第十四話 ラルゴのタネと仕掛け
僕は原山に向けて包丁を突き刺す。
が、もちろんだめ。
包丁を手刀で落とされ、腹を蹴飛ばされる。
「ラレンタンド!」
羅々が僕の速度を遅くしてくたため、ダメージは少なかった。
「どうしたんだよ。長目。いきなり突っ込むなんて。」
坂堂は僕に問う。
「いや、見切り、というか、未来予知を体感してみたくて。」
「呑気だな、でも、なんか考えがあるんだろ?教えてくれなくていい、納得したら伝えてくれ。」
坂堂は菩巌院と共に原山に攻撃を始めた。
蹴られた腹を押さえながら僕は観察する。
二人が闘うのは倒すためでない。時間稼ぎだ。
僕へ攻撃させないための。
だから、考えなければならない。
すべてを観察する、すべてを考察材料にする。
でも、わからない。
見切りの仕組みがわからない。どうやったら見切りができるのか。
僕は既に恐ろしいことを考えていた。
「能力を発動した瞬間、数秒後の出来事を完全に理解する。」
そんな能力ではないかと半分認めていた。
そんなの、絶対に勝てるわけがない。
落ち着け、考えろ。
・・・
あ、
待てよ。もしかすると。
僕は仮説を検証するため、キッチンの引き出しからナイフを投げた。最後の2本だ。包丁はあるが、それは、危険だ。
「ラルゴ、ストレット」
やはり、原山は呟いた。
ナイフをつかみ、投げ返される。僕は伏せて避ける。
壁に刺さったナイフを取ってまた投げる。
また呟く。
僕は原山に殴りかかる菩巌院に祈った。気づいてくれ、と。
ナイフは手で弾き飛ばされるが、菩巌院は何かに気づいたようだ。
「羅々ちゃん!ラレンタンドだ!」
「え?あ、ラレンタンド!」
羅々は能力を発動した。
僕は菩巌院がなにをしたいのかを理解した。
壁にかけてある時計をみる。
今は、1秒の長さが1.5秒くらいか。変な表現だと思う。世界は今、テンポ45ぐらいだろうか。
坂堂も何かに気づく。
僕らはある時間まで、時間を稼がなければならない。
来た!
僕は原山にナイフを投げつける。
もちろん、原山は呟いた。
そして、原山はナイフをとろうとする。
しかし、とれなかった。
そして、刺さった。急所は外したが、怯んだ。
菩巌院のハンマーパンチも決まる。
「ぐ」
唸って倒れる原山を一瞥して、菩巌院が羅々に解除していいよ。と指示した。
「私、未だによく、わかってないんだけど。」
僕は困惑している羅々に解説した。
「原山の能力『ラルゴ』は予知ではなくて、時間を遅延させる能力なんだ。それは、生物に影響しない。だから、菩巌院さんたちが攻撃するときは能力を発動しないんだ。」
菩巌院が説明を受け継いだ。
「だったら、遅延させた時間より遅くしておけば、能力が発動したとき、時間は速くなるよね。」
僕は頷いた。
成る程と、羅々は呟いた。
しかし、呟いたのは羅々だけでなかった。
「成る程な、ここまで僕をやる奴は初めてだ。銃を取ろう。」
原山が立ち上がろうとする。
「羅々ちゃん!ラレンタンド!」
「ラレッ・・・」
「させるかッ!」
原山は発砲した。
耳がキーンとするのはどうでもいい。再び、恐怖が襲う。
僕らは後退りして、間合いをとる。
「さあ、どうする?」
僕は落ちていたナイフをとろうとする。その近くに弾痕が現れた。
「油断したな。」
原山は余裕の笑みを見せた。
万事休すか。