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大邦都地下鉄物語  作者: 切咲絢徒
第一楽章 台柱線
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第十話 平坂園へ

 翌日。

 僕らは例のごとく棒反に集合した。今回は羅々もいる。

「昨日はごめんなさい、どうしても外せなくて。」

 僕は少し反感を得たが、断る理由も理由なので、仕方ないと流した。

「まあ、大丈夫だよ。」

 菩巌院は穏やかにそう言う。

 今日の目的地は平坂園。台柱線の終点で帝日五大庭園の一つ、平坂園の最寄り駅だ。

「さあ、行こう。」

 僕らは台柱線に乗り込んだ。

 今度こそは犯人が見つかると良いなと願いつつ。


 結局、しりとりをすることになった。

 羅々は前回同様、僕の肩を枕に寝ている。

「鮭」

「肩甲骨」

「ツリウム」

 なんだそれ。

 こんな感じで僕は今回もズタボロだった。

「相変わらず、ボキャブラリーがないな。」

 坂堂に呆れられた。いや、あんたらが歩く百科辞典なんだよ。

 今回は菩巌院の勝ちらしい。因みに最後に出た言葉は「魑魅魍魎」

 よく出るよな。

 羅々は穏やかな顔して寝ている。隣で謎の激闘があるのにも関わらず。まさに対岸の火事って感じだ。いや、飛び火なんかしないか。

 第二回戦が始まった。

 僕からだ。ここは敢えて「リーダー」で行こう。

「ダイナマイト」

「トリケラトプス」

「スライダー」

 ダ攻めである。

「大根・・・おろし」

「シソ」

「ソーダ」

 食らえ、坂堂。貴様に勝ちの文字はない。

「団子」

「誤差」

「サイダー」


「鉈」

「た、タダは言ったし。た、た。」

 策士、策に溺れるだ。

 結局僕はズタボロで、菩巌院と坂堂の一騎討ちになったタイミングで、平坂園に着いた。

「ん、むう。あ、おはよ。」

 おはよ、ではない。

 平坂園駅から出た僕らはひどく照った太陽から逃れる為に僕らは近くのファミリーレストランに逃げ込んだ。

 エアコンがきいた店内は天国のようで、椅子に座ればもう立ち上がりたく無くなった。

「これからどうしますか?」

 坂堂は菩巌院に訊く。

 向かいで座る菩巌院はうーんと唸った。

 隣の羅々も何かを考えこんでいる。

 情報もなしに乗り込んでしまったので、ここで行き詰まったのだ。

「山路に聞いて来るか?」

 山路の居る下絵は平坂園から数駅だ。

「話してくれますかね。」

 案ずる坂堂に菩巌院は、なら、またハンマーパンチをすれば良い。

「すぐに戻って来る。草平君と僕で、下絵に行ってくるから二人はここで待ってて。」

 え、ちょっと。

 僕の声を無視して彼らは店を出ていってしまった。

 視線を感じたので、隣を見ると、僕を狙う獣がそこにいた。

「ホテルにでも行く?」

 耳元でそんなことを囁かれて僕は色々危なかったが、なけなしの理性を総動員して、何とか取り戻す。

「じょ、冗談でしょ?」

 というか、まだ中学生ですし、そういうのは早いと思います。

「どうだろうね。」

 不敵に笑うなっ。

 僕はさっきまで菩巌院が座っていた椅子に移動した。

 ああ、早くもどってきて。


「山路は話さないと思います。」

 坂堂はこれで五回目のセリフを吐いた。五回目の今回はやや独り言のように呟いた。

「じゃあ、どうするんだ?金田のところに行って、三日待つの?」

 それは、と坂堂は口ごもる。

「急ぐ必要はないけど、ここまで来たら引き返すのもナンでしょ?」

 坂堂は六回目を言いそうになったがやめた。もう無駄だから。

 国立博物館に到着した。ここら辺は地上の区間だから、窓際は若干暑い。

「今頃、長目はどうしてますかね。」

「羅々ちゃんに襲われてなければいいけどね。」

 菩巌院は笑ったが、坂堂は笑えなかった。本当にありうるからだ。

 ふと、窓を見ると大企業の本社が見えた。

「あ、堺田出版だ。」

「ほんとだ。でも僕、あの会社好きじゃないんだよね。」

 菩巌院はそう言った。

 次に見えたのはとある有名大学だ。

杏騨騾(あんだら)大学ですね。」

「僕、あの大学も嫌いなんだよね。」

「なんか、あったんですか?」

 杏騨騾大学は近代の頃、外国の教授が立てた国際系の大学だ。

「読めない。」

 いや、それは。理由が。

 きっとそういう理由ではないことを何となく察したが、聞くのはやめた。

 列車はもう地下に入っていた。

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