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ダークマター先輩登場⑥

 次の日からも、僕は毎日先輩たちが仕掛ける罠にはまり続けた。

 二日目は初日と同じ場所に深さ三メートルの落とし穴。思わず落ちた時に「あぁ!?」というよくわからん奇声を上げてしまった。五分後に先輩たちがロープを投げて無事救出。

 三日目は捕獲カゴ。またまた同じ場所にどう考えても不自然なバナナが置いてあり、何じゃこりゃと思って近づいたら上空からバカでかいカゴが降ってきた。五分後に先輩たちがカゴをどかして無事救出。

 四日目はトラバサミ。またまたまた同じ場所の地面に不自然な×印が書いてあり、好奇心を抑えることが出来ずに踏んだ瞬間にガシャン。イマココ。


「ぎゃああああああああ!!!足がああああ、足がもげるううううううう!!!!」


 想像を絶する痛さだった。ハサミの部分がトゲトゲになっていないタイプだったので刺さりはしなかったが、金属バットで思いっきり叩かれたような衝撃が僕の脛を襲った。そしてトラバサミは遠慮することなく僕の脛にグイグイとめり込んでくる。


「ちょっと先輩!どこかで見ているんでしょ!?シャレにならないからですからこの罠!」


 僕が叫ぶと近くの茂みからひょこっとマスクをつけた二つの顔が現れた。

 やっぱり近くにいやがった。どうせ僕が罠に引っ掛かるところを見て二人で笑っていたんだろう。


「わーい♪じゅんいちをつかまえたぞー」


「いやちょっ…姫様!喜んでないで早くこれを外してください!」


「ふーむ。どういたしますか?だいまおうしゃま」


「そうだな。毎回純が部活をサボろうとするから私たちも心を鬼にして罠を仕掛けているわけだが……」


「その結果がトラバサミ!?」


「出来れば落とし穴あたりで真面目に通うようになって欲しかったんだが、純も頑なにサボり続けるから」


「だって先輩たち全然活動しないんだもん!ずっと三者三様勝手なことをしているんだもん!」


 僕だってみんなが真面目に部活をやるんだったらちゃんと行くよ?でもこの人たち料理研究部のクセに料理を研究する気配が一切ないんだもん。

 僕が部活に行きはじめてから四日間。各部員がやったことと言えば、パソコンやったり本を読んだりお絵かきをしたりゲームしたりお茶飲んだりマンガ読んだり折り紙したり昼寝したり……。


 全部家でやれえええええ!!!部活舐めんなこの野郎ども!!!


「ちゃんと活動しないんでしたら行く気はありません!」


「ぐっ……。中々言うではないか。純」


「そう言うわけで、僕はこれで失礼させていただきまぎゃあああああああ!足がああああ!!」


 颯爽と立ち去ろうと足を動かしたところで思い出した。僕は今トラバサミに挟まれているんだった☆危ない危ない。自分から足を捥ぎにいくところだった。 


「じゅんいち……」


「はい?」


 呼ばれた方を振り向くと、姫様が不安そうな顔で僕の方を見ていた。


「じゅんいちはゆいたちのことが嫌いになってしまったのか?」


 いつの間にかマスクを取っていた姫様は、大きな瞳をウルウルさせながら綺麗な眉をハの字に曲げて僕の方をジッと見つめた。


「え!?いや、違うんです姫様!」


「ゆいが、ゆいがわるいのじゃ。ゆいのせいでじゅんいちはみんなのことを嫌いに……」


「ちがああああああう!!!違います姫様!僕は姫様のことは大大大好きですから!!」


「ほ、ほんとうか……?」


 姫様は目に涙を浮かべながら不安そうな顔で僕の顔を見上げた。


「ええ!もちろんです!だって僕は姫様の家来じゃないですか。嫌いになるわけがありません」


 「家来」と言う言葉を聞いて安心したのか、姫様は少しずつ表情が明るくなり、いつもの明るさを取り戻した。


「おー!そうじゃったの!ゆいとじゅんいちはかたいきずなで結ばれておるのじゃった♪」


 ピョンピョン飛び跳ねて家来との絆を喜ぶ姫様。

 おい皆。こんなところにあったぞ。幸せが。


「なあ純。私は?」


 ぴょんぴょん飛び跳ねる姫様の脇で、金髪マスクの変人がこちらをチラチラ見ながらモジモジし出した。

 どうした?病気か?


「私は?って何がです」


「ほ、ほらさっき、優衣には言ったじゃないか。私にはどうなんだ?」


「え?何の話ですか?」


「いや、だからさっき優衣に言ったやつを私にも言う番だろう」


 ダークマター先輩は鬼気迫る勢いで僕に詰め寄った。

 近い近い近い!そんで鼻息が荒い!!


「ちょっ……こわっ!落ち着いてください先輩。何のことか分からないですって」


「ぐふふふ、純。本当は分かっているくせに♥」


「怖気持ち悪いイイイイイイイイイイ!!!!マスクの変人がグフグフ笑うなああ!!」


「ぐっ……はぁ、あぁーっん!!」


 先輩は電流でも浴びたかのように体をくねらせ、自分自身を抱きしめながらその場に座り込んだ。

 そして何やら「ぐふふふふ、純は照れているだけ照れているだけ」と呪文のような文言を呟いている。


「ちっ、つい癖でツッコんでしまった。ほら先輩!姫様もいるんだからちゃんとして」


「そ、そうだな。純が悪いんだぞ?人前でこんな破廉恥なことを……」


「人聞きの悪いことを言うんじゃねエエ……でございますよ?部活に行くんでしょ?早くいきましょう」


「おお!純、自分から行く気になったのか!?」


 正直部活の内容には全く納得できていないが、ここでずっと先輩にクネクネされているよりはずっとマシだ。それに姫様もいるし。姫様を愛でるだけでも十二分に行く価値はある。


「わぁーい!さすがじゅんいちじゃ♪」


「ふふふ、さすがは私の認めた主人公だ。よし、それじゃあ部室までみんなで競走だ!」


「だいまおうしゃま、のぞむところでございます♪わぁーい!それー!」


 二人の走る後姿を見送り少し安心した。

 姫様もダークマター先輩もあんなに楽しそうにしている。

 よし、僕も二人を走って追いかけよう!そして今日からは自分の意志で部活に……。


「ぎゃああああああああ!足がああああああああ!トラバサミイイイイイイ!!」

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