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大邦都地下鉄物語  作者: 切咲絢徒
第一楽章 台柱線
31/53

第卅話 暴走一日前。

「人を殺した・・・?」

 菩巌院と坂堂は耳を疑った。というか、なんでそんな話を僕らに話したんだ?もしかすると、僕らのことはバレている?

 坂堂は内心で物凄く身構えた。少し、身体が強ばる。対して、菩巌院はそんな様子もなく、淡々と話を進める。

「本当に?っていうか、なんで僕らにそんなことを訊く?」

 酒貼はニヤリと笑ってこう返した。

「俺に会いに来た理由はウチのボスの情報を聞き出す為だろ?」

 やはり、バレていたか。坂堂は奥歯を噛み締める。

「しかし、俺も久々に会う友人と殺し合いなんかしたくない。だから、ひとつ、提案がある。」

 提案?

 坂堂は思わず訊いた。

「そう、大介君、改め草平君。誰も死なない。とても安全。」

 それもバレていたか。

「提案って、なんだ?」

 酒貼は不敵に笑い、少し、溜めてこう答えた。

「鬼ごっこ。」


 * * *


「ボス、菩巌院帝刃が酒貼と接触しました。」

 ボス、と呼ばれた男は読んでいた本を近くに置いて、グラスの水を一口含んで返した。

「酒貼か。どうやらこっちもあっちも人は死なないようだな。神前なんとかの方はどうなんだ?」

 部下は

「小原とぶつかるようです。」

 男はため息をついた。かなり長い。

「可哀想。」

 男は長目の身を案じた。

「あいつのあの性格、どうにかならないのか?」

「調教師でも呼びますか?」

 男は部下の冗談混じりな言葉に、いや、いい。と答え、部下を退室させた。

 誰もいなくなり、静寂に包まれたこの空間で男は呟く。

「まだまだ集まらないか。」

 男は手の中のビー玉のような球体を一瞥した。そして、ビー玉をしまい、部屋を出た。


 * * *


 鬼ごっこ?

 こいつはふざけているのか?いや、待て待て、罠か?

「鬼ごっこ?修一ってそんなに足が速いっけ?」

 菩巌院が問う。

 酒貼はチッチッチッと舌を鳴らしてこう返す。

「カーチェイスだよ。」

 坂堂の脳内に現れたのは有名なアクション映画のワンシーンだ。勿論、カーチェイスのシーンだ。

 坂堂はカーチェイスのシーンが好きで、あの緊迫感とスピード感が堪らなく好きなのだ。よって、坂堂の菩巌院を見る目はキラキラと輝いていた。

 それを見た菩巌院は酒貼に「わかった。」と答えた。

 その後、具体的な日取りや時間帯を決め、ルールも決まった。あくまで、鬼ごっこなので、ある程度はルールが必要だ。

 坂堂はワクワクしながら日取りの決定を待った。

 そして、色々と決定した。

 日は明日。車は自由。道路であるならどこを通ってもいい。勿論、菩巌院側が()役。酒貼は笠岡の辺りに車と共に身を潜めているので、発見した瞬間、チェイス開始だ。

 坂堂としては逃げる側が好みだったが、致し方ない。

 車種は酒貼は赤いスポーツカー。菩巌院は青いスポーツカーにした。

 その日は酒貼と別れ、坂堂は家に帰って、中々できなかった夏の宿題をやった。

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