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後夜祭でもとんがる⑦

 ダークマター先輩がそれなりにやらかした後、四番から八番までの普通に可愛い女の子たちが壇上でキャッキャウフフとアピールをした。

 僕としてはどの子も可愛くはあるんだが刺さるものが無いというか、みんな同じに見えてしまう印象を受けた。


 部活で変人とばかり接しているせいで、変人じゃないと高まらない身体になってしまったのだろうか。

 うん。だとしたら明日病院に行こう。


 さて、そんなことより次はいよいよ大トリ。我らが宮島冴子の登場である。


「純。冴子は上手く出来るかな」


 自分の出番を終えたダークマター先輩は観客席に戻ってきており、心配そうな顔でこれから後輩が立つ壇上を見つめている。


「あいつも普通の行動は出来ない人間なので先輩みたいにすっごい失敗するか、もしくは大成功になるかのどっちかでしょうね」


 宮島も先輩も容姿は圧倒的なんだが、壇上でのパフォーマンスには難がある。そもそもコミュ力はゼロだし空気は読めない。人前に出ることに圧倒的に向いていない二人組と言える。


 果たしてそんな宮島のミスコンが上手くいくのかどうか。


「それではいよいよ最後の方の登場です!エントリーナンバー九番の方、どうぞーっ!」


 司会が元気よく舞台袖に手を向けながらそう言うと、水色の爽やかな振り袖に身を包んだ宮島が壇上の中央へとゆっくり歩いてきた。


 その姿はまさに大和撫子。


 キャピキャピした高校生が続いた後、突如現れた大和撫子に客席からは一気に「うおおおおおお」とか「きゃあああああ」とか歓声が起こった。

 ダークマター先輩の時と同じくらい、いや、それ以上の歓声かもしれない。


 それほどまでに壇上での宮島は魅力的だった。


 僕は昨日からずっと宮島の振袖姿を見ているが、こうやって改めて壇上にいる宮島を見ると住む世界が違う人間なのではないかと思えてきてしまう。


「ふおおおおおお!こ、これは素晴らしい振袖美人の登場です!では早速学年とお名前をどうぞ!」


 司会者も突然の大和撫子の登場に鼻息を荒くしている。司会者も女の子なんだがそっちの気があるのだろうか。


「二年B組。宮島冴子」


 宮島はニコリともせずにいつもの無表情で淡々と言った。

 やはり宮島は愛想を振りまくことはできなかった。まあニコニコ愛想笑いを浮かべる宮島なんて気持ち悪くてしょうがないけど。


 宮島がクラスと名前を言うと、会場のあちこちがざわつき始めた。「え。あれが宮島さん?」とか「宮島ってあの眼鏡の?」とか言う声が聞こえてくる。


「二年生の宮島さんですね。クールな感じがまたいいですねぇー!」


 どうやら宮島の無表情は司会の人には好意的に取られたようだ。クールという言葉を言われた瞬間に宮島の表情が少し綻ぶ。


「そ、そうかしら……」


 満更でもなさそうだ。


 あいつ自分ではクールビューティークールビューティー言ってたけど、きっと人からクールって言われるのは初めてなんだろうなー。うん。めっちゃ嬉しそう。


「はい!入って来た時はモデルさんが来たのかと思いましたよ」


「……顔面にはあまり自信が無いんですが」


 だからお前は顔面って言うな。顔でいいだろ顔で。


「またまたご謙遜をー!はい、それでは時間もありませんので質問コーナーに移ってまいりましょう!まずは宮島さんの趣味や特技を教えてください」


「趣味や特技……。そういうのはあまり」


「何か一つでもいいんですが無いでしょうか? どんなものでもいいですよ!」


「……しいて言うなら剣道かしら」


「ふおおおおおお!なぁーんと宮島さんはこの容姿で剣道少女でもあることが発覚いたしましたぁっ!最高だぜ!これは是非見たいですね!どうですか客席の皆さん!?」


 更に興奮した様子の司会の言葉に、客席は一層大きな歓声に包まれる。


「でも今日は竹刀がないわ。それに人前で見せるのはあまり……」


 宮島の方は少し遠慮がちな様子だ。やりたくないというよりは急な展開に戸惑っているように見える。


「そこを何とかお願いします!もし竹刀があれば少し実演することはできますか? あぁ香りも素敵……」


 宮島に呼吸を荒くして詰め寄る司会者。あんまりうちの冴子ちゃんにベタベタ触るんじゃない。


「まあ竹刀があれば少しなら……」


「やりましたよ皆さん!もし客席に剣道部の方がいらっしゃいましたら今すぐ壇上に竹刀を持って来てくださいませんでしょうかあああ!」


 これはもう完全に司会の人が見たいだけだな。どうやら宮島は同性からも好かれるタイプらしい。


 とはいえ司会者だけでなく会場も大盛り上がりで、そのうち客席からは「剣道部!剣道部!」とコールが起き始めた。


 すると客席の前方の僕らとは反対側の位置にいた男子が手を上げ、


「剣道部の部長の池畑です。対外試合の荷物をそのまま持っているので竹刀でしたらお貸しできますが……」


 と名乗りを上げた。


「やりましたああああ!では剣道部の方、早速何名か壇上に上がってきていただいてよろしいでしょうか!」


 これは完全に宮島が剣道をやらざるを得ない流れになってしまった。


 大丈夫だろうか。あいつこうやって目立つようなことが一番嫌いなはずだ。


 僕が宮島の方に目を向けると、相変わらずの無表情のままだった。


 やりたくなさそうでもあるし、別にどうでもよさそうでもある。ただ先輩の時とは違い、こちらに助けを求めている様子はない。


 ……まあここは宮島に任せるか。どうなるかはわからないけど。

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