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大邦都地下鉄物語  作者: 切咲絢徒
第一楽章 台柱線
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第四十三話 自律型殺人マシーン

 勢い余ってぶっ倒れてしまったが、縄はほどけたので痛がっている暇は無い。

 そのまま立ち上がり、銃口を向ける。

 しかし、勇んで銃を取り出しても、銃を撃つのは始めてである。まして、人を殺そうなんてのはあるはずが無い。

 だから、足が震え始めた。

 野末は一瞬のことに目を丸くしていた。

「な、何が起きた・・・!」

「事実は小説より奇なりってね。」

 あ、これ良い。今度から決め台詞にしよ。

 多だ、呑気なことは言ってられない。この引き金を引かなければならない。

 別にそのまま逃げてもいいのだが、それでは追ってくるし、私はそこまで足に自信は無い。また、銃口を向けた以上、逃げてしまっては格好がつかない。

「ねえ、ここはどこ?」

 私は野末に聞いた。

 野末は答えない。

「撃てるのか?人を。」

 代わりにこう返ってきた。

 私の心を的確に当ててきた。

「確かに、私は銃口を人に向けたのは始めてだし、これは護身用のつもりだったからこれで人を殺めようなんて思ったこともない。でも、引き金を引くだけと考えれば簡単。」

 さて、ハッタリがどこまで通用するか。

「ふうん、大した度胸を持ってるようじゃん。でもね、あんまり大人をからかうもんじゃ無いよ。」

 野末は銃を向けた。

 しまった。なんで、この瞬間をぼうっと見ていたんだろう。

「さてさて、これで形勢逆転かな、俺は女子供を撃つのにはもう抵抗はないぞ。」

 本物だ。

 完全に私を殺す気だ。

 でも、ここで臆せば、死。結局自分の命すら守れずに終わる。そんなの、死んでも死にきれない。

「どうする?俺はもう、引き金を引く準び・・・。」

 いつの間にか私は引き金を引いていた。まぐれなんだろうけれど、弾痕は確かに野末の心臓の位置にあった。

 倒れる野末はスローモーションで床に向かう。

 私が撃った。

 人を殺した。

 何に怯えているのか、わからない。将来がもう望めなくなったなんて呑気なことだろうか。単純に自分が殺人鬼の仲間入りしたことだろうか。

 足の裏から謎の恐怖は登ってくる。

 漸く、野末は床に倒れた。

「ガ、ガハッ、ハァ、ハァ、ま、まさか、本、本当に撃つとは、な。あれは、ハッタリじゃ、ねえのか。」

 口から血を吐く野末を見て、漸く、時間の流れが元に戻る。

 私は怖くなって、その場から逃げ出した。


 野末はその後、消滅した。


 * * *


 どれだけ撃っても避けられる。というか、そもそも撃てない。

 しかし、収穫はあった。

 弾が避ける度に奴は「アッドレ・アッカー事件」ということ。

 アッドレ・アッカー事件というのはいつぞやかにテレビで見たことがある。

 そもそも堀田の能力は「過去の事象を再現する」とかそんな能力だと聞いたことがある。

 ということはアッドレ・アッカー事件を再現しているのだろうが、なんでそれを今まで忘れていたのだろう。

 くそ、羅々を(たす)けるってのに、こんなんでいいのかよ。しっかりしろ。

 奴がアッドレ・アッカー事件を再現していることがわかったが、だからなんだということだ。

 奴は先程から殺人鬼を一人召喚している。これの対処に追われて、本体である堀田を撃てない。もし、もう一人仲間がいるならよかったけれど、そんなことは、今更言ってられない。

 兎に角、この(殺人鬼)をどうにか対処しなくては。


 暫く、殺人鬼の行動パターンを見ていたのだが、やつの動きはパターン化されていない。完全に自律していて僕の動きに合わせて向こうも動く。

 今のところ堀田自身は動きがないが、奴まで動かれたらひとたまりも無い。

 果たしてどうしようか。

 今、殺人鬼に背を向けずに逃げているのだが、後ろに転びそうで怖い。一度でも背を向ければ殺られそうだ。

 現状はどうでもよくて、この殺人鬼をどうするか。

 チェーンソーを振り回したり、銃に持ち変えたりするからこちらも臨機応変に対応しなければならない。

 チェーンソーは後ろに跳んだりすればなんとか避けれるけれど、銃はやめて欲しい。

 攻撃を避けつつ、隙を探す。

 いっそのこと堀田に攻撃しようかとも思ったが、この状況で堀田に向かうのはやや危険だ。

 チェーンソーがなければ嬉しいが、

 これは長期戦になりそうだ。

 そう考えていると、隙はいきなり現れた。

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