第一話 神前長目
大邦都立大邦中学校に律儀に通う神前長目には不思議な力があった。
* * *
「神前ぃー、制服濡れたー。」
同じクラスの長谷川だ。
学ランが確かに濡れている。
「なにやってんだよ。」
どうやら手洗い場で水を飲もうとしたら勢いよく水が出たらしい。
「頼むよー。」
「しゃあないなあ。」
僕は彼の学ランに手を当てる。
手に力を込める。
すると、みるみるうちに学ランが乾いていったのだ。
「サンキュー。」
長谷川はまたどっかへ走っていった。
* * *
神前 長目
彼は触れたものを乾かす能力がある。彼はこの力を「セッコ」と呼んでいるが、同級生はそれを知らない。
何故この力が身に付いたのか、よくわからない。彼の両親がこういった力を持っているわけでもない。つまり、遺伝ではない。
かといって、出産前に彼、若しくは彼の母親に何か起きた訳でもない。
本当に不思議な力だ。
この力が発現したのは彼が7歳の時。
雨上がりの日、水溜まりの上ではしゃいでいた彼の服はびしょびしょだった。
「ながめ!あー、もうこんなに濡らして、風邪ひくよ?」
彼の母親は濡れた長目をタオルで拭こうとする。
「ハクション!」
長目はくしゃみをする。
「ほーら。・・・あれ?乾いてる。」
それほど時間は経っていないし、そこまでタオルで拭いてもいない。しかし、しっかり乾いていた。
当時は単なる偶然というか気のせいというか、そういうものと思っていたが、だんだん、そうも思えなくなった。
そして、これが特殊な力とわかったのは10歳になったときだ。
* * *
やはり不思議な力だが、日常生活ではとても役に立つ能力だし、使用するたび体に不調をきたす訳でもない。
そして、このような能力を持っているのは自分だけと思っていた。
彼女が来るまでは・・・