第十七話 長電話
翌日。この日は敵の情報がないため、休みということになった。
「っていうか、僕の能力って役立つか?」
僕は真剣に考えていた。
血液を乾かすったってできるの?そんなこと。ナイフを投げたり銃を撃つくらいしかできないじゃないか。いや、別にそれでもいいか。
ピンポーン。
インターホンが鳴った。
今の時間帯は家に僕しかいないので、僕が玄関に向かう。
覗き穴から見ると、宅配業者だった。
チェーンを外して、鍵を開ける。
「はい。」
「神前様ですか?」
配達されたものを確認した。
「はい。」
「では、ここにサインをお願いします。」
紙とボールペンが渡される。
宛先は僕の名前だから、僕の名前でいいだろう。扉を下敷きにして名前を書いた。
「はい、ありがとうございます。」
荷物が渡された。
大きさはティッシュ箱三個くらいか。重さは1キログラム以上あるかも知れない。もっと重いな。
僕は悪戦苦闘しながらガムテープを剥がし、段ボールを開く。現れたのは小さなアタッシュケースみたいな金属製の箱だった。
僕はこの中身を知っている。
金属製の箱を開くと、昨日貰った銃を貰った。説明書付きだ。
説明書は100ページくらいあって読む気が失せた。
銃の箱を僕は自分の部屋の押し入れに入れた。ここなら家族も開けない。だからバレないと思う。
* * *
同刻。坂堂は銃を配達され、それを家族の目の届かないところに置いた。
坂堂には一つ気になることがあった。
原山が幾度か呟いた「ストレット」という単語についてだ。
坂堂は何か手がかりがあるのではないかと菩巌院に電話した。
一度は繋がらなかったものの、二回目で繋がった。
「もしもし?」
「こんにちは菩巌院さん。あの、今日は聞きたいことがあって。」
菩巌院は申し訳なそうにこう言った。
「うーん、ごめん。ちょっと忙しいからあまり長話はできないよ?」
坂堂は大丈夫です、と答えた。
「ストレットってなんですか?」
「ストレット?原山が呟いていたあれ?」
「そうです。」
「あー、あれはね、長くなりそうだからメールしとくね。」
そんなに長いのか。
「わかりました、一段落ついてからで大丈夫ですので、ゆっくりでいいですよ。」
「お気遣いありがと。じゃ。」
しかし、通話が切れた後すぐにメールが届いた。コピペなのか、やたらとタイピングが速いのか。
その内容はこうだ。
『能力におけるストレットとは、自分の能力の効果範囲を定めるものである。
効果範囲が広すぎる能力(アッチェレランドやラルゴ等の時間操作系など)の発動によって社会を混乱させるため、効果範囲を定めなくてはならなかったために開発された。
発動は比較的簡単で、範囲を決めてストレット、と呟くだけで発動する。効果範囲は発動者の心臓を中心とした半径になる。また、効果範囲を発言する必要はなく、頭で思い浮かべるのでもよい。』
何かの資料から引用したのだろうか。文章が辞書の文のようだ。
試しにやってみよう。
坂堂は2メートルと思い浮かべ、「プレスト、ストレット」と呟いた
特に変化はない。というより、周りに動く物がないので変化を感じない。
坂堂は落ちていたボールペンを壁に向かって投げる。壁との距離は2メートル以上はある。
投げた瞬間ものすごく速く飛んだが、2メートル程離れたところで、減速した。しかし、落ちない。そして壁にぶつかった。そしたら、もちろん落ちた。
坂堂はストレットを覚えたのだ。というか、もとから使えたのだが。
これは條原に教えるべきだ。と、思ったが、坂堂は女子と話すのが極端に苦手なのを思い出した。いや、重大な問題なのだが、坂堂はよく忘れる。ということで長目に連絡することにした。
すぐに出た。暇だったのだろうか。
「もしもし?坂堂?」
「そうそう。あのさ、條原に知らせて欲しいんだけど。」
「えー。羅々にぃ?お前が言えよぉ。」
なんだよ、てめえの彼女だろうが。
「俺の性格を覚えろ。」
「覚えてるって、女子と話すと、上がっちゃうんだろ?」
長目のからかうような口調にややイライラとしつつ、
「ああ、上がる、上がる。上がり過ぎて高血圧になって倒れる。それで病院に2回担ぎ込まれた。」
「3回じゃなかったっけ?」
「え?小6のときの沢口と、2年のときの丹崎だろ?」
「あと、新島。」
「あー、あれね。」
話が脱線しているのに気付いた。
「んで、條原に頼む。」
「しょうがないなあ。で、なんて言えばいい?」
「ああ、ほら、原山がちょくちょく呟いてた、ストレットってのあるだろ?あれを教えてやってくれ。」
長目は少し間を開けた。
「えーっとあれか。え、でもやり方わかんねえよ。」
「なあに簡単だよ。範囲を決めて、ストレットって言う。終わり、完了、発動、社会に迷惑かけない、気遣い、な、便利だろ?」
「あーはいはい、理解、理解、了解、伝えます、方法を知れる、社会に迷惑かけない、素晴らしい。確かに便利だな。」
電話が切れた。