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大邦都地下鉄物語  作者: 切咲絢徒
第一楽章 台柱線
32/53

第卅一話 看破

 小原はまだ見つからない。それどころか、もう逃げたのではないかという不安も現れるが、諦めずに探す。

 弾は残り20発弱。今度からはもっと持ってこなきゃかなぁと、反省も交える。

 されど、どれだけ探しても見つからない。こうなってくると不安とか苛立ちとか通り越して全く別で予想外の感情が出てきたりする。

 羅々のところに戻る。

「どこにいるのかな。」

 羅々は独り言のように呟いた。見つかっていれば、もう闘っているため、見つかった?などというわかりきったことは言わなかった。

「わかんないな。でも、箱の中に隠れてるとは考えづらい。」

 何故なら、そんなところに隠れていると、初撃が遅れる。勿論、見つけた側も怯むが、見つけられた側はいきなり明るくなるため、目が眩む。立ち上がれない。など、様々な問題がある。

 そしてなにより、見かけた箱すべてを開けた。それが証拠だ。

 となると、逃げたのか、それとも盲点があるのか。

 僕は今度は右目を閉じた。特に理由はなく、というか、さっきはどっちを閉じたか忘れただけで、パッと閉じたのが右目だっただけだ。

 思考に入ろうとした瞬間。


 景色が大きく変わった。


 柱の数は半分以下になり、天井はボロボロで二階部分の床も所々穴が空いている。どういうことだ?

 閉じた右目をまた、開く。すると、柱は増え、天井も二階の床も綺麗になっていた。もしかすると?

 いや、でも、そんなものは幻想の中のものだけ・・・いや、時間の流れすらも変えられるなら、これくらい、おかしくはない。あり得ない、と初めに除外した選択肢こそが正解。

 きっとこれは『幻覚』だ。

 幻覚がどういう仕組みで見えるのかはさっぱりわからないが、やはり目に見えるものだから、視神経に関与するものなんだろう。

「羅々、見つけた。」

「本当に?でも、見当たらないよ?」

 羅々は辺りを何度も見回す。だが、見つからない。それもそうだ。この幻覚を破る方法などない。たった一つの例外を除いて。

 僕は再度、右目を閉じ、回りを歩き回る。

 羅々はそんな僕の様子を不思議そうに見ている。しかし、何をしているの?とは、話しかけなかった。

「・・・見つけた。」

 僕の視線の先には小原がいた。驚いたことに、堂々と突っ立っていた。恐らくそこは幻覚でカバーされる場所。右目を開けば柱や、ゴミなどがあって、小原の姿は消える。

 そして、この小原の幻覚の使い方はあることを示していた。

 僕は残弾を確認し、小原に向けて、撃った。

 小原は仰天し、弾を避けるように前転する。

 しかし、この行動は小原にとっての最良の行動であったが、同時に僕ら、いや、特に羅々にとっても最良の行動だった。

「しまった!」

 いきなり現れた小原の姿に羅々も驚く。

 小原は銃を取りだし、羅々に向けて、撃つ。しかし、銃弾は明後日の方向に飛ぶ。

 羅々は小原との間合いをとるように後ろに後ずさりした。そして、同時に銃を取り出す。

 小原の背は低めで、150後半くらいだろうか。機動性のよさそうな、スパイの着そうなものを着ている。それに比べると、僕らはいかに観光気分なのだろうか。今更ながら恥を知る。

 髪が長いと邪魔なのだろうか、髪型はショートカットだった。

「長目君。一体、これは?」

 僕は羅々の問いに答える。

「幻覚だよ。」

「幻覚?」

 羅々の呼応に頷いて続ける。

「視神経に何らかの方法で関与し、本来はあり得ない、ものを()()()()()の能力。」

 見せるだけ。そう、見せるだけ。

 つまり、実際には存在するものを、恰も(あたかも)存在しないように見せることはできない。

 羅々なら、言外のこのことには気づくはず。

 なぜ、こう若干回りくどくするかというと、相手に戦略を気づかれないようにするためだ。

 一々、物体を消えたようには見せられない。なんて言ってしまえば、それを元にした戦略は看破される。それを恐れて、だ。もっとも、小原の頭脳が良くできたものであれば、話は別だが。

 心配なのはなぜ、見抜けたかを訊かれることだ。

 羅々なら、気を遣ってくれるのではないかと、思っているのだが。

 なんにせよ、小原は僕らの敵ではない。今回の勝負、貰った。

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