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34 リメノ村

「リメノ村編」

 ショタ主人公ちゃんが、こさえた賠償金を支払うために奔走します。

「優乃、来たのか」


 部屋の中から声がした、すぐにドアが大きく開かれ、ミルクが顔を出す。


 すけすけのブラにショーツという、あられもない姿だ、何も隠れていない、むしろ大事なトコロが強調されている。



 ミルクが出てきたのは、大男の部屋じゃなかった、二つ隣の部屋だった。


「えっ、ミルク、そっちの部屋!?」

「ん、どうした?」


 だって、まさかドアが開けっ放しの部屋に居るとは思わなかったし。


「ドアが開いていたから、間違って違う部屋に行っちゃったよ、そしたら大きな男の人が出てきて、最初、ミルクの彼氏さんかと思った」

「フッ、私にそんなものは居ないよ、連れ合いは剣だけさ」


 剣一筋ってやつか、それにしても不用心すぎる、このならず者の集まるアジトで、裸同然のすけすけ下着でいるなんて。


「そんな格好で部屋から出てきたら、お行儀悪いよ?」

「おおすまん、そうだな、では入ってくれ、私も他の男に裸を晒すほど痴れ者ではないのでな」


 ああよかった、一応、自衛の気持ちはあるんだ、そういえば、トーマスがミルクは身持ちが固いって言っていたっけ。


 ふりふりする大きなおしりに続いて、部屋に入る。


 清潔感のある部屋だ、ただ、ミルクの荷物は少ない、いつでも出ていけるような身軽さだ。


「悪いな、椅子が足りないんだ、ベッドへ腰掛けてくれ」

「うん」


 言われるままベッドへ座る、ミルクも、すけすけのレース下着のままボクの隣に座った。


 今日のミルク、なんだかいつもより良い匂いがする。


 それはそうと、このままだと、ボクの目線の高さ的にミルクのおっぱいに話しかける感じになってしまう、でも、椅子が無いので仕方ない。


 さっそく本題に入ることにした。


「さっき、依頼者の所に行って来たよ、やっぱり伝説の薬のことだった、聖なる森にある薬草を使うんだって」


 すると、ボクの肩を抱き寄せていたミルクの手が、ピクリと止まった。


「そうか」


 ここまで来たらハッキリ聞いておくべきだろう、聖なる森は勇者しか入ることができない、ミルクはそのことを知っていたはずだ。


「あの森には、勇者様しか入れないって聞いたけど」

「優乃、すまん……!」


 突然ミルクは頭を下げた、自動的に、ボクの顔におっぱいが押し当てられる。


「まわりくどい言い方をして悪かった」


 やっぱり知っていたんだ、ちゃんと話してくれていたら、勇者へ会いに行く旅も、もっと早く計画できていたかもしれない。


「だが、私も確信があったわけではないんだ、もう少し調査してから結論を出したかった、優乃が勇者であると」

「ゆう!?」


 ボクが勇者? なんか、とんでもないことを言い出したぞ。


 ボク的には、知っていたら旅の計画がちょっと前倒しになったのになー、くらいの認識なのに、いきなりボクを勇者と決めつけるなんて。


「ちょっ、ちょっとまってミルク、ボク勇者じゃないよっ」


 なんか、すごい誤解してる。


「ああ、これから何を成すかだ、セシルも生まれた時から勇者と呼ばれたわけではない、だが、優乃にも十分その素質はあると思うぞ」


 素質って言われても、山を斬る勇者と同じにされても困る。


 本来のボクの力、魔王Lv150なら世界を壊すことすら容易いけど、なにせ今のLv1の状態じゃ、強さは一般人とほとんど変わらない。


 それに、勇者なんてガラじゃない、民衆から英雄だの何だのと担がれたら、こっ恥ずかしくてすぐに引きこもっちゃう、そういうのは向いてない。


 とにかく、勇者しか入れない森にボクも入れるからといって、すぐにボクも勇者と断じるのは早計だ。


「そうか? ほぼ確定だと思っていたのだが」

「まさか、ボクそんなに強くないもの」


 ボクは勇者じゃないよと、何度も言い聞かせ、やっと納得してもらった。


「それにしても、ミルクは勇者様のことに詳しいんだね?」


 いまセシルって名前で呼んでいた、SS級冒険者のミルクだって有名人だ、勇者と接点があるのかもしれない。


「まあ、アイツとは長い付き合いだ」

「え?」

「私も冒険者PTを組んでいるが、セシルは、そのPTのリーダーを務めている」

「ええっ」


 というと、まさか勇者と同じPT!?


「そんなに驚くこともない、皆知っていることだ」


 それはそうだ、PTを組んで世界を旅したなら、ミルクが勇者PTの一員という事は、みんな知っているだろう。


 みんなが知っている事を、「ミルクって勇者の仲間なんだぞ」などと、わざわざ言う人も居ない、おかげでボクは今の今まで知らなかったわけだ。


「傍で見ても、優乃とセシルには共通点が多い、二人は見た目も強さもまるで違うが、どこか同じような空気を感じる、そう思ったのだが」


 そうか、聖なる森に入れるという以外の共通点もあるのか、でもそうなると、その他の共通点がボクは気になる。


 姿も力も違うなら、他の共通点は所作や生活習慣だろう。


 この異世界の人々はワイルドだと感じる、逆に、異世界の住人からボクを見ても、違いに気づく事があるはずだ。


 ボクと勇者が同じだと感じるならば、勇者も地球出身、もっと言えば元日本人という事になる。


 勇者は幼児の頃から強かったとエメリーは言っていた、つまり、この異世界で生まれた可能性がある、転生者だ。


 ボク自身が転移者であるため、転生者が存在して居てもおかしくはない、勇者は日本からの転生者、強引だけど、そんな考えが浮かんで仕方ない。


 しかし、どうなんだろう、ミルクも勇者が転生者だと知っているのだろうか。 


「ねえミルク、他の共通点て何? もしかして、勇者様は転生……」

「それ以上は待ってくれ、すまん」


 やっぱり、勇者が転生者だと知っている様子だ、ということは、ボクも同じく他の世界から来たと、ある程度は気が付いている?


「実は、セシルに優乃の事を尋ねられたが、肝心な所はまだ言ってないんだ、だからセシルの秘密も言う訳にはいかない、それだと不公平だろう」


 転生者の事は秘密なのだろう、しかし、それとは別で、ミルクは勇者との義理を果たそうとしているんだ。


 もう、すべて詳らかになりそうだが、変な所で義理堅いミルクは、これ以上転生者について話す気はないみたいだ。


「そして、もう一つ優乃に謝ることがある、実は、そのセシルと会ってもらいたいんだ」

「ボクが勇者様と?」

「ああ、どうしても優乃に会いたいらしい、私が至らないばかりに面倒事を押し付けてしまう、本当にすまないと思っている」


 ミルクが勇者と知り合いだったため、勇者に会うという目的にかなり近づいたと思っていたが、向こうからもボクに会いたいという。


 それも当然か、ミルクがどの程度ボクの情報を話しているか分からないけど、勇者からしても、ボクが日本から来たと感づいているに違いない。


「ボクも勇者様に会いたい」

「そうなのか?」

「うん、前から会いたかったんだ、でも、これでますます会いたくなったよ、それは多分、勇者様と同じ理由だと思う、ボクも気になって仕方ないんだ」

「そうか、そうだな、優乃から聖なる森の話を聞いた時、セシルも森に入れると言っておけば面倒もなかったわけか、ルコ村を出る時、優乃も一緒に連れて出ていれば、セシルに合わせる事も出来たはずだ」


 口の固いミルクなら、それも無いのだろうとは思う、でも、多少遅くなったけど、最早勇者と会えることは約束されたようなものだ。


「私からセシルの事を言う訳にはいかない、優乃の身に何かあってもつまらんからな、だが、セシルと会ったなら、直接本人から聞けばいい」

「うん」


 その時に勇者の能力の事も聞こう、そして、転移者の情報も教えて貰えればこの上ない、転生者が居たんだ、ボクと同じ転移者だって居るかもしれない。



 ひょんなことから、勇者へ続く道が明るくなった、次はフェリクスの問題だ。


 賠償金の残り三百万を稼ぐため、聖なる森で薬草を採取しなければならない。


「それでねミルク、聖なる森に行ったら、どんな薬草を採ってくればいいの?」


 あの森の中にはキモ杉以外に植物は無かった、森を脱出する頃には色々な植物も増えていたけど。


「それなら簡単だ、果物や野菜を探せばいい、種類は何でも良い」


 聖なる森の中には、街でも目にする果物や野菜が生っている、そのエキスを従来の軟膏に混ぜれば、あっという間に伝説の薬になるらしい。


 ちなみに、聖なる森の外で採取出来るものは、難しい調合が必要なうえに、伝説級の治癒能力までは出ない。


 あの時食べたノビルだと効能はイマイチで、森の中に生っていた瓜なら正解ということだ、ボクはすでに伝説の薬草に触れていたんだ。


「でもミルク、あの森の野菜は、実際に食べるとお腹痛くなっちゃうよ?」

「食べたのか? それは危なかったな、森の野菜そのものは毒なんだ、姿や匂いに釣られては危険だ」


 衰弱した体でそんなものを食べて、九死に一生を拾ったか。


 口にしたのが森の外にあった薬効も毒素も低いノビルで助かった、もし瓜を食べていたら、今頃あの森で白骨死体になっていたところだ。


 だけど、これで一発逆転の目が見えてきた、その条件なら、聖なる森で果物や野菜さえ発見出来れば、大量のエキスが採取できる。


 季節的に瓜はもうないと思うけど、それでも何かしらゲットできれば、オズマの依頼は元より、伝説の薬を売って、三百万ルニーなんて簡単に返済できる。


 善は急げだ、さっそく、明日にでも聖なる森へ向かうことを伝えた。


「そうか、では私も同行しよう」


 ミルクの馬で送ってもらえる事になった。


 ルートは、聖なる森に一番近いリメノ村へ向かい、そこで一旦馬を預けて、徒歩で聖なる森へ行く。


 リメノ村、レティシアの住むシープ族の村。


 絶対に会いに行くという約束から何ヶ月も経った、オズマの依頼のついでになってしまったが、レティシアとの約束も果たす事ができる。


「さぁ疲れたろう、一緒にシャワーでも浴びようか、今日はゆっくり休んでいけ」


 いつの間にかボクの腰に手を回していたミルクは、そう気を利かせてくれた。


 この部屋には特別にシャワー室が備えてあるらしい、なるほど、ミルクが下着姿で居たのは、シャワーを浴びる直前だったからか。


 しかし、今のボクには他にやる事がある。


「ありがとう、でも、今日はギルド宿に戻るよ」


 ボクは、スッと立ち上がった。


「あっ、行ってしまうのか?」

「うん、準備もあるから」


 ミルクの申し出は嬉しいけど、明日リメノ村へ出発するなら、暗くなる前にギルド宿に戻って支度する必要がある。


「そうか、残念だが仕方ないな、では、できるだけ早く街を出発したい、リメノ村は遠いからな、それで大丈夫か?」

「うん、早朝にまた来るよ」


 アジトの外へ出ると、すでに辺りは夕闇に包まれていた、ボクは急いでギルドへ戻り、ギルド食堂で軽く食事を済ませ、部屋に戻り荷物をまとめた。


 今まで着ていた地球製のパーカーを手に取る、これもアジトで預かってもらおう、毎日着ていたパーカーはヨレヨレで、これを着て戦闘などもう出来ない。


 今のアジトには余裕があるので、一時的に荷物を預かってもらえる事になっていた、部屋も空いているから使って良いと言われた。



 翌朝、事前に買っておいた丈夫なシャツとタクティカルパンツに着替えて、アジトへ向かった。


「早く来いとは言ったが、また随分と早かったな」

「うん、こっちでも支度があると思って」

「そうか、感心だ、時間に厳しい所もセシルと似ている」


 やっぱり勇者も日本人なんだな、シープ族の子供と勇者では、身分の差があるのだろうけど、なんとなく親近感を覚えてしまう。


「こ、これで行くの?」

「ああ、単騎だと早いからな」


 リメノ村へは、ミルクが一緒に行ってくれるとは言っていたけど、馬車ではなく、この馬に騎乗して行くのだという。


 サラブレットのような美しい栗毛の騎乗馬だ、普通の大きさだと思う、でも、改めて近くに寄ってみると、その大きさに圧倒される。


「よ、よしよし、よろしく頼むよ」

「ブルルゥ」

「……はは」


 なかなかにおとなしいもので、ボクの背丈まで顔を下げて挨拶してくれた。


 馬に乗るのは初めてで不安だけど、なんか可愛く思えてきた、真後ろにさえ立たなければ大丈夫そうだ。


 鞍に荷物を縛り付け、ボクが前、ミルクが後ろで手綱を握る、二人乗りだ。


 そして、ボク達はリメノ村へ向け、ヴァーリーを出発した。


 二人で騎乗するのはテレビなどでもよく見る、だけど、それはゆっくり歩いている時のものだ、走っている馬というのは恐ろしい。


 この不安定さがバイクとは違ったスピード感が出て、そして視線も高い、落馬したら洒落にならない、ボクは必死に鞍にしがみついていた。


 それでも何とかリズムを覚え、初めの休憩所へ到着する頃には、後頭部に当たるおっぱいを感じることが出来るほど余裕は出来ていた。


 魔王Lv1のおかげで身体能力は高くなっているが、おそらく順応性もあるのだろう、元々のボクはこんなに運動神経は良くない。


 休憩所へ着き、先に馬から降りたミルクに抱っこしてもらい降ろしてもらう。


 騎乗中は舌を噛むから喋るなと言われていたが、結局それどころではないほど必死だったので、ミルクの心配は杞憂に終わった。

 

 うーっと伸びをしている時、馬の様子を見ていたミルクが呟いた。


「おかしいな……、まさかこれもなのか?」

「どうしたの?」


 馬に疲労がみられない、長く走って来たのに息を上げることもなく、まるでさわやかな朝のように清々しく佇んでいる。


 体力は満タンなようだ、毛並みもっゃっゃだった。


「騎乗馬にも影響するのか、優乃のその力、バフ……と言うのか? 仲間を強化する力はとんでもないな、どうなっているんだ?」

「さあ、どうなっているんだろうね」


 ボクのバフは馬も強化していたみたいだ、出発前に仲良くしていたのが良かったのか、馬もパッシブスキルの範囲に入っていたようだ。


 リメノ村へは明日の午前中に到着する予定だ、奴隷商ドーガの馬車の時は、街へ着いたのが次の日の夕方だったから、半日ほど早く着く算段だ。


 しかし、馬が疲れないのなら、今日中にリメノ村まで行けるかもしれない、ここで早めの昼食をとって、一気にリメノ村へ向かうように予定を変更した。

 

 ボクが早朝にアジトで作ってきたお弁当を、ミルクと一緒に食べる。


 おにぎりと、おかずは醤油と砂糖と酒を煮詰めて鶏肉に絡めた照り焼きだ、それを二人分、飯盒をお弁当箱にして詰めてきた。


 ミルクは特に照り焼きが気に入ったようで、「これはウマイ、新しい」と言っていた、どうやら、勇者は照り焼きを食べさせてはくれなかったようだ。


 それでも、日本人に馴染みのある短粒米が普及しているのは勇者のおかげだろう、東の地方からモミを持ち帰り広めたようだが、こうやっておにぎりを食べられるのは有り難い。


 普通、異世界へ行ったら、まずお米や醤油などから手を付けるのがウェブ小説の常だが、先人となる勇者がそこら辺はやってくれているようで助かった。


 もっとも、ただのゲーマーで半ヒキコモリのボクが、一から出来ることなんてたかが知れている。


 力は弱いし、世界に影響を及ぼすような知識があるわけじゃない、無双が出来るほど知恵も度胸も無い、残念な一介の仔ひつじちゃんに過ぎないのだ。


 勇者がどんな人物なのかは知らないが、それだって、超人の転生者の体があるから英雄の活躍が出来ているのだろうし。


 それはそうと、お昼はお弁当にして良かった、時間が惜しいのでサッと食べて出発できるのは便利だ、現地で料理するのがデフォなミルクも感心した様子だった。


 お腹も満たしたので出発だ、抱っこで馬の背に乗せてもらう、ボクは鞍に掴まっているだけだし、ここまでの騎乗でコツも覚えた、残りの道のりは楽勝だ。


 と思っていたのだが、普段よりスペックの上がっている馬の能力を、ミルクは見事に引き出した、つまり超速で駆け出した。


 さらに激しさを増した馬上で、ボクは、また一から大変な思いをするのだった。



 ボクとオズマが出会った場所から、更に西へ進み横道へ入ってゆくと、急に森が開け雄大な雪山を仰ぐ牧草地が姿を現す、そこにリメノ村はあった。


 やっと着いたか、馬とミルクに比べてボクだけ随分疲弊したが、なんとかミルクのおっぱい置き場としての御役目を全うし、リメノ村へ到着した。


 時刻は十七時、本来なら一泊必要な旅路を、その日の夕方に到着したのは奇跡的だ、やっぱり足は大切だ、ただ早いというだけで世界がぐっと小さくなる。


「止まれ! この村に何のようだ!」


 シープ族の門兵だ、また随分と若い。


「ヴァーリーから来た、名はミルク、しばらくこの村で休ませてもらいたい」

「ミルク……?」


 すると、奥の守衛所から、もう一人の年老いた門兵が現れた。


「久しぶりじゃなミルクよ、何日でもゆっくりしていくが良い」

「ああ、厄介になるぞアーダン」


 ミルクは、この老いた門兵と面識があるみたいだ。


 五年前、ミルクは勇者と共にリメノ村へ訪れている、伝説の薬が出回った頃だ、お互い顔を知っている村人も居るのだろう。


「あの、アーダンさん、ミルクってもしかして?」

「そうじゃよ? それ以外の何があるのじゃ」

「し、し、失礼しました! お通り下さいミルク様」


 若い門兵も、ミルクの顔は知らなくても名前は分かるみたいだ、ガチガチに緊張していた。


 こんな場面を見ると、ボクなんかがミルクの隣りに居ていいのかと思う時もある、でも、どうせミルクだし、今更か。 


「この村は変わらんな……、優乃、私は厩舎へ馬を預けてくる、すぐそこだ、ここで待っていてくれ」


 厩舎は村の門から見える場所にある、ミルクはそこへ馬を引いていった。


 一息ついて、改めて村を見渡す。


 山賊の隠れ里であるルコ村と同じく、リメノ村も質素な家が並んでいる、でも、ある程度区画整理がされ、人口もリメノ村のほうが多そうだ。


 この村のどこかに、レティシアが住んでいる。


 レティシアと別れてから随分経った、あの頃のレティシアは情緒不安定だったけど、この長閑な村なら、とっくに心も癒えていることだろう。


 ボクのこと覚えているかな、そんな事を思っていると、離れた民家の影にレティシアを発見した。


 リメノ村の住人はシープ族だ、みな同じような姿をしている、だけどひと目で分かった、レティシアはその中でも可憐と言うか、知り合いだからだろうか、すぐに目に飛び込んできた。


 ボクは懐かしさに駆られて、つい走り出す。


「レティ――」


 近づいて声をかけようとした、でも、レティシアの隣に知らない男の人が見えて、思わず言葉を飲み込む。


 恋人のように腕を組んで歩いている、夕日に照らされたレティシアの横顔は、とても幸せそうだった。


 大人の男性だと思う、十二歳のレティシアとでは、結構な歳の差カップルだ。


 ボクは、大人の男が女児と付き合うなんて言語道断と考える人間だ、それは法律があるなしに関係ない、だから警戒してしまう。


 レティシアは大人に騙されているんじゃないのか? 浮足立って周りが目に入っていないんじゃないのか?


 ……ちがう。


 そんなふうに考えてしまうなんて、フェリクスとエメリーの件は、思った以上にボクの心に突き刺さっているみたいだ、ついつい邪推してしまう。


 ミルクやレティシアに彼氏が出来たなら、ボクも祝福する、だけどエメリーみたいに、それが原因でボクから離れてしまうかもしれないと不安なんだ。


 女性が苦手なボクの、数少ない異性の友人なのだから。


 声をかけることも出来ずに、後ろからただ眺めているだけのボクに、レティシアも気がついたようだ、男性の腕からすばやく離れる。


 そして、ボクを見て、“どうしてここに?”と、目を見開き驚いていた。

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