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17 戦闘訓練 02

 今日から戦闘訓練の教官はギラナになる、ボクは朝から狩猟訓練場へ来ていた、しかし、まだギラナが現れない。


 トーマスの時と同じパターンか、ため息が出る。


 どうせまた昼ごろまで来ないのだろう、そう思っていたが、ふと目をやった訓練棟の影に、ジッとボクを見つめているギラナの姿を発見した。


 何をしているんだ、ずっとボクのことを見ていたのか? ギラナはボクと目が合っているのに、まったく瞬きもせず微動だにしない。


 トーマスと同じく毛皮をふんだんに使った山賊ルックだ、小柄で手が長く爬虫類のような顔つき、そして、陰鬱とした空気を纏っていた。


 恐る恐る話しかけてみる。


「あの……」

「あのトーマスがな……ケケ」


 あ、喋らない訳じゃないみたいだ。 


「あの、ボクのこと覚えてますか?」

「黒毛シープは珍しいからな……ケケケ」


 大丈夫かこれ? ボク、食べられちゃうんじゃないだろうな。


「おまえは少々目立っているぞ、さて、姐さんが目を付けたその実力、見せてもらおうか……ケケケケ」


 くっ、いきなり実戦なのか、やはり山賊……いや、実はトーマスもギラナも冒険者だというが、血の気が多いことに変わりはない。


 ボクはすぐさま、木の短剣を取りに訓練棟へ走った、いつもの短剣を掴み取り振り返る、まだギラナはゆっくり歩いている、ボクは戦闘に備えた。


 すると突然、ギラナの姿がかき消えた。


「ケケ、こっちだ」

「なっ!?」


 バカな、目の前にいたギラナが消えたと思った瞬間、背後から声がした。


 あまりの出来事に目が瞬く、離れた場所に居たのに、本当にまばたきの間に距離を詰められた。


 一瞬の戸惑いだったが、それを見逃すギラナではなかった、さらにボクの右側へと体を捌いて、短剣を持つ右手首を掴んできた。


 やられる! そう思った、武器を取り上げられては、体術も習ってないボクに為す術はない。


「違う、そうじゃない……こう」

「……え?」


 と、思ったら、攻撃ではなかった、なんかボクのナイフの持ち方が少し間違っていたらしい、直してくれた。


 あと、ボクの腰に手を置いて、もっと重心を落とせとフォームのチェックもしてくれた、文字通り手取り足取りだ、やさしー。


「あのギラナさん」

「ギラナでいい、此処はそういう決まりだ」


 ……そう言うあなたは、ミルクのことを姐さんと呼んでいるではないか、人族ではあるが、爬虫類顔のギラナは表情が動かず感情が読み取れない。


 ま、まあいい、個性的すぎる山賊をいちいち理解することが既に無理だ、テキトウに聞き流しておこう。


「じゃあギラナ、今一瞬で間合いを詰めたのは戦技なの?」

「違う……特殊な体さばきだ」


 ということは、トーマスの“影歩き”のように、ボクの身体能力で応用が効く技か、是非ともこれも覚えておきたい。


「今の技、ボクにも出来るかな?」

「知りたいのか?」

「うん、ぜひ覚えたい!」

「そうか……ケケケケ、いいだろケケケケエッケ」


 ケ言い過ぎでしょう? どうやら嬉しいことがあるとケが増える傾向にあるようだ、これはボクに興味を持たれて喜んでいる図と解釈して良いのだろう。

 

 トーマスから一通りの戦闘技術を習っていたボクの実力、現時点での仕上がり具合を見るために、やはり最初に手合わせをすることになった。


「ケケケ……行くぞ」


 その声を合図に、ギラナとの戦闘訓練が始まった。


 例の技で間合いは有って無いようなものだ、分かっていても対応できるスピードではない。


 突然に近づいたかと思えば、ボクの攻撃を飛び退いて躱す、これが“気”の力なのだろう、ヒットアンドアウェイの凄い版だ。


 トーマスとの訓練の賜物か、ボクも短剣とスウェーでなんとか攻撃を凌いでいるが、ボクの攻撃が全く届かないのならば、いつかは倒されてしまう。


 攻撃のチャンスは超接近した僅かな間しか無い、その一瞬に集中するんだ。


 今だ!


 ギラナの姿は見えなかった、しかし、タイミングと空気を読んで飛び込んだ、その“カンの先読み”は的中し、ギラナを捉えることが出来た。


 ボクの“影歩き”が教官クラスにどの程度通用するか分からない、でもやるしかない、トーマスの教え通り一度入ったら死ぬ気で攻撃を置いて来いだ。


 ギラナの死角から脇腹を狙い、心臓を狙う角度で攻撃を繰り出す。


 つッ、手応えがっ……やはりダメか? そう思った時だった。


「ケ~~ッ」


 ボクの攻撃はしっかりと入っていた、ギラナは呻きながら腹を抑え、スッと遠ざかると両膝を付く。


「ケ……ケケ、師を超えるか、免許皆伝……だ」


 いやいやいや、まだ何も教えてもらってないですけど? どうやら、ギラナは強さ的にはトーマスより弱いみたいだ。


「大丈夫ですか師匠」


 わざとらしく慕った風に駆け寄ると、意外とおだてに弱いのか、まんざらでもないようで、へそを曲げることはなかった。


 おかげで、その後も順調に訓練は続き、ギラナとの一日目は無事に終わった。


 ギラナの訓練は、トーマスのようにヒリ付いた感じではない、その爬虫類のような風貌とは裏腹に、実に基本に忠実な、言ってみれば普通の訓練だった。


 普通の訓練、しかし、そう思ったのもつかの間、二日目からはよりいっそう奇妙なものとなった。



 今日からはメインとなる技の習得に入る、隠密の高速移動を可能にする歩法術、“なめり走り”は、やはりギラナのオリジナルだ。


 地をなめるように、なめらかに移動しているらしい、気配を抑えつつ接敵する技だ、ボクではまともに視認すらできない。


 足の組み方と重心の移動により、一定の距離を短く動く、まずは構え方から習う、端的に言えば、ギラナのように構えろという、あの猫背だ。


 実は、ギラナは背が低くない、トーマスほどではないが普通以上の背丈はある、急にスッと立ち上がったギラナの背の高さにはビックリした。


 ギラナは短剣を低く携え特殊な歩法で戦う、そのため次第に目線は低く、全身のバネを最大限に活かすよう、屈むスタイルに変化していったらしい。


 相撲の立会いか、クラウチングスタートのような感じだ、だから本来リーチのある腕は、小さく構えた体から異様に長く出ているように見えたのだ。

 

 そして、初日にスタンダードなナイフの扱いを教えたのは、基本を理解して初めて出来る変則、ということだった。


「型はこれでいい……、あとは実際の動きだ」


 この変則構えからのモーションは説明するには難しく、大まかには教えるが、コツを掴むには動きをトレースしろと言う。


 初めはゆっくりと武器の出し方、足の組み方を真似する、次第にスピードを早めるが、動きは複雑怪奇で付いて行くのは容易ではなかった。


 他人から見たら、ただ前後左右に動いてるように見えると思う、でも実際にやっているボクは必死だ、ダンスの振り付けを覚えるようにはいかない。


 肉と骨が悲鳴を上げている、まだまだスローなのに、さすがに一朝一夕では身につかない、数日の間はぎこちない訓練が続いた。


「大分サマになってきたな」


 涼しい顔で前を行くギラナに対して、ボクは目を血ばらせ必死に付いて行く。


 この数日間、体に覚えさせるように反復した成果が少しずつ現れていた、今は空き地に点々と置いた障害物を縫うように移動している。


「よし……、もう一段、速度を上げるぞ」

「は、はい!」

「どうした、もっと完璧に真似てみろ……ケケケ」

「まだ、行けますっ……ケケケ」


 ギラナとの訓練は、ナイフの扱いはそこそこに、主に“なめり走り”の習得がメインだ、スピードを養う修行だった。


 そもそも、高速移動は瞬間的に使うものだ、連続して行使すると体への負担が激しい、しかし、ボクには期限が設けられている、自分で言い出したことだ、諦めるわけにはいかない、絶対に習得してみせる。


 そして今日、ギラナとの前半の戦闘訓練は最終日を迎えた。


 ――ザッザッ。


 二つの影が茂みを揺らす、山の中で訓練中だ、予め見えている空き地の障害物と違い、目の前に無作為に現れる樹木や山壁を瞬時の判断で躱し、高速で突き進む。


 まだ単独で山の中を駆けることは難しい、ギラナの先導があってやっとだ、しかし、何とかこのスピードに付いて行けるようになった。


 山の中を全力で駆け抜け、所々で短距離縮地とも言える“なめり走り”を織り交ぜる。


「よしいいぞ……ケケケケ」

「はい! ……ケケケケ」


 修行するボク達の声が山中に木霊する、今日も日が傾き始める、この十日間走りに走った。


「とりあえずこんなものだ……ケケ、明日からはトーマスと交互に教えることになる……ケケケ」


 二人の訓練を受けて、前とは別人のように戦闘技術が向上した。


 魔法も戦技も使えないことが判明したけど、冒険者としてやっていく自信も芽生えてきた。


 残りの訓練もあとわずか、大詰めだ、ここで技の基礎だけでも完全に習得して、晴れて冒険者の道へ。


 

 酷使してきた筋肉が軋む、しかし、この痛みもある程度動けば問題なく馴染む、ラストスパート、ボクはやる気に満ち満ちていた、自然と目にも力が入る。


 今日の教官はトーマスだ、トーマスは刻限通り、朝から訓練場に現れた。


「どうだ? 結構良い顔つきになってきたんじゃねーのか?」

「うん、感謝しているよ」


 ボクは不敵な笑みを浮かべ、もはや手に馴染んでいる木の短剣を掴む。


 今回もいきなり実践形式の組手から入る、木剣といえどもマトモに攻撃が入ればヤバイ、だがその刹那で学べることは多く、成長も早かった。


「じゃあお手並み拝見といくかな、軽くぶちのめしてやるよ、かかってきな」


 トーマスも短剣を構える、ボクはスゥと一つ深呼吸し、ギラナ直伝の高速戦闘フォームへと移行する。


 それを見たトーマスが、一瞬たじろいだように見えた。


「ケケケケ、この動きに付いて来れるかな? ケケケケ」


 ボクはそう告げて、なおも地面に顔が付くほどに目線を低くする、そして、この十日間みっちり体に叩き込んだスピード歩法を披露した。


「ケケケケケケ!」


 見たか! この目にもとまらぬ高速どどんまい反復横跳びを!


「なあ」


 むっ、戦闘中だというのに、トーマスが話しかけてくる。


「一つ聞くが、その笑い声はやらないとダメか?」

「ケ?」


 あと、シープ族に似つかわしくない爬虫類顔もやめろと言われた。


 必死にギラナのトレースをした結果、仕草まで真似ていたようだ、確かに顔まで似せる必要はなかった。


 結果から言うと、やはりトーマスは強かった、だけど十日前とは比べ物にならないほど食い付けたと思う。


 たくさん技を覚えても強さはその人による、あとはセンスと練度だ、その観点から見ても、ボクはかなり成長したと思う。


 トーマスとギラナの一日交代の訓練は続いてゆく。


 ギラナとの訓練も今まで通りだ、ただ難度はどんどん上がってゆく。


 ギラナは、ボクがギリギリ付いて行けるスピードを維持し、徐々に難しいステージへ場所を移していった。

 

 それに付いて行くボクを見て、ギラナは満足そうだ、調子に乗ったギラナはさらに加速し山を駆ける、ただ付いて行くだけなのにじわりと離されていく。


 だがそれは許されない、この訓練は見取り稽古だ、ギラナを視界に留めないと練習も何もない、必死にその後を追い、一挙手一投足をトレースする。


「ケケケケケ」

「ケケケケケ」

「ケケケケーキょケーキょ」

「ケケケケーキょケーキょ」


 ボク達の気合の咆哮が夕日に染まる山に響き渡る、十分に走り回ったボクたちは、また一日が終わり村へ下山する、途中、見慣れない看板があった。


“奇声を発する影が出没しますが魔物ではありません、弓で射らないで下さい:村長”



 今日は最終日、全ての訓練工程が終了する。


 革のベルトにミルクのナイフを仕舞う、装備を確認し、ミルクの家から一歩を踏み出す、今日もよく晴れている。


 この一ヶ月間で、雨が降った日もあった、雨に濡れてまで訓練に付き合ってくれた二人には、感謝しかない。


「おはようトーマス」

「来たか」


 最終日の教官はトーマスだ。


「今日は仕上げだ、実際に魔物をぶっ殺しに行くぞ」


 狩りや訓練に使っている山とは別の方向へ向かう、行ったことのない方の川を上流へ向かって歩く。


 こっちの山は魔物が出没しやすいという、ボクがこの村に攫われてくる直前、周辺の魔物は討伐されたが、一ヶ月も経てば再び魔物が現れても不思議ではない。


 警戒しつつ山道をゆく、しかし、なかなか魔物を発見できない、それでも、昼前には一匹だけ見つけることが出来た。


 人型だ、襤褸を纏った緑色の肌はガリガリな印象で、背丈もボクより少し小さい、トーマスが名前を教えてくれたが、ボクもひと目見て分かった、ゴブリンだ。


 茂みに隠れ、どう倒すか話し合っている最中、先にゴブリンの方がボク達に気づいた。


 どうやら、ノッポのトーマスが目に付いたみたいだ、トーマスへ一直線に向かって来る。


「あ、やっべオレかよ」


 本当はボクの獲物だけど、こうなっては仕方ない、トーマスは剣を抜き放った。


「よし、戦技やるからな、ダブルスラッシュな」


 状況はミルクの時と似ている、あの時の敵はオーガだったが。


「オラッ!」≪剣技:ダブルスラッシュ≫


 同時に発生した二線がゴブリンを襲う、同じ技でもミルクと比べると大分威力は低い、それでも、この程度の敵ならオーバーキルだろう。


 そう思ったが、ゴブリンの左から入った斬撃は、その左腕を吹き飛ばしただけだった。


「痛って、手がしびれた」


 トーマスは右手を振っている、右手に持っていたはずの剣がない、ゴブリンの後ろにある大木に深々とめり込んでいた。

 

 トーマスの攻撃は大木に妨げられ、ゴブリンを絶命するには至らなかった。


 ――ギョッギョッ、グエアァ!


 ゴブリンは左腕を飛ばされたが、戦意を失うことはなかった、今度は後ろで眺めていたボクの方へ突撃してきた、弱そうなボクにターゲットを変更したようだ。


 しかし、左腕を無くし、ぎこちなく走ってくるゴブリンなんか敵じゃない、前のボクなら怖気づいて危険な目に遭っていたかも知れない、でも今のボクは違う。


 影歩きを使うまでもない、冷静にゴブリンの左へ廻り、逆手に構えたナイフを、その胸元に深く突き立てた。


 根本まで押し込み、次には、力いっぱい一気に引き抜く、魔物とて心臓を突かれたら一撃だ、ゴブリンはそのまま動かなくなった。


「ヒュー、やるねー」


 トーマスは練習のためにワザと手負いのゴブリンを寄越したのか? まさかね。


 それにしても、魔物は知能も無いし害となる存在だという、それ以上でも以下でもない、だけど生きている、それを今ボクの手で殺した。


 でも、数日でリポップするような存在は、ボクに言わせれば人形のようなものだ、そんなふうに割り切れるのも、元々がひねた性格だからかもしれない。


 近くを探索したがもう敵は居なかった、見つからないならそれでもいい、村の周囲の安全は維持されているということだ。


 村周辺の調査も出来たことだし、ボク達は山賊の村に戻ることにした。



 帰る途中、お昼になったのでご飯にする、トーマスと二人で焚き火を囲み、持参した鹿の燻製肉を軽く炙って食べた。


 近くには立派な滝があり、一筋の水が岩場を伝い流れ落ちている、昼食を食べ終わったボクは、そのマイナスイオンな光景を見上げながら休んでいた。


「よし!」


 トーマスは、パンと膝を叩いて立ち上がる、するといきなり服を脱ぎだした。


「な、なに?」

「いっちょ水でも浴びてくっか、ユーノ、お前も来い」


 もはや恒例となった水浴びイベントに突入だ。


 いやいやコレは違うか、おっさんと入ったところで誰も得しない。


 だけど、ボクも最近は水浴びをしていない、日々の鍛錬で大量に汗はかいているが、お風呂が無いので殆ど体を拭くだけで済ませていた。

 

「どうしたユーノ、結構いい塩梅だぜ、早く入っちまえよ」


 川の真ん中でトーマスが呼んでいる、言われるまでもない、ボクも全裸になって川へ入っていった。


 広い滝壺はちょっと深かったけど、流れはゆっくりだ、この中はプールのように水が溜まっている、強い日光も降り注ぎ気持ちがいい。


 体を洗った後も、ボクは仰向けで水にプカプカと浮いていた。


「フン、ハァー」


 ……。


「セイッ、ハッ!」


 岩場を伝う滝の音、やさしい森のさざめき、水に浮かびながら自然の中でリラックスしていたのに、へんな掛け声が聞こえてくる。


 うるさいな、何をやっているんだトーマスは。


 眩しい日差しに手をかざして、声のする方を見る、すると、トーマスは一人で筋肉ポーズを取っていた。


「結構すげーだろー?」


 なんか大声で呼んでいるが、遠くて良く見えないし興味もなかった。


 しかし、何時までもやっているものだから、多少気の毒に思えてきて、ちょっと近づいてみた。


 近づくと余計ハッスルして色々なポーズをキメてくる、確かに筋肉は付いている、ボクの体は未だにぷにぷにだし、自慢したくもなるのだろう。


 だけど、ひょろ長のノッポの体型は筋肉が付いたところで格好良くない、それより、そのにょろにょろとしたモノを少しは隠せと思う。


「そんなでもないじゃん」

「なにぃ? こうか、これでもか? 筋肉しかねーだろが」


 ますますムキになってポーズを決める、やめて欲しい、そろそろ目に焼き付く。


「だってミルクの裸の方がずっとスゴかったもん」

「なん……だと? まさかお前、見たのか?」

「うん」

「どんくらい? どんくらい見たんだ?」


 なんだよ、どんくらいって。 


「全部見たよ、すごくカッコ良かった」

「おま……もしや、おま、おま」


 おまおまうるさいが、何が言いたいのか分からないな。


「息が掛かるほど近くで見たから確かだよ、おっぱいだってすごいんだから、やわらかいし、もう芸術品だね」

「おっぱあーっ!? ずるいぞユーノお前、ミルクは身持ちが固いのに、そんな安々と、しかも触っただとお?」


 なんかワナワナと震え出したぞ、大丈夫か?


「その手で触ったのか? そこか? オレにもさわらせろーっ!」

「はあ?」


 ワケの分からない理屈で、ボクに襲いかかってきた。


「アホかーっ」


 ボクは泳いで魔の手から逃れる、後からトーマスも泳いで追ってくる。


「うおお早え、なんでそんなに早いんだ? 待てユーノ」


 そこは島国育ちの強みだ、もれなく水泳スキルはデフォで付いてくる、大陸育ちなんかには負けない。


「ぐおお待てー」

「あはは、遅いよトーマス」


 その後、トーマスに泳ぎを教えたりして、二人して飽きるほど遊んだ。



 岸に上がったボク達は、二人揃って紫色の唇をしていた、はしゃぎすぎたせいですっかり体が冷えてしまった、なんか、前にも同じことがあったような。


 焚き火で体を温める。


「ユーノ、少しいいか?」

「なに? おっぱい?」

「いや違う、ミルクに言われていた事がある」


 トーマスは、なにやら神妙な面持ちで語りだした。


「実はミルクがな、お前には不思議な力があるかもしれないって言うんだ」

「どういうこと?」

「オレもそんな事はあり得ないと思っていたんだが、今日ゴブリンと戦って確信した、お前には仲間を強化する力がある」

「えっ!?」


 いま何て言った? 仲間を強化する力? つまりはバフ能力だ、O.G.O(オールドゴッドオンライン)でのボクのキャラクター“魔王”の力だ。


 今のボクは、角さえ生えてはいるが、O.G.Oの魔王の力は失われたと思っていた、むしろ、異世界転移にO.G.Oは関係ないと思っていた。


 だけど、トーマスの言うことが本当なら、ボクは。


「しかし分からん、そんな力は聞いたことがない」

「それで? それでボクはいったい」

「いやだから、分かんねって」


 こんなところに、ボクの転移に関する手がかりが?


「確かに、お前から力が流れて来るのを感じる、特殊な感覚だ、気付ける奴は少ないと思うが」


 ゴクリと、ボクは固唾を呑んでトーマスの話に耳を傾ける、どうやら、この異世界には他人を強化するという概念がないらしい。


 異世界に来てから色々なことを試し、または経験して、その度にこの世界の認識を改めてきた、だが今回は、また大きく考えを改めることになるだろう。


 ボクに魔王の力があるのなら。

結構疲れる

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