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大邦都地下鉄物語  作者: 切咲絢徒
第一楽章 台柱線
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第卅九話 え、渋滞かよ。

 菩巌院は棒反駅前に車を止めた。カーチェイスだというのに、いたって普通な軽自動車だった。

 それを見た坂堂はがっかりした。

「菩巌院さん、なんで軽なんですか?」

「ごめん、ごめん。スポーツカーは借りれなかったからさ。」

 さらに坂堂はがっかりした。レンタカーかよ。

 しかし、文句もいってられないので、渋々助手席に乗った。

 車内は案外広く、天井も高かったが、あまり車高が高いと倒れるのでは?

 坂堂はふと、疑問に思った。

「どうやったら僕らの勝ちなんですか?」

 菩巌院はこう、答えた。

「先に羽根川に着いた方が勝ち。」

 羽根川とは大邦の隣の県の県庁所在地だ。

「え、それって、レースじゃないですか?」

 菩巌院は苦笑いして答えた。

「いや、まあ、チェイスなんかしたら迷惑行為だし、一番穏健に済むのがこの方法なんだよね。」

 え。

 まあ、それでも良いけど。

「9時にスタートだから、そろそろだよ。」

 カーナビの画面に映る時刻は8時58分。

 坂堂は自分の存在価値を疑い始めていた。


 9時、菩巌院は車を走らせた。

 羽根川に向かうには首都環状線第二という高速を使えば、速い。

 ということで、棒反ICから首都高速棒反線から夕柱丘JCT(ジャンクション)に入ることになった。

 が、

 夏の首都高速を侮ってはいけない。

「あぁー、渋滞だ。」

 そう、この頃は帰省、旅行のシーズン真っ只中。フロントガラスに映る車の群れを見て、菩巌院は苦虫を噛んだような顔をして、呟いた。

「ねえ、草平君、環状線第二に一番早く乗れる下道知らない?」

 いきなり聞かれたので少し驚いて、携帯の地図アプリを開いた。

 調べてみると、国道14号線から笠岡ICに向かうのが速いらしい。

「国道14号から笠岡ですね。」

 地図アプリの情報をそのまま伝えた。

「じゃあ、第三ICで降りるね。」

 第三ICとは次のICである。割りとすぐに渋滞は解けて、スムーズに第三ICで降りれた。

 交差点を一つ曲がり、国道14号に入る。今回の赤信号は気が利いていた。

 そして、スムーズに笠岡に着き、笠岡ICから高速にのる。

 だが、これが誤算だった。

 高速から羽根川方面に向かう。かなり車は多くて、まさに、帰省ラッシュだった。

 大邦都を抜けて、砂島県に入ったあたりから雲行きが怪しくなる。

 前方に見えるのは赤色のランプの集合体。

 再び渋滞に巻き込まれた。しかも今回は長めの渋滞らしく、これを抜けるのにはかなり時間がかかる。

 高速道路はどこでも混んでいる。その現実を突きつけられる一日であった。しかし、まだ、それは続く。

 30分経っても全然進まない。

 あと1キロくらいでICに着くと言うのに、まだ、100メートル走れたかも怪しい。

 もしかしたら、酒貼はもう羽根川に着いているかもしれない。

 しかし、その気持ちは杞憂であった。


 * * *


 酒貼は9時になったら家を出た。

 酒貼の家は笠岡で、要するに、菩巌院らよりは有利である。

 酒貼は車を走らせ、そして高速に乗った。かと思いきや、下道を走っていた。

 理由は単純で渋滞を怖れたためである。

 この時期の渋滞は長く、巻き込まれれば、お仕舞いだ。

 笠岡から島ノ橋に向かい、そこから国道3号に入る。そうすれば、きっと菩巌院よりかは早く着く。

 都道14号に入り、中谷(なかや)の交差点を右折し、ここからは島ノ橋まで一本道だ。


 ここまでは順調であった。


 交差点から少ししたのち、車の列を発見する。信号待ちではない。何故だ?

 一般道での渋滞。これはやや、厄介だ。

 原因を調べると、電線の工事らしく、今は通行止めらしい。ということで迂回路を案内されているらしいが、その迂回路というのが細い道で、一方通行の道でもあることから混雑しているらしい。

 おいおい嘘だろ。カーナビの画面をみる。残念ながら、迂回路の前に分岐はない。大人しくその迂回路を進むしかない。

 だらだらと道を進む。なんと、もう30分程経っていた。

 大誤算だ。

 しかし、それは酒貼のみではない。

 カーレースとは言わずとも、ある程度白熱するかもしれなかったこの戦い。

 双方、開始早々に渋滞に巻き込まれるというなんという肩透かし。

 こうして、羽根川への号砲は撃たれたのだった。

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