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ダークマター先輩登場⑤

 レストランでの食事を終え、ダークマター先輩と外に出た。

 七月の日中の太陽は容赦なく僕たちに降り注ぎ、自然と体温が上がる。僕はジーパンに半袖だからまだいいけどダークマター先輩は全身をすっぽり覆うマントを着用している。暑くねーのかよこの人……。


「料理はどうだった?」


「正直に言って、とても美味しかったです」


 料理の美味しさは想像以上だった。しつこ過ぎない上品な肉汁に柔らかい肉質。そして芳醇な香りのデミグラスソース。僕の地元の近くにこんな美味しいレストランがあるなんて驚きだ。


「ふふふ、だろう。これでも料理研究部だからな。地元の美味しい店には詳しいんだ」


 そうだった。この人はこんな格好をしているけど料理研究部に所属しているんだった。

 料理研究部のことを勝手に料理を作る部活だと思っていたけど、自分たちで作る以外にも地域の料理で研究したりしているのかもな。

 いずれにせよ昨日の部活の感じだと、ちゃんと活動しているようには全く見えなかったけど。


「昨日の活動だと折り紙研究部にしか見えなかったですよ」


「これからさ。こ、れ、か、ら♥」


「マスクの変人がその言い方すると超怖いですから!やめてくださいホントに」


「マスクの変人とは失礼な!」


「いえ、先輩は紛うことなきマスクの変人です」


「ふっ、ふふふふ」


 先輩は嬉しそうに笑い始めた。不気味な笑いと言うより、何か良かったことがあったようなその笑いに思わずドキッとする。


「な、何がおかしいんです……?」


「純はそんなマスクの変人と二人で食事までしてくれたじゃないか」


「な……」


「なあ純。私は初めて会ったばかりのマスクの変人なんだろう?だったら何故一緒に食事までしてくれたんだ?」


「え、そんなこと言われても」


「なあ、何でだ?教えてくれてもいいだろう?」


「ぐっ」


「なあ、純」


「いや……だって、まあ。楽しかったですし」


 先輩の外見は確かにマスクの変人で、とても近寄りがたい雰囲気を醸し出している。

 校内でも一番の変人として有名だ。


 でも。

 昨日と今日と先輩と一緒にいて、とてもワクワクした。

 テニス部から料理研究部に連れ去られた時も、レンタルビデオ屋で監視されていた時もそうだ。

 何でこんな目にと思いつつも、僕は日々の日常の中で味わったことの内容な高揚感を感じていた。


「私と食事をするのが……か?」


 先輩は口を少し開けたまま固まった。そして僕にツッコまれたわけでもないのに顔を紅潮させた。


「そ、そんなこと初めて言われたよ。嬉しいなぁ……。今日は本当に嬉しいことだらけだ」


 先輩は喜びを噛み締めるようにそう言った。

 先輩の心から嬉しそうなその様子に僕は思わずハッとした。

 この人もしかしたら外見以外は普通の、それもかなり純粋な女子高生なんじゃないだろうか。

 学園一の変人はあくまでも外見だけで、先輩は学校で噂されているような人ではないのかもしれない。


「それにラブコメの相手にこんなことを言われるなんて。なあ純、これは愛の告白なのか?これから私たちは熱い抱擁を交わすのか!?」


 先輩は一人で勝手に盛り上がり、「そそそそそれはまだ早いぞ純ー!!」と言いながらクネクネしている、


 前言撤回。やっぱり中身も変人だ。


 こうして僕とダークマター先輩のよく分からない休日は幕を閉じた。



 そんで次の日。月曜日の放課後である。


 仮入部中の僕は当然この後料理研究部の部室に向かうのが筋なわけだが僕は部室には向かわなかった。


 何故か。


 昨日、ダークマター先輩と休日食事に行った日の夜のこと。


 風呂から上がり、そろそろ寝ようかなと思っていたところに先輩から僕にメールが送られてきた。


「なあ純、明日は部活に来るよな?」


「はい。行きますよちゃんと」


「ホントにホントか?絶対だぞ?」


「ええ。約束します」


「それにしても今日は楽しかったなー♪」


「ええ、楽しかったですね。それでは僕はそろそろ寝ますね」


「そうか、やっぱり純も楽しかったか♪良かったよ。私だけ楽しかったら申し訳ないからな笑」


「先輩、僕はそろそろ寝ますね」


「それでな。この間のお店以外にも美味しいお店がたくさんあるんだ。その……良かったら今度一緒に行かないか?」


「それは楽しみです。先輩僕は寝ます。おやすみなさい」


「そうだ、おやすみなさいで思い出したんだが……」


 などと続き、気が付いたら朝。チュンチュンとスズメが鳴いていた。


 長えええええええええ!!!メール超長ええええええ!寝させろよ!気持ちが重いわ!メール大好きか!!おやすみなさいで何かを思い出すんじゃねえよ!お休みさせろよ!


 そんなわけで圧倒的に寝不足だった僕は、今日は部活を自主的にお休みして家で寝ることにした。先輩達には後でメールでもしておけばいい。


「さて、帰宅帰宅。帰って早く寝よう」


 普段使用する生徒が少ない裏門を通って外に出ようとスタコラ歩く。


 僕が裏門手前にある大きな木の下を取ったその時。

 急にバァーン!!と大きな音がしたかと思うと、自分の身体が急激に宙に持ち上げられた。


「ふ、ふぁっ!?ななななな!!」


 突然の出来事に何が起きたかが全く理解できない。

 落ち着け。落ち着け僕。一体何が起きたかを冷静に考えよう。

 木の下を通った時に跳ね上がるように体が持ち上げられた。そして今僕は網のようなものに包まれて木にぷらーんと吊るされている。


 これはつまり……罠だな。

 なるほど、僕は地面に網が埋めてあって踏むと木に吊るされるタイプの罠に引っ掛かったということか。


「ふざけるなあああああああ!!!なんじゃこの状況は!!!!」


 何で校内に罠が仕掛けてあるんだよ!!しかも悪戯レベルじゃすまない手の込んだヤツを!!


 そして僕が吊るされてから五分。今も誰も通らない学校の裏口近くの木の下でぷらーんぷらーんと吊るされている。圧倒的ロンリネス。


 いや、実際はロンリネスでもない。先ほどから近くの茂みがガサガサと音を立てている。誰かが隠れてこの状況を見ているのだろう。まあ元々こんなことを企む人間は一人しか思い当たらないのだが。


「わーい♪じゅんいちをつかまえたぞー」


 茂みの中からぴょんぴょん飛び跳ねて出てきたのは姫様だった。今日は着物姿ではなくダークマター先輩と同じような顔の上半分だけ隠れるマスクをつけ、全身を覆う黒いマントを身に纏っている。


 その後を追いかけるようにゆっくりとダークマター先輩も姿を現した。

 やはりお前の仕業か。


「……なんすかこれ」


「万が一、純が部活をサボろうとした時のために仕掛けておいた罠だ」


 僕がサボろうとしたのはあんたの昨日のメールのせいなんだが……。


「いつの間にこんなものを……」


「三人であさの五時半にしゅうごうしてつくったのじゃ♪」


 朝早えええええええ!!!普通に僕の教室に来て連行すればいいだろ!どんだけ手間かけてるんだよ!

 ていうか三人って宮島も巻き込まれてる!!


「それにしても面白かったぞ、じゅんいち」


「本当に人が悪いですよ二人とも」


「ふふふ、すまなかったな。ちょっと本格的に作りすぎたかもしれん」


 ホントだわ。イノシシとか獲れるレベルだわ。免許無いと仕掛けちゃいけないヤツだわ。


「さあ純、部活に行こうか!」


「……はい。行くんでとりあえず下ろしてください」

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