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73 地上への手がかり

 ガガガガ……。


 凄まじいい量の弾丸がトンネルを塞ぐ、五十メートル先に新たに現れたゴツいカーキ色のロボットは、両腕にガトリング砲を搭載していた。


 その弾丸を重機ロボで防いでいる、カーキロボは一体だけだが、その激しい弾丸の嵐にドーザブレードの端々は欠け始め、重い重機ロボが若干踊るほどの衝撃を受けていた。


 重機ロボの腕の中にはレティシアとミルクが待機している、後ろのカーゴ車にはカイネルたちだ。


 視界を覆うほどの飛び道具と言っても、威力はケイダンの屋敷で受けたクロスボウの比ではない、この弾丸の雨が止むまで動けない。


「なんという凄まじい土魔法だ、こんな使い手は見たことがない」


 銃弾は土魔法になるのか、なるほど、などと呑気にしている場合ではない、早く弾切れになってくれないと機体が持たない、ただでさえ左のドーザブレードは、さっきの赤ロボとの戦闘で半分ほど溶解しているのだ。


 ――バギン。


 突然ボクの頭が運転席のシートに打ち付けられた、何かが近くで弾けたと知覚出来たのも一拍おいてからだ、ドーザブレードの隙間を弾丸の一発がすり抜け、ボクの頭にヒットした。


「ユッ――!」

「だ、大丈夫おねえちゃん、何とも無いから」


 弾丸はくるくる角に当たって弾かれたようだ、くるくる角は何とも無い、相変わらず無敵の硬度だ。


 それにしても重い衝撃、首が千切れるかと思った、実際シートが無かったら後方へ大きく吹き飛んでいただろう、たった一発でもまともに当たったらボクなんて即死だ。


 バラバラと敵の掃射は続く、まさか永遠と撃ち続けられるのかと思ほどだったが、フィーーンと音が変わり、ついにガトリング砲が空回りを始めた。


 弾切れだ、弾幕が止めばこっちのものだ、しかしカーキロボは足から新たな給弾ベルトを出現させ、即充填の構えに入った。


「う、うそぉ」


 この手の兵器は弾切れになれば用無しになるか、もしくは別途弾丸を用意するまでしばらく時間が必要なモノだと思っていたが、一瞬のスキしか生まれなかった。


「レティシア!」

「はい!」


 レティシアが足元に沢山落ちている、敵が撃った弾丸をひとすくいして握り、おもいきりカーキロボへ投げつけた、無数の弾丸はバリバリと雷が落ちたような轟音と共に着弾し、カーキロボは小刻みに震え、何やら動かなくなった。


「よし!」


 そこへミルクが飛び込み、あっという間に間合いを詰める、カーキロボは何をする間もなく、あちこち斜切りにされてしまった。


「待っていればスキが出来る、優乃が言った通りだったな」

「う、うん、そうだ……ね」


 敵の弾薬の再装填があまりに早く、想定外にスキは少なかったのだが、しかし予備知識の無いミルクたちにしてみれば想定外なんて関係ない、僅かなスキでもスキには違いない、ボクが驚いている間に敵は沈んでいた。


 だがこれで一段落ついた、目の前には待望の“研究施設”へのゲートが口を開けている。


 ・

 ・


「えーと、生体ナノマシン研究所、星中機器株式会社、みどりを増やす友の会、高次元エネルギー観測器開発局……」


 ゲート脇の金属プレートは酷く錆び付いてほとんど朽ちている、しかし僅かに読み取れるだけでも、この中には様々な研究施設があったのだと分かる。


 さっそく重機ロボから降りて進むと、やはり中は真っ暗だ、しかもカンテラの明かりが届かないほど広い空間のようだった。


 照明のスイッチを探しながら壁伝いに歩くと、やがて小部屋に行き着いた、中には様々な配電盤がある、どうやら電源管理室らしい。


 幾つもメインと書かれたブレーカーがあるが、どれがどれやら分からない、とりあえず片っ端から操作してみた。


 ほとんど壊れているみたいだが、それでも幾つかは電源が入ったようだ。


「おおおー」


 明るくなった外から皆んなの声が聞こえる、ボクも急いで電源管理室から出てみる。


 研究施設エリアも土砂に埋まっていた、しかし無事なエリアだけでもとても広い、どのくらいあるだろうか、天井も相当高く、巨大な円柱が天井を支えている、その円柱には窓が規則正しく配置してあって、どうやらこの柱自体がビルのようだ。


「ここは……」


 まるで街だ、地下ということを忘れそうな景観だ、崩落している中でも二棟のビルがそびえ立っていた、残念ながらその一つは縦半分が崩れ落ちていたが。


 それにしても、外のトンネルはここまで朽ちていないし、ロボットなどまるで新品のようだけど、なぜゲートの中はこんなに荒れているのか。


 左手にある崩れたビルへと近づく、瓦礫は遺跡の石のように表面がボコボコしている、その石を手に取ってみると驚くほど軽く、まるで建材のスチロールのようだ、しかし少し力を加えるとボロボロと砂の塊のように崩れてしまった。


「これはどういう素材だ? こんなものでこの巨大な建造物が作られているのか?」


 ミルクの声にそろりとみんな後ずさる、垂直に見上げる巨大なビルは、ちょっとした衝撃でも全て崩れ去りそうなほど危ういものだった。


 窓にガラスもハマっていない、石肌のような壁にただ四角い穴が並んでいる、崩れた所からビルの中が見えるが、やはり四角い部屋が規則正しく並んでいるだけで、中には何も無い。


 この半分崩れたビルからは得られる物は無さそうだ、それ以前に危なくて近づけない、仕方ないのでもう一棟へと向かった。


 こっちも同じ材質で出来ていて、とても中へ入る気にはなれない、ぐるりとビルのまわりを歩いて調べた、大きな円柱型のビルには所々出入り口があり、そこから中を覗くと、一階は開けたフロアで、色々とガラクタがあるのが見て取れた。


「おい優乃、危ないぞ」

「うん、でもちょっとだけ……」


 ここまで来て何も収穫がないのは避けたい、一階フロアだけでも調べようと足を踏み入れた。


「わたしユーノちゃんと行ってくる、みんなここで待ってて下さい」

「ふーむ、よし良いだろう、何かあったらすべて吹き飛ばしてしまえ」

「はい」


 小さな振動でも崩れそうなビルだから、なるべく少人数で調べることになった、小柄で軽いボクとレティシアがビルの中を探索する、ミルクは外で緊急時のサポート用に待機だ、カイネルとロブも外にいる。


 床は踏む度にシャクっと一センチほど沈む、まるで麩菓子の上を歩いてるみたいだ、慎重に進みながら足元のガラクタを拾う、錆び錆びの金属や、やはり持っただけで崩れ落ちる物ばかりだ、原型がないので何に使ったものかも分からない。


 エレベーターらしき場所もがらん堂だった、初めに遺跡のようだと思ったが、もっと言えば、考古学者が重要な資料をすべて持ち出した後のような、何も無い建物だった。


「これは、階段も脆くて登れそうにないな……」


 結局何も無いのか。


「ねえユーノちゃん、あれ見て、なんかあるよ」

「え?」


 位置的に受付カウンターがあったであろう場所の横に部屋がある、その奥に机が置いてあるのが見えた、元世界でもよく見るオフィスデスクだ。


 さっそく、ゆっくりゆっくりと、床を踏み抜かないように部屋に入る、もし床が崩れて地下に落ちてしまっては大変だ。


「この机、丁度いいね」

「ホントだ」


 レティシアの言う通り、オフィスデスクは子供のボクたちに丁度いい高さだった、この部屋は多分、ビルの管理室的な場所だろう、なぜこんな所に子供用のデスクがあるのか。


 しかしそれより、このデスクは普通にしっかりしている、すべて朽ちて何も無い部屋に不自然に置いてある、まるでボクたちがこのエリアに来る前に、予め誰かがここに用意していったかのような違和感を覚えた。


「どうするのユーノちゃん、とりあえず持ってく?」

「うん」


 二人で小さな机を外へ静かに運び出す、結局、探索できる範囲では他に何もなく、持ち出せたのはこのオフィスデスク一つだけだった。


 ビルの外へ持ち出して、さっそくみんなで囲む。


「こんな廃墟になぜ……」


 そう言って腕を組み、思考を巡らせているミルクは何もしない、ボクが引き出しを開けて調べるのを待っている。


 本来ならば、英雄であり冒険者であり、ボクの保護者でもあるミルクが率先して調べるのが本当だろう、さっき廃墟ビルに侵入する時も、子どものボクたちだけで探索するのは危険だ。


 しかしこの地下ダンジョンはミルクにしたらあまりに不可解であり、少しでも理解できるボクに任せられる所は任せようと思っているみたいだ。


 よく事情も分からずしゃしゃり出て、不幸な結果を残す愚かな大人とは違う、ただ最善を見極めているだけなのだろうが、ボクとしてはやりやすい。


 オフィスデスクは平らな天板と、右に引き出しが三つ縦に並んでいるスタンダードなモノだ、みんなが見守る中、一番上の引き出しに手をかけた。


「あ、あれっ、鍵がかかってる」


 二段目も三段目も開かない、一番上に小さな鍵穴がある、簡易的な鍵がかかっているようだ。


「どうしよう、ナイフでこじ開けるか……」

「お姉ちゃんがやろうか?」


 ボクたちの前ではこんな鍵は何の意味もなさない、レティシアが力任せに引き出しを引けば、簡単に壊れて中身が取り出せるだろう。


「おい、オレが開けてやるよ」


 一番後ろで眺めていたロブが解錠を申し出た、無理に壊すこともないので彼に任せる、こんな時、元盗賊のトーマスなら鍵開けもお手のものだろう、しかし今は居ないので、同じようなならず者のロブに解錠してもらった。


 細い金具でこちょこちょすると鍵はすぐに開いた、これが何々認証とか面倒くさいキーだったらダメだったが、なんてことのない普通のものだった。


 ゆっくりと一番上の引き出しから開けてゆく、中にはゴミが入っていた、いや、おそらく何かだっただろうソレは、紙くずとなって引き出しに詰まっていた。


 ゴミを掴み取る、どうやら帳面のようだ、とても脆いがめくってみる、何か文字が書いてあったようだが、まったく読めないほど文字は消えていた。


 相当な年月が経っているようだ、これでは役に立たない、そう思いもっと何かないかと引き出しの奥をまさぐる、すると硬い物に手が触れた。


 取り出してみるとしっかりした本だ、オフィスデスク同様、劣化のない本が出てきた、二段目三段目の引き出しもゴミが詰まっていたが、その中にも劣化の少ない本が二冊見つかった。


 デスクの上に広げてみる、厚い本が一つ、これは日記帳みたいだ、次に薄いノートが一つ、何かのメモが書いてあるようだ、最後に薄く大きなファイルが一つ、これは資料だった。


「日記帳と、文字が薄いけど覚え書きみたいな帳面、あとは印刷物を纏めたファイルが出てきたよ」

「ファイる……? まあいい、それで地上へ戻るにはどうすれば良いか、分かるか?」

「まだ調べてみないと、でもこの大きなファイルは、このダンジョンの地図だよ」


 最後の薄く大きなファイルは、この建物の見取り図の他に、周辺の地図も載っていた。


「おおお」


 カイネルとロブは抱き合って喜んでいた、レティシアとミルクも表情が明るい、これで出口までの道が分かる。


「よし、ではここで休憩しよう、優乃、悪いが解読たのむ」

「うん」


 一度ゲート近くまで戻り、そこでボクがこれらを読み終わるまで休憩となった。



 ビルの瓦礫から椅子となりそうな手頃なものを拾ってきて腰掛け、ゲートまで持ってきたオフィスデスクの上に地図を広げて見る、ファイルには超越者用と書いてあり、地図は俯瞰視点でイメージがつかみやすく書かれていた。


「どうした優乃……ダメ、なのか?」


 しばらくしてミルクが心配そうに聞いてくる、ボクはいつの間にか額に手を添えて考え込んでいた、おそらく自然に渋い顔をしていたのだろう。


「もうちょっと……」

「うむ……」


 結論から言うと地上への出口は無かった、予想通り、このダンジョンは大昔の街だったようだ、街の文明が潰えた後、その上に長い年月をかけ土などが積もって、今の砂漠となっている。


 今いる場所は、大きな山の中をくり抜いて造られた施設のようだ、しいて言えば、ボクが引きずり込まれた場所は山の頂上付近で、そこが地上にもっとも近い。


 山の中に造られた巨大な施設のど真ん中に幾つもエレベーターが通っていて、それで三層のエリアを行き来する、多分ボクを引きずり込んだ青いロボットは、壊れたエレベーターの穴に落ちたんだと思う。


 青いロボットが落ちたエレベーターまでたどり着けば、ボクが引きずり込まれたフロアまで直通だ、しかし三層のエリアはすべて崩落していて、エレベーターまで行けない、もっとも、そのエレベーターも土砂で潰れているかもしれないし、例え無事でも今度は遥かずーっと上の出口まで登るすべがない。


 山の周りをぐるぐると道が通っている、ボクたちが来たトンネルだ、住人の移動手段は中心にあるエレベーターなので、外周の道は非常用の通路だろうか、すべてトンネルなため土に埋もれず残ったようだ。


 この山には軍事施設や研究施設がある、恐らく他にも同じような場所があるんだと思う、その一つに勇者も入ったのだ、もっとも、勇者は正規の搬入口から侵入したのだろうけど。


 地図はビルの周辺を表したもので、そこまで遠くの場所は載っていない、それにトンネルだからここまで来れたけど、“外”は当然土に埋まっているだろう、勇者が入った施設まで行くのは不可能だ、このトンネルが張り巡らされた場所までが、今いる地下ダンジョンの全てだ。


 外周のトンネルはドコまで伸びているのだろう、地図上のトンネルを辿ると“地上”を進んで、斜線で隠された場所へ繋がっていた。


 斜線してある範囲も相当広い、さらに斜線ゾーンを抜けると、これまた大きな土地があった、もう印刷が薄くてよく見えないが、その大きくのぺっとした土地に何か書いてある。


「えーと、きどう……軌道エレベーター!?」


 ええっ? まさか軌道エレベーターまであるの? ロボットや謎の建材のビル、山をくり抜いて作った巨大施設、超古代人の彼らは、どれだけのSF技術を持っていたんだ。


「どうした優乃、何か分かったか?」

「え、うん……」


 軌道エレベーターか、宇宙まで伸びる建造物ならそこから地上に出られるぞ、逆にトンネル通路から繋がっている出口は、もうそこくらいしか無い。


 しかしそんな建物は見たことがない、地上で砂漠を旅していたら目に付いても良さそうなものだが。


「ねえミルク、アーデルアの街周辺で、すっごく高い建物ってあるかな?」

「うーん、高い建物か」


 ミルクも首を傾げる。


「あ、あれじゃないスかアニキ」

「なんだ? ロブ」

「レンガ屋の息子が、お城みたいな塔を建てるとか言って」

「おお、あれは高いな、確か五階ほどあると聞いたが」


 全然違います。


「そうじゃなくて、山よりもずっと高い、お空に突き刺さるようなヤツです」

「そ、空に? 何をワケ分かんねぇ事を言ってんだ?」


 カイネルはそんなロブを諌める、ボクの話す内容は、もはや想像すら及ぶ所では無いとかなんとか。


 もしかして軌道エレベーターも古くなって途中からポッキリ折れてしまったのかも、そう思って、それらしき建造物の残骸でも良いから、砂漠にあるかと聞いてみたが、ウワサすら無いようだった。


 ダメか、そうなると地上への道は絶望的だ、一体どこから戻れば良いんだ。


 ボクは相当絶望していたのだろう、その様子を見たみんなも不安が一層増してしまった。


 とりあえず地図のファイルは施設の外に関してはそう詳しく書いてない、残りの日記帳と、覚え書きノートの中から地上への足がかりを見つけるしかない。


 まずは日記帳を手に取る、えーと、アルルマル・メルマ・ファルルという、名前にやたらルの多い人の日記のようだ、とりあえず適当に開いてみた。


“今日は第三プラントから野菜が届いた、せっかくだから新鮮なうちにサラダで食べよう”


 ……他愛もない日記だ、あまり参考にならないかもしれない、最後までこんな感じだろうか? 少し先のページも開いてみる。


“この地に連れてこられて二十年が過ぎようとしている、私もこんな未開の地で朽ち果てるのか”


 どうやら、ただのほほんとしただけの日記ではないようだ。

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