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大邦都地下鉄物語  作者: 切咲絢徒
第一楽章 台柱線
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第十三話 銃に怯えるな 死を恐れるな

 建物中は、外見同様、普通の一軒家のようだが、山路戦と違い、今回は銃がある。つまり、罠があるかも知れない。僕らは慎重に足を下ろし、足を上げ、また足を下ろす。

 原山がどこにいるかはわからない。

 身を低くして、音を立てずに歩く。

 リビングらしき部屋に到着した。

 そこには、原山はいない。

 豪邸とは言えないが、広めのこの家に隠れるところは多そうだ。しかし、その状況は原山の方がやや有利である。何故なら、原山はこの家の構造を知っている。対して僕らは知らない。

 菩巌院が手で、別れろ、と合図する。

 4人はバラバラの場所に身を潜める。

 僕はリビングから壁をひとつ挟んだキッチンに隠れた。壁はあるが、キッチンからはリビングの様子がわかるし、そして、キッチンとリビングの間には扉はない。

 キッチンを選んだ理由は、自分の能力が「乾き」であるため、水がある場所の方がいいという判断だが、今考えると、何故そこなのかはわからない。菩巌院はリビングの扉に近い棚の横。坂堂は机の下。羅々は二階へ続く階段の裏だ。

 高い天井にある換気扇の音だけが鳴り響く。

 僕は、シンクの下の引き出しからなるべく静かに包丁を取り出した。そして、ナイフも3本出して、また、静かに引き出しを閉じる。

 この武器を3人に渡したいが、そんなことはしていられない。

 緊張で息苦しい。

 なんとか(うるさ)い鼓動を落ち着かせようとする。しかし、僕の心臓は言うことを聞かない。そればかりか、どんどん煩くなる。

 呼吸をするたび、息は震える。静かに呼吸をしたいのに、できない。だから、息を止めてしまう。でも、それも苦しい。

 逃げたしたくなる自分を律する。

 長谷川の仇を討つため。

 僕はそれを脳に浮かべると、少し、緊張も失せた。

 さあ、来い。

 刹那、銃声。

 緊張と不安の塊であった空気が恐怖に支配される。

 僕らはなるべく身を隠す。

 原山は扉から現れた。つまり、菩巌院が一番近い。

 僕は壁からリビングの様子を窺う。原山は辺りを見回していた。そんなとき、目が合う。

 僕はさっ、と壁に身を隠す。

 鼓動は再び、煩くなる。


 菩巌院は原山の姿を見つけると、すぐに叫んだ。

「グラーヴェ!」

 原山は声のした方を向き、呟く。

「ラルゴ。」

 原山はゆったり歩く。長い足を見せびらかすように。

 菩巌院は原山に向かう。

「オオオオオオ!」

 殴りかかる。

 グラーヴェは、生物含め、物体を重くする能力。もろに受けたはずだ。つまり、ろくには動けない。

 しかし、原山は菩巌院のパンチを払い、腕をつかんで、そのまま背負い投げをした。

「ぐ」

 菩巌院は痛さで唸る。

「能力は何かに向け、発射し、着弾したら、発動する。ならば、着弾しなければいいだろう。」

 原山は誰かに解説をした。僕らに向けてなのだろうか。

 僕は、ナイフを一本投げつけた。漫画みたいにまっすぐは飛ばず、回転しながら飛ぶ。しかし、確実に原山に届く威力だ。

「そこにもいたのか。」

 原山はまた、ラルゴ。と呟き、「ストレット」と付け足した。そして、いとも容易くナイフをつかんだのだ。

「闇雲な攻撃は己を追い詰める。」

 掴んだナイフをそのまま投げ返された。今度はまっすぐ飛んでいく。

 僕は、とっさに伏せた。

 菩巌院が立ち上がるのと同時に坂堂が椅子をもって原山に叩きつけようとする。しかし、それを片手で抑える。

「だから、俺の話を聞いていないのか?闇雲な攻撃は己を追い詰める。」

 坂堂を横に椅子ごと投げ飛ばす。

 羅々は叫んだ。

「ラレンタンド!」

 飛ばされた坂堂の速度はどんどん遅くなり、立ち上がった菩巌院が坂堂を受け止める。

 羅々は指を鳴らして解除する。

 あいつも、色々考えてんだな。しかし、僕には感心している時間などない。

 僕は、二本目のナイフを投げた。今度はまっすぐ飛んだ。しかし、投げ返される。

「闇雲に攻撃してはならない。そんなのでは僕は君たちに銃を向けずに勝てる。」

 原山の台詞に、僕は、撃たないのならそりゃ嬉しい。と、ひねくれた。

 僕は、原山に絶えず向かう、坂堂と菩巌院、それを援護する羅々を見ながら考えていた。

 奴の攻撃パターンは、反撃のみ。

 カウンターというか、相手の攻撃を利用した攻撃。カウンターという言葉が合うかはわからない。

 僕は原山が背を向けたタイミングを見逃さなかった。すかさずナイフを投げた。

 もしかしたら、

 奴の能力は「先読み」なのではないか。

 だとしたらきっとこのナイフを避けれるはず。

 予想通り、原山は避けた。しかし、予想外はここからだ。

「しまっ・・・」

 ナイフの先は坂堂だった。

 奇跡的に、坂堂はナイフを避けた。しかし、頬をかすってしまい、傷から赤い血が出る。

「気を付けろよな!」

 坂堂は怒鳴った。

「ごめん!」

 やはり、先読みか。

 能力がわかったが、対応が、できない。

 先読みを破る方法。

「長目君!何か、わかったか!?」

 菩巌院の問いに僕は

「恐らく、見切りじゃないかと思います。」

「見切り?」

 菩巌院は攻撃をやめた。それをみた坂堂もやめた。

 二人の様子をみた原山は、

「やめるのか?」

 と、挑発した。

 しかし、誰も挑発には乗らない。

 坂堂と菩巌院は間合いをとる。

「見切りだと?そんなの、勝てるわけがない。」

 坂堂は苛立った。

「しかし、なにか、裏はあるはずだ。」

 僕は確信した。当たり前のことだが、原山が発する言葉。「ラルゴ」が能力であろう。そして、それを呟くたびに先読みが発生する。

 なら、それをやめさせればいい。

 僕は包丁を持って、原山に向かっていった。

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