51 荒野の道程
「砂漠編」
楽しい旅のはじまりです。
翌朝、トーマスとレティシアのPT申請を済ませるため、ボクは一人でギルドへ来ていた。
ギルドの窓口は、久しぶりに副所長のグレイゼスさんが担当している、さっそく、預かってきた二人の冒険者証を提出した。
「いや、このトーマスという男は、どういう人物か知っているのかね?」
「はい、一応、聞きました」
グレイゼスさんはトーマスの名を目にして顔をしかめた、トーマスが昔、盗賊団の用心棒をしていたことを知っているのだ。
初老のグレイゼスさんは、さまざまな情報が集まる冒険者ギルドに長年勤めている、街の裏の顔や犯罪者などにも敏感だ。
「うーむ、承知の上でなら良いが……、それにしても、闘拳チャンピオンの娘とこの男が同じPTとは」
盗賊団は街の敵だ、特にアストラは盗賊団の壊滅に関わっていた、その娘であるレティシアと、盗賊団の用心棒トーマスが一緒に旅をするなんて、数奇なめぐり合わせと言えばそうかもしれない。
「まったく、キミはつくづく変わった人とPTを組むね、それもあまり良くない傾向だよ、レナに聞いたが、フェリクスという男とも組んでいたんだって?」
そういえば、フェリクスとPTを組んでいた時は、丁度グレイゼスさんが窓口を離れていた時期だった。
「はい、もう結構前に解散しちゃいましたけど」
「それも聞いているよ、彼のPTはすぐにダメになってしまうんだ、苦情も多くてね、しばらく冒険者証を凍結していたくらいなんだよ」
やっぱりそうなんだ、フェリクスが冒険者ギルドに近寄らないのも、そんな理由だろうとは思っていた。
フェリクスとのPTを申請した時、対応してくれたは、その辺りの事情を知らない新人ギルド員のレナだった。
レナが悪いわけでは無いが、もし事情に詳しいグレイゼスさんだったなら、エメリーともあんな結末にならなかったかもしれない。
「今度のPTは大丈夫かい?」
「信頼のおける仲間だと思います」
「冒険者同士のことだ、私が口を挟めることではないが、それでもキミは若い、まだ子供だ、前のPTの時も私が気が付いていたら助言も出来たのだが」
「はい……、でも、ボクもう平気です」
ギルド職員は特定の冒険者を贔屓してはいけない、平等に接する必要がある。
でも、グレイゼスさんはボクが冒険者登録をする時から、何かと目をかけてくれていた、遠慮せずに、もう少し頼っても良かった。
「ふむ、では新しいPTが上手くいくように、そして旅が平穏無事であるように祈っているよ」
「ありがとうございます」
レナにもよろしくとグレイゼスさんに挨拶をして、冒険者ギルドを出た。
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今頃、トーマスとレティシアは持ち物の最終チェックを済ませているはずだ。
これからすぐに出発する予定なので、アジトへ急ぐ。
「どうだ、登録は済ませてきたのか?」
馬車の準備は整っていた、トーマスも自分の装備を確認している。
「出来たよ、どこかの元盗賊のせいでちょっと時間かかったけどね」
「おーおー言うね」
「やっぱりルコ村の山賊達って評判悪いの? 居づらくない?」
「ミルクとアビーさんのおかげで過去は水に流したんだ、オレは気にしねーけどな、それに今じゃこの街に無くてはならない存在よ、お前の薬もあるしな」
心配して損した、相変わらず図々しいヤツだ、でも、ネガティブになるよりはマシか、山賊達はこの街でもそれなりに上手くやっている。
ボクも装備の最終確認を済ませて、ついにヴァーリーを出発する時刻だ。
この街へ戻ってくるのはいつになるだろう、もしくは、もう戻ってこないかもしれない、勇者に道を示されたならば、ボクはそのまま世界を回るつもりでいる。
トーマスとレティシアは王都までの旅と思っているだろう、しかし、ボクはその先をも見据えている、場合によってはそこでみんなとお別れになるかもしれない。
「よっしゃ、じゃあ出発だ、行くぞ野郎ども!」
「おーっ」
「……お~」
キィィと鉄門が開かれる、ボク達のカーゴ馬車は動き出し、アジトを出発した。
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ヴァーリーを出発して、砂漠の街、サンドウエストを目指す。
この国、デルムトリアは南北に長い、ラース大陸で言えば最西端であり、国土は逆三日月型をしている。
サンドウエストも、この北の辺境とはまるで気候が違うほど遠い、そこへ着くまでにも幾つもの集落が存在する、今は次の中継点、カクタスへ向け行進中だ。
南下を始めると、鬱蒼と茂っていた森は徐々に樹木を減らし始めた、まだ半日分しか進んでいないのに、こんなにも急激に森が開けてしまうのかとビックリした。
緑豊かなヴァーリーに住んでいると気が付かないけど、本当にこの先は砂漠なのだと予感させる。
御者はボクとレティシアでローテーションだ、隣でトーマスが馬車の乗り方をレクチャーしてくれる、御者台は二人乗りなので、何もしない人は荷台の隅っこに座ることになる、狭い。
やがて、目の前に巨大な渓谷が横たわった、写真でしか見たことはないが、グランドキャニオンかと思わせる広大な渓谷だ。
ここまで何の問題もなくピクニック気分で来たけど、この大パノラマを前にボクは立ち尽くしていた。
頻繁に王都と往復するミルクを間近で見ていたので、ボクも行こうなどと気軽に思っていたがとんでもない、想像以上に険しく壮大な旅になりそうだ。
よく考えたら、いつも一緒に居るミルクは英雄なのだ、ありとあらゆることで常人のはるか上をゆく、ボクなんかが真似できるわけがなかった。
自動車も飛行機もないこの異世界で、これからの過酷な旅を思うと、なんだかとてもやっちまった感が湧き上がる。
「わー、すごい景色だねユーノちゃん」
「う、うん……」
「よーし、二日ほどで渓谷は抜ける、その後はいよいよ不毛の大地へ突入だぜ」
……もう、引き返せないですよね?
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渓谷を横断するルートは幾つもある、その中で、今進んでいる道はヴァーリーへの大動脈だ、わりと踏み固められていて馬車も通れる立派な道だ。
途中、ヴァーリーへ向かう一団とすれ違った、彼らは幾つかの家族が集まって荒野を越えてきたようだ、総勢三十名ほどで、馬車も七台と連なっていた。
ヴァーリーへ向かうなら、こうやって団体で移動するのが安全で普通なのだという、もう何もかもスケールがでかい、改めて気を引き締めても不安は拭えない。
ただの一般の家族を見てビビってしまう転移者のボク。
しばらくして、通常のルートより外れ、近道をゆく、先の道と比べれば随分と細く凸凹した道だが、トーマスが発注したオフロード仕様の馬車は問題なく進む。
高光度の魔道具カンテラがあるとはいえ、夜になると岩だらけの道を進むことは出来ない、緑の少ない切り立った山々に囲まれて、今日はここで野営となる。
馬車は小型な上に荷物は満杯で中で眠るのは無理だ、だから外へテントを張るのだが、近くの岩山に横穴を発見したので、今日はこの洞窟で一泊する事になった。
洞窟の入り口は縦横五メートルほど、結構大きい、まずは安全を確保するために、中に魔物が居ないか調査する。
馬車を外へ待機させ洞窟の奥へ進む、するとやはり、そこには大きなトカゲ型の魔物が一匹いた、全高はボクより高く、全長は更に長く巨大だ。
やはり魔物だけあって、人間と認識したら襲ってきた。
「ロックリザードだ、行けレティシア、やっつけろ!」
「えっ? うん」
トーマスに指示され、ワケも分からずといったふうのレティシアは、巨大トカゲに真正面から近づき、アッパーを食らわした。
巨大トカゲはワンパンで吹き飛び、洞窟奥の闇へ吸い込まれてゆく、そして、ドォンという壁に当たったような音を立てた、衝撃でパラパラと小石が降ってくる。
吹き飛んだ巨大トカゲの後を追ってゆくと、さっきの巨大トカゲは、奥の行き止まりの壁に叩きつけられ潰れていた、どうやらこの洞窟はここが終点のようだ。
しかし、そこには新たに別の巨大トカゲがもう一匹いた。
「また居たぞ、行けユーノ、魔物を倒せ!」
「はあ? 何でボクなの」
トーマスやレティシアと違って、ボクは強化されていないんだけど? そう思いつつも、ナイフを抜いて巨大トカゲの足元へと滑り込んだ。
「何なんだよ、もう!」≪スキル:ポイズンブロウ≫
巨大トカゲの左側へ回り込み、前足を少し切り裂いた、と同時に、ポイズンブロウをブチ込む。
オーガをも瞬時に倒したスキルだ、この巨大トカゲもスリップダメージが入る前の、僅かな固定ダメージだけで倒れた。
すぐに巨大トカゲの腐敗は始まるはずだ、その前に、ボクはレティシアの手を取って出口へ走った。
「なんだ? 今のでロックリザードは死んだのか?」
呑気にそんな事を言っているトーマスの脇をすり抜ける、ボクとレティシアは洞窟から外へと飛び出した。
「急にどうしたの?」
手を引かれて一緒に出てきたレティシアは、怪訝な顔をしている、しかし、説明する必要もない、もうすぐ結果が現れる。
「ゥォォォ……」
洞窟内に取り残されたトーマスの断末魔が聞こえた、ご愁傷さまだ。
「オエエ、くっせ、オエエエ」
えづきながらトーマスも出てきた、なんとか生還したようだ。
こんな狭い洞窟でポイズンブロウを使えば、腐臭で大変なことになるのは当然分かっていた。
「はあはあ、なんだありゃあ」
「トーマスはすぐズルするんだから、バチが当たったんだよ」
大人のくせに子供に働かせようとするからそうなる、自業自得だ、逆にいっぱいこき使ってあげよう。
しかし、結局洞窟内で野営することは出来なくなってしまった、臭い。
仕方ないので、外でキャンプするため焚き火の支度をする、炎が安定してきた所で、食事の用意をしながら、二人にポイズンブロウの事を説明した。
「ミルクに聞いていたが、確かにとんでもねー技だ、色々な意味で」
「分かった? ボクが戦ってもいいけど、またこうなるよ」
「う……」
ボクのバフで強化されている事は、二人とも理解している、戦闘になったなら、基本的に二人がボクを守るという話だったはずだ。
当然、ボクもみんなのために出来る限りの事はしたい、しかし、だからといって一方的に使われる気は無い。
「それにしても不思議なもんだ、こんな技は聞いたこともねえ、それにオレを強化している能力もそうだ、そもそも能力って何だよって話だよな」
この異世界には魔法と戦技が存在する、でもボクのパッシブスキルはそのどちらとも違う、異世界の住人にもボクと同じような能力者は居ない。
「ユーノちゃんカッコいい」
なぜカッコいいのかはよく分からないけど、レティシアはさっきから、ずっとボクに寄り添っている。
「最重要国家機密級か」
「え?」
「いや、ミルクやドロテオさんと話していたんだけどよ」
以前ミルクは、PT仲間には能力を説明した方がいいと言っていた、でも、パッシブスキルもここまで強力になってしまうと話は別だ。
基本的に、身内以外にバフ能力の事がバレてはよくない、PT仲間を選定する場面からも、かなり慎重にならないと。
現に、この能力を欲した有力者も現れた、まあドロテオのことだけど。
これが別の、まったく知らない人に悪用されたらと思うと……、特別に説明の必要がある時以外は、極力秘密にした方がいいと思う。
「能力の事もアレだろ? 勇者に会いに行く事と関係があるんだろ?」
「うん、ボクにも確かなことは分からないんだ、勇者様に会えば、きっと何か教えてくれるはずだよ」
「それだ、それも分からん、なぜ勇者なんだ? 歴史学者や魔法学の権威に面会したほうが確かだろ?」
「う……それは、理由はあるんだよ、言えないけど」
まだ憶測の域を出ないけど、勇者は転生者だ、しかし、それはミルクも口を閉ざす国家機密なのだ、多分。
それなのに、ボクと勇者は似たもの同士だから色々教えて貰うんだ、なんて言ったら、せっかくミルクが秘密にしている勇者の情報が漏れてしまう。
「まあいいわ、話がデカくなってきて期待させるぜ、お前もそうだろレティシア? 特別な男を捕まえておきたい気持ちは分かるぜ、女ってのは現金だからな」
「ユーノちゃんを変わり者みたいに言わないでください! わたしはユーノちゃんと一緒に居られるだけで幸せなんです」
「……あーそうかい、どいつもこいつも変わってんな」
トーマスが言えたことではないけど。
そう心の中でツッコみつつ、旅の一日目の夜は更けていった。
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トーマスが宣言した通り、二日で大渓谷を抜けることが出来た。
目の前には果てしなく荒野が広がる、背の低い草木が点在し、乾燥した風が土埃を舞い上げる。
障害物が少ないため、見渡す限りの平地に見えるが、地面はうねって意外と高低差があり、馬車に乗っているのも疲れる。
厳しい道程だ、ヴァーリーは緑も水も豊富で美しい街だったけど、さすがにこの道を辿って行く気概は出ない、初日に出会った団体さん以降、人も見なかった。
ヴァーリーの気候は、どちらかといえば寒い方だったけど、この時期に南下してゆくと、灼熱の砂漠を越えることになるという。
それだけ距離があるということだけど、さすが異世界だ、予想を超えてくる。
今いる荒野だってもう暑いし、なにより、遮るものの無い直射日光と吹き付ける乾燥した風で、体力の消耗は早く、すぐに喉が渇く。
ボクは、がぶがぶと水筒の水を飲み干した。
何もない荒野のど真ん中で、水は貴重、では無かった。
馬車には水を生成する魔道具が積んである、大型のクーラーボックスほどの四角い箱で、横についているコックをひねると、蛇口から水がゴバゴバと出てくる。
魔石をセットしておけば自然と水が貯まり、一日で水ボックスが満タンになる、オーガの魔石でおよそ百リットルほども生成できるんだ。
だから魔石は沢山購入してきた、さらに、以前無駄に手に入れたオーガの魔石も全部持ってきた、つまり水は使いたい放題だ。
これから砂漠を横断するのに、使いたい放題の水があるというだけで無敵感がすごい、さらに、この大量の水は一日の終りに最も威力を発揮する。
実は、この馬車にはシャワーが備え付けてある、長旅用の馬車の中でも、かなり高級志向でないと搭載されない架装だ。
トーマスと馬車の仕様を相談していたときに、シャワーが付けられると聞いて、お金にモノを言わせて特別に付けてもらったんだ。
しっかりとしたカーゴ車とはいえ、小型馬車なので外に設置されている、右側面の後ろ側にあり、頭上から水が出るようになっている。
囲いも無ければシャワーカーテンも無いので周りからは丸見えだ、隠す気になればテントなどを駆使してシャワールームを作ることも出来るが、面倒だ。
普通なら木陰などに馬車を寄せ、周りから見えないようにしてシャワーを浴びるのだろう、でも、ここはただっ広い荒野だから、馬車を隠せるような場所もない。
だけど、ここは荒野のど真ん中、どうせボク達以外誰も居ないので、そのまま道の脇に馬車を停めて体を洗っている。
ただし、女の子であるレティシアが使用する時は、男性陣は馬車の反対側に居る約束だ。
馬車の空きスペース的に、温水器が取り付けられなかった事が残念だけど、ただの水でも、明るい時間なら気温も高いので問題ない。
そして、今日も一日の旅の汚れをシャワーで洗い流す。
「そろそろシャワー浴びようか、ユーノちゃん」
いつものように、自然な流れを装ったレティシアに、シャワーに連れ込まれた。
一日に百リットルの水を用意できるとはいえ、三人分では心許ない、だから水を節約するために、ボクとレティシアは一緒に入らなければならない。
という、レティシアの提案だ。
広大な大地の上で、二人とも一糸まとわぬ姿になる、振り向くと、遥か彼方に地平線が伸びているのが見える。
今まで、緑明るい森の中で水浴びもしてきたけど、開放感では今より勝るものはそう無いと思う、変な癖に目覚めそうだ。
それにしても、十歳の男子と十二歳の女の子とで、一緒にお風呂に入るのってどうなんだろう? レティシアだって多感な時期だろうに。
でもまあ、考えて見れば奴隷時代から一緒に水浴びもしているし、レティシアにしても今更なのかもしれない。
それにこうやって洗っこをしていると、なんだかキャッキャウフフ状態でちょっと楽しい、それはレティシアも同じみたいだ。
昔、元世界で正真正銘ボクが十歳だった頃も、よく姉達と一緒にお風呂に入っていた、うちの場合、そのほうが姉にとって都合が良かったのが理由だ。
当時、ボクはやっぱり姉達の背中を流していた、しかし、背中の洗っこなどという微笑ましい事も無く、完全にただの三助だった。
キャッキャウフフしていたのは、ボクを湯船に沈めて楽しんでいた姉達だけで、子供の頃のお風呂には何一つ良い思い出はない。
今、こうしてレティシアとふざけ合っていると、普通なら出来ていたはずの楽しい思い出を、取り戻しているような気分になる。
「ほら手を上げて、ここもちゃんと洗って」
「あはは、くすぐったいよおねえちゃん」
そんなあざとくも見えるやり取りをしながら、楽しいひとときを過ごしていた、これが年頃の男女だったなら、完全にリア充だなと思った。
「ユーノ、タオルここに置くからな」
そんな時、ひょいとトーマスが顔を覗かせた。
タオルを持ってきてくれたみたいだ、そういえばタオルを忘れていた、トーマスはわりとこういう事に気がついたりする。
「きゃーっ!」
すると、レティシアが悲鳴を上げた、小柄でぺったんこだが十二歳の女の子だ、しっかり羞恥心だってある。
子供のボクなら大丈夫だけど、大人の男にハダカを見られるのは、さすがに抵抗があるんだ、奴隷時代も衛兵に水浴びを覗かれるのは嫌な様子だった。
「ちょっとトーマスさん、見ないで下さい!」
レティシアはボクに正面から抱きついた、トーマスにハダカを見られないように、ボクを盾にして自身の裸体を隠したんだ。
普通は手で体を覆い隠しながら、しゃがんだりするものではないの? これでは、お互いハダカ同士で抱き合って、まったくの密着状態だ。
ソコもアソコも隙間無くくっついている、レティシアの前でハダカになるのは慣れているけど、さすがにこれは、子供とはいえちょっと困ってしまう。
「はあ? いやいやオレ変態じゃねーし、ガキの見てもなんとも思わねーから」
「いいから向こう行って! ブッ飛ばしますよ」
「う、それは勘弁してくれ、まじで」
トーマスは悪気があったわけではないだろう、ボクだってそうだ。
しかし、乙女の入浴にゴロツキが参加するのは許されないらしい、哀れトーマスは、虫ケラのように追い払われてしまった。
「もう、せっかく二人きりの時間なのに」
「おねえちゃん、そこは自分で洗うからいいよ」
「そう?」
シャワーを終えたボク達は、トーマスが持ってきてくれたタオルで、お互いの体を拭き合う。
特に髪の毛は、二人ともくるくる角が生えているので、拭き合ったほうが断然早くしっかりと拭けるんだ。
そして、トーマスが用意していた夕食を食べる。
トーマスはボクたちと入れ替わりにシャワーを浴びに行った、この時間では辺りも薄暗くなり、開放感のある景色も楽しめないし、寒いと思う。
大人であるトーマスは、そんなこと気にしていないようだけど、なんだか不憫だ、以前こき使ってやろうと思ったが、少し可哀想な気がしてきた。