表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大邦都地下鉄物語  作者: 切咲絢徒
第一楽章 台柱線
41/53

第四十話 羽根川は庭

 長く、長く、そして長い渋滞を先に抜けたのは菩巌院らだった。

「っしゃい!」

 菩巌院は珍しくガッツポーズをした。そのときに、ハンドルに肘がぶつかったため、恐らくクラクションがなった。(前からの疑問だったけど、なんでクラクションは車内から聞こえないのだろうか。理由ではなくて、仕組みを知りたい。)

 携帯で調べると、この先ももう一つ渋滞があるようなので、すぐに高速を下りる。

 そして、一般道の混雑状況を見ると、やけに都道14号が空いているので、入る。

 そして、実際に空いていた。

 理由は中谷交差点では工事があり、更に迂回路が細い道であるため、とても混雑しているからだ。

 対応が遅れたのはあまりの交通量であるため、一つ前の交差点で通行止めの表示を出せなかったためだ。

 このとき、菩巌院らは気付かなかったが、酒貼はこの渋滞に巻き込まれていたのだった。

 ただ、それは後に。

 空いた都道14号をスイスイと進む。もう二度と高速には乗らない、そう二人は誓い、羽根川へ向かう。


 赤信号はちょくちょく僕らを足止めし、その分、僕らは酒貼が羽根川についていないことを祈った。

 島ノ橋につくと、国道3号に曲がる。

 ここからは真っ直ぐ道なりで、たまに特速線が走っているのが見える。

 あの路線は国都急行線特別速度線で、東の方向に向かうものである。

 銀の車体に赤い線で、先頭車両は鋭く細い。速さを追求した結果、このようなデザインになったらしい。

 日鉄の在来線も見える。ここら辺は国都本線だろうか。

 それらを横目に、車は進む。

 進み、そして羽根川の砂島県庁まで、残り800メートルというところで、現れる。青いスポーツカー、数回ほど確認したナンバープレート、酒貼だ。

 奴もまた、あの長い渋滞を抜け、そしてやってきたのだ。ここ、羽根川の地へ。


 * * *


 菩巌院らが交差点に来る数分前。

 交通ルールを厳守するルールで、唯一、この地獄から這い上がる一つの方法。それは、車線変更。

 前の方を見ると、一番左の車線の車から迂回路に案内されている。つまり、一番左に入れば、すぐに抜けだせれるのだ。

 酒貼はうまい具合に一番左の車線に寄せる。何せ、三車線のうち、一番右にいた、ためうまいことしないと、ただの迷惑行為である。そうして車をぶつけないように車線の変更を行う。(まあ、その時点で、ただの迷惑行為だが。)

 そうして迂回路に案内されるが、本当の地獄はここからであった。

 一本道割りと長く、思った以上に混んでいた。長いこともあったが、それ以上にこの道から大通りに入るのは少し難易度が高いのだ。

 だから敢えて曲がらないで、真っ直ぐ、進んだ。(大通りに出るには一回、曲がる必要がある。)

 しかし、ここを曲がらなければ、長い間、大通りには出られず、正に賭けであった。

 やっと、大通りに出たときは既にもとの都道14号を離れてしまい、かなりのタイムロスだった。

 だが、酒貼にはある考えがあった。

 高速だ。

 勿論、渋滞の危険性もあるが、今から乗ろうとしているのはICからICまでの区間が短いところで、きっと、渋滞も起こらないだろう。そう踏んで、高速に乗る。

 環状第二はここからの区間は予想通り空いていて、割りと飛ばせた。そう、この予想的中こそが、菩巌院らを追い詰める糧となる。

 すぐに下りる。ここらで降りないと、羽根川からは遠い。(どういう訳だが、羽根川の周辺には高速は通っていない。)

 そして一般道を通り、今に至る。


「酒貼だッ!」

 坂堂は叫ぶ。一方、菩巌院は冷静沈着。全く揺るがない。何故ならば、勝機があるからだ。

「草平君。今から粗っぽくなるから、掴まっててね。」

 そういって、強引に左折。一応、左折可能なレーンにはいたが、それでも強引に見える左折だった。

 しかし、なぜここで左折?信号機は確かに緑色の左矢印を示していたが、ここで曲がるのは愚考。そう、坂堂は考えて止まなかった。

 ハンドルは菩巌院が握っているので、口出しはしなかった。

 菩巌院は細い道を進む。

 信号待ちはないが、一々一時停止をするため、結局変わらないのではないか?と思った。変わらない、とは普通に国道3号を進んでもということ。

 だが、この一方通行の細い道は分岐がほぼなく、少々危なっかしい速度でも大丈夫だった。

 やがて大通りに出ると、そこに酒貼の姿はなく、やっと、県庁に着いた。

 県庁の駐車場に駐車()め、車を降りた。県庁の周りを見てもあの青いスポーツカーはない。つまり、勝ったのだ。

 しかし、十数秒後、あのスポーツカーは姿を見せた。

 タッチの差、僅かな僅差。

 あの機転がなければ、きっと勝ちはなく、引き分け、悪ければ、負けていた。

 スポーツカーから酒貼が降りてきた。

「さすが、羽根川産まれってだけあるね。」

 酒貼は菩巌院を誉めた。

 菩巌院は首を振る。

「いや、羽根川が僕の庭ってだけで、他だったら結果はわからなかったよ。」

「僕の庭って、その言葉が本当になりそうだからあんまり言うなよ?比喩だとしても。」

 酒貼は苦笑して、菩巌院も笑っていたが、坂堂には全くわからなかった。


 酒貼によると知っている限りでは、四番(よつがい)線の猿遊(さるあそび)四丁目にいるといっていたが、どんな奴かはわからない、という。

 ともかく、台柱線の敵は全員倒したことになる。

 ようやく、一路線。夏休み中に終わるだろうか。

 坂堂はそれが心配でならなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ