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66 薬の材料

 今回は、旅をするわけではないので不要な荷物は降ろしてきた。


 そのおかげで馬車の荷台には余裕が出来て、ミルクも一緒に乗っている。サラマンディーヌはアーデルアでお留守番だ。


 大きくうねる砂丘を行くには、事故に気をつけないといけないが、ソリで滑走しているので車体がガタつくこともなく、体調を崩すこともない。


 そろそろ、サンドワームの出現エリアに到達する頃だ。


 これも、昔ミルクが研究していたから場所を特定できるのであって、普通の冒険者では、隠密移動するサンドワームをピンポイントで狙うのは難しい。


「よし、この辺りか?」

「そうだ、ここからは馬車を中心に散開して探すんだ。優乃、レティシア、拠点となる馬車を見失うなよ」


 馬車を砂丘の頂上に停め、それぞれ四方へ散開する。


 拠点の馬車から全てを見渡せれば都合が良いのだけれど、波のように連なる砂丘のせいで死角は多い。徒歩で見つけに行かないと探せない。


 ただ、ボクには特別に注意すべき点がある。もしサンドワームを見つけても、応戦せずにみんなを呼びに行くことだ。


 ボクの実力で勝てるとは思えないし、万が一、ネームドモンスター級のクイーンワームが現れたら、かなり危険な状況下に置かれてしまう。


 魔物が現れたら、気づかれないように拠点まで後退する。気づかれたとしても、みんなそれほど離れていないから、大声で助けを呼べば誰か来てくれるはずだ。


 危険な仕事だが、ミルクに持ち場を指定されたので、言われた通りに従う。ボクはミルクに全幅の信頼を寄せている、ミルクが大丈夫というのなら信じる。


 敵は見えない地中から襲ってくる、そんな緊張感の中、探索は開始された。



 馬車を中心に、それぞれ数百メートル探索して、見つからなければ一旦戻り、次のポイントへ移動して探索を続ける。それを繰り返すこと三回目。


「居たぞ! こっちだ!」


 小さな砂丘の向こうでトーマスの叫ぶ声がした。トーマスはボクの左側を担当している、すぐ近くだ、急いでそっちへ走る。


「すげー数だ!」


 サンドワームの大群が居るみたいだ、近づくにつれ緊張が高まる。そして、小さな砂丘を越えトーマスと合流した。


「ユーノ気をつけろ、そこにも居るぞ!」


 その声に素早く辺りを警戒する。しかし、サンドワームの巨影は見えない。


「あ~、ユーノ気をつけろって言ったろ? 一個踏み潰したぞ」

「へ?」


 踏み潰したと言われて足元を見る、そこには、体長十センチほどの細長い何かが横になっていた。


「え? コレ?」

「そうだぜ、オレも店先の干からびたやつしか見たことねーけどな。まだいっぱい居るからよ、早いとこ狩っちまおうぜ」

 

 はたと周囲の地面を見渡す、よく見ると、地面からニョロっと細長いものが生えていた。これが、サンドワーム?


 イメージと全く違う上に、体色も黄色く、砂漠の保護色で分かりにくい。


「でかしたぞトーマス」

「ユーノちゃーん」


 トーマスの呼びかけを聞きつけ、ミルクとレティシアも合流する。


「へー、これがサンドワームなんだね、お姉ちゃん始めて見たよ」


 もちろんボクも初めて見た。普通、サンドワームと言えば、恐ろしく巨大で牙がいっぱいついてる口を持つ、醜悪で凶悪なモンスターなはずだ。


 しかし、この目の前の魔物は体長十センチ、頭をもたげながらクリッとした目でボクを見つめている。


 憎めない愛嬌あるフェイス、どこから見ても地上版“ちんあなご”だ。


 念のため集中して翻訳能力で探ってみる。“へいへーい、殺っちまうぞこらー”という思念が流れ込んでくる。明らかな人間への殺意、間違いなく魔物だ。


 このちんあなごサンドワームには手足も無く、ただ風にたなびいているだけで、どう人間を殺るのかは不明だが。


 ミルクに聞いても危険は無いと言われた、やっぱり見た目通りだ。とりあえず一匹引っこ抜いてみよう、もたげた頭をつまんで、上に引っ張ってみた。


「むっ、けっこう抵抗する」


 むいむいと何度も引っ張る、でも抜けない、あまり力を入れるとすぐに千切れてしまいそうだ。


「優乃、こうやって地面すれすれをナイフで切り取るんだ、全部引っこ抜いてはダメだぞ、そうすると来年生えてこないんだ」


 ミミズなのか魚類なのか、はたまた植物なのか良く分からない魔物だ。


 ボクもミルクに言われた通りに刈り取ってみる。つぶらな瞳がばってんになるのが少々やり辛いが、とくに問題なく狩れた。


 辺りを見回すと、ちんあなごサンドワームはまだ沢山点在している。


 普段探すのは難しいが、偶然に遭遇することも多いというサンドワーム。魔物とは言え危険も無く、これなら一匹千ルニーの報酬額も妥当なセンだと思った。


 サンドワームは、夜になると習性で地中に潜り移動してしまうが、一度でも人間と相まみえると、魔物の本能により逃げることはしない。例え隣で仲間が狩られていようとも、最後まで殺意むき出しでにらめっこしてくる。


 ボクは、ただそれを狩ってゆく。みんなもそれぞれしゃがみ込んで、せっせとちんあなごサンドワームを収穫していた。


 刃物を持たない拳闘士のレティシアは、馬車に備え付けてある手鎌で刈り取っている。さながら休日の庭の雑草駆除だ。


「ふう、けっこう集まったかな」


 立ち上がり、腰をとんとんと叩きながら背を伸ばす。


 沢山生えているが密集はしていない、一つ狩ったら少し先のやつをまた狩る、それを繰り返して五十匹は収穫した。


 多分、他の三人も同じくらいだろう、全部で二百匹以上だ。


「ユーノちゃんどう?」

「うん、これだけ採ったよ」

「よし、もう十分だろう」

「しかし早く見つかって良かったぜ、一日で終わるとはな」


 二百匹強集まれば多すぎる量だ、余ったらギルドにでも売ればいい。ボク達は、それぞれホクホク顔で馬車へと引き上げた。


 その時、何気にボクの方を振り返ったミルクが、突然驚愕の表情を浮かべた。


「みんな動くな!」


 あのミルクが声を荒らげる、和やかな雰囲気から一転、皆に緊張が走った。


「バカな! 後ろだ優乃、クイーンワームだ!」 


 そしてボクに警告を発する。人間離れした強さを持ち、恐らく様々な強敵と対峙してきたミルクが、こんなにも取り乱すなんて。


 ただならぬ危機感を感じ、素早く後ろを振り返る。


 ……背後には砂漠が広がるのみで、そこには何も居ない、地中に潜ったか?


 クイーンワーム、その報酬額を思い出す。三百万ルニーという額はボス級の魔物に掛けられる報酬だ、サンドワームとはモノが違う、正真正銘ヤバイやつだ。


 今度こそ、砂の中を自由に移動する砂漠の覇者だろう、やけに静まり返った砂漠が余計に不気味さを感じさせる。


「足元だ優乃!」


 しまっ……!


 遠方に気を取られすぎた、ボクは足元へ視線を落とす、ひと目で分かった、これがクイーンワームか、魔物はすでに砂漠から顔を覗かせていた。


 ……そこには、ラメ入りのピンクちんあなごが風に揺らめいていた。


「優乃は運が良いな、これはめったにお目にかかれないぞ」


 そう言いつつ、少々興奮気味のミルクは、ラメ入りピンクちんあなご(クイーンワーム)を刈り取る。


 高級な漢方薬になるそうで、“黄金砂漠の幻”と呼ばれるクイーンワームは、その薬効も強力で、一発で熱病を癒やすという。ただ、相当レアな魔物らしい。


「本当に珍しい、サンドワームを研究していた私も、生きているものを見たのは初めてだ。王宮へ献上される事もめったに無い代物だ」

「そいつはスゲーぜ、ユーノが歩いた後にニュッと出てきたぞ」


 ボクより後ろを歩いていたトーマスは、クイーンワームが砂から生えてくる瞬間も目撃していたようだ。


 まあそうですよね、薄々感づいてました、クイーンワームもただのちんあなごです。


 それでも、あまりにレアなため高難度の魔物なのは間違いない、その珍しさはミルクも驚くほどだ。でも良かった、これで依頼はコンプリートした。



 このエリアまでまる一日かかっている、帰りは野営で一泊する必要がある。ボク達は、いつものようにテントを張ってキャンプをしていた。


「なに? でかい魔物だと思っていた? ハッ、んなわけねーべ、ミミズだぞ」

「うう~っ」


 仕方ないだろう? この異世界にはゴブリンやオーガも居たんだから、サンドワームだって、ゲームでお馴染みの巨大ワームだと思うじゃないか。


 逆に異世界の住人からしたら、普通のミミズなのが常識だから、危険性について警告することもないし、小さい魔物だともわざわざ言わない。


 ボクから魔物の容姿について質問すれば良かったんだけど、残念ながらすっかりゲームでよく見る姿だと思い込んで、疑いもしなかった。


 久しぶりに思い込みで失敗してしまった。気を付けようと思っていても、身に染み付いた元世界の習慣は、完全にぬぐい去る事は出来ない。


「そうだったのか、それであの時、セシルの奴ヘンにつくろって……」

「ん? 勇者がどうかしたか? ミルク」

「いや、独り言だ」


 もう勇者は地球からの転生者なのは確定だ、ボクと似た反応をしたらしい。


 年代もゲームが存在する時代から転生して来たのだろう、ボクと同じような固定概念を持っているんだ。ひょっとしたら、意外と気が合うかもしれない。


「それよりレティシア、甘いものが食べたくはないか?」

「え、うん、でも持ってきてないですよね」

「実はな、サンドワームはこのままでも食べられるんだ、甘くてうまいぞ、優乃も食べてみろ」


 食用になる魔物も存在する、サンドワームはその中でも美味しい部類のようだ。カニといいちんあなごといい、海系の姿をした魔物は美味しい傾向なのか?


「とても栄養があるんだぞ、こうやってな、切り口から中身を吸い出すんだ」


 ミルクはサンドワームのおしりに口をつけ、一気に中身を吸い出した。


 ……まじですか、ちんあなごのおしりを生で吸うのか。


「あーホントだ、おいしいよユーノちゃん」

「……」


 レティシアもそれに習う。


 おしりといってもナイフで切った切り口だ、実際うん○が出てくる事も無いだろう、魔物がうん○をするのか知らないけど。


 みんなおいしそうに吸っているし、ボクも一つ口をつける。舌でレロレロしても良く分からない、これも冒険者としての勉強だ、思い切って一気に吸ってみた。


「えっ!? なにこれ」


 おいしい、ゼリーだこれ、駄菓子屋さんの棒ゼリーにそっくりだ、甘ったるいパイン味がする。サンドワームはスライムの親戚なのかと思うほどにゼリーだった。


「完全にゼリーだね、おねえちゃん」

「なに? そのゼリーって」

「え? ゼラチンで果汁シロップを固めたやつだよ」

「へぇ、そういうのがあるんだ? でもそのゼリーって言うの、おいしいね」


 そう言えば、この世界に来てゼリーはまだ見たことが無い。確かゼラチンは豚や牛の骨髄から精製するんだ、頑張れば作れそうな気もする。


 特にリメノ村は畜産が盛んだから、レティシアのお母さんに教えればすぐにでも作ってくれそうだ。


 結局、みんなで二十匹ほど食べてしまった。しおしおの袋状になったちんあなごサンドワームが砂漠の夜風に流されてゆく。


 生で摂取したほうが薬効も高いという、それならば、明日の朝早くに街へ着くようにして、急いでマリクの家へ持って行ってあげよう。



 朝方にアーデルアへ到着したボク達は、そのままギルドへ完了報告に行った。


 依頼を受けたのがボクだから、PTを代表して報告する。


「こ、これはっ!? この変わった色のサンドワームが、本当にクイーンワームなのですか?」

「はい、間違いないと思います」


 ちょっと待って下さいと、窓口のおねーさんはカウンター裏にある資料を手に取り、何度もクイーンワームと見比べて照合する。


 クイーンワームとサンドワームの魔石は非常に小さい、ビーズほどの大きさだ。だから魔石での討伐報告はあまり現実的ではなく、現物で照合するんだ。


 丁度この魔物はそれ自体が薬となり、必然的に持ち帰ることになるので、理にかなった照合方法とも言える。


 おねーさんは、資料を見たり奥へ引っ込んで他の職員と何か話をしたり、忙しそうに動いていた。


「間違いなくクイーンワームのようです」

「はい」


 ギルドもちゃんと認定してくれたようだ。


「この度はクイーンワームの討伐おめでとうございます、この街では実にニ十年ぶりの快挙となります」


 二十年ぶりとは驚いた、さすが超レア。


「つきましては、記念品をお送りいたしますので、本日の夕刻にでも、もう一度ギルドにご足労願えますか?」

「記念品ですか、はい、分かりました」


 ちょっとした物だという、夕方は他に用事も無いので問題ない。


「この薬ですけど、ボクが直接依頼主に持って行っていいですか?」

「良いですよ、ではこちらが依頼書の控えとなります。ギルドへ品物の搬入が無いので、お預かりしている報酬のお支払には依頼主の承認が必要です。こちらに依頼主のサインを頂いてきて下さい、それで達成報酬をお支払いすることになります」


 一通りのマニュアルを聞く。マリクのお母さんにサインを貰ってくれば完了だ。


 本来なら、品物を依頼主に届けるのはギルド員の仕事ではあるが、ボクは一刻も早くクイーンワームを持って行ってあげたい、生の方が熱病によく効くのだから。


 夕方になったら記念品を貰いにギルドへ来るので、その時に報告もしよう。


 そして、さっそくマリク少年の家へ向かった。トーマスは馬車を厩舎へ預けに行くので、ボクとミルクとレティシアの三人で訪問する。


「まあ、ボクとお嬢ちゃん、冒険者だったのね」

「すみません黙ってて」

「良いのよそんなこと、それより依頼を受けてくれてありがとうね、こんなにも早く終わらせてくれるなんて、それに幻のクイーンワームまで」


 さあさあと、マリクのお母さんは、早朝にも関わらずボク達を歓迎してくれた。


 マリク少年はまだ寝ているようだが、無理に起こす必要もないだろう。


 それより新鮮な内に摂取した方がいい。そのむねを伝えると、お母さんも承知していたようで、直接マリクのお父さんの寝室へと案内された。


「ごほ、ごほ」

「あなた、冒険者の方々が薬を届けてくれましたよ」


 お父さんはずっと眉間にしわを寄せて苦しそうにしている、一体いつからこの状態なのか、かなりキツイだろう。


「おお、わざわざこんな、ごほごほ、いやお見苦しい所を、ごほごほ」

「無理をするな、寝ていろ」

「うん? あ、あなたは!」


 お父さんは、フードを外したミルクを見て驚いている、どうやら正体に気が付いたようだ。


「いえ、あなた様は! ごーほごほ」

「急にどうしたの?」

「バカおまえ、勇者PTの戦士ミルク様だぞ!」

「ええっ?」 


 そんな、そう言えばと、お母さんも二、三歩後ずさりオロオロしている。


「そうかしこまらないでくれ、連れの優乃とレティシアとの縁だ」

「は、はい」


 ずりずりと壁伝いに近づいて来たお母さんは、ボクにこっそりと耳打ちした。


「ひょっとして、ボクもスゴイお人であらせられて、いらっしゃるのです?」

「ううん、ボクもレティシアもただの冒険者だよ」

「そ、そう……」


 少しホッとしたようだ。


「それでこれ、早く飲ませてあげて下さい、生のほうが良く効くんですよね?」

「そ、そうね、早速いただくわ」


 お母さんは小皿にクイーンワームの中身をスプーンでこそげ出して、お父さんに飲ませた。


「あなた、どうですか?」


 お母さんが心配そうに覗き込む。


「う……む、すとろべりー」

「あ、うん」


 べつに味を聞いたわけでは無いと思うのだが。


 しかし、クイーンワームの薬を飲んだ瞬間から、目に見えるほど体調は改善し始めた。まだ顔色は良くないが、頻繁に咳き込むことは少なくなった。


「ありがとうございます、まったく、商売人だというのに情けない限りです」


 お父さんは、商人なのに薬を手に入れられなかった事を不甲斐ないと思っているようだ、それほど今は薬の流通が無いのだろう。


「何かお礼がしたいのですが」

「その必要は無い、正当な報酬を支払ったのだろう?」

「そうおっしゃらずに、まさか黄金砂漠の幻を目にするとは思いませんでした、我々商人の中でも滅多に出ないものですから。ぜひ改めてお礼をさせて下さい」

「そうか、では午後にまた来よう、その頃には体調もかなり回復しているはずだ」

「おお、わざわざありがとうございますミルク様」


 依頼の品を無事届けたので、ボク達はこれでおいとますることにした。


 お母さんは朝食を用意すると言ったが、コテージでトーマスが食事の支度もしているはずだ、気持ちだけ受け取っておこう。 


 残りのちんあなごサンドワームは二百体もあるが、おばさんは全部買い取ってくれた。余った分は、自分の所で商品として取り扱うという。


 玄関を出る時、丁度マリク少年も寝間着姿のまま起きて、眠い目をこすりながら、訳も分からず手を振って見送っていた。


 お父さんの事は、後で詳しく聞けば良いだろう、これで一人で砂漠に飛び出して行く事もない。



 今頃、冒険者ギルドは記念品を用意している頃だと思う。今日は再びギルドへ行く夕方まで、することはない。


 なので、日中はレティシアと湖のほとりで遊んでいた。水切りをしてみたのだが、レティシアの投げる石は水面を数回跳ねただけで沈む。


 意外と普通な結果だ。レティシアの力なら、投げる石が湖の向こうにある砂丘を突き抜けても、なんら不思議ではないと思ったけど。


 どうしてそうならないのか聞いてみたら、バフの力は日常生活で使う力とは別らしい。気合を入れて力を込めるとどこまでも力が湧いてくるが、常に気張っているワケでもなく、普段はいつも通りの力がデフォだという。


 なんだかボクのポイズンブロウと似ている。例えば、ポイズンブロウを思い浮かべながらステーキにフォークを刺しても、お肉はダメにならない。


 ちゃんとスキルを使うなら、現実と非現実のスイッチを切り替えるようなイメージで、気持ちのモードを変更しないと使えない。


 だから、魔力も詠唱も集中力も必要の無いポイズンブロウではあるが、間違って発動することは無かった。


 でも少し安心した、レティシア達は日常生活から超人の体力だったから、何かの拍子で力のコントロールが効かず、抱きしめられた瞬間にボクの胴体がちぎれてしまうのではと不安だったんだ。


 ミルクに抱きしめられると、たまに苦しい時もあるが、それはミルクが初めから英雄の力を持っているためであって、バフの効いた異常な怪力でくびり殺される事も無いと分かって良かった。


 なるほどと、レティシアの生態を探りながら遊んでいたが、そろそろ冒険者ギルドへ記念品をもらいに行く時間だ。


 レティシアと二人でギルドへ向かう。ミルクはマリク少年の家に呼ばれているので別行動だ、トーマスはコテージで寝てる。


 ギルドまで来たボク達は、扉を開けて中に入る。しかし、そこは昼間のギルドとは全く雰囲気が違っていた。


 いつも閑散としている狭いギルド内に、冒険者達が溢れんばかりだ。


 椅子に座れずテーブルに腰掛けている者、商品の木箱に座り込んでいる者。みんな、がなり立てるような大声で騒いでいて、かなりガラの悪い印象を受ける。


 この冒険者達はどこから湧いて出てきたのか、夕方になるとこんなに混むのか。


「おおっ、ガキが何のようだ?」

「オイ誰のガキだよ、ってそんなわけねーか、ガハハハ」


 無意味に絡んでくる、久々に場違い感を覚えるイヤな空気だ。そんな連中をかき分けるように、ギルド窓口へたどり着く。


「すみません、これ朝のサンドワームの依頼ですが、サイン貰ってきたので」

「はい、確認しました、少々お待ちください」


 酒臭く煙草臭くやかましい中、何とか手続きを進める。窓口のおねーさんは、報酬金とクイーンワームの記念品を取りに事務所へ引っ込んだ。


「おい待てやコラ!」


 その時、誰かの大きな怒鳴り声が背後でした。何事かと思って振り返ると、一人の冒険者がボクに対してメンチを切ってきた。


「ガキが依頼だと? 冒険者ごっこも大概にせーよオラァ」


 えっ、どうしてボク怒られてるの? 怖いんですけど。


「どうした、ロブ」

「あ、ウス、カイネルのアニキ、ウス」


 また変な人が現れた。カイネルと呼ばれた人がボクに近づいて来ると、周りの冒険者達もざわつき、注目する。


 またこんな感じか、いつも通り、ならず者冒険者に絡まれたみたいだ。

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