後夜祭でもとんがる⑨
ミスコンは宮島がぶっちぎりの得票を獲得して優勝した。おそらく会場に来ていたすべての人間が納得した結果だろう。ダークマター先輩も容姿的には互角かそれ以上だったけど、パフォーマンスの時間が酷すぎた。うん。満場一致で宮島の勝ち。
そして宮島の優勝により、料理研究部は一日だけ校長になれるという悪魔的でデンジャラスな権利を手に入れることになった。
……この権利をダークマター先輩が使うとかホント怖いんだけど。悪の片棒を担がされる気しかしないんだけど。
まあ今は深く考えるのはよそう。やりたくない仕事を振られたら田中マスオに擦り付ければいいだけの話だ。あいつが一番下っ端だしな。
そして現在、長かったベロニカ高校文化祭もついに最後の時間となった。僕達料理研究部一行は、ミスコンの会場にそのまま残り、結果発表を待っている。
「さっさと始まらないかしら。どうせ私達の優勝でしょう?」
宮島は小さな口を手で隠しながら欠伸をした。
こいつは今日一日中活躍していたもんなあ。そりゃあ疲れるわな。
「多分そうだけどそう言うなって。運営側にも色々あるんだろ」
ふぁー。そうは言っても僕ももう疲れたな。結果発表だけ聞いたらさっさと帰って寝るか。
そんなことを考えながら伸びをしていると、いつものマスクにマントの格好に戻ったダークマター先輩が、何やら不気味に独り言を呟いていた。
「くくくっ。完璧だ……! これで私がこの学園を……」
「先輩……? 何か言いましたか?」
この学園を……とかなんとか言ってたような気がしたけど。
「純。いよいよだ。いよいよやってくるぞ。我々が学園を掌握するその時がな」
「? 学園を掌握? 何を訳のわからないことを……」
と、僕がいいかけたところで閉会式の準備が整ったらしく、芸術ホールの照明がスッと消えた。
「みなさぁーん! お待たせしましたぁーっ! これよりベロニカ高校文化祭の閉会式を始めさせていただきまぁーす!」
ミスコンの時の司会と同じ声だな。何て言ったっけ名前。まあいいか。とりあえず早く進めろ。
「それでは早速、皆さんお待ちかね! PTA副会長の挨拶から始めさせていただきます!」
待ってない。いいからさっさと始めろ。
「それではPTA副会長の麹町鉄幹さん、お願いします!」
しかも先輩のお父様出てきちゃった。
舞台の袖から和服姿の男性が現れ、厳かな雰囲気で、一歩ずつゆっくりとステージの真ん中へと向かっていく。
「クソジジイ! 引っ込めー!」
早速、在校生からヤジが飛んだ。鉄幹たんカワイソウ……。
一人が言うと、ヤジは次第に数が増えていき、会場は騒然とし始めた。
「か、え、れ! か、え、れ!」
うわ、しかも隣で実の娘が拳突き上げながら何か始めた! 酷っ!
ダークマター先輩が始めた帰れコールは瞬く間に会場中に広がり、大合唱となった。これはきついわ。幽白の浦飯チーム並みにアウェイだわ。
そしてせっかく出てきたPTA副会長の鉄幹たんは、肩を落として再び舞台袖へと消えていった。
あーあ。かわいそう……。
一方の先輩は僕の隣で一仕事終えたかのように汗を拭い、
「ふう……。この世に悪が栄えたためし無しと」
「それを先輩が言うんですか!?」
あんたが絶対一番の悪人だよなあ!? 諸悪の根源だよなぁ!?
「……えー、PTA副会長は体調不良のため退席されました」
申し訳なさそうに伝える司会。会場は何故か「イエェー!」と盛り上がっている。つらたん。
「では気を取り直して、ベロニカ高校文化祭、最優秀賞を発表させていただきたいと思います!」
更に盛り上がる会場。文化祭の最後の最後のだけあって、周りも変なテンションになってきている。
「……なんだかいざ発表ってなるとドキドキするわね」
暗くてよく表情は見えないが、宮島も少し緊張しているらしい。そう言われるとこっちまで緊張してくるんだけど! 大丈夫だよなあ!? 僕たちはちゃんと優勝だよなあ!?
「ふふふふふ。早くしろ。あの司会の女が勝者を発表した瞬間、私はこの学校の王に……」
となりの奇妙な格好の人が奇妙なことを言っているけど無視しよう。触らぬ神に祟り無しだもんね☆
「さあ! 発表てす!」
会場にドラムロールが流れ始めた。ひいいいいい緊張するうううううう!
「今年度のベロニカ高校で文化祭で最も多くの来場者の指示を集めたのは…………」
「料理研究部の『姉ヶ崎優衣ディナーショー』です!!」
「っしゃああああああ!」
やったあああああああああ! 頑張った甲斐があったああああああ! 姫様! 姫様やりましたよ! 姫様の歌のショーが一位に輝きました!
「風早くん! やったやった! やったわ!」
宮島も余程興奮しているのか、僕の手を握って上下にブンブン振り出した。やめろおおおお宮島ああああ! お前は力がアンドレザジャイアント並みなんだから。僕の体がもうぐわんぐわんぐわんぐわん。でも嬉しいよなあ! これは興奮せずにはいられないよなあ!?
そうだ、ダークマター先輩は!?
「先輩! やりましたね!」
僕が隣にいる先輩に声を掛けると、先輩は全くはしゃいでおらず、前を向いたまま微動だにしていなかった。