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大邦都地下鉄物語  作者: 切咲絢徒
第一楽章 台柱線
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第卅二話 油断

 右目を開けている間は、幻覚が見えてしまう。だからといって常に片目で行動はできない。具体的に言うと、遠近感が薄れる。

 そのため、敵との距離を計りながら行動ができない。

 そんなに遠近感がなくなることはないが、若干動きにくい。

「悪いが、お前の幻覚は俺には効かない。」

 しかし、小原は余裕の表情であった。

「ふふふふふふ。私の取り柄は幻覚だけと思っていたの?それは油断っていうものよ。」

 小原は銃を天井に向けて、撃つ。刹那、天井が落ちてきた。

 僕は走って避ける。

 砂煙が舞い、小原を見失う。咳き込む声が自分含め、いくつか聞こえる。目もしみるが、なんとか慣れて、小原を探す。砂煙の幻覚を見せられているかもしれないので、左目だけで探す。

 砂煙は本物で、天井も本物。

 しかし、小原がいない。

 辺りを見回すも、誰もいない。羅々さえも。羅々さえも・・・?どこだ?

 なんだか嫌な予感がする。悪寒、胸騒ぎ、何か得体の知れない何かに向かうような感覚。

 果たしてそれは形となって現れた。

「~~~!!」

 羅々の声。

 即座に声のする方を向く。そこには口元を押さえられ、こめかみに銃口を突きつけられた羅々がいた。銃口を突きつけているのは、他でもない、小原だ。

「て、てめぇ・・・!」

 僕の叫び声を制すように小原の通る声が鳴る。

「ふふふふふ、離すわけないでしょ?」

 くそ、羅々を人質に取られた。

 必死に逃げようと試みて、もがく羅々の目は、助けて、と言っているようだ。

「この子の命が惜しければ、銃を置いて、手をあげなさい。」

 羅々を助けるためだ、無視すれば、羅々の命はない。

 僕は言われた通りに、銃を置き、手をあげる。

 後ろに下がれ、とも言われたのでゆっくりと、一、二歩後ずさりする。

 しかし、それが、油断だった。

「馬鹿ね、本当に離すわけないでしょ?」

 そんな小原の言葉を理解する前に銃は音を立てた。

 銃口から弾丸は勿論、吐き出される。つまりは、羅々の脳を貫く。

 !!

 世界がスローになる。

 羅々が倒れる。

 倒れる羅々を見て、何も考えることができなくなった。

 こめかみから血を吹き出し、ゆっくりと、ゆっくりと、ゆっくりと、倒れる。

 そんな様子を見ていることを信じれなくなり、ある、一つの結論に辿り着く。

 指示に従うことは、ある種の信用である。つまりは、心を許すこと。

 なんと、あっさりと、すっきりと、指示を従ったんだろうか。従うことで、羅々が助かるなんて、誰が言ったんだろうか。敵の嘘と、思わなかっただろうか。

 ドサッと倒れた羅々の顔には既に生きているようには見えなかった。

 さらに、この状況を主観的に見ているのは勿論のこと、本能的に現実から逃げようとしているのか、やけに客観的に見える。

 殺人事件のニュースを見たときみたいに、本当に客観的に。

 きっと、それもあったのかも知れない。

「死ぬか?」

 自分の口から出た言葉は物凄く鋭く、直接的なもので、しかし、そこには違和感の欠片もなかった。


 * * *


 小原は長目の低い声を笑った。

「ふふふふふ、あはははは。死ぬか?ですって?ふふふふふ。馬鹿見たいね。」

 羅々の死体は小原による幻覚であった。今、羅々は別のところにいる。勿論、拘束はされているが。

 つまり、小原は長目をからかっているのだ。

「今、すっごく、怒っているようだけど、これは幻覚よ?右目を閉じて確認したら?」

 しかし、長目の耳にはその言葉はもう届かない。

 長目の精神が他の誰か、具体的に言うならプロの殺し屋にでも入れ替わったかのように、長目の目は光が無くなり、その表情は(いか)った顔より、怒っている。

 銃を小原に向ける。

 このときの長目の内心は空であった。何も考えずにただただ、機械的に、銃口を小原に向けて、引き金を引き、当たらなければ、また、銃口を向ける。

「な、なんで、ここまで精度が上がっているの?」

 感情に任せて銃を撃てば、当然の如く、精度は大きく下がる。しかし、人間は十人十色。

 怒りにより、血圧が上がるものが多いのは事実だが、血圧が下がる者もいる。

 リラックスというわけでは当然ない。

 怒りを通り越し、無感情になるのだ。しかし、精神の底を突き抜け、その先には星の核より熱い怒りが煮えたぎり、無情にも森羅万象、六合全天、万命千理を灼き尽くす。

 この機械的な動きはその無情が起こしているのかも知れない。

 長目の射撃精度はどんどん上昇し、最後の一発を残して、持っていた弾をすべて撃ちきった。

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