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大邦都地下鉄物語  作者: 切咲絢徒
第一楽章 台柱線
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第二話 遅刻嬢(習犯)

 長目のクラスは3年5組。

 土間から一番遠い教室であるため、荷物が多いときは教室までの廊下はとても長く感じる。

 それ故、運動部の朝練後の生徒は小言を言いながら教室に入ってくる。まあ、吹奏楽部の長目には関係のない話だ。


 2限目。

 1限目は学活だったが、2限目は理科室で実験を行うため、休み時間に移動する。

 理科室は一階で、土間を通り越したその先にある。

 なかなか理科室までも遠いのだが、登校よりかはマシだ。

 一番最後に教室を出たので鍵をかける。

 やっと土間まで来たとき、なにやら会話が聞こえた。土間で、女子生徒と先生が話している。女子生徒はカバンを持っている。なるほど、遅刻か。

 少し興味本意でゆっくり歩いてみる。わざと物を落としたりして時間を稼いだ。

「條原、お前はいつになったら遅刻せずにいられるんだ。」

 遅刻常習犯なのか。女子生徒も3年らしい。

 うーん。受験に響くぞ?なんて、どの立場からいっているかわからないことを考えたり。

「うーん。いつになったらかあ。わかんないなあ。」

 條原と呼ばれた生徒は答える。

 ちらとこちらを見た。條原が。

 なんだ?

「わかりました。じゃあ、私があの人とお付き合いできたらもう二度と遅刻はしません。」

 ・・・

 は?

 先生も何を言っているんだ?という顔をしている。そりゃそうだ。こんなに奇妙な条件はないし、そもそもあんな問いかけをされたら「すみません、次から気を付けます」とかが王道の返事だろ。

 ん、というか僕が責任重大じゃん。うわー。

 先生が言う。

「気にしなくていいからな。早くしないと遅れるぞ。」

 と言われましても。そうもいかない。わざと荷物を落としたため、いろいろプリントをぶちまけてしまい、超面倒なことになっているのだ。あと、もうひとつ理由がある。

 條原が割と可愛い方に分類されるからだ。

 黒い紙をひとつ結びにして、背は160ぐらいだろうか。そして何より、でかい。

 というわけではないが長目の好みであった。

 つまり、長目もべつに嫌というわけではない。

 迷う、迷うぞ。

 すると、條原は近寄って

「かみまえ君?もうそろそろ2限目が始まるし、返事は今日の6時頃に校門前でね。」

 こうさきです。

 という暇はなく、さっさと先生の元に戻っていった。

 きっとこのあとは普通に説教されるだろうし。これ以上條原が説教されるのは見たくないので、さっさと理科室へ向かった。

 背は、僕より低かった。

 うん、アリだ。


 * * *


 なんていうハプニングというか、そういうイベントがあっても割といつも通りの生活を送ってしまう。

 つまり、部活が終わるまで、校門前の約束を忘れていたのだ。

 1年生にサックスを教え、2年生と課題曲を合わせ、部活全体で合奏があり、やっと家に帰れるのだ。

 トロンボーンを吹く友人の坂堂草平と下校する際、思い出した。

「あ、忘れてた。」

 土間で靴を履き替えながら坂堂は

「何を?あ、もしかして、女子の呼び出し?そして、告白されちゃうの?熱いねー。」

 何でこいつの勘は変なところで鋭いんだ?

「そうだよ。羨ましいだろ?」

「え、マジ?」

「何でこんな嘘をつかなきゃならんのだ。」

 その後坂堂は校門までの道のりで「誰?」「可愛い?」「何組?」などうるさかった。

 校門につくと、條原が離れたところから手招きしてた。

「え、もしや、あいつ?」

「そうだよ。羨ましいだろ?」

「かの有名な遅刻嬢じゃねいか。どういう風の吹き回し?」

 そんなに珍しいのか。

「ふーん、そうかそうか。じゃ、俺がいても気まずいだけだから先にいってるね。明日、結果報告よろしく。」

 そう言って帰ってった。

 緊張するのはここからだ。

 告白されるのははじめてだ。しっかり返事ができるのか。


「かみまえ君、私と付き合って下さい。」

 改めて見ると條原は可愛いかった。

 体型も顔立ちもいいし、声も嫌いじゃないし。ただ、

「かみまえ、じゃなくて、こうさき、です。」

 まずは名前を覚えろ。

「あ、こうさきって読むのかあ。ごめんね。」

 さあ、どういう返事をしたらいいんだ?

「えっと、改めて、神前君、私と付き合って下さい。」

「・・・」

 断る言葉なら、わかるけど、承諾する場合はなんていうんだ?

 これで行くか、

「はい、お願いします。」

「本当に?」

「うん。」

 やったー、と條原はいきなり抱きついてきた。

 おいおい、断ったらどうなってたんだ?

 條原を引き剥がして、

「條原、さんは帰る方向はどっちなの?」

 いきなり何を聞いているんだ?僕は。

「あっち。」

 指差した方向は僕の帰る方向と同じだった。

「僕もだよ。じゃあ、一緒に帰る?」

 何か、段階が早い気がするけれど。

 條原はもちろん、と言ってくれた。

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