第廿二話 堀田 菅崎
坂堂と菩巌院は苦戦していた。
敵は一人、名前は堀田 菅崎。
この、苗字が二つあるようなこの敵の能力は厄介だった。
「くそっ、また、連続通り魔だっ!」
菩巌院は奥歯を噛む。
包丁を持った男が向かって来る。しかし、攻撃は読めている。菩巌院は包丁を避ける。男はその後消える。
「菩巌院さん、どうします?」
「草平君、君はどうする?」
* * *
2時間ほど前。
車丘に着いた菩巌院と坂堂は情報を基にとある民家に向かった。そこは空き家らしいが、廃れることなく、生活感もあり、空き家であることを疑うほど、綺麗だそう。
そんな空き家にやってきた二人は、辺りを見回し、誰もいないことを確認して入る。空き家とはいえ、無断で入れば住居侵入罪、不法侵入だ。
家の中は更に生活感に溢れ、実は空き家ではないのではないかと疑うほどだ。
リビングや、二階。トイレ、風呂の中。隅々まで確認した。しかし、誰もいない。
地下に続く階段を残して。
「ここか。」
「そうですね。しかし、暗いですね。」
階段は深くまで続いているようで、奥はかなり暗い。肝だめしにはちょうどいいかも知れないが、幽霊とか、妖怪等の類いとは違うなにかが出てきそうである。
「行きますか。」
二人は歩き出す。
階段は途中までフローリングの床と同じ材質だったが、途中からは、コンクリートになる。
足音が響く。
夏だというのに、若干肌寒い。
唾をのむ音すら響く。こんなところで楽器を吹いたらいい音が出そうだな。と坂堂は敢えて余裕でいることにした。
二人は喋らない。
長く暗い廊下を歩く。階段は降りきったが、まだ暗い。金田のところよりも陰気なところだ。暗い為なのか、周りは更に肌寒く、それも陰気臭さをもり立てている。
坂堂は鳥肌のたった腕を擦る。
相変わらず足音は響き、相変わらず肌寒く、相変わらず暗い。狭い。暗所恐怖症の坂堂は、さっさと明るいところに出たいと思っていた。
「広いところに出たね。」
菩巌院が久しぶりに声をかけた。
坂堂は辺りを見回すが、どこも暗く、広いどうかはわからなかった。
「そうなんですか?僕はわからないですけど。」
「足音の響き方が変わった。」
坂堂はわざと足踏みした。確かに。違う。
「ここにいるんですかね。相手が暗視ゴーグルとか持ってたら不利ですね。」
「そうだね。・・・構えといて。」
なにを構えるかは言わなかった。しかし、銃のことであることは坂堂は察せた。
なるべく音をたてないように、スライドを引く。銃口を前に向け、歩く。
じゃり、じゃり。
足音が変わる。コンクリートから砂利か土だろうか。ここら辺はまだ、整備されていないのか。
なるべく足音もたてないように歩く。しかし、鳴ってしまう。
カチ。
スイッチを押すような音がした。誰が押したのか?そんなことを考える間もなく、辺りは真っ白になった。
思わず目を瞑る。
明かりが付いたのだ。
長い間暗いところに居たため、蛍光灯の光でも目が眩む。
まずい、ここで攻撃されたらやられる。
一発の銃声。誰だ?うめき声は聞こえない。つまり、被弾してない。
ようやく目が慣れる。しかし、目はしっかりと開けない。菩巌院ではない人影が見える。敵だ。
銃を人影に向けて、撃つ。当たったか。
「草平君!危ない!」
手を引かれる。菩巌院か。引かれた手と反対の手が傷ついた。
「ッ!」
刃物で切られたような痛み。
目が完全に慣れた。
「な、て、敵が、二人?」
敵は二人いた。
一方は座っている。近くにスイッチ。多分、こいつが電気を付けた。もう一方は包丁を持った黒フードの男。夏には暑そうな服装だ、顔はフードのせいでよく見えない。腕を切ったのはこっちか。
座っている方の男は夏らしいすごく夏らしい、半袖半ズボンという、服装で、敵である実感はない。
もしかしたら人質?いや、縛られてはいないようだ。
やはり敵か。
どっちにする?片目を閉じて考える。目を閉じて考え事をすると、頭がきれるらしいが、こんな状況で両目は閉じれない。
スイッチの方だ。
理由は明暗を操作されると目が慣れず、やられてしまうから。
菩巌院にジェスチャーで伝える。「僕はスイッチの方に行く」と。
スイッチ男に銃口を向けた。