーハー感を振りまいていた。


 それから、ミルクが居たためかちょっと多めに出てきてしまった門兵に、ボク達は丁重に王都内へと通された。


 胸に水平に腕を構えて敬礼している兵士達は、門を通過するボクとレティシアにニコリと微笑んでくれる。トーマスを見た兵士の顔は引きつっていたが。


 こうしてボク達は、勇者が戻るまで王都で過ごして待つことになった。



 王都の中心部に広大な森が見える、聞くと森の中には湖まであるという、そこが王族の住まう宮殿領だ。


 なんでも王家の秘宝の関係で、砂漠の街にもかかわらず膨大な水と緑を維持することが出来ているらしい。さすが王都、ファンタジーの規模も大きい。


 そしてミルクの住まいも宮殿領の敷地内にある、一部の要人は宮殿領での生活を許可されており、勇者の家もそこにある。


 ただし宮殿領のセキュリティはかなり高く、特にミルクや勇者など要人の住む区画は一般人の立ち入りは原則出来ない。


 なので、ミルクはボク達が入れるように手続きをしてくれるという。しかし、許可が降りるまでに数日かかるらしい。


 そこまでしなくていいのにと言っても、ミルクはせっかくだからと、どうしてもボクを家に連れ込みたいようだ。


 面倒な手続きをさせて迷惑かけちゃうなと思ったが、当人も希望しているので手続きを開始してもらう。


 その期間、ボク達は一旦城下町に宿を取り、王都を満喫することにした。



 正直、王都の家並みも今までの街とさほど変わらない、砂漠特有の土壁や石積みの家が並ぶ、ただ区画整理はキッチリされており、民家も商店も桁違いに多い。


 街ゆく人々は活気に溢れ、どこか垢抜けている、所々に配置されている衛兵の表情もどことなく明るい、巨大都市なのに治安は保たれているようだ。


 ただ、こんなに人の往来があるのに獣人が少ない、特に子供は見かけなかった。やはり獣人は肩身の狭い思いをしているのだろうか?

 

 王都の民度は高い、ならず者も見かけずトーマスが変に目立つほどだ。案外平気だと思うが、ボクもくるくる角を隠すため、一応パーカーのフードを被る。


 さて、ミルクは王宮へ詰めているし、トーマスはどこへ行っているのか知らない、なのでレティシアと一緒に街を見て歩いていた。


 見どころは沢山有るし色々な食べ物も売っている、乾燥した地域ではあるが街中にも緑が多い。物珍しさに散歩しているだけでも楽しい。


「……飽きた」


 王都に来てニ日目、ボクは王都に飽きていた。


 見どころがあると言ってもアトラクション施設があるわけでも映画館があるわけでもない、王都であっても遊ぶ所と言えば、決まって酒場かエッチなお店だ。


 そんなの興味が無いし、そもそもボクは子供だ、現代人のボクにとって、ネットも無いこの世界は暇を潰す手段が少ない。


 こんな時は冒険者ギルドだと思い至って依頼を見に行くと、土木工事やお店のお手伝いなどの仕事が主で、魔物討伐などはまず無い。王都周辺の魔物は兵士が駆除して回っているみたいだ。


 代わりに商人や要人の警護スタッフの募集などが多いが、指定期日が遠かったり日数が長期にわたるものばかりで、片手間で出来るようなものでは無かった。


 もっと探せば日銭を稼ぐのに丁度いい依頼があるかもしれないが、そこまでする必要はないし、勇者に会うという目的を目前にして、別の作業に身も入らない。


「……暇だ」


 宿に戻りゴロゴロしていた、日中はくるくる角が目立っちゃうし出来れば家にいたい、引きこもり体質が発動していた。


 レティシアは……本を読んでいる、リメノ村から持ってきたものだ、一冊しか無いけど度々熱心に読んで勉強していた。


 村長の娘だけあってレティシアはある程度教養がある、識字率の低いこの世界でも読み書きは問題なく出来た。“書き”が未だに出来ないボクより立派だ。


 レティシアが読んでいるのは羊牧についての教本だ、繁殖から屠殺方法、さらに製品加工や風の読み方など実践的な事が書かれている。


 正直ボクが見ても仕方ないし用はない、でもレティシアはおじいちゃんのシャインから渡されたというその本を、大切に読んでいた。


「おねえちゃん、勉強熱心だね」

「ううん、何度も読めって言われてるから」


 はは、好きで読んでいるわけじゃないんだ? でも真面目だね。


 それにしても本か、そう言えば今まで本屋さんを見たことがない、王都には本屋さんはあるのだろうか? もしあるのなら行ってみたい。


「まったく、あのクソ役人どもめ……」


 あれ? 今ミルクの声がした、帰ってきたみたいだ。


「おかえりなさい、ミルク」

「ああただいま、もう少しで宮殿領に入れるからな」


 そう言ってミルクは微笑んだ、なんかさっき毒づいていた気もするけど。


「勇者さまは?」

「ダメだ、まだかかる、どうやら仕事は済んでいるらしいのだが、同行している金魚のフンが問題でな」

「ふーん」


 ちょっと寄り道しているみたいだ、仕事は終わっていると言うので、近いうちに帰ってくるだろう。


「ねえミルク、王都には本を売っているお店とか無いの?」

「本は高価なものだからな、取り扱う店は少ないが、あるぞ」

「あるの!?」


 やっぱりあるんだ、これは興味深い。


「優乃は本が読みたいのか、よし、ならば今から行ってみようか」

「うん!」


 本屋さんまで案内してくれるという。


「おねえちゃんも行く?」

「行かなーい」


 うわぁ、興味のない事にはさっぱりだ。まあいい、ボクはミルクと二人で本屋さんへ行くことにした。



「ミルク、ここ?」

「うむ、王都で一番多くの本が売っている場所だ」


 ……ここは魔法屋さんではなかろうか?


 入店してみたが、本と言っても魔導書しかない、こんな魔法陣とか書いてあるのはどうでもいい、ボクは暇を潰せる読み物がほしいのだ。


「これじゃないの~」

「なんと? 困ったな、本といえばこういうのしか」


 そもそも識字率の低い異世界で娯楽となる本は珍しい、事前に言って取り寄せてもらうしかないみたいだ、急に店頭に出向いても手に入らない。


「ふーむ、王宮に秘蔵してあるものなら優乃の目当てのものもあると思うが」


 ボクはまだ宮殿領に入れない、諦めるしかない。


「こんな事になってしまって、なんだかすまない」

「ううん、いいよ、ありがとう」


 本にはありつけなかったけど、ミルクの厚意は嬉しかった。


「代わりと言っては何だが、今日一日、私と一緒に街を見て歩くか?」

「えっ、ミルクと?」


 なんだか新鮮、ミルクとは二人きりで居ることも多いが、主に修行や仕事がメインで遊びに出かけたことはない。


「嫌か?」

「ううん嬉しい、行こう!」


 暇だった一日が思わぬデートになった、ボクはミルクと一緒に街へ繰り出した。


 ミルクは王都の住人だ、美味しいお店だって沢山知っている、色々と見て回ったので、公園のベンチで休むことにした、周りもカップルだらけだ。


 大きな公園には立派な噴水がある、魔法で作動するのだろう、飛沫は美しく舞い、昼間なのに数々の鮮やかな色に変化してゆく。


「きれいだね」


 やっぱり魔法ってすごい、ボクは感動してミルクの手を握った。


「ミルクもよく来るの?」

「や、私は、初めて、だが」


 うん? 心なしか緊張しているような? まぁ、周りはカップルだらけだし、硬派なミルクは落ち着かないのかも知れない。


 それからミルクは色々な話をしてくれた、あそこに窃盗団が隠れ住んでいたとか、剣の練習中に文化財を壊してしまったとか。


 話の内容はアレだったけど、楽しいひと時を過ごせた。


「そうだ、せっかくの王都だ、何か街着を買ってやろう」


 最後に服を買ってくれるという、今まで服といえば冒険者用のものが前提だったため、ボクも楽しみだ。


 上着はレティシアのお母さんが仕立てたパーカーを着ている、丈夫なものだが、これなら街で着ていてもおかしくない、問題はズボンだ。


 このタクティカルパンツは少々やぼったい、なのでズボンを買ってもらうことになった。さっそくお店へ向かう。



 さすがに日本のように洒落たディスプレイはされていないが、それでもかなり大きな店だ、最先端のものが揃っているとミルクは言う。


 店内にはポロシャツやジーンズなど、中世に似た異世界とは思えない品が並んでいる。これらは勇者が考案したものらしい、現代知識無双の賜物だ。


「これなんか良いんじゃないか?」


 ミルクが選んだのは丈夫な生地の短パンだった。


 王都は暑いし、太ももまで出してもいいだろうということで、動きやすい短パンを選んだみたいだ。確かに冒険者はあまり穿かない。


 似合うか見てくれると言うので、一緒に試着室に入る。


 ぱんつ姿になったボクは、しゃがんでいるミルクの肩に手を置いて、ミルクが下で持っている短パンに、左、右と足を通す。


 ミルクは短パンを上げて、クイクイとおしりにフィットさせた。


「丈はどうだ? 短くないか?」


 そう言って、裾から手を入れてフトモモのサイズ感を確かめている。


 ――さすさす。


「う、うーむ……」


 ――さすさす。


 おしりの方まで手を入れて調べているが、何やら神妙な顔つきだ。


「どうしたの?」

「いや、短パンを穿くには、この下着ではな」

「え?」


 ボクが今穿いているぱんつは、転移時に穿いていたボクサーパンツだ、仕立て直してあるが、元々大人用なので裾が長い。それが短パンからはみ出るという。


 いつもはこっちの世界で買った女性用の紐パンを着用している、男性用のふんどしは苦手で。それはともかく、今日に限ってボクサーパンツを穿いて来ていた。


「丁度よい物がある」


 するとミルクは、ポーチから何かの布を取り出し、広げて見せた。


 ……白ブリーフ?


「あの、ミルクこれは?」

「う、うむ、実は以前からセシルと国民環境庁とで研究していてな、これはセシル考案の新素材でこさえた、まったく新しいデザインの男性用下着なのだ、まだ試作段階だが、たまたま今日持っていたのだ、たまたま」


 そう早口で説明してくれた。


 たまたま持っていたにしては、サイズもボクに合いそうな子供用だ。まあ、白ブリーフ自体の完成度は悪くない。


「他にこういうのも作ったのだ」


 ミルクはさらに、水色やピンク色のものなど各種ブリーフを取り出した。こっちも可愛く仕上がっている。


「これをボクに?」

「うむ、ぜひ使用感も知りたいのだ、ぜひに」


 まだ巷に出回っていない試作品なので、ボクにモニターを兼ねて穿いてほしいという。なるほど、それならミルクの必死な感じも理解できる。


 早速、スタンダードな白ブリーフから穿いてみよう。


 ……あ、でも。


「どうした?」

「ここでぱんつ脱ぐの?」

「うむ、試着室だからな、誰も見ていないから大丈夫だぞ」


 ミルクに見られているけど?


 それも今さらか、そう思って短パンを脱ぎ、ボクサーパンツもするりと脱ぎ去って、一旦まるだしの状態になった。


「……ゴクリ」

「ミルク?」

「あ、ああ、すまん」


 短パンを穿いた時のように、ミルクは白ブリーフをボクの足下に広げてくれた、まるだしで居るボクのすぐ前に両膝をついて、前かがみの体勢だ。


「……スンスン」

「ミルク?」

「あ、ああ、すまん」


 足を通すと、ミルクは慎重に白ブリーフを上げる。


「わあ、サイズもぴったりだ」

「すばらしい……実に」


 これなら商品化も近いな。


 続けて短パンも再度穿かせてもらった。


「どうかな?」


 試着室と言っても姿見が無いので、左右に体を振ってミルクに見てもらう。


「うむ、とても良い……、似合っているぞ」


 良かった、子どもの姿に戻った今、やっぱり短パンはしっくりくる。


 それにブリーフが手に入ったのも大きい、これで女性用の下着からも卒業できる、紐パン問題もクリアだ。


 早速、短パンを穿いていくことにする。


「ミルク、今日はありがとう」

「……こっちこそだ」

「え?」

「い、いや、このくらい、いつでも買ってやるぞ」


 おかげで良い一日になった、レティシアも来ればよかったのに。そう思いつつ、屋台でお土産を買って宿に戻った。



 宿に戻ってしばらくすると、トーマスが帰ってきた。何やらボクに話があるらしく、廊下の隅まで連れ出された。


「いいじゃねーか、な、ちょっとだけ行ってみよーぜ」

「ええー、やだよボクそんな所」


 何かと思ったら、一緒に夜のお店へ行こうとのお誘いだ。トーマスは一日目の夜からおねーさんの居るお店に入り浸っている。


 元々ボクは女の人が苦手なのに、おねーさんが沢山居るお店なんて遠慮したい、それにそんなお店に行ったって、子供のボクに何の楽しみがあるというのか。 


「何言ってんだ、お前のテクがあれば大抵の女はイチコロよ、ミルクを手篭めにした時を思い出せよ、な?」

「そんな事してないもん、だからイチコロしたくないの、ボクは」


 どうやら、トーマスはボクをダシにおねーさん達と仲良くなりたいようだ。


「何をしている?」

「あ、やべっ」


 そんなことを言い合っていると、すぐにミルクに見つかった。


「まさか、優乃をいかがわしい店に連れて行こうと言うのではあるまいな」

「い、いかがわしいって、ふつーの飲み屋だぜ、ふつーの」

「見え透いたことを、それに結局飲み屋ではないか、ダメだ」


 ミルクが来てくれて助かった、トーマスはボクが押しに弱い事をよく知っている、何かと上手いこと言われて連れて行かれる所だった。


「ユーノだって男だ、ああいう場所は必要だぜ? 社会勉強の一環としてよ」

「必要無い、お前は子どもに何をさせようと言うのだ? そもそも優乃にとって、いかがわしい店など最も縁遠い場所だ、その勉強は一生しなくて良い」


 まったくその通りだ、ボクにとって夜のお店は無価値に等しい。


「……なんだよ、ユーノが一番エロことしてるっつーの」

「何か言ったか?」


 すると、トーマスも反撃に転じた。


「お前だって、ユーノに短パン穿かせて喜んでいただろ」

「はて? 別にいかがわしい事ではないと思うが?」


 うん、男の子が短パンを穿くのは自然なことだ、何も問題ない。


「じゃあ、オレにも短パン買ってくれよ!」

「ふむ、かまわんが、そう死に急ぐこともあるまい」

「なんで命と引換えなんだよ! くそぉ」


 反撃の材料が意味不明だ、トーマスは撃沈した。


「行くなら一人で行け、優乃は今から私と風呂に入らねばならん」

「ううっ、ユーノばっかり……うらやましすぎる」


 ミルクに見つかってはトーマスも諦めるしかない。


 落胆した様子だったが、「また今度頼むぜ」と小声でボクに耳打ちして、やっぱり夜の街へ繰り出していった。



 王都に来て三日目だ、そろそろ何かしらの進展がほしい、そう思っていたところに、朝から宮殿に出向いていたミルクが帰ってきた。


「よし、さっそく我が家へ招待しよう、用意は出来たかレティシア?」

「はい、すぐにでも行けます」


 レティシアは王都に来てから購入した可愛らしい服に着替えて、宮殿領へ行く準備を整えていた。


「あの、ミルク、ボクは?」

「うむ、優乃は正体が不明なので、まだだ」


 正体不明って……。


 レティシアは辺境とはいえ、れっきとしたリメノ村の出身だ、身元がしっかりしている。それに比べてボクはアヤシイ奴なのだ、その分手続きにも時間がかかる。


「ねえ、トーマスは?」


 今朝方帰宅して、部屋の隅で爆睡しているトーマスを指差す。


「ヤツは私が一緒でなければ王都にも入れん、当然宮殿の敷地内など無理だ、そもそも最初から手続きすらしていない」


 そうなんだ、やっぱりね、だって元犯罪者だし。


「優乃の許可はまだ時間がかかる、代わりと言っては何だが、優乃には特別にプレゼントがあるんだ」


 へえ、なんだろう。


 するとミルクは一枚の用紙を取り出した。


「ここに行けば本が沢山有るぞ、結構立派な書物庫を所有していると聞いた」


 え、昨日の話を覚えていてくれたんだ? 一般人のボクでも入れる図書館を、わざわざ探してくれたみたいだ。


「本当? ボクそこに行ってもいいの?」

「ああ、自由に書物を見られるようにしておいたぞ、セシルが来るまでそこで時間を潰せばいい」


 勇者が来るまで? 宮殿領への手続きが終わるまでじゃないの?


「丁度タイミングが良くてな、これで優乃も安心だろう」


 それは本当に良かった、暇な王都でトーマスと二人きりだと、どんな怪しげな遊びに付き合わされるか分かったもんじゃない、図書館にも入れるし一石二鳥だ。


「あれ? 王都立中央騎士学園?」

「そうだ、学園には本が沢山あるからな、存分に読めるぞ」

「でもこの用紙、体験入学って書いてあるよ?」

「うむ、潜……いや、学園の施設を使うため、一応そういう体になっているが、気にすることはない」


 確かに、学校なら本は沢山あるし、秘蔵の書も保管されているだろう、結構貴重なものも読めるかもしれない。


「ユーノちゃん学園見に行くの? 私も一緒に行きたい」

「すまんなレティシア、この枠は一つしか無いんだ」

「えー、まあ宮殿領に入れるまでの暇つぶしだもんね、仕方ないね」

「そうだ、レティシアが一緒に行って、学園がまるごと消えても困るしな」


 はっはっは、……なんで?


「さて、そうとなれば準備だ、あの文字が消えないペンも持っていけばいい、筆記用具は必要だろう」

「あ、丁度いいね、うんそうしよ」


 ボクは急いで支度した、なんと今から学園に行くらしい、随分と忙しない事だ。


 早速ミルクに連れられて、ボクは王都立騎士学園の正門前へと向かった。到着してみると大きくて立派な学園だ、ただ図書館を利用するだけなのに緊張してきた。


「優乃、そっちじゃない」

「えっ」


 正門へ歩き出したボクをミルクは引き止めた、そして、学園を囲む塀沿いに歩いて、連れて行かれたのは学園の横に位置する、小さな扉だった。


 扉をくぐるといきなり植木の中だ、守衛所も無いし、ただの通用口みたいだ。するとボク達を待っていたのか、三十歳くらいの男の人が一人現れた。


「これが許可証です」

「うむ」


 ミルクは会社の通行証みたいな物を受け取ると、そのままボクの首にかけた。


「では後は頼むぞ」

「任せて下さい、ミルクさん」


 そう男に言うと、すぐにミルクは通用口から外へ出た。


「ではな優乃」

「え、え、なんか変だよ、大丈夫なの?」

「何も変じゃないぞ、後はそこの男に詳しいことは聞いてくれ、また一週間後に迎えに来る、学園を楽しんでこい優乃」

「えっ、ちょっ、一週間って……」


 通用口が閉まると男の人はすぐに鍵をかけた。生徒が外に出ないようにするためだろう、内側からもカギがないと扉は開けられない。


「さて、ようこそメイリス学園へ、小さな従者様」

 満を持して短パン実装。

 さらに白ブリーフも導入しました。

 おねショタアビリティ、くんかくんかも発動。

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