79 ランクアップ
コテージを出ると庭先にカイネルとロブが待っていた。現地に集合と伝えてあったのに、わざわざコテージまで迎えに来たようだ。
今日はこれからギルドへ向かう、地下ダンジョンから無事帰還した報告と、あのダンジョンへの今後の対応をギルドと協議するためだ。
勇者のフルPTでも入り口付近しか侵入できなかったダンジョンを、別のエリアとはいえ完膚なきまでに叩き潰したのだ。どうやったのか、誰がやったのか、どんな戦力を投入したのか、ダンジョン殲滅の情報が王都まで届けば、根掘り葉掘り調べられるだろう。
それは避けたい、ダンジョンでの事は秘密にしておこうと、みんなで相談して決めたのだ。
有名になりたいなら絶好の機会だと思う、でもボクはそれを望まない、ただ生活しているだけでも大変なことが起こるのに、これ以上余計な問題が降りかかってくると対応しきれない。
トーマスは「オレもついにここまで来たかー」などと言っていたが却下だ、そもそもトーマスはダンジョンを攻略していないじゃないか。
レティシアもミルクもボクの意見に同意してくれた、ミルクは「これは優乃の問題だ、優乃には好きにする権利がある」と言っていた、一番活躍したレティシアも同じだ。
そしてもう一つギルドには用事がある、一緒に行動していたランク選定員であるカイネルが、ボクとレティシアの冒険者ランクを上げてくれるというのだ。
どこまで冒険者ランクを上げてくれるかは分からない、出来れば国際C級まで行ければ言うことはない。カイネルは何級かはまだ決めていないと言うが、期待してくれとも言っていた。
今までランクなんてどうでもいいと思っていたけど、いざ上げてくれるとなると何気に嬉しい、子供は素直が一番だ。
そういうわけで、カイネルとロブと共に、ボクとミルク、レティシアはギルドに向かった。特に用事の無いトーマスは留守番だ。
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「カイネルさん!」
「おおっ、我らの誇りがいらしたぞ!」
まだ午前中だというのに、アーデルアのギルドは冒険者で溢れかえっていた。
「何だお前達、随分と宿が静かだと思ったら、こんな所に居たのか」
「そりゃあもちろん、あの勇者が手こずった地下ダンジョンから無事に戻ってきたんだ、今日は一日、ギルドを貸し切ってお祝いだぜ」
ギルドを貸し切るってよく分かんないけど、いつもたむろしているここが、彼らには居心地がいいのだろう。
カイネルの太鼓持ち冒険者達は、ここぞとおべっかを使って、わざとらしくも大騒ぎだ。
カイネルが歓迎されている後から、外套のフードを目深に被ったミルクと、ボクとレティシアが続いてギルドへ足を踏み入れる。
すると、沸いていたギルド内が水を打ったように静まりかえった。
「オイ……」
「ああ……」
なにやら冒険者同士で目配せしている。
「おいちょっと待てよ、おい、そこのデカブツ女、おめーだよ」
そしてこともあろうか、もみあげの長い冒険者がミルクに因縁をつけ始めた。
「おめーあのトーマスとかいうヤツの仲間だってな? おめーのせいでカイネルさんはひでー目に合ったんじゃねーのか? ああ?」
なんだか、ここに居る冒険者は大体ロブと同じタイプだと思った、周りからは「そうだそうだ」とか「顔を見せろ」とか野次が飛んでくる。
「それでカイネルさんには謝罪とお礼は済ませたんだろうな? お前が無事ここにいられるのはS級冒険者のカイネルさんのおかげなんだからよ」
どうやら、ボク達のせいでカイネルは地下ダンジョンへ落ちて、その後みんなが脱出できたのはカイネルが居たからだと思っているらしい。
前半はその通りだけど後半はめちゃくちゃだ、この人はトーマスに連れられて救助に参加した冒険者だろうか?
ボク達がダンジョンに落ちたことはトーマスから聞いたようだが、詳しい情報までは知らないみたいだ。
もみあげの冒険者は、昨日遅くにカイネルが戻ったのを目撃した後、少ない情報をつなぎ合わせ都合の良い事実を作り上げた。そんなところだろう。
「なんとか言ったらどうだこのアマ! 大体なんだこのガキどもは、こんなガキども連れ歩いて何のつもりだよ、あ? 冒険者ナメてんじゃねーぞ!?」
あ、今ので何となくミルクの雰囲気が変わったような気がする、外見では何ともないけど、これまでの付き合いで分かるっていうか。
「おいドニー」
そこでやっとカイネルはもみあげドニーを制した。
意外だった、正体を知らないとはいえ、仲間が英雄に楯突いているんだ、場合によっては、もみあげドニーはこの場で叩き切られるかも知れないのに。
しかし、今のカイネルがもみあげドニーに向けた眼差しは、なんか達観しているというか、冷たい。まったく助ける素振りがない。
別世界の地下ダンジョンを目の当たりにして、日常だったこの情景に興味がなくなってしまった、そんな雰囲気だ。
「カイネルさんがそう言うのなら、まあ。おいデカイの、命拾いしたな」
カイネルがいつもと違うのを感じ取ったのか、もみあげドニーは素直に引き下がった。
カイネルはミルクに対して深々と一礼すると、再び歩みをすすめる。
「通してくれ、悪いな、ちょっと通してくれ」
先頭に立ち、ボク達をエスコートしているカイネルの様子に、他の冒険者も何か違和感を感じたみたいだ、静かにギルド窓口までの道を開けた。
「おはよう、リンダさん」
「はい、おはようございますカイネルさん」
「所長は居るかな? この時間なら居るはずなんだが」
「ええ居ますよ」
「悪いがここへ来てもらうように言ってくれるか?」
「ここへ? はい、分かりました、少々お待ち下さい」
ほどなく、ギルド窓口のカウンターにアーデルアのギルド所長が現れた。薄くなり始めた黒髪を油でぴっちりと七三に分けている、中肉中背だがお腹だけがぽっこりと出た、五十代後半ほどの男性だ。
「おおカイネル君、ここ数日見ないと思ったら、あの砂漠のダンジョンへ潜っていたとか。噂では事故だという話だが、いやはやよく戻ってくれたものだ」
「心配かけたな所長、その事についても、後ほど詳しく説明させてくれ」
「ほう、S級冒険者カイネルの冒険譚か、いいねえ」
勇者でさえ逃げ帰ったと噂されるダンジョン、カイネルはどうやってそこから脱出したのか、ギルド所長はそんな話を期待しているんだ。
まさか、ボク達が地下ダンジョンの強力なロボット群と交戦し、殲滅してきたとは思わないだろう。
「おや? カイネル君、そちらの方は……」
ギルド所長はフードで隠れているミルクの顔を覗き込もうとした、しかし、その前にクイーンワームの一件で有名になった、ボクの方が目についたようだ。
「おお、この子はクイーンワームの、ではこちらの女性は同じPTの? なんとも強運の持ち主だ」
やっぱりクイーンワームの事は運だと思っているみたいだ、特に詳しい経緯は話していないので仕方ない。
「それにしても、ダンジョンに落ちてしまったのはいただけない、だがカイネル君が一緒に居たのは不幸中の幸いでしたな、その豪運、羨ましい限りですなぁ」
二十年ぶりのクイーンワーム、そして、勇者が撤退したダンジョンに三日も潜り続け生還したカイネル。良い宣伝材料が手に入ってギルド所長はニコニコだ。
「所長、いいか?」
「おおスマンなカイネル君、ははは、まあ立ち話もなんだ、奥に入ってくれ」
「いやここで良い、まず最初に私の用事を済ませて良いかな?」
周りの冒険者は一言も発しない、カイネルも真顔のままだ。やっと雰囲気がおかしいことに気が付いたギルド所長は、少し姿勢を改めて聞き返した。
「ああ構わんが、一体何かね?」
「選定員としての仕事だ、実はこの子達の冒険者ランクを上げたいのだが、ギルドとしての承認を頂きたい」
「ランクアップ? ほう、この子達を?」
ギルド所長は受付から身を乗り出して、ボクとレティシアを覗き込む。
「ふーむ、クイーンワームの功績は大きいが、PT単位の手柄でもあるし……、それに運だけではなぁ」
急に渋い顔になる。
「うーん、二人共まだ幼いが、カイネル君がここまで推すんだ、それにランクアップの判断は選定員に委ねられる、よし! 良いだろう」
一瞬考え込んだギルド所長だったが、早くカイネルの土産話が聞きたいのか、あっさりと承諾し、カウンターの下からニ枚の申請書を取り出して、ボクとレティシアに一枚ずつ渡した。
「ではこれにサインしなさい。良かったなぁタダで国内A級に昇格出来て、今回は特別だぞ? ではカイネル君、選定員証書の作成も一緒にお願いするよ」
しかし、二枚の申請書をカイネルはまとめてカウンターの端にどけた。
「国内A級ではない」
「なに? では……いや待ってくれカイネル君、いくら何でもそれはない」
子供冒険者の事でしつこいと思ったのか、業を煮やしたギルド所長は、いつの間にか顔から愛想笑いも消えていた。
「まさか国際ライセンスを与えるつもりか? こんな子供が国際C級などと、本来国際ライセンスはそう簡単に取得出来るものではない」
確かに、言葉ひとつで取れるほど国際ライセンスは安くない。
「こう言っては何だがねカイネル君、キミは少しばかりライセンスを与えすぎていると思うのだよ、この間だって、そこのロブ君に国際A級を与えたばかりだ、まあ査定するのはカイネル君の特権だが、やりすぎるのも考えものだよ?」
やっぱりカイネルは、選定員という立場を利用してランクを大盤振る舞いし、人心を掌握していたんだ。
「所長」
「なんだね? 分かってくれたかね?」
「この子達に与えるのは国内A級でもなければ国際C級でもない」
「は? なんだって?」
カイネルは一拍置いて、大声で言い放った。
「国際SS級だ!」
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ざわついたギルド内はしばらく収まらない。ここら一帯で最強の冒険者であり指導者のカイネル、そのカイネルが子供冒険者にへりくだっている。
「はは、カイネル君、今なんと?」
「彼らはSS級だ」
「いやあのね、この国にSS級は数人しか居ないのだよ?」
「彼らは冒険者の最高位だ」
「カイネル君! 私はね!」
「彼らはッ! 正直SS級でも足りない……」
ボクがSS級だなんて、カイネルはとんでもないことをいい出した、周りの冒険者達の視線が痛い。そんな話、ボクだって聞いてないし。
「昇格理由はクイーンワームの件ではない、例のダンジョンのことだ、あそこで何が起きたのか、それと合わせて説明しよう」
カイネルは砂漠の地下ダンジョンの出来事を語り始めた。知りたかった例のダンジョンの話だ、所長も冒険者達も注目する。
大げさにするでもなく、淡々と事実を並べてゆく。
「中の様子は以上だ、もちろん大半が私の理解の範疇を超えるが」
「……とても信じられない、そんな恐ろしく巨大な要塞が我々の足下に潜んでいたなんて、本当なのかカイネル君?」
あの高慢なカイネルが、自分は全くの無力だったと言い放つ。その様子はみんなにダンジョンの恐ろしさを伝えるには十分だった。
「勇者が敗走した噂も本当だ、あれではいかな勇者と言えど、どうすることも出来まい。そんな中、この子達は違った」
そして、どうしてボクとレティシアがSS級なのか、その説明を始めた。
「まず、男児のユーノからSS級の理由を言おう、彼の戦闘能力は最早子供の域では無い、加えて勇者しか精製できないという伝説の薬を作り出すことが出来る」
冒険者達は、「あんな子供が?」「伝説の薬って本当にあるのかよ」などと再びざわつき始める。その声を遮り、カイネルは続ける。
「特に薬の精製は社会への影響力が大きい、それだけでも国際A級の資格はある」
そう言えば、伝説の薬である瞬間強力回復軟膏を作っただけで冒険者ランクは上がるって、前にミルクも言っていたっけ。
「そして本題はここからだ、先も言ったように地下の要塞は人知の及ばぬ領域、存在する全てが神の御業で作り出されたと言っても過言ではない。このユーノはそれら神の遺物を解し、手足のように操って見せた。彼が居なかったら当然、私を含め全滅だったろうな」
神って……超越者認証は役に立ったけど、そんなに大したことはしていない、カイネル目線だと、ボクはどのくらい変な人に見えているんだろう。
「カイネル君、確かに勇者でも敵わない力を御せるならそうだが、しかし、おとぎ話としても突拍子もない」
「私はこの目で見たのだ、所長」
所長も冒険者達も、カイネルの浮世離れした話に戸惑っている。
「次にレティシア様だ。彼女は……正直良く分からない、口止めされているので詳しくは言えないのだが、確実に言えるのは、勇者が何人束になろうともレティシア様にかすり傷ひとつ負わせる事は出来ない、ということだ。」
三度、いっそう冒険者のざわつきが大きくなる。
というか、なぜレティシアだけ様づけなの?
「か、カイネル君、勇者の事をそんなふうに……、王都の連中に聞かれたら不敬だと騒ぎになるぞ?」
「事実なのだ、仕方ないだろう。神の要塞を破壊し尽くしたのは彼女だ、入り口にフタをするのがせいぜいの勇者では、とても」
そう聞くとそんな気もしてくるけど。レティシアはともかく、ボクは大したことはしていない。赤ロボを一機倒しただけだし。
「ろ、ロブ君、彼の言っていることは?」
「間違いないです」
所長の問いにロブは大きく頷く。
「昨日大きな地震があったと思うんスけど、それを引き起こしたのもこの子らです、かつての砂漠はぼっこりとへこんで、地形も随分と変わっちまった」
「そんな、天変地異ではないか」
いやいや、確かにそうなったけども。
レティシアがベヒモスになって大暴れしたのも、そもそもあのダンジョンが起動して巻き込まれたのも、全部ボクのせいだけど、ボクは何もしてないんです。
「わ、分かったカイネル君、全て信じろというのは無理だが、キミの言いたいことは分かった」
「私も何が起きていたのか理解は出来ない、ただ事実と結果を羅列しただけで」
「そ、そうか、それでだね、SS級というのは分かったんだが、やはりそれは無理だよカイネル君、キミも分かるだろ?」
「ああ、分かっている」
「そうだ、キミ自身がS級なのだ、S級の選定員がランク認定出来るのはA級まで、まして自身のランクより高いSS級を認めるなど出来はしない」
そう言えばそうだ、なぜカイネルはこんなあべこべな事を言い出したんだろう。
「その事だが、心配には及ばない」
「なに?」
するとカイネルはミルクへと向き直り、頭を下げた。
「お待たせして申し訳ありません、どうぞお力をお貸し下さい、ミルク様」
その言葉を受けて、ミルクはフードをめくって素顔を晒した。
突然現れた英雄を目の当たりにして、ギルド所長は崩れ落ちるのか、というほどオーバーに驚く。
「み、み、み、ミルク様!」
ギルド所長が大声で叫ぶと、ボク達の後ろで本当に腰を抜かしている冒険者が一人いた、フードをかぶったミルクに突っかかって来た、もみあげドニーだ。
「……話が長いぞ」
「すみません」
そしてカイネルは続けた。
「知っての通り、ミルク様はSS級冒険者であり選定員でもある、しかもギルド協会の幹部でもあらせられる。SS級への昇格は協会幹部の推薦が必要、特に勇者PTの一員でもあるミルク様は特別なお方だ、問題は一切ないはずだ」
ええっ、なんだかまた色々発覚したー。
「み、ミルク様だ、ミル……はっ、私は何か失礼なことを? いやまだ大丈夫なハズ……いやしかし……終わった?」
ギルド所長、テンパりすぎだ、っていうかボクも驚いた。もうギルド内みんなが、それぞれ違った理由で驚いている。
「あ、あの、よくぞお越しくださいましたミルク様、このような辺鄙で何も無い街ですが、どうぞごゆるりとしていらして下さい」
なんかちょっと違う挨拶をかましたギルド所長は、敬々しく頭を垂れた。
「ミルク様、早速、お連れ様の昇格の件についてですが……」
ギルド所長はミルクの顔色を伺いつつ、恐る恐る話を進める。
「かまわん、続けろ」
なんか色々言われていたミルクだったが、今まで正体を隠していたんだ、ドッキリみたいな展開でギルド所長や冒険者達を弾劾する事は無い。
「はい、先程のカイネルの話は本当でございますか?」
「本当だ、私の力ではどうにもならなかった事も含めてな」
「そ、そんな」
ミルクはギルド内全員に聞こえるように声を張って説明する。
「あのダンジョンには恐ろしい力がある、国どころか、この大陸をも簡単に消し飛ばせるほどの力だ」
勇者PTの一員として、一度地下ダンジョンへ赴いたミルクが言うのだ、カイネルとは説得力が違う、みな戦々恐々とした表情で聞き入る。
「今回、その力をここに居る優乃が完全に無力化し、レティシアが地の底に葬ったわけだが、未だその装置が地中深くに埋まっているのは事実だ、それがどういうことか分かるか?」
ミルクの迫力に答えるものは居ない。
「それほどの力、重大な機密なのは当然だ、さらに、その情報が諸外国に漏れたらどうなるか、その強大な力をめぐり再び戦争が起こるだろう。いや、国内に知れても分からん、野望を抱く者も現れかねん」
どこからか固唾をのむ音が聞こえる。
「争いの火種を作らないためにも、今後一切、地下ダンジョンのことは口外してはならん、仲間内で口にすることも禁止だ、たとえ王に尋ねられても絶対に喋るな」
わざわざギルド窓口で、他の冒険者に聞こえるように言ったのはこのためだ。今回の事は外に漏れては困る、ヘタな噂となり広まっては面倒だ。
それを防ぐためワザと真実を聞かせ、事の重大さを思い知らせ、けして個人の判断で口にしていい話ではないと、現地人に分からせる必要があった。
できるなら大胆な行動は避けたかったが、あんなに砂漠の様子が変化しては街の者はすぐにでも気がつく、傷が大きくならないための処置だ。
「異議や質問はあるか?」
しかし誰も手を挙げない。
「無いか? ならば私から言おう、もう一つ重大なことがあるな? それはこの二人の事だ、その強大な力を封じたこの子達は、同じくすさまじい力を持つ。英雄にもなり得るが、力の使い方によっては世界に破滅をもたらすことにもなるだろう」
随分大げさに言うなぁ、だって転移者の街は掘り起こせないほど地中深くにあるし、ちっぽけなボクが世界を破滅させるだなんて、ちょっと笑ってしまうほどありえない。
「そこのお前」
「は、ハイっ」
ミルクは若い冒険者を指名する。
「私の秘蔵の武器を貸してやろう、それでレティシアを殺せば問題の半分は無くなるぞ?」
「は、ハイっ」
「ふーむ、分かっているのかお前? その程度でこの子に傷を付けることなど、出来るわけ無いだろう?」
「あっ、そ、そうか」
ちょっとドキッとした、レティシアは無敵だが、ボクだと死んじゃう、ミルクもそこら辺は分かっていてレティシアを例に出したのだろうけど。
「この子達は強大な力を持つゆえ、幽閉したり亡き者にして事態を収めることは現実的ではない、しかし放っておく訳にもいかない、見ての通り彼らはまだ子供だ、悪事を企てるヤカラに言いくるめられて、力を悪用される可能性は高い」
そんなまさか、このボクが悪いオトナにホイホイ付いて行くわけがない。……あんまり自信ないけど。
「そんな魔の手から子供達を守るのは誰だ? 悪の意思から世界を守るのは誰だ? 私達大人だろう?」
「は、はいっ!」
「力は無くとも出来ることはあるのだ、言いたいことは分かるな? この子達の秘めたる力も、一切口外してはならん!」
なんていうか、こんな演説みたいになるとは思わなかったけど、この流れは予定通りだ。
「理解してないヤツは……どうやら居ないようだな、なに、噂が広まったとて、地上から噂ごと街が蒸発するだけだ」
ホントですかミルクさん?
少々演技がかっていたが、今日ギルドへ来たのはこれがメインの理由だ、とにかくボク達の事を秘密にして欲しいと、情報が拡散する前にお願いに来たのだ。
体よく言えばそうだが、とどのつまり、ミルクの名を使って脅しに来たわけだ。途中まで正体を隠していたのもインパクトを狙ってのこと、初めからそのつもりだった。
でもこれで、またいつも通りの日常を送れるようになると思う。