19 さらわれ?(4回目)
なんとか依頼をキャンセルできないか、受付のおじいさんに頼み込んだ。
しかし、一度ギルド印を押されて認証されたものは、確たる理由もなしに取り下げる事はできないようだ。
それに、依頼書には一定の契約の拘束力が発生する、無視したり、逃げ出すことは叶わなかった。
契約違反にはペナルティもある、冒険者以前のこの状態で、早速そんなものをくらう訳にはいかない。
「ヘッヘッヘ、観念しな、俺達とゴブリン討伐の旅を楽しもうぜ」
「コイツぁ久しぶりだ、イヒーッヒッヒッ、……ジュルリ」
「二人共、まだ抑えるでゲフ、それにしてもコレは、ゲフゲフ、確かに楽しくなりそうでゲフな」
最悪だ、三人に囲まれそんな言葉を浴びせらた、ボクは恐怖に体が硬直して動けない、子供の心が怯えながら警鐘を鳴らしている。
まんまと初心者狩りに絡め取られてしまった、これからどうなってしまうのか、この三人から向けられているのは……悪意。
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ゴブリンを二十匹倒すというのは、魔物の少ないヴァーリー周辺では数日かかる、なので、馬車でゴブリンが多発する森まで行く事になった。
どうせ野宿することになるから、何時に街を出ようと関係ないらしい、もうすぐ日が暮れるけど、ザコサPTは狩りに出発した。
ザコサPTは馬車の中でうるさく喋っている、イヒヒと気味悪く笑うモヒカンの男、語尾にゲフと付ける顔の四角い男、そして、それを取りまとめる頬傷の男。
頬傷の男がリーダーのザコサだ、ボクは追い剥ぎされないように、連中の動向を注意深く探っていた。
そんな時、馬車は急停止する。
「出ましたよ」
御者がザコサに語りかけた、どうやらゴブリンが出たみたいだ。
「おー、いるいる、四匹は居るな」
ザコサは草原の中を見て言うが、暗いし遠いし、何匹なのか数えられる距離ではない、見えるのだろうか?
戸惑うボクをよそに、ザコサPTは素早く馬車を降り、その方向へ走った、ボクのことなんて完全無視だ。
こんな馬車の中で、何が起きたの? などと一人惚けている訳にはいかない、遅れを取らないように後を付いて行く。
ザコサは後ろを振り向きボクを見ると、仲間に向かって「おい」と、顎でボクを指す、すると、他の二人は「ヒヒヒ」などと、バカにしたように笑った。
いずれゴブリンもボク達に気づいて、茂みから躍り出て向かってきた。
「六匹居るぞ! おい小僧、身を守れるか? 出来ないなら馬車へ戻れ」
六匹、予想より多い、ザコサは足手まといのボクに帰れという、だけど、これは冒険者になるための試験だ、ボクだって引けない。
ザコサは片手剣を抜きラウンドシールドを構える、オーソドックスな戦士タイプだ、モヒカン男はスティレットを両手に構えた、顔の四角い男は両手持ちの大きなハンマーを使うようだ。
ボクもナイフを抜き放ち、ザコサPTへ付いて行く。
ゴブリンはそれぞれ武器を携帯している、森で拾ったと思われる棍棒、中には旅人から奪ったのか、剣を握っているやつも居る。
そのゴブリン集団の先頭に、ザコサがぶつかった。
盾持ちのザコサがなんとか敵を足止めするが、こんな開けた場所ではそれも叶わない、止められたのはせいぜい二匹で、残りは後ろへ雪崩れ込んできた。
最初は背を合わせて戦っていたザコサPTだが、次第に混戦になりそれぞれ個々で戦い始めた、敵のうち、余った二匹がボクへ突撃してくる。
同時に二匹を相手取らないように、ゴブリンの横へ回りこみアタックする、まずは一匹目。
魔物は痛みを感じるのか分からない、多少の攻撃では動きは止まらない、ボクのナイフでは、動きを封じるために手足の健や指を切るか、一気に心臓や喉、頚椎等を突くしか効果が無い。
影歩きで懐に入って心臓を三突きし、そのまま撫でるように脇腹を裂きながら後ろへ回り、首にダメ押しの一突きを見舞う。
ゴブリンなんて、トーマスとは比べ物にならないほど遅い、鈍い、弱い、あっという間に片付けて、二匹目へ移る。
次のゴブリンは、いきなり内側から外へ棍棒を薙ぎ払った、それをバックステップで躱し、目の前で大の字になるゴブリンへ迷いなく正面から突っ込む、そのまま心臓、喉と突き刺す。
物言わず倒れゆく二匹目のゴブリンの背後から、すでに剣を振りかぶった想定外の三匹目が現れた。
「くっ」
飛び退こうと身構えた時、三匹目のゴブリンの動きが止まった。
見ると、脳天からスティレットを垂直に刺されている、ゴブリンは脳みそをシェイクされ、ガクリと地面に伏し、奇妙にブルブルと痙攣した。
助けてくれたのはスティレットの持ち主、モヒカンの男だ。
「た、たすけてくれて、ありがとう……ございます」
モヒカン男は、無言でゴブリンの傍らに落ちている魔石を拾い、そのうちボクが倒した分の二つを投げてよこす。
「お前、結構やるのかあ、イヒヒ」
そう言うと、再びザコサの方へ戻っていった。
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ゴブリンの戦闘からこっち、騒いでいたザコサ達も言葉が少ない、ボクはそんな彼等を特に警戒する、この人達に襲われてもすぐに逃げられるように。
張り詰めた空気の中、時は過ぎる、結局現れた獲物は先のゴブリンだけで、馬車は目的地へ到着した。
馬車はボク達を降ろして街へ戻って行った、今夜は、この見晴らしの良い草原で野営をするらしい。
ザコサの持つ魔道具の懐中時計では、すでに十八時だ、急いで近くの森から焚き火の燃料を持ち出し火を起こす。
そして、夜の焚き火番を決める、まずボクが一番初めで、次にザコサという順番になった、子共のボクには深夜起きているのは無理だという配慮だ。
正確には配慮というより、それだけ信用されていないのだろう、実際、深夜はキツイので助かったけど。
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「二十時か」
焚き火の近くにザコサが置いた懐中時計を見る。
大人が寝るには早いが、夜は寝るしかないし、眠れる時に寝るのは鉄則だ、ザコサPTはそれぞれ毛布にくるまって寝息を立てていた。
焚き火番のボクは、火が消えない程度に薪をくべ、時間が経つのを待った、そして、そろろそ三時間が経ち、交代の時間が近づいた時。
――ササササ……グェグェ……。
暗闇の中に草ズレの音と、ゴブリンの声らしきものが微かに聞こえた。
夜空は曇っている、辺りはあまりに暗く、目を凝らしても周囲を確認できない、ボクは素早く焚き火をかき回し火を煽り、薪をくべて視界を確保した。
そして、ボクは急いでザコサへ駆け寄り、小さな手でザコサのパンパンに張ったデカイ肩をゆする。
「起きて下さい、起きて下さい!」
「う、うん?」
「敵が近くに居ます、起きて下さい!」
「なに!?」
ザコサは、ボクを見るなりガバッと勢い良く飛び起た。
「おい、起きろお前ら」
起きた勢いのまま、寝ている二人にも蹴りを入れ、強引に起こす。
「音が聞こえたんです、なんかゴブリンの声みたいなのもして、それで、あの」
「シッ、……確かに居るぞ」
ボクの言葉を遮って、ザコサは周囲に神経を尖らせる、残りの二人もすっかり臨戦態勢で武器を構えていた。
ゲェヤー!
突然雄叫びが聞こえ、ゴブリンが闇から飛び出てきた、数は四匹、四角い顔の男がいる方向だ。
「ぬうぅでゲス!」
同時に四匹を相手にした四角い顔の男は、さすがに押されている、ハンマーを横に大きく薙ぐが、重量級の武器では振りが遅く、ゴブリンにも避けられてしまう。
「ボックス!」
ザコサはそう叫び駆け出す。
ボクも“なめり走り”を使い、一足飛びにゴブリンの背中へ張り付く。
そのまま、背中から心臓へ向けナイフを刺し、さらに隣りにいるゴブリンの背中へ飛び移り、同じように一突き。
ゴブリンの意識がボクに向いていなかったので上手く行った、一瞬で二匹を葬れた。
突然二体倒されたことに、一匹のゴブリンが気を取られた、その頭上に、四角い顔の男の特大ハンマーが振り下ろされる。
ゴブリンの頭蓋は柔らかくひしゃげ、頭部が胴体にめり込む、眼球をでろんと飛び出させたゴブリンは、そのハンマーの一撃で絶命した。
残り一匹、見ると、ザコサが盾で抑え、横からモヒカンの男が最後のゴブリンをスティレットで突き殺していた。
あッと言う間に四匹を倒した、短い戦闘の後、すぐさま全員は闇に目を凝らす。
しばらく無言の時間が過ぎたが、これで敵は全部だとザコサは判断し、PTメンバーの緊張を解く。
倒したゴブリンの魔石を回収し、死体を闇の中へ放り投げ、ザコサ達は戦闘の興奮が収まるまで、また焚き火に当たっていた。
「良いだろ、お前ら」
「イーッヒッヒッヒ」
「文句は無いでゲフ」
何の話をしているのか?
「えーと、名前なんて言ったっけ」
そう言いながら、ザコサは自身のバックパックの中に手を突っ込んだ、ボクの名前が書かれている討伐依頼の控えを探しているのだろう。
「優乃です」
「おおユーノか、今回の働きっぷりじゃ文句は無い、帰ったら冒険者として合格だとギルドに報告しよう」
「えっ?」
冒険者に合格した? 突然のことに驚いた、だってザコサPTは新人イビリの。
一応、新人君に協力してやるのが冒険者の常識ではあるらしいけど、急にそんな事を言い出すなんて。
「あ、ありがとう、ございます」
「なあ、ユーノよ、まだ怒っているのか?」
ボクが怒っている? 何のことだろう、ヤカラに対して警戒はしているが。
「お嬢ちゃんて言ったこと、ちゃんと謝らせてくれ、スマンかった」
は? 確かに最初、ザコサはボクのこと女の子と間違えてはいたけど。
「それとな、ゴブリンとの戦闘もそうだ、先輩の俺達がしっかり守ってやるべきだったが、結果四匹もの敵を相手にさせてしまった、それも謝る、悪かった」
えっ、どういうこと?
よくよくザコサの話を聞いてみると、どうやらザコサPTは、新人イビリのヤカラでも何でもないみたいだ。
ギルドでボクが協力可の依頼をやると言い出した時、ザコサはすでに受けていた依頼と目的が合致していたため、一緒にやろうと誘ってきただけだった。
それをボクは、勝手に絡まれたと決め付けていた。
ザコサ達が、あまりに異様な風貌をしていたから、こんな奴らはどうせ序盤の雑魚チンピラだと、ザコサ達の好意を真逆に捉えていたんだ。
初期戦闘時も、後から付いて来るボクを守れとPT仲間に指示を出しただけで、けして笑っていた訳ではない、ボクがそう思い込んでいただけだ。
ザコサは、街を出てからずっと仏頂面を続けていたボクを見て、怒っているのだと感じていたらしい、それで話しかけづらかったと。
お嬢さんと言われたくらいで怒るわけない、しかし、なにせ相手は十歳の子供だ、つまらないことでグジグジする事もあり得ると考えたのだろう。
本当は、あなた達の事、悪者だと思っていましたなんて言えない、人を見た目で判断していたのはボクの方だ。
結果、誤解が解けるのに時間がかかってしまった。
「なんだ、妙に避けられていると思って、俺の勘違いだったか」
完全に避けてました、ごめんなさい。
「こんな夜更けになってしまったが、改めて紹介しよう、俺はザコサ、この三人PTのリーダーだ、そしてコイツはモヒカン」
ぶっ、まんまモヒカンだった。
「イーッヒッヒ、名はレイモンドだがモヒカンで通っている、そう呼んでくれ、これ特徴的だろ? ヒーッヒッヒ」
「あっしの事はボックスでいいでゲフ、依頼も残り半分、一緒に頑張るでゲフ」
ザコサが三十七歳なのは分かるが、モヒカンはあのキモさで二十歳だと言う、前世界のボクと同級ではないか。
さらに、顔が箱みたいに四角いという理由で呼ばれているボックス、一番老けて見えるボックスは十八歳、まさかの年下……。
「あ、神代優乃です、よろしくおねがいします」
そして、これからは同じPTのように協力していこうというザコサの提案に、モヒカンとボックスもうなずいた。
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焚き火の番はザコサがしている、ボクはもう寝ても良いのだけれど、また先入観で失敗してしまった事が頭をよぎり、なかなか寝付けない。
「んへへへ、そうか、俺らの見た目が怖かったか」
眠れないので、ザコサと焚き火を囲んでいる。
「そうだな、子供にとっちゃインパクトあり過ぎか」
「すみません」
「冒険者の中じゃこんな風貌も珍しくないが、俺も配慮が足りなかったな、こっちこそすまん」
……少しの沈黙。
ボックスとモヒカンの寝息が聞こえてくる。
「せっかくだから、なぜあの二人の見た目がああなのか、教えてやろう」
「え?」
「いや、そのものズバリな、俺のせいでボックスもモヒカンも大怪我をして、あんなナリになったワケだ」
要は、ザコサPTの失敗談を聞かせてくれるという、今は何でも参考にしたいので聞いてみる。
昔、まだ駆け出し冒険者だったボックスとモヒカンと、初めてザコサがPTを組んだ時の話だった。
三人は初めから意気投合して、数々の依頼に挑戦していった、そのうち、指導する側のベテラン冒険者であるザコサは、調子に乗って無理をした。
その結果、魔物の生息地深くに踏み込みすぎて窮地に陥った、命からがら脱出したが、注意を怠った代償は大きく、三人は一生消えない怪我を負ってしまった。
ボックスは顎を割られ変な喋り方になってしまったし、モヒカンは顔に毒を受けてひどい状態になり、さらに、敵に囲まれたトラウマで常に愛刀のスティレットを弄っていないと落ち着かなくなった。
そこまでの失敗をしておきながら、冒険者しか生きる道を知らないザコサは、冒険者を辞めることは出来なかった。
同時にボックスとモヒカンも、あの姿ではマトモな職にもつきにくい、だから冒険者として低レベルの依頼をこなしながら、何とかやっているのだという。
「その時、一緒に冒険者をしていたオレのカミさんも死なせちまった、でも冒険者を辞めることは出来なかった、残されたコイツらの面倒は、一生かかってでも見ないとならん、そう決めた」
ザコサは焚き火を眺めたまま続ける。
「お前はまだ子供だからピンと来ないかもしれないが、こうやって目の前に下手うったPTが居た事を覚えておいてくれ、些細な判断ミスや調子に乗った結果、取り返しの付かないことになるとな」
単純な失敗談、ありふれた話は誰も気にしない、感動的でないと印象にすら残らない。
だけど、実際に身に降り掛かったらどうか、ありがちだからこそ身近で、最も気を付けないといけない。
流れの冒険者であるザコサ達は、この依頼が終わればボクと別れ、それきり会うこともない、一期一会だからこそ、この機に先輩として助言というか、忠告をしておきたかったみたいだ。
「急にアレな話になっちまったな、そろそろ寝た方がいいぞ、寝るのも仕事のうちだ」
ずっと揺らめく炎を眺めていたボクの瞼も、すこし重くなってきた、ボクはザコサの言葉に従い、今日はもう休むことにした。
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暁に目覚める、最後の火の番をしていたボックスが、焚き火を強めに焚いている、ボク達は、またそれぞれに食事を摂って、今日の予定を決める。
まず、すでに依頼の半分が達成されているため、ゴブリンが多発する森へ深く入る必要はない、なので、街方向へ戻りながら狩っていく事になった。
本来、街周辺は魔物が少ないはずなのに、昨日からエンカウント率が高い、どうやら魔物のリポップ周期に当たったようだ。
この調子なら後一回の野営で街に戻れる、そしてやはり、移動を開始した直後、ボク達はゴブリン集団と出くわした。
敵は七匹、ザコサPTでは安全マージンを考えてギリギリ相手にできる数だ、しかし、今はボクも居る。
ザコサは、ボクのことを足手まといどころか、かなりの戦力になると認識を改めていた、モヒカン、ボックス共々、ボクにも突撃の号令をかける。
「よし、行くぞおまえら!」
「イヒヒ、イヒーッヒッヒ」
「蹴散らすでゲフ」
「了解……ケケケ」
山賊村出身だからか、このキワモノPTに妙にマッチしてしまう自分が気になる。
先頭のザコサとボックスが敵を足止めしたところを、ボクとモヒカンが素早く横へ展開して、ゴブリンを挟み殺してゆく。
息も合っているし、みんな昨日よりパワフルだ。
「イーッヒッヒ」≪刺突技:ピアシングラッシュ≫
モヒカンのスティレットが一瞬ブレたように見えた、次の瞬間、ゴブリンの胴体に無数の風穴が空く。
「喰らえでゲフ」≪戦鎚技:ハードスタンプ≫
ボックスのハンマーが大上段から地面へ打ち下ろされる、地面が抉れるほどのパワーが炸裂し、巻き込まれた二体のゴブリンは、いともたやすく潰れた。
残りも難なく倒し、七体のゴブリンの魔石をあっさり回収する、これで十七体目、依頼達成まであと三匹だ。
「あと少しでゲフな、しかし不思議でゲフ、異様に力がみなぎるでゲフ」
「ああ俺もだ、だが油断するなよ、あと三匹、確実に行くぞ」
「イヒーーッ」
「……」
おそらく、ボクのバフ能力がPTに作用している。
昨日はこんな事なかったのに、ボクの認識一つで変わるのだろうか、同じPTだと思った時点でバフが発動するとか?
その後もゴブリン狩りは続き、目標の二十匹を超えたので、後は帰りの馬車道を歩いていた、その際もゴブリンの気配がすると倒して進む。
街からのゴブリン討伐依頼は毎日更新され、実質、討伐数に制限は無い、沢山狩って行けば余剰分も報酬を受け取れる、なので、狩れる獲物は倒しながら帰る。
そろそろ辺りが暗くなってきたので、野営することにした、昨日と同じく、見晴らしの良い平原に火を焚く。
「イヒヒ、オレはゴブリンを突こうと思ったが、すでにゴブリンの胴体には穴があいていた、何を言っているのか分からねえと思うが」
「あっしもでゲフ、ゴブリンがスライムに見えてくるほど弱いでゲフ」
「なんだ、こんなんじゃもっと上の依頼でも良かったなあ」
「……」
勢い良く燃える焚き火を囲んで、今日の戦果を話していた、合計二十九匹のゴブリンを仕留めた。
しかし、みんな急激なパワーアップに疑念が有るようだ、バフのことを打ち明けるなら今しかない、黙っている方が良いのか悩むけど。
「あの……」
「イヒ?」
「こんなこと言うと、変だと思われるかもしれないですけど、実は……」
そう切り出して、ボクのパッシブスキルでPTの力が上がっていると説明した。
「イヒーッヒッヒ、面白いヒーッ」
「ゲフゲフ、それは何かのお伽話でゲフか?」
うう、やっぱり言わなければ良かった、相当変なことを言ったみたいだなボク。
「PTに子供が居るのも面白くていいイヒヒヒ」
「うーん、でも、あながち間違いとも言えないぞ」
「ほほうでゲフ?」
ベテランのザコサは若い二人より慎重だ、昨夜の話からして、ベテランが若者と一緒になって笑っていてはいけないと身に沁みているのだろう。
「だってよ、全員が同時に調子良いってのも変じゃないか?」
「確かに説明がつかないかイヒ?」
「それに調子が良いってレベルじゃねぇ、少なく見積もっても倍は力が出ている」
「でも、そんな事があるのでゲフ? 聞いたこともないでゲフ」
ザコサは腕を組んで、うーむと唸っている。
「例えばだ、お前達も噂くらい聞いたことがあるだろ?」
「ああ、あの噂でゲフ?」
「眉唾だな、イッヒッヒ」
噂?
「あの、噂ってなんですか?」
「おう、冒険者の間で囁かれている噂よ、この国には、他人を強化する技を持つ人間が一人だけ居る」
ボクと同じ能力を? バフ能力はこの異世界では珍しい、もしかして、ボクと同じ転移者なのか?
「それって、誰なんですか!」
「……勇者だ」