第十一話 平坂園捜索開始
下絵に着いた。
山路家に向けて歩く。
車はそんなに通っていない。菩巌院がいきなり走り出すため、坂堂は急いで追い付く。
「ちょっと、いきなり走らんといて下さい。」
「ちょっとね、一刻も惜しくなって。」
どういう理由だよ、と思ったけど言うのをやめた。
山路家は前回と変わりはなかった。外面的なところだが。
菩巌院はインターホンを押す。カメラに顔を向ける。すると、いきなり通話は切れて、玄関から山路が出てきた。
「なんの用だ?」
菩巌院は懐かしい友人に喋るような口調で言った。
「ちょっと、平坂園のお仲間さんの情報を教えてくれない?」
「フン、教えると思うか?」
「ハンマーパンチ、いきますか。」
菩巌院は握りこぶしを見せた。
「わかった、わかった。だが、俺は腐っても組織の一員だ。裏切り者として殺されたくない。」
なら、始めから言うなよな。
「原山」
とだけ言って山路は扉を閉じた。
「あ、おい。」
坂堂は山路に向けて叫ぶが、菩巌院は「無駄だ。」と切り捨てた。
「どうせ話はしないさ。さすがにハンマーパンチをしてもこれ以上は話さない。俺ならな。保身とかじゃなくて、奴等にも仲間を思う感情があんだよ。」
菩巌院は遠くを見ていた。
なにか、あるのだろうか。しかし、杏騨騾大学のこと同様、聞くのは良くないと思って、菩巌院が歩き出すまで待った。
* * *
「羅々、僕の能力って闘い辛くない?」
僕は本気で悩んでいた。前回の山路戦では、能力を見破るということのみで、個人的には役立っていないと少し負い目を感じていた。
長期戦になればきっと気づいたと思うし、早く気づいたからいいとは思うが、菩巌院なら、僕があのタイミングで気づかなくても、すぐに気づいたはずだと思う。
つまるところ、なにか闘い方を考えなければならないのだ。
菩巌院は、わかりやすい。現にあのハンマーパンチで表した。
坂堂は空手をやってるし、羅々はわかんないけど僕の方がもっとわからない。
「体内の血液とか、乾かせないの?」
羅々は前触れもなく言った。
血液を乾かす?
「わかんない。」
それは、やったことがない。
もしできるのならば、虚血状態にできるし、心筋梗塞も引き起こせるかも知れない。
「なかなか良いアイデアじゃん。」
「でしょ?私、天才だから。」
よし、なんとか役立たずにはならなさそうだ。
ファミレスの扉が開いた。
菩巌院と坂堂が戻って来た。
「おーっす。襲われなかったか?」
坂堂のテンションはなぜだか高い。というか、物騒なことを言うな。
「今度の敵の手掛かりがわかった。」
菩巌院はそう言った。
「え、本当ですか?というか、山路は喋ったんですか?」
「喋らなきゃわかんないでしょ?」
意外。なんというか、そんなのでいいのか?
「原山、という者だそうだ。」
原山。どっかで聞いたことがある名前だな。まあ、珍しい名前でもないか。
「今からここら辺を片っ端から探す。見つけたら僕の携帯まで連絡をしてくれ。」
菩巌院はそのあとに電話番号を教えてくれた。
ここで羅々が口を開いた。
「あのー、私、携帯持ってないです。」
「あ、じゃあ彼氏さんと一緒に動いて。」と菩巌院。
羅々ははーい。とやたら嬉しそうに返事した。僕は色々な意味で大変そうだ。
僕らは西側。坂堂は東側。そして菩巌院は北側の捜索と決まった。南側は平坂園があって、住宅地は少ないからだ。
「じゃ、解散。」
こうして原山捜索が始まった。
駅から西側を歩く。
夏休みのせいなのか、観光客が多い。目当てはやはり平坂園なのだろうか。いや、確か最近新しいショッピングモールが近くにできたらしいからそっちか?だったらひとつ前の恋池で降りた方が良い。そもそもショッピングモールの名前も「恋池店」とついている。
きっと平坂園かショッピングモールのどちらかへ向かう観光客というか、道行く人の流れに若干逆らいながら、西を目指す。
「住宅地はまだみたいだね。」
羅々はたまに喋る程度で、珍しく静かだ。いや、話す内容がないのも理由か。
「もう少し歩けばあると思うけど。」
僕はふたつの不安があった。
家を見つけても原山自身が留守だったらどうするのか。そもそも原山は本当に平坂園にいるのか。
そして、僕は一体どうやって闘えばいいのか。
あ、3つか。
と、考えていたら住宅地に入った。
羅々は左側、僕は右側を重点的に探した。
「うーん、ないなあ。」
5分程歩いた後の羅々の感想だ。
そんなにホイホイと敵のアジトは見つからんだろう。
ふたつ、分岐があったけれど少し覗いたら、かなり続いていたから後回しにした。
携帯が鳴った。
表示は「坂堂」と、あった。
僕はすぐに電話に出た。
「もしもし。」
「もしもし、長目?菩巌院さんにはもう連絡したんだけど、原山って人の家を見つけた。」
「本当か?」
「そうだよ。なんで、そんな嘘をつかなければならなきゃなんだよ。」
坂堂は不機嫌な声でそう言った。
「場所はどこら辺?」
「メールで住所を送るから、地図アプリで探しといて。」
一方的に切られた。
「場所、わかったの?」
羅々がきいた。
僕は「うん」と答えて、送られたメールの住所を地図で検索した。
「あ、うーん。まあまあか。」
羅々に行くよ、と言って携帯の画面に沿って歩き始めた。




