恋してえ
つづくかわかりまへん
「あっつ...」
エアコンの付いてない狭い部屋で、ベットに足をかけ寝転んだ汗だくの青年が愚痴をこぼす。
「クーラー...あつい...はぁ...クーラーいきろ...生き返れ......つけ...」
ボロアパートに住んでいる竹中裕二(23)がボロエアコンに命を吹き込もうとしたが失敗した。
少し前まで続いた悪天候により雷が近くに落ち、一時的に停電が起きてここら一帯が軽くパニックになっていたが、すぐに復旧したため混乱に乗じて火事場泥棒がヒャッハー的な感じにはならなかった。
ならなかったが知り合いから譲り受けた格安ボロボロ電化製品(エアコン冷蔵庫レンジなど)がダメになってしまったため、厚い雲が過ぎ去ったこの空から降ってくる日差しとエアコン無しでガチンコバトルしている。
「せめて冷蔵庫はよぉ〜...負けんじゃねーよ...くっっせぇし...」
中身はすぐに抜いたため何も入っていないのだが、冷蔵庫特有の冷えてますよ的なスメルがまったく冷えてないのにしてきてなんだか頭が痛くなるようなバットなスメルに進化している。
「あぢ...あぢ...クラクラしてきた...ク...クーラーだけに...ブフッ」
思いついて言うのに迷ったギャグを自分で言って自分で笑うという奇行に走ってしまった。これは全部夏のせいだ。
たぶん。
「あ、バイト行かなきゃ...」
アイスの様に溶けそうな体をがっちり固めてから、おもむろにシャツとパンツを脱ぎシャワーを浴びる。
万一シャワーになにかあったら恐らく富士山の火口から飛び降りていたかもしれないと思ってしまうほど冷たい水が気持ち良い。
さっと汗を洗い流し、体と頭を拭いて、年の離れた姉から「別におかしくはないよ!」と言われた(なんか嬉しかった)Tシャツを着て、鏡に向かって満面の笑みで「いらっしゃいませ!」をぶちかます。やはり俺の接客力は53万だな...と元気なさげなマイサンをプラプラさせながら思う。
髪の毛を清潔感もありながら少し毛先を遊ばせ「俺ちょっと遊んでるけどバイトは真剣にやりたいから抑えてるよ」感を出せる(当社比)自己流テンプレ髪型にして、パンツ履いて...ジーパン履いて...リュック背負って...チャリ鍵持って...家の鍵持って...なんか忘れてることあったかな?...ないよな!とこれまで1度も指し漏らしのなかった指差し確認をしてから外に出る。
「鍵閉めて...っと...行きたくねぇな...」
憂鬱なのか楽しみなのかわからない感情で、ムキムキの強盗が襲ってきたら指先一つで壊れそうな扉の鍵を閉めてバイト先のコンビニに向かおうとすると、前からフラフラと知ってる顔の男の子が歩いてきた。
「おー!おす!なんかあった...わ、ちょ!あぶないぞ...あっ!...」
謎のフラフラにより案の定転んでしまった。
目の前で人が転ぶと吹き出しそうになってしまうのをわりと必死に堪え、
「おっ...ふ...おいおい...大丈夫?なんかあったの?」
と言いながら、なんだかほんとに体調が悪そうだったので肩を貸して体を持ち上げる。
「ぁ...あぁ...いえ、大丈夫です」
「大丈夫ならいい兄ちゃんがこんなとこで転んだりしないよ...うわ、ほっぺ切ってんじゃん、アニメの主人公みたい」
と言うと「ぇ...」と驚いた表情でこちらを見てくる。
...なんか変な事言ったか?
「見ました...?さっきの...」
「へ?なにを?」
「た、だからさっきの...その...」
「ごめん、さっきは部屋の中でシャワー浴びてたから何も見てないけど...」
「あ、あ、いや!ならいいんです!なんでもないです!」
「そう?ところでほっぺ痛そうだから洗って来い!ばんそこ貼ってやるよ」
「え、いや、だいじょぶです!そんな深くないし...」
「絆創膏買ったはいいけど使わないんだよ。ちょうどいいから消費すんの手伝ってくれ」
女子力の塊だしこれもモテ要素だろうとリュックに忍ばせていたが、使うタイミングが全然見当たらないので邪魔なのだ。このアイデアは一石二鳥だろ!たかが1枚減るだけだが。
「で、でも...」
「いーから。バイト行かなきゃいけないから早く!」
「あ、あ、ありがとうございます!」
ドタバタと俺の隣の部屋に入り顔を洗っている。
コイツはお隣さんで、5ヶ月ほど前にここに引っ越してきて高校に通っている高松龍二。
一人暮らしで大変だろうに礼儀正しく俺の部屋に挨拶に来てからなんだかんだ話したりして仲が良い(と思う)。
今日は土曜なのでこの時間は何もなくて当然だと思うが、なんであんなにフラフラしてたんだ?熱中症か?
「すみません...お願いします...」
「あいあい」
ぺたっと絆創膏を貼り、「よし!それで?なんであんなにフラフラしてたの?熱中症?」
「いや......はい、そうです。暑くてクラクラしてて...」
「ほー、そうか。今は?大丈夫?」
「はい、竹中さんなんか冷たかったので」
「こ、これでも暖かく接してたつもりだったのに...」
「あ、いや!違います違います!体が!つめたくて!」
「あ、そういうこと!さっきまで冷水シャワー浴びてたから。ひえひえなの。さむい。」
「こんなに暑いのにですか!?それって病気じゃ...」
「いや嘘、くそ暑いな今日は」
「ですよね、あついです」
「うーん...この前エアコン壊れてから不便なんだよな、色々と。」
「そういえばそんな話してましたね...大丈夫ですか?」
「死にそうになったらそっち行ってもいい?」
「そ、そんなにきついんですか...もしそうなったら全然構いませんよ、ヒエヒエにして待ってます」
「よし、それでこそお隣さんだ!龍二も寒くなったらうち入っていいぞ」
「大丈夫です。そのときはエアコンの温度調節しますから。」
「ああお前!今俺が一番やりたいことを!外道め!」
「あはは、また漫画借りる時はお邪魔しますよ。ところでバイト大丈夫ですか?」
「あ」
焦って携帯を見る。
やべぇ、これはギリ間に合うか間に合わないかの微妙なラインだ...
「ちょっとやばい!行ってくるわ!」
「はい。絆創膏ありがとうございました。」
「おう!お前もちゃんと水分とれよ!」
「だいじょぶです、家の中ヒエヒエなので。」
「お前絶対許さんからな!!!じゃ!!」
「はい、お気を付けて!」
「おーう!」
礼儀正しいイケメン高校生に別れを告げて走る。ホントに顔は主人公みたいでイケメンなんだよなぁ...
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小走りで自転車の所まで行き、さぁ鍵を出そ...出し...あれ?無い。
さしっぱ...でもない。
「やばいぞこれ...時間ねぇ...」
何回か寝坊して死ぬほど怒られているので、今日という今日はクビが飛んでもおかしくない。
「落としたのかな...ああ、なんにしたって早くしなきゃ...」
と通った道を注意深く見ながら進む。
もし落としたとしたらどこだ?ポケットに入れてたはずだから...
あ。
龍二を支えてた時に落ちたのかもしれない。
急いで見に行こう...!
二階へ行くための階段まで走る。
ん?なんか...
カンカンカンと階段を駆け上がる。
なんか...感じる。
地味に足に来る急な階段をやっと上がりきる。
出会っちゃいけない人に出くわすような気が─────。
さぁ探すぞと顔をあげると、
そこには可愛い顔をした、
金髪の女の子が居た。
右手には変な杖(?)を持ち、
左手には見覚えのある小さな鍵を持って。
「え...」
「これ、あなたの?」
げ...これ...
一目惚れだ。
くさい定期




