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大邦都地下鉄物語  作者: 切咲絢徒
第一楽章 台柱線
35/53

第卅四話 何者

 銃声の後、僕はすぐに後ろへ跳んだ。正確には、ファイアと言った瞬間、いや、「イ」ぐらいでもう跳んでいた。

 弾丸は当たらず、そして、小原の周辺が、一瞬だけ、燃えた。

 何が起きたかというと、粉塵爆発である。しかし、思ったのと違う。

 もっと、こう、ドーン、と燃えるものじゃないのか?

 では、何故粉塵爆発が起きたのか、説明しよう。

 まず、僕の能力で周辺の空気を乾燥させる。

 次に、埃やら砂だのを舞い散らす。そのために、走り回ったり、鉄パイプを投げたりしたのだ。

 最後に、発砲時の火花で、発火。という、算段だったのだが、なんというか、凄く、効果がない。

 小原の服装は袖が長いので、火傷もしていないようだった。

「残念ね、粉塵爆発をこのタイミングで思い浮かべるのは凄い発想だけれど、残念ながら、大した威力にはならないのよ。」

 畜生。これでは、小原をどう倒せばいいか、わからない。

 もっと、埃を舞い上がらせればいいのか?いや、それでは時間がかかるし、また爆発をおこせるかはわからない。

 一体どうすれば?

 出来る限りの知識を使って考えるが、もう、鉄パイプで、殴るぐらいしか思い付かない。

「ふふふふふ、神前長目、あなたにいい知らせがあるの。」

 小原が僕にそう言った。今更、いい知らせなんて、何があるのか。

「條原羅々ちゃんはまだ、死んでいないのよ?」

 え?

 小原の言葉は衝撃的だった。しかし、羅々の遺体はそこに・・・。

 右目を閉じれば、そこには、羅々がいなくなる。つまりは幻覚。そう、自分は幻覚に踊らされていたのだ。

 しかし、それがどういう訳だか面白く感じた。今更になって気づいたが、自分は、クカカカカ。なんて、笑っていただろうか。

 そんなのもどうでもよくなって、なんというか、何故だか面白くなってきた。

「クカカカカ。面白いじゃないか。クカカカカ。・・・で、羅々はどこにいるの?」

 小原は教えないと言うように何も答えない。

 それすらも面白くなってきた。結局、何が面白いんだかわからないけれど、心の底から笑いが込み上げてくる。

「そうか、クカカカカ。教えてくれないか。クカカカカ。」

 何故か笑っている自分を客観視している自分もいた。

「あなたはおかしいわ。大抵、こういうときは侮辱だのなんだので、激昂したり、逆に安堵したりするのに、あなたは笑ってる。何を考えているの?」

 小原の問いには僕自身も答えられない。

 なんで笑っているのだろうか。それは、わからない。けれど、僕の口からでた言葉は、三人称的感覚にある僕を驚かせた。

「クカカカカ。どうでもいい、そんなことは。」

 さっぱりわからない。なんで僕は笑う理由を答えない?

「ふふふふふ、どうでもいい、ね。あなたは神前長目じゃないわね?誰なの?」

 いや、神前長目ですけれど。

「クカカカカ。僕は神前長目だ。それより、羅々はどこにいる?教えろ。でなければ殺す。」

「できるなら、やってみなさいよ。」

 そういわれると、僕の体は、走りだし、小原の首に目掛けて跳んでいた。

 それに小原は怯む。

 あっという間に小原の細い首を握り潰さんかのように、強く、絞める。

 小原は苦しいのか、もがく。

 小原の首を壁に押し付けて、訊く。

「羅々はどこだ?」

 小原は答えない。

「答えろよ。」小原の額に銃口を突きつける。

 然れど、答えない。

 代わりにこんな言葉がこぼれでた。

「引き金を引きなさいよ。ぐ、・・・それなら、私、を殺、せるの、よ?」

 僕は当惑する。

 撃つべきか、撃たざるべきか、それとも、血液を乾かすか。

「クカカカカ。さて、()()()()()()()()。」

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