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18 冒険者へ

「冒険者編」

 ショタ主人公ちゃんの実力が、いかんなく発揮されます(弱)

 明日の正午にヴァーリー行きの馬車が来る、ボクはその馬車に乗る予定だ。


 山賊村最後の夜、すでに使い慣れたミルクのベッドに仰向けになる、ランプの淡いオレンジ色が天井を揺らめかせている。


「仲間を強化する能力か……」


 そう聞いた時は取り乱すほど興奮した、でも、やっぱり魔王のスキルは使えないし、何かの力に目覚めたワケでもなく、ボク自身は何も変わらなかった。


 それでも、腐っても異世界転移、魔王の残滓とでも言うべきものが残っていたのだろう、基本となるバフ能力だけは少しだけあるようだ。

 

 トーマスの話では、他人を強化する力は聞いたことがないらしい、みんな“気”を使うけど、それはあくまで個人の技、他人に影響を及ぼす使い方はできない。


 魔法も万能というわけではなく、主に自然の力という外的要素を操る魔法は、内的強化自体が不可能だ。


 この異世界ではボクのバフ能力は目立つ、話を聞くうちにデメリットの方が多い気がしてきた。


 そもそも、バフが発動しているかどうか、ボク自身に分からないのが厄介だ、自動発動のパッシブスキルのため、術者であるボクが自覚できない。


 知らずのうちに白い目で見られていた、なんて事にもなりかねない。


 ソロか、もしくは気心の知れた者のみでPTを組めれば良いけど、それは難しい、まだ冒険者になってもいないのに。


 気心の知れた者だって今から探すんだ、それまでに不特定多数とPTを組むことになる、新人以下の冒険者であるボクが、ソロで活動するのも無理だし。


 数々の強力な魔王のスキルは使えず、なぜかほんのりと仲間を強化するバフだけ少しある、しかも、それがバレたら面倒になる可能性が高い。


 始まる前に詰んだ。


 でも、いまさら引き返すつもりはない、ボクは冒険者になるって決めたんだ、やっぱり、ボクは剣と魔法のファンタジー世界にワクワクしているんだと思う。



 朝、出発する前に、お世話になったミルクの家を片付け、譲ってもらった装備を確認する。


 バックパック、小物を入れるポーチ、もちろん中には冒険セットが入っている、加えて、この村でボクが狩りで得たお金、十万ルニー。


 獲物の皮や肉を売って十万ルニーなら、結構いい稼ぎだ、日本円で言えば大体十万円に相当する。


 通貨は、一ルニーの鉄貨から、百ルニーの銅貨、千ルニーの銀貨、一万ルニーの銀金貨、十万ルニーの金貨となる、全て硬貨で持ち運びには不便だ。


 ちなみに、ボクの持つ硬貨は、千ルニーの銀貨と一万ルニーの銀金貨が中心だ、それらを盗難やカツアゲ対策に体のあちこちに仕舞う。


 ミルクの部屋に一礼し、閂程度の鍵で戸締まりをする、ご近所さんにも挨拶をして、ミルクの家を出た。


 役場前の広間には、すでに馬車が来ていた、丁度村に着いたばかりなのか、何人かの山賊風の客が降りて来ている。


 馬車に搭乗する前に、ボクはドロテオに挨拶するため役場へ向かった。


「おうそうだ、今日はお前も街に行くんだったな」

「はい」

「まったく、ガキの一人旅たあ危ねえな? ま、知ったこっちゃねえがな」


 ただの憎まれ口なのか、本心なのかも分からない、山賊だから。


「そんな顔をするない、ただの冗談だ、お前も村の一味だからな、おっと、仲間の間違いか、がっはっは」


 ドロテオの粗暴な山賊ノリには、最後まで付いていけなかったな。


「街には、この村に縁のある者も居る、必要なら頼れ」


 表に停まっている馬車も、この村とヴァーリーにあるアジトを行き来している馬車らしい。


「お前も薄々感づいていると思うが、オレもお前とは仲良くやっていきたい、もちろん下心だ」


 ボクのバフ能力が目当てか、まだ不明な点が多いとはいえ、めずらしいものを囲っておきたいというのは当然だろう。


「オレの事はともかくとして、村の仲間ってのは本当だ、この一ヶ月、随分頑張ったみてーだな、なかなか評判が良い」


 逐一ボクの情報は届いていたのか、口は悪いけど、山賊頭領のドロテオにも随分お世話になった。


「まあそんなわけだ、せいぜい死なねぇようにな」


 そう言って、餞別だと銀金貨五枚をくれた、五万ルニーだ。


「ありがとうございます、何から何まで、お世話になりました」

「うむ、達者でな」


 ドロテオに挨拶を済ませて役場の外へ出る、すると、トーマスが待っていた。


「お、丁度出るところみたいだな」


 トーマス、来てくれたんだ。


「オレはヴァーリーを拠点にしてるから、また近く会うと思うぜ、まあ、気が向いたら冒険者のなんたるかを教えてやるわ」

「そうだね、そのときは頼むよ、トーマス」


 そんなやり取りをしながら、馬車へ荷物を載せ、乗り込む。


 そして馬車は出発した、いつの間に来ていたのか、トーマスの横にはギラナも居た、二人に手を振り、お別れを言って、ボクは山賊の村を後にした。



 馬車に揺られること体感で二時間ほど、ヴァーリーの街が見えてきた。


 前回は奴隷として連れてこられたけど、今回は普通にヴァーリーの門をくぐれる、といっても、今度は山賊と一緒だけど。


 やっと自由になれる、冒険者として異世界を堪能できる、ここからがボクの異世界生活の始まりだ。


 改めて見るヴァーリーは結構立派な街だった、デルムトリア王国の北端に位置する田舎の町、でも、かなり広大だし活気もある。


 一般の馬車と共に、何食わぬ顔で街へ入った山賊の馬車は、そのまま住宅地の一角にある大きな家へ到着した。


 かなり目立つ大きな家だ、厩舎も車庫もある、ここがヴァーリーの山賊アジトか、やけに堂々としているところが、また恐ろしい。


 ボクは、家の敷地内に居た“ならず者”の一人に声をかけた。


「あ、あの、ボクはどうすれば」

「ああん? どこへでも好きに行け、そういう話になってるだろ」

「は、はい」


 なぜすぐに凄むのか、でも、山賊連中はみんなこんな感じだし、あまり気にしないほうがいい。


「おい、待て」 


 さっさと街に消えようとしたところを、今のならず者に呼び止められた、ボク、何か気に触ることをしただろうか?


「言うのを忘れていた、困った時やルコ村に用事があるとき、いつでもこのアジトを利用すればいい」


 ルコ村というのは山賊村の名前だ、そして、ここは山賊のアジト、ボクも出入り自由らしい、そういえば、ドロテオも街の仲間を頼れと言っていた。


「ちなみに、お前の目的地である冒険者ギルドは大通りにある、じゃあな」

「あ、ありがとう、ございます」


 呼び止められた時は、てっきりバラされるかと思った、ただの親切だった。



 異世界の交通手段は馬車だし、電気も通ってないけど、街は思ったより物が溢れていた、衣類や食料品など割とまともな物が揃いそうだ。


 そんな大通りのお店を眺めながら、ついに冒険者ギルドへ到着した。


 冒険者ギルドは平屋建てで、建物には飲食店や雑貨屋も入っている、まあまあ繁盛しているようだ。


 中に入ったボクは、さっそく飲食スペースの奥にあるギルド窓口を目指した、まずは冒険者登録をしなくてはいけない。


 一つしか無いギルド受付では、丸メガネで痩せ型のおじいさんが一人で対応していた、受付カウンターの前には冒険者の男が二人、すでに順番待ちをしている。


 その最後尾へちょこんと並ぶ、すると、背後で飲食をしていた冒険者達からヒソヒソ声が聞こえてきた、子供のボクが珍しいみたいだ。


 やがて、ボクの順番が来る。


「はい、何かな?」

「あの、ボク、冒険者になりたいんですけど」

「はい?」


 受付のおじいさんは素っ頓狂な声を上げた、後ろの冒険者からも、はあ? といったリアクションが起こる。


「えーと、冒険者になりたいのかな? 君が?」

「はい」


 確かに、屈強な冒険者の中に、ボクみたいな小さな子ヒツジが一匹紛れ込めば、かなり悪目立ちしてしまう。


 中には、冗談だろと笑う者もいる、冒険者は戦いで生計を立てる者だ、山賊とまでは言わないけど、かなりタチが悪いと思った。


 受付のおじいさんは、こんな荒くれ者の中でも意外と紳士で、門前払いすることなく対応を続けてくれた。


「はい、えーと何処の子かな? お父さんの名前、教えてもらえる?」

「いえ、ボクは一人でこの街に来ました」


 やや小声で答えた、ボクが孤児だと分かれば、ヤカラに後をつけられて、身ぐるみ剥がされる可能性もあるからだ。


「一人! それじゃあ大変だよー」


 ボクの配慮を知ってか知らずか、受付のおじいさんは大声を上げる。


 説明を聞くと、冒険者になるだけなら難しくはない、身元がしっかりしていればそれだけでなれる、身分証としての冒険者証を発行できる。


 仮に住所が無い者でも、ある程度の依頼を達成して見せて、きちんと冒険者として仕事をこなせると判断されたら、冒険者証は発行してもらえる。


 ただ、ちゃんとした依頼をこなすには子どもでは荷が重いし、ギルドとしても、はいどうぞと無責任に承諾は出来ないという。


 ボクは冒険者になれないのか? 一瞬そう思ったが、子どもでも手が無いわけではないらしい。


 他のPTと協力して依頼をこなせば良い、そうすれば勘違いした子どもが死ぬこともないし、一緒に行動を共にしたPTから働きぶりを報告してもえれば、その働き如何によって冒険者証は発行される。


「じゃあ、その依頼お願いします!」


 よかった、ボクでも冒険者になれる手段はあるんだ。


「ふむ、今ある共同依頼はこれだけだよ」


 受付のおじいさんは数枚の依頼書を提示する、その黄色がかった紙を手に取ろうとした時、冒険者の中からボクに話しかける者が居た。


「お嬢ちゃん、俺らが一緒に行ってやろうか? へへへ」


 振り向くと、そこにはドロテオをもうひと回り大きくしたような男が立っていた、その後ろのテーブルにも、仲間だろう二人がボクを見ている。


 話しかけてきた男は、中年のベテラン冒険者の風体だった、いかつい顔に右頬に大きく傷を作り、いかにも初心者狩りといった下卑た薄笑いを浮かべていた。


 後ろの二人のうち、ヒョロっとしている男も立ち上がった、モヒカンで、左の頭から目の横にかけて火傷のような跡がある、リベットの打たれた革鎧を装着した姿は、まんま世紀末といった感じだ。


 もう一人は、横にデカイ体の四角い顔の男で、どかっとテーブルに座ったまま、片眉を上げてボクを値踏みするように眺めている。


 ネット小説でもお馴染みの、冒険者ギルドで初めに絡んでくるチンピラだ、さっそくボクもその洗礼を受けてしまったようだ。


 この手のヤカラに反応しては、面倒なことに発展する場合もある、ここはそっけなく簡潔に断りを入れよう。


「ボク、自分で選ぶので遠慮します、それとボクは女じゃないです」

「おおう、なんだ小僧かよ」

「イーッヒッヒッ、だろ? オレの言った通りだ、ヒッヒッヒ」


 手前の頬キズの男も嫌な雰囲気だが、後ろのヒョロいモヒカンはもっとヤバい、手にしたスティレットをべろべろと舐め、奇妙な笑い声を上げている。


 ボクはサッと目をそらし、提示された依頼書に素早く目を通す、どれもこれも結構長い期間を必要とする仕事ばかりだ。


 予測所要期間一週間という物が一番手頃か、これでも長いと思うけど、共同依頼というのだから、片手間でできるような仕事でもないのだろう。


 仕方ない、早く決めなきゃ後ろのヤカラがもっと絡んでくる、ボクはゴブリン二十匹討伐という、街からの依頼に決めた。


 さっさとカウンターへ提出する。


「この依頼書でいいかな?」 

「はい、お願いします」

「ユーノ君でいいね? ではこの控えを持って、無くさないように」


 受付のおじいさんは、依頼書の受注者の欄にボクの名前を書き、ギルド印を押すと、その控えをボクに渡した。


 これでよし、それで、ボクと一緒に依頼をこなすPTは、ここで待っていれば来るのかな? 依頼書の協力者の欄にはザコサPTとあるが。


 どんなPTか確認せず依頼を受けてしまったけど、緊急事態だったから仕方ない。


 すると、さっきの頬キズの男が目の前を塞いだ。


「あの、まだ何か?」

「くっくっく」


 頬キズの男は笑いをこらえながら、ひらりと紙切れを見せる、これも依頼書だ。


「おう、よろしく頼むぜ? 相棒」

「イーッヒッヒッヒ」


 頬傷の男が持つ依頼書をよく見ると、ボクと同じゴブリン二十匹討伐と書かれていた、さらに、受注者の欄にザコサPTと書いてあった。


「そん……な」

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