81 とあるメイドさんの一日(メリーナ視点)
「王都編」
メイドさんが頑張るお話。ショタ主人公ちゃんは王都でお買い物。
短く切りそろえたブロンドの髪に、手際よく指定のメイド帽を装着し、姿見から一歩、二歩距離を取って、全身を鏡に収める。
「メリーナ、今日も一日、しっかりね」
鏡の中の自分にそう言い聞かせ、黒と白からなる制服に乱れがないか確認したら、今日のお勤めは始まる。
ここは宮殿領に隣接してあるドリナ司教館、私はこのお屋敷に五年仕えているメイドだ。
まずはダイニングルームで朝食の準備に取り掛かる、大テーブルのクロスを交換し食器を並べ、専属の料理人が食事を用意したら、私達メイドはご主人様をお迎えするため定位置に付く。
「おはようございます、クレイニール様」
十数人居るメイドが一斉に頭を下げる。
クレイニール様が席に着かれると、すぐさま執事のハリーがお傍へ付く。ハリーはまだ三十代の若さだが、クレイニール様の右腕とも言えるやり手の執事だ。
「本日のご予定は……」
クレイニール様が食事をなされる隣で、執事のハリーが今日のスケジュールを読み上げてゆく。
「午後からラインカーン伯爵がお見えになる予定です」
「ラインカーン様が?」
「はい、なにやら緊急の用ということで、急遽お時間を取らせて頂きました」
クレイニール様は多忙だ、祭事以外でも王国貴族との面会も多い、それだけでなく、民のためにと日々邁進しておられる。
とても献身的で立派な方だ、クレイニール様がデルムトリアに貢献した事例で言えば、より高度な水の生成魔術の普及と治水工事が有名だ、それにより多くの民は助かり、国も強くなった。
それだけでなく、平民でも学業が受けられるように、教会主導の学院を設立したりしている、そのためユナリア教信仰者以外の平民からも支持が厚い。
最近では勇者様が各地の争いを鎮め、力無き者に救いの手を差し伸べているが、勇者様が現れる以前はクレイニール様がその役を担っていた。
この館に仕えることが出来る者は幸せだろう、王国からの支援と民のお布施により、贅の限りを尽くした司教館は、貴族からしても羨望の的だ。
ここで働ける者は限られる、大聖堂と違い、クレイニール様のご住居でもある司教館は、一般の人間はおろか貴族でもそう通されることはない。
その中にあって、奥の間と呼ばれる“特別応接間”と“第二執務室”、そして“クレイニール様の寝室”は、十数名居るメイドの中でも私しか入ることを許されていない。
たまに新人メイドから、どうすればクレイニール様にお近づきになれるのか、奥の間を担当できるのかと質問されることがある。
そんな時は決まって諭すようにしている。彼女達は優秀なメイドであり信仰心も高い、そのため少しでもクレイニール様のお側にと考えるのだろう。
しかし、この司教館に務めているだけでも選ばれた人間、これ以上は教えに反するうえに、欲は身を滅ぼすことになる。
それに、残念ながら試験や資格などではこのお役目には就けない、特別な理由が必要だった。
さて、午前中クレイニール様は、大聖堂にて各街の牧師や高弟に神の教えを説いていらっしゃる、その間に、急いで特別応接間の清掃を済ませなくては、今日は午後からラインカーン・レイベル伯爵様をお迎えするのだから。
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「これはラインカーン様、お元気そうで何よりです」
「ありがとうございます、クレイニール大司教様もお変わり無く」
レイベル家は武門でなる名家で、ラインカーン様も先の戦争で勇名を馳せたお方だ、ユナリア教の敬虔な信徒であり、教会も多大なご支援をいただいている。
そんなラインカーン様だからこそ、奥の間である“特別応接間”でクレイニール様と面会できるのだ、それは教会とより親密な関係であることを示す。
「今日はまた突然ですね、何かお困りの事でもありましたか?」
「はい、実は少々気になる事がありまして、早急にクレイニール様のお耳にと思い、馳せ参じました」
「ほう……」
「グジクに関しての事です」
グジクもクレイニール様の治水技術の恩恵を大きく受けた街だ、教会も領主のケイダン様とは懇意にさせていただいている、教会との関わりが深い都市の一つだ。
「グジク……そうですか」
「クレイニール様、何かお心当たりでも?」
「はい、最近ドロテオ一派が力をつけている事はご存じですか?」
「知っています、元王国騎士団長の身で、ユナリア様の教えに背くなど許されないことです、今ではならず者を集め、山賊のような暮らしをしているとか」
「そうです、そしてついに教会の信徒を襲い始めたのです、私はそれが捨て置けず、ケイダン様に討伐を依頼しました」
「なるほど、さすがクレイニール様です」
「しかしどうやら、その討伐作戦は失敗に終わったようなのです。“ようだ”と言うのは、実はその結果報告がグジクから上がって来ないのです」
「なんと、クレイニール様もですか!?」
ラインカーン様もグジクとの連絡が滞っているという。
「この館に戦士ミルクが乗り込んできた際に、討伐失敗の事実を知りました、それからグジクへ連絡を取ろうと試みているのですが……」
ふた月ほど前、司教館に戦士ミルク様がいらした、その時はクレイニール様は留守にしており、執事のハリーが対応したのだが、要件だけ承ってミルク様にはお帰りいただいたのだ。
「クレイニール様、ケイダン様は次回のユナリア教定期集会にも出席なさらないようです」
「あの敬虔なケイダン様が?」
「はい、この前良くない噂を耳にいたしまして、やはり裏にミルク様の影があるというのです」
「戦士ミルクですか……」
「クレイニール様、もしやグジクはドロテオ一派の報復を受け、ミルク様に落とされたのではないでしょうか」
「まさか、グジクの軍事力は民間では群を抜いています、いかな戦士ミルクと言えど、とても相手に出来る戦力ではありません」
戦士ミルク様はSS級冒険者の中でも群を抜いて優秀なお方だ、そうだとしても、一個人が軍隊を相手取るなど不可能だ。
最近ドロテオ様やミルク様に力を貸す者が集まっているという噂だが、それでもやはり、急作りの戦力ではグジクの軍隊を抜くことは難しい。
「しかしクレイニール様、戦闘が無かったにせよ、ミルク様と接触しておいて報告の早馬も届かないとはおかしなことです」
「それもそうですね、ケイダン様の事です、大事はないと思いますが、すぐにでも調査員を送ってみることにします」
グジク周辺で不穏な動きがあり、ミルク様の動向も注意する必要があると確認し、ラインカーン様はお帰りになられた。
「もしラインカーンの言いようが本当ならマズいな、私の計画にグジクは欠かせない、万が一の事態も考えておいた方が良いか」
クレイニール様は、以前からユナリア教をこの国で確固たるものにするための計画をなされていた。
辺境の国にさらなる繁栄をもたらすには、それなりの力が必要なのだ。
「クレイニール様、お茶をお淹れいたします」
「要らぬ」
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夕食を済ませ、奥の間、“第二執務室”での事。
――コンコン。
厚く立派なドアがノックされる。
「クレイニール様、お伝えしたいことが」
「入れ」
執事のハリーだ。奥の間の一つである第二執務室へ入れる者は少ない、業務時間外に使用するこの部屋のドアが開かれるのは、大抵緊急の用事があるときだ。
「クレイニール様にお会いしたいという冒険者がまいりましたが、いかがいたしましょう?」
「冒険者風情が私に直接? 誰だ、まさか戦士ミルクではあるまいな」
「いいえ、もみあげの長い、一般の冒険者のようです」
「知らんな。だが、お前がわざわざこの第二執務室まで伝えに来たのだ、何かあるのだろう?」
「はい、実はその男、戦士ミルクの近況を知るようです、どういたしますか?」
クレイニール様の力にあやかりたい者は後をたたない、特に商人や冒険者は各地の情報と引き換えに見返りを求める。
大抵は取るに足らない情報だ、そのため執事のハリーが振るいにかけ精査している。そのハリーが報告するのだから、ある程度信用できる情報なのだろう。
「なるほど分かった、ここへ通せ」
「この第二執務室にですか? ……承知いたしました、すぐに連れて参ります」
たとえ有益な情報を持っていても、司教館の、しかも奥の間の第二執務室へ面識の無い者が通されることなどめったに無い。
再びドアがノックされ、執事のハリーが顔を見せる。
「連れてまいりました」
その冒険者は見るからに質の悪い者だった、司教館どころか、この王都へ出入りするのも憚れるような。
「へへ、お初にお目にかかりま……、な、なんだこの部屋は!?」
初めてこの部屋を目の当たりにしたら、まず万人が驚愕するだろう。絵画や美術品に溢れ、荘厳な雰囲気の漂う司教館、しかし、この第二執務室の趣向は違う。
壁一面に角や毛皮が飾られている、しかもそれは動物のものではない、獣人のものだ、クレイニール様は獣人の特徴をコレクションするのが趣味であった。
おびただしい数のコレクションが並ぶ第二執務室は、あまり人目に付いてはならない、これが“奥の間”に人を近づけない理由の一つである。
「こ、これはっ」
もみあげの冒険者は慌てて踵を返すが、ドアの前には腕の立つハリーが待機している、そこらの冒険者では部屋から出ることは叶わない。
「ふふふ、どうしたのかね?」
「いや、あの」
「さて、私に話があるのではないかな? 遠慮することはない、申してみなさい」
この国の教会を牛耳るクレイニール様の秘密を知って、無事に帰ることは出来ない、一般人をこの部屋に通すということは、初めからそういうことだ。
もみあげの冒険者はそれでもなんとか助かろうと、精一杯の誠意を見せた、しかし、その話の内容は荒唐無稽なものだった。
勇者様でも成し得なかった西の砂漠にあるダンジョンの完全殲滅を、ミルク様が成したと言うのだ。
しかも、その働きににもっとも貢献したのは、ミルク様が連れている二人の子供だという。
「何をバカなことを、ハリーよ、こんなヤカラを私に近づけるでない」
「申し訳ございません、その訴えに真に迫るものを感じたので、一応のご報告をと思いまして」
確かに、命の危険が迫っているこの状況下で、こんな話を真剣にするもみあげの冒険者は、何かあると思わせる。
「ほ、本当なんだ、信じてください!」
「ではアーデルアの者に確認を取ろう」
「そ、それは、あの、箝口令が敷かれていて」
クレイニール様は、フウとため息をつかれた。
「それでは戦士ミルクは今、アーデルアに居るのだな?」
「い、いえ、王都へ向かうようだったので、急いで教会に報告をと」
「急いで? ならば今頃は砂漠を行軍中か」
「いえ、それも違います、実は彼奴の後をつけようと思ったのですが、恐ろしいほど早い馬車を所有していて」
「振り切られたと?」
「申し訳ございません、奴ら砂の上を滑るように移動して……、すでに数日前には王都に到着しているはずです」
「まったく、今度は不思議な馬車か、もうよい、ハリー下げろ」
冒険者をまるで物のように扱い、片付けろとハリーに命令する。
「あ、あの、帰してもらえるので?」
「そんなわけ無いだろう、クレイニール様、いかがいたしましょうか?」
「モルグだ」
「承知いたしました」
モルグとは死体置き場の事だ、つまり処刑しろということだ。
「え、え、あの、オレどうなっちゃうの? ねえ! そりゃねーよ司教さん! あのお高くとまったミルクの情報教えたじゃねーかよぉ、報酬くれるんじゃねーのかよお!」
もみあげの冒険者は、速やかにケムリホウズキで昏睡させられ、ハリーに担がれ部屋を出ていった。
「しかし、そんな子供が本当に存在するのなら、戦士ミルクがグジクを制したとしても不思議ではないな。……ふふ、バカバカしい」
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「ふう疲れた、今日も仕舞いだ、しかしもう一つ大事な仕事をしなくてはな」
今日も来てしまった、この地獄の時間が。
それは最後の奥の間である、この“クレイニール様の寝室”で行われる。
「ハリー、新しいのは入ったか?」
「はい、ご用意できております」
一人の獣人の子供が連れてこられた、まだ十にも満たない少女だ。
もう一つのクレイニール様の趣味、それは獣人の子供を毎日凌辱する事だった。
クレイニール様は立派な方だ、ユナリア教の教えや、本国ヴィラティ国の技術を惜しみなく民に与えてくださる、時には身を切るようにして臨む献身的なお姿に、多くの国民は感謝している。
しかし、クレイニール様の献身は、すべて人族に限定された。
獣人は人では無い、女神様のご加護を受けられなかった、いや、女神様に仇なす存在として駆逐しなくてはならない。クレイニール様はそう考えておられる。
凌辱の対象が子供でも関係ない、何しろ人では無いのだ、どう扱おうと玩具を弄んでいるにすぎない。
“クレイニール様の寝室”には、そんな凌辱に使う装置が揃っている、とても他人に見せられるものではない。
この装置を使われたなら幼い体など簡単に壊れてしまう、持って一週間、大体三日もすれば新たな玩具の補充が必要だった。
「あの、クレイニール様、今宵は私がお相手いたしますので、その子は……」
「どうしたメリーナ? フッ、なんだ、この獣人のガキがサーバル族なのが気に食わんのか?」
少女はサーバル族だった。
「お前はこの館に来て五年だな? 今年いくつになる」
「二十一歳です」
「はぁ? 二十一? もう腐っておるではないか、私の元に来た時でさえ十六、すでに花の盛りは過ぎていた、それでも我慢して使ってやっていたのだぞ?」
「…………」
そして、私もサーバル族だ。
私は獣人だ、ヴィラティ国の辺境に住むサーバル氏族の出身で、族長の三女として生を受けた。そして私は、獣人と人族の友好の証として、本国ヴィラティのユナリア教総本山に引き取られた。
総本山では丁寧な歓迎を受け、なに不自由なく過ごしていた、私は幼いながらも、そこで獣人と人族に争いが起きぬよう平和活動に従事していた。
しかし数年後、クレイニール様の従者としてこの国に来てから、私の待遇は逆転した。それまで抑えられていたクレイニール様の野心が解き放たれたのだ。
当然、私も駆逐の対象になりえたが、元々友好の証として使わされた私は、すぐさま処分される事は無かった。それでも何度も命の危険はあったが。
生きるのに必死だった私は、従順に夜のお相手も務めてきた。しかし、初めこそご寵愛をお受けしていたが、年齢を重ねるにつれクレイニール様の興味を引けなくなってしまった。
私は消されるのを恐れ一生懸命仕事を覚え、今は何とかメイドとして働いている。秘密を知る私は貴重な存在として、奥の間を任されるまでになっていた。
ただし行動は著しく制限される、館の外に出ることは許されず、それどころか奥の間から離れることも難しい、当然、外部との連絡など取りようもない。
獣人が司教館に居ることが分かっては、原理主義者には都合が悪い、なので他のメイドと接する機会も朝の挨拶程度に省かれ、獣人の特徴を隠すメイド帽の着用を義務付けられた。
獣人の私がクレイニール様のお側に仕えるのは地獄だ、毎日のように獣人の子供が虐殺されているのを、黙って見ているしかない。
そして、その都度追加されるコレクションを、私が管理するのだ。
このサーバル族の少女も同じになる、でたらめに犯され、穴が壊れると別の場所に穴を開けられ、終いにはただの肉塊と化す。
そんなの耐えられない、この子を見ていると故郷の情景が脳裏に浮かぶ、無垢だった頃の私と姿が重なる、人族との友好を信じて疑わなかった、あの頃の私が。
今までどれだけの子供達を見殺しにしてきたのか、それなのに同族だけは助けようなどと卑怯だと思う。それでも。
「お、お願いします、色々と勉強もしているのです、どうかその子は」
「うるさい、どんな技を持とうとも、若さの前にはなんの意味もなさん」
「お待ちください、どうか、どうか」
しかし私の声は届かなかい、少女はベッドへ縛り付けられ、私の目の前で衣服を無残に破かれ裸にされてゆく。
「クレイニール様! お願いです、せめて、せめて命だけは!」
「さっきから少し煩すぎるな、見せるのも面白いと思ったが、これでは逆に興が削がれるわ、ハリー、そいつを外へ連れていけ」
ダメだ、私は今まで何のために。同族の少女を見て思い出してしまったんだ、こんなことをするために私は教会に遣わされたわけじゃない。
この先もただ死に怯えるだけの人生か? 子供の虐殺に加担するだけの女か? それでいいのか? 良い訳がない!
私は傍にあった槌を手に取った。
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・
子供の骨を砕く道具だ。
これで同じように、クレイニールも同じように砕けてしまえばいい。
道具を手にしたら、もう迷いはなかった。いや、一瞬も迷っている暇はない。
「…………!」
私は無言でクレイニールの背後へ襲いかかった。信じられないほど体が疾く動く、ただクレイニールを殺す、私の中にあったのはその一点だけだ。
「クレイニール様!」
「ひぃっ」
ハリーの警告に振り向いたクレイニールは、なにか恐ろしいものを見るような目を私に向けた、私はそんな表情をしていたのだろう。
よし、死ね。
――ドガッ!
「がっ、……ごはっ」
なん……だ? 急に視界が暗転して、気がついたら私は部屋の隅に倒れていた。
「大丈夫ですか、クレイニール様」
ハリーか。私は壁まで蹴り飛ばされのか、S級冒険者に匹敵するというハリーの戦闘能力は、思っていた以上に有用らしい。
だが私は止まらない、まだ体は動く、何度だってやってやる。
もうこんな毎日はたくさんだ、コイツが死ねば何人もの獣人の子が助かる。
子供達のためなのか自分のためなのか、最早分からないし関係ない、どうやったら人を殺せるのかも知らない、でも死んでくれ、頼むから。
「ひ、ひぃ、は、ハリー!」
「お任せください」
……だが、結局クレイニールに指一本触れることなく、私はハリーにより叩き伏せられた。
「……う、……うう」
「突然なんなんだ、何故こいつはこんな事をした?」
何故だと? どうして私が歯向かったのかクレイニールには理解できないのか? 普通の人間なら当然の成り行きだろ!
……ああ、獣人である私は人間では無かったな、こいつの中では。
……いや、今まで人間でなかったのはその通りだ、急に私が人間らしい行動に出てクレイニールも戸惑ったことだろう。
「まったく、楽しみが台無しだ、きょうはもうお開きだ」
少女は助かった、のか? ハリーにより別室へ連れて行かれた。僅かな時間かも知れないが、今日だけは助けることが出来たか。
クレイニールと戻ってきたハリーは、足下に転がる私を見下ろす。
「生かしてやってる恩も忘れおって、そろそろコレも潮時か」
「しかしクレイニール様、メリーナは本国から送られた使者でございます、やはり生きていなくては都合が悪いのでは?」
「そうは言ってもこれではもう使えんぞ、五年も飼ったんだ、十分だろう」
私の処分を相談しているようだ、今までどんな事があっても生きると決めてきた、死んだら全てそこで終わりだからだ。
たとえ地獄の苦しみでも、生きているだけで幸せだと思うことにしていたが、今日それも崩れた、今までの苦労が水の泡だ。
私の短い人生で、さらにその半分を教会に捧げてきた、氏族の皆のためと思ってきたが、最後は狂った脳天ハゲの中年にとどめを刺されておしまいか。
「五年も生きていれば何かしらの病気にもなるだろう、そういうことだ」
「了解しました、ではモルグへ?」
「そうだな、今日はあのもみあげのせいでモルグも埋まっている、しばらくは例の場所に閉じ込めておけ」
「かしこまりました」
“例の場所”そこも“奥の間”と並び人目につかない場所だ、数人の管理者以外は立ち入りを禁じられている。
攫ってきた子供をストックしておく地下牢だ、絶対に逃げられない仕掛けとなっており、そこに入った者は例外なく死を迎える。
「ではメリーナ、今までご苦労だったな。フフ、獣人ごときにオレからのねぎらいの言葉だ、ありがたく思えよ?」
そう言ってハリーは、ケムリホウズキを手にした。
「いい、自分の足で歩く」
「フン」
殴られてフラフラだが、今の自分が“逆らうこと”が可能なのは、このくらいだった。
この回も規約に抵触する恐れのある話です。なので、幼女が陵辱され惨殺される場面を完全に撤廃し、助かるパターンに変更しました。
そのため、どうしても凄惨さは薄いです。さらに「・・」で文章を区切る度に不穏になる仕掛けも、後半いまいちメリハリがありません。すみません。
こうなったら、次話はイチャイチャ変態要素をブッ込んでやろうと思います。