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大邦都地下鉄物語  作者: 切咲絢徒
第一楽章 台柱線
28/53

第廿七話 寝かせろ!

 いつの間にか寝てしまったようだ。

 目が覚めたときには夕方だった。隣の運転席には菩巌院がいた。

 棒反駅の前。そこに車を停めていた。

「あ、すいません。寝てしまったようで。」

「いいよ、それより、左目はどうだい?」

 左目?

 ・・・

「え!?なんで左目が見えるようになっているんですか!?」

「フフ、タダでものすごい治療をしてくれる医者に頼んだんだよ。」

「眼球移植ですか?」

 菩巌院は首を横に振る。

「それより、もっとすごいこと。君の目に・・・」

 聞かされたのは驚きの事実だ。

「そんなことが、できるんですか?」

「長目君の目が証拠だろ?」

 確かに。しかし、こんな手術、数時間程度で終わるものなのか?まあ、でも、目が治ったんだからいいか。

「ありがとうございます、菩巌院さん。いつか、この恩はかえします。」

「いいよ、別に。あと、感謝するのは僕じゃなくて、治した医者に言ってね。」

「そうですね。」

 菩巌院はレンタカーを返しにいかなければならないらしいので、車に乗って、去っていった。

 僕は車の影が見えなくなるまで手を振り続けた。


 * * *


 翌日。

 この日は情報がないので、休みになった。

 ちなみに菩巌院に、笠岡か、島ノ橋に敵はいるかも知れないとは、話した。羅々は無事に家に帰ったらしい。

 部屋のベッドにぶっ倒れる。

 さっき起きたばかりだが、眠い。更に疲れた。宿題は後でいいや。今日は寝よう。

 しかし、その願いは一時間後に打ち砕かれる。


 バタバタバタバタ。

 階段が騒がしい。長目の部屋は二階なのだが、姉の部屋も二階だ。そして、階段を意味もなく駆け上がるのも姉だけだ。両親は歩いて上がるし、僕はここにいる。

 眠気ではっきりしない意識のなか、扉の向こうを考察する。

 目を閉じてまた、寝る。

 しかし、開け放たれたのは長目の部屋の扉だった。だが、別にやましいものなんて部屋にないし、あ、銃。いや、大丈夫。絶対にバレない。

「起きろ長目!」

 え?

 やだなあ、眠いんだよ。左目は馴染まないし。

「やだ。」

 目を開けずに反抗する。

 しかし、姉は諦めない。

「起きろって、長目!これは、一体どういうことなんだよっ!」

 え?どうしたんだ?悪戯は姉ちゃんしかしないじゃないか。

「煩いなあ、寝かせてよ。昨日は疲れたし。」

「私の話を聞け!」

 ああ、こうなったら絶対諦めない。面倒だなあ。

 起きて、目を開ける。案の定、そこには姉がいた。

 姉の名は神前 梨香(こうさき りか)。背は高く、モデルにでもなれるのではないかという高身長。更にでかい。そして美人・・・らしい。可愛いというより、美人、らしい。僕はそうは思わないけど。何故なら、

 Tシャツに、下はバスタオルを巻いただけという、どう考えても女子として、どうなんだ?という、格好で僕の前に立っているんだもの。

「何?どうしたの?」

「あんた、彼女いんの?」

 ・・・。

 ああ、面倒になった。

 僕はいつになったら休めるのだろうか。


 玄関を開けると、羅々がいた。いつもみたいに笑顔じゃない。うーん、昨日、置いていったことを怒っているのか?

「お、おはよう。きっ、今日はどうしたの?」

 僕はなかなかスムーズに動かない唇をなんとか動かす。

「長目君、昨日・・・。」

 羅々の声はいつもより低く、不機嫌だ。

 あー、やっぱり置いていったことかぁ。大変だなあ。

「ごめん!昨日は・・・。」

「昨日は?」

「昨日は?」

 姉がオウム返しする。格好はさっきのまま。いつの間に降りてきたんだよ。

「昨日は、多岐を見つけたから。」

「滝?」

 羅々は首をかしげる。こういうタイミングだけど、こんな顔の羅々も可愛いのだが、そんなことは言ってられない。

「ほら、あの、ね?」

 状況が状況なだけに余り話せない。姉がいなければ、すぐにでも打ち明けたいけれど。

「き、昨日は、すぐに帰ったんだよ。そう。うん。」

 もういい、嘘をつこう。

「え?でも、あんた、夕方に帰ってきたよね?」

 姉ちゃん・・・。

「どういうことなの?」

 羅々が詰め寄る。

 隣で姉がニヤニヤと「浮気ですかぁ?」と茶々をいれる。少し黙れ。

「姉ちゃんさ、ちょっと外してよ。」

「え?なんで。弟の色恋に突っ込んだ首を引っ込めるなんて無理よ。」

 なんなんだよ。こいつは。

 だが、羅々は頭がよかった。

「あ、多岐さんね。はいはい。懐かしいね。」

 察したようだ。(懐かしいねって、僕はそいつを殺したんだが。知らないから仕方ないか。)

「うん、うん。」

 なんとか相槌を打つ。

 姉は、つまらなさそうにしている。やっぱり、僕は姉ちゃんが苦手だ。

「すいません、お騒がせしてしまって、私、長目君の彼女をやらせてもらってます。條原羅々です。」

 羅々は姉に頭を下げた。ちなみに今日も羅々の服装は白いワンピースだ。他(以下略)

「あ、私、長目の姉の梨香です。」

 姉も頭を下げた。

 取り合えず、一件落着か。

 羅々が頭よくて、よかった。本当に。

「じゃあ、僕は寝るから。」

 今になって、寝間着のままだったことに気付いた。恥ずかしい。

 階段を上がろうとしたとき、

「え?寝かす訳ないじゃん、二人の馴れ初めくらい聞かせてよ。」

 ・・・。

 寝かせろ!

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