第六話 プレスト
翌日、あの話を坂堂にした。
「なんだよそれ。そんなの長谷川の事故を利用して俺たちを利用するような物じゃねえか。」
「言いたいことはわかる。でも、お前が協力してくれなきゃ、またこんな事件が起きるんだぞ。」
だが、この言葉も坂堂には通用しなかった。
「知らねぇよ。だいいち、何で俺が必要なんだよ。」
坂堂にはビー玉を持って来させた。
「わからない。でも、そのビー玉が可能性を握っているんだ。菩巌院さんはそう言っていた。」
* * *
喫茶店の前で別れる前、菩巌院は僕にこう言った。
「犯人の能力はわからない。でも、俺の友人の能力は脅威だったらしい。」
「そのプレストって言うのはどういう能力なんですか?」
菩巌院は声をやや落として言った。
「一日の長さを8時間にする能力。」
「どういうことですか?」
「つまり・・・
要約すれば、羅々のラレンタンドの逆バージョン。しかし、羅々のそれとは違い、徐々に速くなるのではなく、いきなり速さが3倍になるらしい。
また、能力を持つものが死亡すると、血族を除く一番親しい者の元にあのようなビー玉がやってくるらしい。そして、ビー玉を飲み込むと能力が発現するらしいが、既に能力を持つものが飲み込むと、死ぬらしい。
つまり能力の発現は、先天性、生まれつきか、ビー玉無しで発現する場合と、後天性、生後、ビー玉を飲み込む場合の二つがあると言える。
「そして奴がこの能力を持つ俺の友人を殺したということは、時間を速くされては困る、というわけだ。」
なるほど。そして、M-3000に乗り、能力の素質を得た坂堂にプレストを与えたい。というわけか。
* * *
「どういう理由だっていい。お前が、必要なんだ。」
僕は深く頭を下げた。
坂堂は何も答えなかった。
「僕はプレストを得られない。もう坂堂しか、犯人を止められないんだ。長谷川のことを忘れたいのもわかるが、かといって、未来にまた、起こるかも知れない事故を止めないのも俺は辛い。」
まだ、坂堂は黙っていた。しかし、暫くして、
「・・・ったく、仕方ねえな。事故を防ぐ、いいじゃん。警視庁総監賞とか貰えるかもな。」
「いいのか?」
「お前が頼んだんだろ?やろうぜ、犯人探し。」
坂堂は、イタズラっぽく笑った。
菩巌院と僕らは翌日、再び霊園から少し歩いたところの喫茶店「アポロ」で再開した。菩巌院は坂堂に何度も礼を言った。
作戦は夏、夏休みの都大会が終わった後。
そう、決定した。
「じゃあ、そのビー玉を飲み込んでみて。」
菩巌院は坂堂にビー玉を勧めた。
「何か怖いな。」
坂堂は僕を見た。
僕は、「水と一緒に飲めば?」と助言したが、大きすぎて、水の意味がない。と返された。
「男、坂堂草平、ビー玉などには怯えん!」
口にビー玉を入れて、飲んだ。
特に詰まったとかはないようだ。
「どう?」
坂堂は「特に何もないかな。」と言った。
そうなのか。
菩巌院は坂堂に、
「プレストって言ってみて。」
坂堂は、プレストと言った。すると、
喫茶店の中はパニックになった。
というのも、お湯はすぐに沸き、すぐに冷めて、客はクレームを入れるし、時計がやたら速く回るし、窓を見れば車が猛スピードで走っている。
僕は、坂堂に指を鳴らさせた。
パチン、という音で、全ては等速に戻った。
「おっそろしー。」
僕は、ただ、そう思った。数分の出来事なのに、20分近く経っている。
菩巌院は冷静に解説した。
「これが、プレスト。正確には一日を24時間から8時間にする能力だが、感覚としては時間を3倍の速さにするものだと思っていい。」
いや、なんでそんなに冷静なんだ?
「どこかで事故ってなければいいけど。」
坂堂は呟いた。
このタイミングでのその発言は場を若干重くした。