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大邦都地下鉄物語  作者: 切咲絢徒
第一楽章 台柱線
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第卅五話 選択

 今までの自分の体と乖離したような感覚が消えた。

 小原の体の重さ、首を流れる血液の動き、体温等が、直接的に伝わってきた。

 さすがに思いので、手を離した。小原は床に落ちた。

「あら?どうしたの?」

 小原の額の銃口は離していない。

「黙れ、羅々はどこにいる?」

「あらら、口調が変わったね。もしかしたら二重人格?」

「そんなことはどうでもいい、()()()()()()?」

 もしかしたら二重人格かもしれない。だが、それは、今は重要ではない。

「ふふふふふ、答えるわけがないじゃない。」

「なら、撃つぞ?」

「やってみなさいよ。」

 睨み返される。

 小原はわかっている。僕が無闇に撃てないことを。

 弾丸は残り、一発。脅しとして使うことはできない。しかし、撃ってしまっては羅々の居場所を聞けない。

 そう、小原はこの状況で圧倒的に有利。

 きっと、数多の修羅場を抜けてきたのだろうか。小原の目には揺らぎがなかった。

「ねえ、あなたは何故私の幻覚を見破れたの?」

 小原はいきなり訊いてきた。

「答えるわけがないだろ。」

「いいじゃない、私の方が命の危険なんだから。」

 惑わされるな、不利なのは僕だ。しかも厭らしいことに小原は自分が「不利だ」等とは言っていない。危うく喋るところだった。

「ふふふふふ、答えないのね。じゃあ、当てて見せるわ。あなた、義眼ね?」

 !?

「図星ね。」

 しまった、動揺を表してしまった。

「でも、義眼なのに載せます。何故あなたは目が見えるのかしら?」

 義眼とは一体どういうものなのかはわからないが、基本的には眼球としての機能はない・・・らしい。

 しかし、僕の左目は見えている。それは、何故か。

 ざっくり言うと、カメラである。

 僕の義眼は所謂「肉眼より鮮明な映像」を映すカメラで、その映像を人工の視神経で繋ぎ、脳に送っているらしい。

 そんなことができるのか、と僕は(にわか)に信じられなかったが、現にできているので、信じる他ない。

「僕の左目はカメラなんだ。」

 何故か僕は答えていた。義眼とバレた以上、カメラだと気づかれるのは時間の問題だろう。

「あら、そうなの?手術したのは誰?」

 小原は全く驚かない。僕の知らない世界では対してすごくもなんともないのか?

「知らない。」

 僕は小原の質問にどんどん素直に答えるようになっていることに気づく。

 気を引き締めなくては、と自分に忠告する。

 小原はじっと僕の目を見る。

「本当に知らないようね。ま、大体の検討はついているけれど。」

 小原の発言は僕の好奇心をちょくちょくつつく。うっかり小原に取り込まれるかもしれない。

 話の流れをかなり強引にぶったぎり、本題に戻す。

「羅々はどこだ?」

「まだ言うの?答えるわけが、ないじゃない。」

 小原はいつも通りに拒否する。

 だから、僕は質問を変えた。

「イポジェーオクレアートとはなんだ?」

 小原は一瞬だけ、驚くような素振りをした後に、ニヤリと笑った。

「ふふふふふ、私に銃口を向けているのはあなただけじゃないのよ?」

「いきなり何を言っているんだ?」

 小原は少し間を空けて続けた。

「原山太源が殺されたのはイポジェーオクレアートの者よ。組織の中で一番の暗殺者が()ったの。」

 原山が死んだ瞬間がフラッシュバックする。あの人影はその暗殺者とやらなのか。

「その暗殺者って言うのが私の元に多分来ているの。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 組織の情報を漏らしたときの処罰?情報を漏らさないためではなく?

 どういうことだ?

 もしかしたら僕らは何かしらの罠に嵌まっているのだろうか。

 確かに、脅すだけで今までの奴等はすぐに情報を漏らした。そこに、違和感を感じていた。罠かもしれないとも思っていたが、特に身構えもしなかった。

「というわけで、私がイポジェーオクレアートについて喋れば、私は殺されるわ。そしたら私を討つことと、情報をを得ることの両方を達成できる。でも、條原羅々の居場所は知れないわ。」

 二者択一に見えるコレは、実は一者一択。イポジェーオクレアートについての情報を訊くしか僕には選択肢がない。

 何故なら、小原は羅々について一切喋らない。ということは、イポジェーオクレアートについて訊く他ないのだ。

 盲点でもある「小原を逃がす。」「何も訊かずに殺す。」の二つはその行動に意味がない。前者については僕の命も危険にさらされる。何せ、小原と「暗殺者」の二人を相手にしなければならないからだ。

 つまり、イポジェーオクレアートについて訊くことが最善手であり、一番の安全ルートだ。

「ふふふふふ、さて、どうするの?」

 小原は相変わらずの余裕の表情で僕に選択を迫った。

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