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大邦都地下鉄物語  作者: 切咲絢徒
第一楽章 台柱線
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第九話 下絵駅に向かえ。

 3日後。

 菩巌院に呼び出されて、喫茶店「アポロ」に来た。

 どうやら調査結果が届いたらしい。

 金田は成功報酬を取ったり、中途報告等はしないため、結果報告も郵送で送るらしい。

 羅々は家の都合のため、来ていない。

 いるのは、坂堂、菩巌院、あと僕。

「結果は、成功。能力持ちを発見した。」

「お、やった。」

 坂堂はガッツポーズをする。おいおい、本番はこれからだぞ。

「羅々ちゃんは来れないんだっけ?」

 僕は頷いた。ってか、アイツはいったいどういうつもりなんだ?

「そうか、まあ、男だけの方が色々楽そうだし、いいか。」

 誘ったのはあんただろ。

 僕らは飲み物を急いで飲み干して、店を出た。

 向かうのは下絵(しもえ)

 下絵は台柱線と大邦急行(通称、邦急)先川線との乗り換え駅で、住みたい町ランキングでは、毎年ベスト5に入る。

 そんな町に能力持ちがいるとは。

 とにかく、僕らは下絵に向かうことにした。


 棒反から台柱線に乗り込み、約25分。

 僕らはずっとしりとりをしていた。相変わらず僕はボロ負けだが、珍しく菩巌院さんが詰まっていた。

 下絵に到着した。

「さすが、今年度住みたい町ランキング第三位。キレイな町だ。」

 ご丁寧な感想を述べたのは坂堂だ。

 確かに、煙草の吸殻もペットボトルも落ちていない。ボランティアの頑張りなのか、町にいる人々の心掛けなのか。

「ここから10分程度歩いたところに奴はいるらしい。」

 菩巌院は僕らに能力持ちがいるとされる建物の写真を見せてくれた。

「なんていうか、フツーの一戸建てですね。」

 坂堂の感想は的確で、よくある、というか、特徴のない家だった。

「だからこそアジトに相応しいんじゃないか?」と菩巌院。

 確かに、あまりに目立つとそれはそれで危ない。

 僕は写真を注目した。

「表札は山路(やまじ)かな?」

「うむ、じゃあ、行こう。」

 僕らは駅から南の方へ向かった。

 とても閑静な住宅街に入った。

 朝10時頃。余り、人は外出しないような時間だからだろうか、本当に人通りが少ない。

 そして、いともあっさりと山路家を発見したのだ。

 写真と見比べるが、間違いない。ここだ。

 菩巌院がインターホンを押した。

 ピンポーン。

 少しして男の声が聞こえた。

「はい、どちら様でしょうか。」

 インターホンはカメラつきで、相手は僕らの顔が見えているだろう。

 菩巌院はカメラに向かって小さな紙を見せた。それは「GP」と書かれたものだ。そう、長谷川、菩巌院の友人の交通事故の現場に落ちていたものだ。

 少し、間があった。

「中に入れ。」

 インターホンの通話は切られた。

 玄関の方からガチャという音がした。

 僕らは家の中に入った。

「お邪魔します。」

 部屋のなかは、代わり映えのない部屋だった。

 靴を脱いで、部屋に入る。すると、大きめのダイニングテーブルの回りに椅子が5脚あった。部屋の扉から一番遠い席に男が座っていた。

「その紙を俺に見せるとは・・・なにが目的だ。」

 菩巌院はいつもより語調を強めて言った。

「この紙について知っていることを全て話せ。」

 男は「レジェーロ」と言った。口癖だろうか。意味はわからない。

「そう簡単に俺が言うと思うのか。」

「言えば手荒な真似はしない。」

 男は大きな声で、は!と嘲笑した。

 迫力がすごく、僕らは立ち眩んだ。

「まるで自分らが有利であるような言い方だな。」

 こいつ、なにか、自信があるのか?

「もう一度言う、大人しく話せば手荒な真似はしない。」

「じゃあ、話さないから戦おうや。」

 菩巌院は山路に向かって行った。

 山路は菩巌院に向けて息を吹いた。

「なにが、したいんだ!」

 菩巌院は山路を殴ろうとする。しかし、菩巌院は吹っ飛んだ。風に吹かれた木の葉のように。

 やはり、相手も能力持ち。対応しなければならない。

 何故、菩巌院は吹っ飛んだんだ?

 僕は思考を巡らす。山路が菩巌院にしたアクションはなにか。いや、息を吹いただけか。しかし、何故、あのタイミングなんだ?

 そして、その後菩巌院が飛んだ。

 まさか、息で吹き飛ばしたというのか?勿論、肺活量とかではない、何かの能力だ。

 これは厄介だ。

「菩巌院さん、相手は息で菩巌院さんを飛ばしたんです。」

「それは何となくわかった。しかし、能力がわからん。」

 一体どういう能力なのかを知れれば対策はできる。

「たしか、レジェーロとか言ってたけど、それは関係するのか?」

 坂堂は僕に問いかけた。

 あるかもしれない。

 しかし、名前がわかっても効果がわからない。

 山路はダイニングテーブルを片手で軽々と持ち上げて僕らに投げつけた。

「なんだよ、アイツは。とんでもねえ怪力持ちでもあんのかよ!」

 坂堂は叫んだ。

 飛んでくるダイニングテーブルを避ける。しかし、衝撃なのか、僕らはずっこけた。

「痛い。」

 僕は運悪く、ダイニングテーブルの角に頭をぶつけてしまった。

「手荒な真似なんかできてねえじゃねえか。」

 このままでは山路の策略にはまってしまう。

 あいつの能力はなんなんだ?

 レジェーロ、レジェーロ、レジェーロ。わからん。

「もう一発行くぞォ!」

 次に山路は観葉植物を投げた。大きなパキラだ。僕は伏せた。そのとき、菩巌院が隙を付くように山路に向かって行った。それを見た坂堂も向かった。僕は情けないが頭がまだクラクラして、うまく動けない。

「だーかーら。意味ないって、言ってんだろ?」

 二人とも吹き飛ばされた。

 僕は何とか立ち上がろうとパキラをどかす。

 あれ?こんなに軽いものなのか?

 僕は割りと容易くパキラをどかした。そして二人のもとに向かう。さっきより更に大きく吹き飛ばされていた。

「ヤバいな。どうする?」

 菩巌院は僕に問いかけた。坂堂も「テスト、17位さんよ。なんか思いついたか?」と、言う。

「いや、さっぱりだ。」

 なにか、ヒントはないのか?

 ・・・もしや?

 山路は次にタンスを投げた。今回は皿もある、飛び散ったら危ない。

 僕は飛んでくる箪笥に落ちていた辞書を投げた。

 すると、箪笥は辞書に押し返され、僕らのもとに来る前に倒れてしまった。

「長目君、どうやったんだ?」

 菩巌院だ。

「何となくだけど、山路の物を投げる攻撃はこれで防げる。」


「なんで辞書を投げたんだ?」

 坂堂は僕に聞いてきた。

 山路は怯んでいる。

「僕はある仮説を立てたんだ。」

 まず、パキラが異様に軽かったこと。

 観葉植物を持ち運んだことはないが、あの大きさであんなに軽々と持ち上げれるものとは思えない。

 そして、山路の攻撃。

 ダイニングテーブル、箪笥にパキラ。そこまで筋骨隆々でもない山路が家具を片手で持ち上げ、投げ飛ばすというのは想像しずらい。

 そして、息。

 そこから導き出されるのは、

「レジェーロは、物体を軽くする能力。そしてそれは生物に影響する。」

「成る程、だからあんなに物を投げ飛ばせるんだ。」

 しかし、山路は余裕綽々だ。

「能力がわかったところで、なんになる?俺が指を鳴らすまでお前らはずっと軽いままだぞ?」

 菩巌院は山路に向かって行った。

 馬鹿だな、と呟いて山路は菩巌院に息を吹いた。

 しかし、菩巌院は飛ばされなかった。当たり前だ。菩巌院の能力は「グラーヴェ」

 物体を重くする能力。そしてそれは生物に影響する。

 つまり、山路の天敵だ。

「喰らえ!」

 菩巌院は怯んだ山路にハンマーパンチをした。きっとそのパンチはグラーヴェで更に重くされているだろう。

「ぐへぇ!」

 この声が証人だ。


 山路は気を失ったため、目を覚ますまで少し待った。

「ぐ、ああ、そうか・・・やられたんだっけか。」

 山路は上体を起こし、菩巌院に向く。

「約束だったな。俺はその紙を置いた人間を知らない。だが、それを知っているであろう人物は知っている。」

 誰だ。と菩巌院が言った。

「名前は教えねえ。ただ、平坂園にいる。」

 山路はそれを答えたらもう、黙った。きっともう話してはくれないだろう。

 僕らは山路に礼を言って、部屋を出た。


 山路家を出ると、もう12時だった。

 ぐるるるる。

 腹の獣が唸る。

「腹減ったな。なにか、食おう。」

 菩巌院は僕らを誘った。

 坂堂は「アポロのパスタが良い。」と言ってついて行った。

 僕はその後ろ姿をみて、歩き出した。

2018年 6月28日

 加筆しました。

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