表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大邦都地下鉄物語  作者: 切咲絢徒
第二楽章 四番線
51/53

第五十話 洗剤

「能力持ちを知っている?それは、どういう意味ですか?」

 坂堂が切り込んだ。

「・・・、結論からいくと、僕は恐らくこの組織にいた。」

 !?

 菩巌院はズバズバととんでもないことを言っていく。

 僕らはその言葉の意味がわからず、暫く、沈黙する。

「え、じゃあ、今、菩巌院さんは組織を裏切ってるってことですか?」

 意外にも沈黙を破ったのは羅々だった。

「いや、そうじゃなくて、4年前に組織を抜けたんだ。その頃はメトロズって言う名前だったけど。」

「ふーん、じゃ、帝刃ちゃんは昔の同胞だとわかったわけね。」

 金田はいつも通りだ。

「ああ、今まで戦ってきたのは恐らく、僕が抜けた後に入った人間。そして、組織自体の名前も変わった。」

 成る程、一応、辻褄は合う。だが、

「僕らの情報を流していたのは菩巌院さんではないですよね。」

「おい、坂堂。」

 僕は坂堂を止める。

「確かに、そう疑われるのも仕方ない。ただ、これは証明のしようがない。だから、信じてくれ。僕は君たちの情報を流していない。」

「そんなの信用しづらいですよ。」

 僕はかなりきついことを言った。菩巌院は一瞬だけ傷ついたような顔をした。

「坂堂!」

 僕は叫ぶ。

 店内の客も一瞬こっちを見る。

「いや、確かに、流したという証明もできないし、流していないという証明もできない。僕は信用しづらい。」

 僕は店内の様子もお構いなしに怒鳴る、

「馬鹿か!この状況でこんなことを言って、何のメリットになる!仮に情報を流していたとしても、それこそ疑われるだけで、デメリットだ!」

 坂堂は何も言い返さなかった。

「ごめん。草平君。でも、信じてほしい。」

 菩巌院は頭を下げた。

「わかりました。・・・でも、これで僕らを裏切っていたなら僕は菩巌院さんを恨みます。裏切られたことではなくて、長谷川を殺した人間の仲間だったことを。」

 漸く、菩巌院のコーヒーがきた。


「その能力持ちって誰なんですか?」

 黙っていると恐らく沈黙が続く。坂堂の表情にはまだ疑いが残っている。それは仕方ない。僕は構わず菩巌院に聞いた。

「名前は、槍形 涼(やりがた りょう)。能力は『ダル・セーニョ』」

 ダル・セーニョ。

 坂堂の予想通りだ。

「どんな能力なの?」と金田。

「瞬間移動。」

 まさか、ここまで予想通りだとは。

 こんなときに関心することでは無いけど、勘というのは当たるものだ。

「瞬間移動ってことは逃げられたら・・・?」

 羅々が聞く。

「見失うね。」

 菩巌院はコーヒーを啜る。

「瞬間移動って、血文字の場所に飛ぶの?」

 金田が聞く。

「そうだ。」

「じゃ、じゃあ、地図にメモっておけば、飛ぶ場所がわかりますね。」

 坂堂がそう言った。やや、語調が荒い。

「いや、消せば良くない?」と羅々。

「血文字は消せなかったよ。」

 僕は口を挟むように言った。。坂堂は女子と話せない。

「消せなかった?」

「うん、まあ、水を掛けて擦っただけだから洗剤とか使えばわからないけど。」

「洗うなら冷たい水で、アルカリ性の洗剤ね。」

 金田がいきなりそう言った。

 見かけによらず、家庭的だ。

 消えなかったのはあのときのミネラルウォーターが生ぬるかったからだろうか。いや、それでも薄くなるくらいはしそうだけど。

「じゃ、アルカリ性の洗剤を買ってきますね。」

 坂堂が立ち上がった。

「あ、待てよ。」

 僕は坂堂を追うが、

「いいよ、一人で。」

「あ、そう。」

 僕は座り直した。

 坂堂は財布からココア代を置いて行ってしまった。

 置いていかれた僕らに重い空気が漂う。僕は飲み終わったコップに手を伸ばしかけて、水の入ったコップを持ち上げて、一口飲んだ。

「・・・槍形 涼はどんな人なんですか。」

 重い空気を押しのけるように僕は菩巌院に向けて、そう言った。

「槍形はね、うーん・・・。今まで会った人間で一番、何を考えてるかわからない人だね。」

 うわぁ。僕の一番苦手な人間だぁ。そういうミステリアスな人苦手なんだよね。

「あと、アイデアマンだね。アイデアマンというか、よく、閃く。そして、応用ができる。だから、攻撃も臨機応変。」

 臨機応変ということは、そこに石があれば投げるのかな。それは普通に痛そうだからやめてほしい。

「あとは、逃げるのが得意。能力のこともあるけど、彼はあまり能力を使わないんだ。本当に危険な時しか。」

「それじゃあ、僕らと闘うときには慢心して、能力を使わないことがあるってことですか?」

「それだといいけどね。」

 僕の問いに菩巌院は困ったように笑う。

 血文字自体を消して、逃げ場をなくしてから攻撃するべきなのか、うーん、わからない。敵から逃げる方法は能力だけじゃ無いからなあ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ