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15 ミルクといっしょ03

 清々しい朝だ、今日もよく晴れそうだ、ボクは悪夢のせいで寝不足だけど。


 今は朝の六時頃だろうか、時計がないので分からない、でも、街に行けば時計もあるという。


 異世界の一日は二十四時間、月日も地球と同じ、もしかしたら地球のパラレルかもしれない まあ、それが分かった所でどうにもならないけど。


 ミルクも起きてきたので、用意しておいた朝食を食べる、それが終わったらキャンプをたたむ、この遠征でボクの手際もかなり良くなっていた。


 帰りも学びながら歩く、昨日の道のりを逆算して、このまま行けば村に着くのは昼頃になる。


 だけど、それでは時間が余るということで、村に着く前に川で体を洗ってから帰ることになった、太陽も高くなり始め、行水をするにはうってつけだ。


 冒険者になれば、長旅で街に寄れない時もある、お風呂に入れる時にはしっかり入って、食べれる時はしっかり食べる、そういった機会を確たる理由も無しに逃すのは、冒険者として良くないらしい。


 山賊の村より上流にあるこの川は、幾分渓流の様相を呈しているが、ここだけ川幅が広くなっていて、行水も問題なく出来そうな場所だった。


 体はこまめに拭いているけど、やっぱり水でよく洗い流さないと気持ちが悪い、前回レティシアと行水した時から大分経つし。


 早速、着ているものを石の上に丁寧にたたんで、川に向かう、足先をちょっとだけ水に浸けてみる、結構冷たい。


 入るのに躊躇っていると、背後から真っ裸のミルクが来て、そのままボクの横を追い越し、ザバザバと水を弾けさせながら川の中に入っていった。


 当然、子どものボクに裸を見られることなんて気にしてない、あっという間に川の真ん中まで進んで行き、タオルで体をゴシゴシ洗い始めている。


 その豪快さにやや遅れを取ったけど、師匠の技術は見て覚えろだ、こんな事も真似してやろうと、それに習ってザブザブとミルクの居る真ん中まで行った。


 足が浮いて流されないように、気をつけながら体を洗う。


 目の前には、すでに体を洗い終わったミルクが、筋肉をほぐすように自分の手足をマッサージしていた。


 レティシアの時と同じく、ボクはまたもや、髪をかき上げるミルクの姿に見とれていた、その完璧な肉体美を前に、ボクの思考は停止しているようだった。


 逆光に浮かぶ褐色の肌が美しい、筋肉戦士といってもけしてゴリラではない、むしろ真逆だ。


 スラリとした長身に長い手足、それでいてグラマラスなシルエット。


 確かに筋肉はすごい、でも、それを包む女性らしい脂肪もあり、まさにパーフェクト、非の打ち所がない、この姿を彫像として飾っておきたいくらいだ。


 ボクの頭上に覆いかぶさる大きな乳房を見上げる、爆乳や奇乳といった下品なものではなく、とても形よくハリのある、3D感あふれる完全無欠のおっぱいだ。


 視線を下げると、見えない箇所も綺麗にお手入れしてある、なるほどと、感心するように細部まで分析していると、ついにミルクに感づかれた。


 というか、至近距離でおっぱいを見たり下腹部を見たりしているボクを、逆にずっと見ていたようだ。


 マズイ、ボクはエロ目線で見ていたわけではない、あくまで芸術的な肉体美に釘付けになっていただけで。


 しかし、そんなことは見られた女性にしてみたら関係ない、ミルクは「ははーん」と、何かを悟ったように目を細めた。


 怒られる、そう思って身をすくめた、だけどミルクの反応は違った。


 なぜかミルクは腕を曲げ力を込める、すると、女性の脂肪で覆われていた筋肉が表へと隆起し、さっきまで細腕の印象だったそれが、倍にも膨れ上がる。


「どうだ優乃」

「ふぇ?」


 ボディービルダーっぽいポーズを取っている、そして、次々と他の筋肉ポーズをキメて、得意げに見せつけてきた。


 どうやら、ボクはミルクの鍛え抜かれた筋肉を、見たくて仕方ないようにしている、そうミルクの目には映ったようだ。


 このままでは、せっかくの美しいヴィーナスがゴリラになってしまう。


 ボクは「ひぃ」と小さく悲鳴を上げ、そうじゃない、筋肉じゃないんですと、心の中で訴えた。


 その後は、二人して川で遊んでいた、水を掛け合ってキャッキャウフフしていた。


 まあ、ミルクが手で作った水鉄砲は、まるで鉄砲水のような威力で、ボクは水中で錐揉みになっていたんだけど。


 はしゃぎすぎたせいで、すっかり体が冷えてしまった、川から上がり、焚き火にあたって温まる。


 ミルクの水鉄砲(鉄砲水)に巻き込まれて浮いてきたニジマスを捕まえ、枝を削って作った串に刺して塩を振り、焚き火の周りに立てかける。


 昼食のニジマスの塩焼きを食べながら、焚き火で十分温まった頃にはすでに夕方になっていた。


 山賊の村は目と鼻の先にある、ボク達は余裕を持って村へ帰った。



 家に着いたら、その日の分の狸皮の鞣し作業を終え、夕食のキノコを食べて就寝する、二人とも下着姿でベッドへ潜り込み、眠るまで話をしていた。


 そういえば、以前からミルクに聞きたいことがあった。


「なんでミルクだけボクの名前をちゃんと発音できるの?」

「そうか? 色々な国を歩いてきたからな」


 単純な答えだった、世界を股にかける冒険者なら、色々な国の言語にも触れているだろう、もしかしたら何ヶ国語か話せるかもしれない。


「多少言いづらくても変じゃないぞ、可愛い名前じゃないか」

「え、ありがとう……」


 ボクが名前の発音を気にしていると思ったのか、ミルクはフォローしてくれた、でも、その可愛い名前こそが好きじゃないのだけれど。


 まあ、褒めてくれるならお礼を言っておこう。


「ミルクも可愛い名前だよ」


 だからお返しに可愛いと言ってみた。


「可愛い? 私の名前がか?」


 ミルクの名前は食べ物系なので一風変わっている、出会った当初は怖い女山賊と思っていたし、愛らしい名前にギャップを感じていた。


「変だと言われた事ならあるが」

「そんなことないよ、響きもイメージもやさしい感じがするし」


 もう少し喜んでくれると思った、ボクと同じで気にしていたのかな? ミルクは「そうか」と、何かを思い出しているように呟いた。


 次の日は狩りを再開した、あと二日でミルクはこの村を出る、その間に出来ることなんて少ない、急いで勉強しなくちゃ。


 座学も進む、この国はデルムトリア王国というらしい、南北にいやに長い国で、上と下では気候もまるで違う。


 今いる場所は王国の最北であり、大分寒い地方だ、信じがたいことに、少し南下すると砂漠になるという。


 ミルクの話を聞いていると、どんどん異世界のファンタジー要素が加速しゆく、数日の座学では全てを理解するには足りない、追々慣れていくしかない。


 こんな環境は地球の何処にもないと思う、隣接したエリアがまるで違う気候とか、ゲームの中では良くある設定だったけど、実際に感じる異世界はとんでもなく異質だった。



 この村は山賊の隠れ里だ、でも、世間と完全に隔離されているわけじゃない、住民を運ぶ不定期便や商人の馬車もたまに来ている。


 そして、ミルクが村を出発する日、迎えのヴァーリー行きの馬車が来た。


 家を出る支度を済ませたミルクは、山賊頭領であるドロテオのところに挨拶に行った、ボクも見送るため役場まで同行する。

 

「ずいぶん懐いたみたいだな」


 役場で支度を進めるミルクを眺め、ドロテオはそんな事をボクに聞いてきた。


「はい、ミルクには沢山お世話になったので」


 ミルクはボクの師匠だ、寝食だって共にしていたし、一週間ちょっとの期間だったけど、かなり親しい仲になったと思う。


「お前じゃねえよ、ミルクだ」

「えっ?」

「人付き合いの悪い奴じゃあないが、それにしてもべったりだ、アイツにこんな趣味があったとは知らなんだわ」


 ミルクがボクに懐いた? 確かに良くしてもらったけど、ボクみたいな小さい子が好きってこと?


 そうかな、普通に優しいお姉さんだったけど。


 どうせ、ドロテオは下世話トークをしたいだけだろう、ほっとこう。


 出発の用意が整ったミルクは、到着した馬車へ乗り込む。


「ドロテオ、あとは頼んだぞ」

「ああ分かったよ、仕方ねぇな」


 何か、仕事の引き継ぎでもあるのだろうか?


「優乃、本当は連れて行ってやりたいがそうもいかない、だが、冒険者をしていれば何処かで再会することもあるだろう、それまで元気でな」

「うん」


 別れを惜しむミルクが珍しいのか、ドロテオは肩をすくめて苦笑いしていた。


 そして馬車は出発した、「ありがとう、またね」と手を振ると、ミルクも小さく手を上げて答えてくれた。



 馬車が村の外へ消えてゆくのを見届けた後、ボクはまたミルクの家へ戻った、山賊の村で過ごす間は、この家を使っても良いことになっている。


 それだけではない、革製のバックパックやナイフなど、今まで借りていた装備をそのままミルクから譲り受けた。


 他にも細かい冒険者グッズも入っている、特にナイフは幅広で頑丈に出来ていて、実は狩猟用ではなく戦闘用のナイフだという。


 奴隷だったボクにここまでしてくれるなんて、ミルクがショタコンだという話も、あながち間違いではないような……。


 まったく、ドロテオが余計なことを言うから、変な所が気になるじゃないか。


 ミルクのことは尊敬しているし、感謝以外にない、好かれているならそれでいいよ。


 誰も居ない家の中を見渡す、思えば、ミルクもレティシア並にボクと四六時中べったりだった気がする、急に傍らが空いて寂しい。


 でも、異世界で甘えたことは言ってられない、早速修行の続きを始める。


 狸皮をなめして、新たに獲ったイノシシ肉を、庭の片隅にあるスモーク小屋で燻製にし、一人で昼食のキノコ料理を食べる。

 

 少し休憩してから、また村役場へと向かった、実はドロテオに午後に来るように呼び出されていたのだ。


 この村に残っているのは目の死んだ先輩奴隷たちだけで、ボクの味方はもう居ない、一人でやっていく不安も感じつつ村役場へと向かう。


 そして、面接にも使ったドロテオの部屋へ着いた。


「来たかユーノ、残りの日数、この村でお前がどう過ごすか、それを決めるために呼んだ」


 また何か決めるの? あとはミルクに習った狩猟術で、獲物を狩って過ごすものだとばかり。


「あの……ボク、狩り以外に何をすれば……」

「そんなにビビらなくても取って喰いやしねえよ、本当なら狩猟を習ったんだから、あとは好きにしろと言いたいとこだがな、実はミルクからお前の事を頼まれていてな」


 何だろう、さっきミルクがドロテオに頼んでいたことかな? ミルクが話をつけてくれたのなら、悪い事ではないと思うけど。


「お前には戦闘訓練を積ませる事にした」

「えっ? でもボク、あまり長い間この村には」


 山賊村の子ども達と一緒に戦闘訓練をするなら、何ヶ月も練習期間を取る必要がある、そうじゃなきゃ子ども達の迷惑になってしまうから。


 それだと困る、襲撃騒動が起きたヴァーリーの街が落ち着いたら、すぐにでも出発したいのに。


「安心しろい、そうじゃねえよ、個人指導だ」

「えっ」


 そうか、前にミルクが言ってた、ボクの戦闘訓練のことを考えておくって、これの事だったんだ、まさか、ボクだけ特別に訓練してくれるなんて。


「ミルクは気になる事があると言ってたが、まあ、お前に死んで欲しくないんだろ、とはいえ、一ヶ月そこそこじゃ護身術程度にしかならんがな」


 ミルク、そこまでボクのことを気にかけてくれていたんだ。 


「どうだ、やるか? と言っても、ミルクに言われちゃ、オレもやるしかないんだがな」

「はい! やります、おねがいします!」


 至れり尽くせり、そして願ったり叶ったりだ、ミルクにはなんとお礼を言えばいいのか、感謝で感動するなんてめったにない経験だった。


 すると、ガチャリと後ろの扉が開いて、誰か部屋に入ってきた。


「おう来たか、おせーぞお前ら」


 ドロテオの声にボクは振り向く、その瞬間、嫌な予感が体を突き抜けた、部屋に入ってきた人物は二人。


「今日からユーノの戦闘訓練を担当する二人だ、一応自己紹介しとけお前ら」

「まったく面倒くせえ話だぜ、ユーノとか言ったな、まあそんな訳だ、仕方ねえな? お互いによ」

「……ギラナだ、ケケケ」


 現れたのは不安しかない二人の男だった。


 名前すら名乗らない態度の悪いノッポの男はトーマスだ、アルッティの館に衛兵として潜入していたスパイ。


 同じくアルッティの館で、ボクを連行した背の低い猫背の男、今ギラナと名乗ったが。


「ゆ、優乃、神代優乃です、よろしくおねがいします……」


 この二人が、今日からボクの戦闘訓練の先生になるというのか。


「よし、後はお前らで決めろ、いいなユーノ、以上だ」


 ドロテオは、後は勝手にしろと言い、ボクらは部屋を出された。


「オイ、おいユーノ、じゃあ明日からでいいだろ」

「は、はい……」


 オラついた感じのトーマスは、それだけ言って村の中へ消えて行った。


「あ、あのっ」

「……」


 そして、ギラナは何も言わず去って行った。


 これは大丈夫なのか? 集合場所さえ決めていない、望んだ戦闘訓練ではあったけど、だいぶ雲行きが怪しくなってきた。


 トーマスもギラナも、どの程度の実力か分からない、でも、どこから見てもザコ山賊AとBだ。


 ネット小説だと、一番最初に主人公を襲って返り討ちにされる、運すらないタイプの山賊だ、そんな二人が先生とか……。



 家に戻ったボクは、何もする気にはなれなかった、もう日が暮れる、明日からあの二人の戦闘訓練が始まると思うと、気が重い。


 ミルクのはからいで特別に訓練してくれるというから、最初は喜んだけど、果たしてあの二人が信用できるのかは疑問だ。


 不良の類とはあまり縁がない、今まで嫌いなタイプといえば、何が面白いのか、むやみやたらにボクをイジメのターゲットにしていた奴らだ。


 そいつらだって一人ひとりなら気にもならない、でも集団となれば手に負えない、そういう群れて嫌がらせをする卑怯な奴らが大嫌いだった。


 でも、それとはまた違う、あの二人、ならず者か……、得体が知れないなあ、どうしよう。

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