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10 さらわれ(3回目)

「山賊編」

 改稿に伴い、おにんにんの状態を描写できません、悲しいです。

 奴隷と賊を乗せた馬車は、闇夜の街道を疾走する。


 賊の馬車は小型だが、その分小回りも効くし疾い、それに揺れも少ない、闇夜の街を走るには最適だった。


 しかし、乗り心地も悪くなく、もう深夜だということもあって、子どものボクは眠気が限界でもあった。


 うつらうつらするボクを隣りに座った女の賊がギロリと見てくる、賊はみんな顔の下半分を布で隠しているため余計に眼力が強調されている、こわい。


 ボクは眠い頭で正常な判断が出来なかったのか、普通ならこんな状況で言わないような事を女の賊に質問していた。


「あの太ったおじさん、死んじゃったの?」


 ヒィと犬娘の二人が肩を寄せ合い、余計なことを言うなとボクを睨む。


「殺してはいない、だがタマを踏み抜いてから苦しむように切り刻んでやった、もうマトモに生きられん程にな」


 ヒィィと犬娘達はさらに怯える。


 変態アルッティがあの後どうなったのか気になっていた、そうか、賊の手によって図らずも制裁されたんだ。


「庭に倒れていた人達は?」

「あいつらは雇われだ、奴らも殺してはいない。しかし悪事に加担していたのだ、手足の一本や二本は覚悟してもらわんとな」


 オズマも生きている可能性は高い、あんな奴だけど異世界で始めて出会った人間だ、対応はどうあれ直接命を救ってもらったのは確かだ、死んでしまうのは忍びなかった。


 それにしても悪事に加担か、この賊がどんなつもりかは知らないけど、ボク達が生き残れる可能性も、まだ完全にゼロでは無いかも、知れ……ない。


 だめだ……、もう眠すぎて……、限界。


「フッ、眠いのか?」


 女の賊の言葉を最期に、ボクは抗え難い睡魔に取り込まれていった。



 朝、目が覚めると、清潔なベッドの上だった、隣にはレティシアも寝ている。


 あれ? てっきりまた牢屋に監禁されるものと思っていたのに、ここは普通の大部屋だ、他の奴隷達も心地よさそうに眠っている。


 昨晩、女の賊のフトモモで眠ってしまったのは覚えている、賊に誘拐されたのは間違いない。


 それにしてはみんな拘束されていないし、監視も居ない。どなっているんだ? ボク達は戦利品ではないのか? 逃げちゃうよ?


 奴隷のみんなも起き出した、すると一つしかない扉が開いて昨日の女の賊が入ってきた。黒ずくめだった昨晩と違い、デニム風のパンツに長Tといったラフな格好だ、顔も隠していない。


 明るい所で見る彼女は実に精悍といったふうだ、キリッとした意志の強そうな目元をしていて、褐色の肌も魅力的かつ力強い。


 年齢は二十代半ばだろうか? 少々癖のあるレッドブラウンの長髪を後ろで一つに纏めている、身長はやはり高く、百八十センチはありそうだ。


 一見モデルみたいな体つきだが、何気ない所作の中でも力が込められると、服の上からも分かるほど強靭に鍛えられた筋肉が浮かび上がる。


 あと、おっぱいでかい。


 レティシアも、そのおっぱいから目が離せないでいるようだ、自分の胸に手を当てながら女の賊をチラチラ見ている。


 女の賊に続いて数人の女性……おばちゃん達が部屋に入ってきた、おばちゃんは温かいスープとパンを奴隷達に配っていく。


「まあ、やだよこの子は、裸足じゃないかい」


 おばちゃんの一人が、ボクが裸足でいることに気がついた。


 そう言えば異世界に来てからずっと裸足で過ごしていた、過酷なキモ杉の森を裸足で踏破したほどだ、すっかり裸足生活に慣れてしまった。


 おばちゃんは、わざわざ一度戻って靴を持ってきてくれた、革製のしっかりとしたスニーカーだ。


「あ、ありがとうございます」


 こんなの本当に貰っちゃっていいの? 食事のこともそうだけど、まさか賊に連れ去られた先でこんなに良くしてもらえるなんて。


「よし、食べながらでいい、全員聞け」


 おっぱいの賊が声を張る。


「この村は見ての通り、山賊の集落だ」


 さ、山賊村!?


「だが、お前達に危害を加えるつもりは無い、この後、一人ずつ話を聞きたい、メシを食べたら向かいにある一番大きな建物に来い、以上だ」


 そう簡潔に言うと、女山賊? は踵を返し、颯爽と部屋を出ていった。


 山賊……、やっぱり賊というのは本当なんだ、奴隷商人に捕まった時みたいに、また根拠なく信用してしまうところだった。


 とりあえず命令には従ったほうが良いだろう、命が惜しいのならば。



 年長者である先輩奴隷から順に、向かいの大きな家に行くことになった。


 一人ずつと言われたのに犬娘達は二人で出かけた、こんな時でも一緒にいたいのかと呆れたが、どうやら無事に戻ってきたようだ。


 二人一組でも問題ないらしい、ならボクも、心細いのでレティシアと一緒に行くことにした。


 向かいの大きな家は簡素な木造の平屋建てだが、太い柱が何本も使われていて耐久性は高そうだ。


 高床を階段で上り開き戸を開ける、中は広いフロアになっていた、ボク達は中年女性に案内され、さらに奥の部屋へ進む。


 奥の部屋には、さっきの精悍な女山賊と二人の男が面接官のように長テーブルに着いている、ボクとレティシアも対面にある椅子に座る。


「あなたは!?」


 突然、レティシアが向かって右に座る男に目をやり、声を上げた。


「トーマス?」


 ボクも思わず声に出た、山賊ルックになってはいるが、あの館で衛兵をしていたトーマスだ。


 トーマスは卑しい山賊笑いを浮かべている。


「クックック、驚いたか? 新人奴隷は反応するから面白いぜ」


 いつものムカつく感じに言う、すると、左手に座る女山賊が理由を補足した。


「こいつは私達があの館に送り込んだ間者だ」


 スパイ!?


 そうか、トーマスが山賊を手引していたのか、全然気が付かなかった。


「もっと早く助けてよ、危ないところだったんだから」


 と、静かに抗議すると。


「タイミングバッチリだったろ?」


 などと悪びれもせずに言う、ボクがどれだけ恐ろしい目にあったか、文句の一つでも言ってやりたいところだ。しかしここは山賊の村、おそらくこの三人は山賊の幹部なんだ、下手をすると首を落とされかねない。


 真ん中の男が手を上げてボク達のやり取りを遮る、山賊のボスだろうか? 五十代後半ほどの男だ、薄い頭髪の半分は白髪で、同じく白髪交じりの髭で覆われた顔は日焼けで赤茶けている。


 背は低そうだが、テーブルの上に放りだされた腕は丸太のようで、相当な怪力を発揮するだろうと思わせた。


「どれ、お前達を呼んだのは今後どうするかってことだ」


 男は今回の要件を話し出す。


「奴隷は色々だからな、攫われたり売られたり、みんな違う、お前はこれからどうしたい?」


 真ん中の男から意外な言葉が飛び出す、ボク達の意志を汲むというのか? 奴隷であるボク達の?


「あの、どうして親切にしてくれるんですか?」


 レティシアが真ん中の男に質問する、そこはボクも気になるけど、山賊に逆質問なんて大丈夫だろうか? 心配に思った。


「なんだ不満か?」

「えっ、いえ、そんなことは……、ごめんなさい」

「心配するな、悪いようにはしない、言ってみろ」


 悪いようにはしない? ボク達は助けられたのか? 山賊に?


「わたしは帰りたい」

「ふむ」

「わたしは一人でいる所を攫われたんです、村では心配してると思うんです」

「そうか、お前はどこから来た? リメノか?」

「はいそうです、お願いです、私を家に返して下さい!」


 山賊を前にして焦っているのか、レティシアは畳み掛けるように懇願した。


「分かった分かった心配するな、そこの小僧も一緒にリメノまで送ってやるわ」

「ありがとうございます!」


 わざわざ送ってくれるとは親切だ、ボク達は本当に助けられたみたいだ。


「良かったねユーノちゃん、帰れるね」


 レティシアはボクの手を握りしめる。しかしボクは違うことを考えていた、要望を聞いてくれると言うのなら思い切って言ってみよう。


「あの、ボクはリメノ村には行きません」

「ほほう?」


 リメノ村にボクの帰れる場所は、当然無い。それにリメノ村は世間から隔離された小さな村らしいし、異世界まで来てそんな場所に引きこもるつもりはない。


「お前は親に売られたクチか? それなら帰る所もねーからな」

「違います! ユーノちゃんもわたしと一緒に攫われたんです!」


 リメノ村には行かないと宣言したボクに、レティシアは取り乱す。 


「ユーノちゃんどうしたの? 一緒に村に帰ろう?」


 やっぱり一人で来たほうが良かったかな。


 レティシアには悪いけど、ボクには確かめたいことがある、どうしてボクがこんな目に合っているのか、どうして異世界に来たのか。


「実はボク、自分のことが良く分からないんです」

「シープ族なのにリメノ村出身じゃないのか?」

「はい、どこから来たかと言われても、ボクも分からないんだけど」

「思い出せんのか?」

「は、はい、あと、自分がシープ族なのかも分からないんです」


 記憶喪失ではないが、いきなり転移者ですなんて言っても通じるかどうか、ここははぐらかしておこう。


 レティシアは、「そんな、そんな事ないわ」と、突然の展開に戸惑っている。


「ならお前はどうすんだ?」

「分かりません、でも、どこか大きな街に行ってみたいです」


 遭難から奴隷、その後は山賊の村、そんな生活をしてきたボクは、異世界のことを何も知らない、自分の身に何が起こったのかも分かっていない。


 この世界のこと、自分のこと、転移者について、知りたい。


 このままレティシアと一緒にリメノ村に行ってしまうと、基本ひきこもり体質のボクはそこから出られなくなる、そんな気がした。


「大きな街と言ってもな、さすがにそんな遠くまで送って行けん」

「じゃあ、ヴァーリーでも良いです」

「お前はあの街で奴隷だったんだぞ? ほとぼりが冷めるまでとは言わんが、せめてゴタゴタが収まるまでは無理だろ」

「だったら、それまでこの村に居たらダメですか?」


 どんどん選択肢が狭まる。


「ふーむ、まあ構わんぞ、お前も訳ありみたいだな? この村にはそんな奴も多い、お前らと一緒に来た奴隷も何人かはここに残るしな」

「ありがとうございます」


 真ん中の男は「今回の奴隷どもの身の振り方は大体決まった」と言って、ボク達は元の大部屋に戻された。



 大部屋に戻ってみると、垂れ耳と三角耳は若干表情が明るく、二人して雑談していた、どうやら犬娘達も故郷に帰るようだ、死んだ目の先輩奴隷三人組は相変わらずで変化は見られない。


「どうして? どうしてユーノちゃん一緒に帰らないの?」


 部屋に戻るなりレティシアはボクに詰め寄る。


「おねえちゃん、前にも少し話したけど、ボクはリメノ村出身じゃないんだ、村に行ってもボクの帰る家もないし、知ってる人も一人も居ないんだよ」

「でも、他に行く所も無いんでしょう? それならウチに来ればいいわ、お爺ちゃんに頼んで一緒に居られるようにしてもらうから」


 お爺ちゃん村長だからと、また新たな事実を明らかにする。


「ご、ごめんねおねえちゃん、さっきあの人達に言った通り、ボクは外の世界が見たいんだ」

「どうして? どうしてそんなこと言うの? ……うう、ユーノちゃんはお姉ちゃんよりそっちを取るのね?」


 ボクの意思は固いと思ったのか、レティシアは訳の分からない事を言い出した。


 レティシアと知り合って数日とはいえ、その間には色々な事があった、特に危機的状況が続いて二人して支えあってきたのだ、簡単に離れたくないと感じるのかもしれない。


「ユーノちゃんのおかげで、お姉ちゃんは今こうして居られるのよ? 村に帰ってからもずっと一緒だと思っていたのに」

「ボクなんて何もしてないよ、ボクが居なくてもここの山賊さん達の計画で助けられていたんだから」

「そんなことないわ、すごく心強かった、もしお姉ちゃん一人だったら、あんな感じになっていたもん」


 と、死んだ目の先輩奴隷を指差す、……何気にヒドイですよ? レティシアおねえちゃん。


「大丈夫だよ、おねえちゃんのこと忘れないから、いつかまた会えるよ」


 レティシアは「いつかっていつよ」と、まだブツクサ言っているが、ここで絶対会いに行くからと言うと面倒くさいことになりそうなので、それは避ける。


 そんなやり取りをしていると、一人のおばちゃんが部屋に入ってきた。


 この恰幅のいいおばちゃんは、頭に三角耳があり、すらっと真っ直ぐ伸びた尻尾もある、猫の獣人だ。


「これから村を案内するわ、あなたと、あとそっちに固まっているあなた達、一緒にいらっしゃい」


 ボクと先輩奴隷の三人を指差す。


「こっちのあなた達には見せられないのよ、ごめんね」


 仲良し犬娘達とレティシアにはそう言った、残留組と帰郷組ということだろう。


 ちなみに、先輩奴隷達は別にじっと動かないわけじゃない、むしろ命令に従順だ、ただ目が死んでいる。


 そんな先輩奴隷達と一緒に、おばさんに連れられ外へ出た。

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