サイクル
はじめまして。
おはようございます。こんにちは。こんばんは。
人生は何が起こるかわかりません。
少女はいつのまにか引っ越しという職人業にはまっていたのでした。
プロローグ
なんでこんなことになったのか自分にもわからない。
ただ自分の選択に間違いはなかったと思っている。
だってこんなにも楽しく充実した毎日が送れているんだから。
1.
グワッグワッ グワッグワッ
間抜けな音がする。
自分の携帯を持つようになってから、設定画面でなんとなく見つけたアヒルの鳴き声。
いつからか朝のアラーム音はこれでないと起きられなくなってしまった。
低血圧の自分には朝にこの間抜けな音。
腹が立って速攻止める。
布団からでれない。寒い。
当たり前と言われれば当たり前。
冬休みが明けて現在1月終わりあたり。
全然まだ寒い。地球温暖化も冬眠中らしい。
かったるいと思いつつ布団からつちのこみたいにのそのそ出る。
窓の外には雪が降っていた。
どおりで寒いわけだ。
鼻をすすりつつテレビをつける。
枠が、ない。
おかしい。雪降ってるんだぞ?
警報くらいだせ。
若干理不尽だと思いつつ舌打ちをかます。
行きたくない。行きたくない。
なんでわざわざ雪の降ってる日に学校に出向かなきゃならんのだ。
この雪だ。いつものチャリンコ勢もみんなバスで来るだろう。
そうなったら遅刻は百パーセント免れない。
そもそもバスが時間どおりに来るとも思えない。
そうだ。自主休校にしよう。
もう一度布団に入り直した。
それからは早かった。なぜなら眠るだけだから。
きっと学校から電話がかかってくるんだろうな。
と思いつつ眠りに落ちた。
起きた。
起床。
二度目のおはよう。
あたりを見渡す。
ちょうど右肩の上くらいに携帯が置いてある。
ボタンを押すと学校からの不在着信が三件。
なんだか照れた。
あちゃー、と思いつつかけ直しはしなかった。
めんどくさいの一言につきる。
二度寝からの起床はこんなにも体が軽いのかってほどにすんなり起き上がれた。
窓の外の雪は相変わらず降っている。
十七時三十分からのバイトまでにはなんとかやんでくれよ、と思いつつ台所の方に足を運ぶ。
何もない。
これもまた相変わらず。
しょうがなくインスタントラーメンを手に取る。
昨日も食べた。
そんなことをぼんやり考えつつ鍋に水を溜め火にかけた。
沸騰するまでに顔を洗って歯を磨こう。
ひとつひとつの作業がそこまで早くはないので八分ほど費やした。
寝癖は、まあ後で直そう。
昭和の味 醤油ラーメン
我が家はこの味に惚れ込んでいるらしい。
たしかに美味い。
なんというか鶏ガラだ。
そうだな。これにネギとチャーシュー、卵もあったらさらに胸が熱くなるのだが。
カットしてあるネギを発見。賞味期限が過ぎている。
チャーシュー。我が家にそんなものがあるはずはない。
卵。茹でるのだるい。
………。
今日も具なしだ。
大丈夫、美味い。美味い。
暗示ってすごい。
美味く感じた。
というより美味くなくてもラーメン以外の食品がないため食べるしか選択肢はない。
大丈夫、美味い。美味い。
完食だ。
そうだな、星三つだな。
インスタントだけど。具なしだけど。
昼食後すぐさまパソコンを開く。
無料動画サイトを開き大好きな歌のオフボーカル動画を流す。
歌うことは好きだ。昔から大好きだ。
酔えるから。少なくとも普段の自分よりは輝けている気がしたから。
誰かに言われたわけではない。
自己満足の何が悪い。
好きなことを誇りに思ってもいいだろう。
五つの指でも余るくらい得意と呼べるものがないのだから。
自己満足でもせめて歌うことは得意にいれさせてくれ。
バイトまでの時間、いつもどおり歌って過ごした。
これはいつもの流れだ。
十七時過ぎそろそろバイトの準備をしよう。
ようやっとパソコンをシャットダウンする。
正直歌を歌って疲れた感は否めない。
でも時間は過ぎる。
バイトの時間はやってくる。
頭悪いけどするべきことはわかる。
社会に片足突っ込むってきっとそういうこと。
外に出て冷たい風がつま先から頭のてっぺんまで伝っていった。
慌ててマフラーを取りに家に戻る。
寒い。とても寒い。
雪は少しやんだ。傘をさすほどでもない。
滑らないように下を見て歩いた。
長い横髪が垂れてくる。
寒かったからそれがちょうどよかったりもする。
側から見たら暗い女がとぼとぼ歩いているようにしか見えない。
どう思われようが勝手だ。こっちは寒くて寒くて仕方がないんだよ。
もはや信号の待ち時間さえも寒すぎて苛立ちを覚えるほどだった。
早くバイト先に着こう、と少しだけ歩幅を広くした。
寒さにやられつつようやくたどり着いた。
バイト先は暖かかった。
暖房の温かみってびっくりする。
発明した人に感謝しかない。
挨拶をして休憩室に入る。
一年近くもやっていれば制服に着替えるのも二分ほどで完了する。
二十八分。
大丈夫。まだ間に合う。鍵を掴んで颯爽と休憩室から出る。
おはようございます。
職場ってどんな時間帯でもおはようございますなんだよな。
一つ目のバイト先の時に初めてそれを知ってしばらくびっくりしてた。
バイトしていない学生はそれを知らないのかと思うと、少しだけ自分の方が優位に感じた。
十七時三十分。中途半端な時間。
少しだけ腹が空いてきた。
二十一時に上がる頃にはきっと腹が鳴っていよう。
自分がどれだけ腹が空いていようが、二十一時で上がるまでは顔も名前も知らない客どもに飯を提供せねばならんのである。
めんどくせえ。家で食え。と思いつつ近くにいた従業員に言う。
「あー、早く次のバイト探さないと。」
間宮 遥はこの台詞を昨日も言っていた。