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後夜祭でもとんがる⑩

「先輩……?」


 無言で立ち尽くしていた先輩だったが、徐々にニヤリと口の端が上がっていき、


「ふふふふふ……ははははははは!」


 右手の拳を握り締め、美人台無しの悪人顔で高笑いをし始めた。コワイ。


「これで私が学園の支配者だ! クックック。さて、この学園をどうしてくれようか……」


 どうやら先ほど聞こえてきた学園を掌握するとかいう発言は聞き間違いではなかったらしい。

 どうやらこの人は頭のネジが大量に外れた危険な思想の持ち主だったようだ。まあ知ってたけど。


「いや、先輩。確かに宮島がミスコンで優勝したから一日校長にはなれますけど、さすがに学園の支配者というわけには」


 それに一日なったところでできることなんて限られている気もする。

 しかし会長は、ニヤニヤした表情を崩すことなく、


「純。一日校長の権利はあくまでも学園支配のためのパーツの一つに過ぎん」


「どういうことです?」


「ふふふふ。まあ見ていろ。この後だ」


 この後? 文化祭の最優秀賞が発表されたからもう終わりじゃないのか?

 でも先輩は最優秀賞が決まったと同時に「これで私が学園の支配者だ!」と言っていた。ミスコンと同じように、文化祭の最優秀賞にも何かデンジャラスな副賞が付くということだろうか。


 果たして一体何が。


 僕は再び壇上の司会へと視線を移した。


「えー、料理研究部の皆さんには副賞といたしまして、ベロニカ高校の予算案を提出する権利が与えられます!」

 

 デンジャラスでは済まなかった。クレイジーだった。

 相変わらず何てものを副賞につけているんだこのクソ学校は。


「とんでもない副賞が来たわね……」


 隣にいた宮島が呆れた顔で言った。ええ。激しく同感です。


「まあでもあくまでも予算案だからな。僕ら、というかダークマター先輩が考える予算案が理事会で通るはずがないだろ」


 きっとダークマター先輩はうちの部活に超有利で滅茶苦茶な予算案を出すつもりなんだろうけど、普通に考えれば経営陣がそれを承認するはずがない。

 実現するとしたらちょっとした部費の増額とかその程度だろう。


「ふっ。果たして本当にそうかな」


 しかし、ダークマター先輩は僕の言葉を鼻で笑った。顔は悪人そのもの。絶対にろくでもないことを考えている。


「……何をするつもりですか」


「クックック。今は受賞式だ。ここまでにしておこう。詳しい話はまた明日、部室に全員で集まって話そうじゃないか」


 うん。嫌な予感しかしない。クレイジーな人間にクレイジーな権利を与えると、とんでもないことになるんじゃないかしら。


 ……まあいい。今は考えるのはよそう。とりあえず明日を待つか。


 その後、二人とも前に出たくないと言うので、仕方がなく僕が代表として壇上に上がり最優秀賞のトロフィーを貰うことになった。


「純。ロックなスピーチを頼む」


 会長は親指を立てて僕を送り出した。


 また無茶を。僕の中にはロックのロの字もありゃしないわ。


 そんなわけで壇上に上がり、表彰式。

 大きなトロフィーを受け取り歓声に包まれると、これまでの文化祭での様々な出来事が自然と頭の中を巡った。


 今考えるとぶっ飛んだ数ヶ月だったなあ。


 本当に色々あった。


 普通人間から逸脱するために、とんがるために頑張ってきたこの数ヶ月。最優秀賞という最高の形で料理研究部のとんがり具合を証明することができた。


 でも僕個人はとんがれていたのだろうか。料理研究部に少しでも貢献できたのだろうか。


「では料理研究部を代表して一言お願いします!」


 司会が僕にマイクを向けてきた。


 ……ロックなスピーチか。よし。


 僕は思い付きで、トロフィーの両端を持ち、右膝を曲げてそこに思いっきり叩きつけた。

 

 トロフィーは音と共に真っ二つに割れ、破片が辺りに散らばった。

 そして司会からマイクを奪い取り、


「このゴキブリムシ共! 拍手してないでとっとと家に帰ってクソして寝ろ!」


 場の空気は凍り付き、表彰式はお葬式と化した。


 そして僕はトロフィーを意味もなく壊したため、三日間の停学になった。


 うん。世の中やりすぎはよくない。


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