第十八話 ストレット
なげやりな長目の言葉が脳内で響く。いや、坂堂もめんどくさいことをいっていたが。
何はともあれ、これで條原にストレットを教え(させ)れる。
* * *
電話を切った。
別に羅々が嫌いというわけではないのだが、アイツはTPOを守ってベタベタする。まあ、何かっていうと、所謂ツンデレなのだが、それとも違う気がする。別に人前ではツンツンとはしていない。そうでなくて、他人に迷惑をかけないようにしている感じだ。僕もその方が嬉しい。敢えて名前をつけるなら、えーっと、謙虚(?)で2人きりならデレデレする。うーん。
キョデレ?
ないな。馬鹿馬鹿しい。というか、そんな人間は羅々ぐらいしかいないのだから、そういうの全部、
シノデレ?
もっとない。そんなの山田さんという人がそれに相当したら失礼だ。もうキョデレでいいや。
僕は條原に電話した。
なかなかでない。忙しいのか?
インターホンが鳴った。僕は携帯をスリープモードにして、玄関に向かった。さっきも配達業者さんの対応をしたし、変な部屋着ではないと思う。というか、完全に外用の服を着ている。
覗き穴から外を見ると、羅々がいた。
何がキョデレだ。今思うと、謙虚なんだからケンデレとか・・・いや、ない。
どうしたんだ?ちなみに家は教えてあるので、こいつがストーカー紛いのことをしている訳ではない。僕はチェーンを外して、鍵を開ける。
「や、こんにちは。長目君。今日、空いてる?」
僕はこの瞬間に姉には帰って来てほしくない。と思った。
その願いは叶わなかったのだが、2人はそれを知るよしもない。
「空いているけど、どうしたの?」
補助バッグを持って、白いワンピースを着てきた羅々を見て、僕は同時に、他に服はないのかと思った。
「夏休みだし、宿題やらない?」
ああ、そうだ。そういえば夏休みだ。というか、かなり日が経っているのにあまり終わってない。困った。
「わかった。で、どこでやるの?」
「長目君の家じゃダメ?」
ますます、姉には帰って来てほしくない。と思った。
別に人を入れるなとは言われてないので、了承した。
「ありがとう!」
羅々はめちゃくちゃ喜んだ。そんなにか?
「でもつまんないよ?テレビゲームはないし、パソコンは父さんが改造してわけわかんないことになってるし、携帯はあるけど。」
「長目君。遊びに来た訳じゃないんだからさ。」
「ごめんなさい」
男同士で宿題を集まってやる場合、いつの間にかゲームをしていることが100%ある。しかし、女子はそうではないらしい。
「お邪魔しまーす。」
羅々は始めに、うおお。と声をあげた。
「玄関に靴がない。」
「当たり前だろ。靴箱に入れれば靴はなくなる。」
「いや、え、毎回靴箱に靴を入れてるの?」
「入れてる。」
ええっ!と驚いた。どうやら羅々は靴箱に靴を入れないらしい。面倒くさいのだろうか。
いきなり自分の部屋に入れてしまうと色々と勘違いされそうだからやめた。いや、それ以前に部屋が汚い。
よくこう言われる。綺麗なところは維持する癖に散らかってるところはなかなか直さないよね、と。
ということでリビングに通した。僕は宿題を取りに行くために自分の部屋に向かった。
ワークとかプリントとかを持って、戻る。
「長目君、全然やってないじゃん。」
「ああ、まあ、時間ないし。」
「ええー、時間はあるとかじゃなくてつくるものだよ。」
誰の言葉だ。
「現に羅々が来てさ、時間ができてるからいいだろ。」
確かにね。と羅々は笑った。
宿題をやり始めて、忘れる前に
「あ、あのさ、ちょっと聞いて?」
「ん?なに?」
「ストレットって分かる?」
羅々は少し考え込んで分かんないと言った。
「原山がよく呟いていたやつなんだけど、かなり簡単らしいからこの機会に覚えよう。」
「あ、あれね。」
僕はやり方を教えた。
坂堂が言う通り簡単にできた。因みに僕は覚える必要がないと考えたので、やらなかった。
「本当に私の周りだけが遅くなってるの?」
「うーん。わからない。消しゴムを投げてみれば。」
羅々は僕の言う通りに消しゴムを投げた。
投げられた消しゴムはやたらと遅く飛行し、羅々から少し離れたところで加速した。加速というか、いきなり速くなった。
「おおー。」
こんなに簡単にいくものなのか。
「本当に簡単だね。」と、羅々。
僕はそうだね、と返して、夏の宿題に取りかかった。