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後夜祭でもとんがる⑥

 そんなわけで始まった後夜祭のミスコンテスト。

 現在二番目の子までアピールタイムが終わり、次はいよいよダークマター先輩の番だ。


 ここまで見てきた二人の流れだと、まず一人の持ち時間は五分程度。その五分間のうち、前半が司会から振られた質問に答える時間、後半が自分の特技などをアピールする自由な時間と別れている。


 前半の司会からの質問は趣味や特技などの当たり前の質問から、「男の子を落とすための必殺フレーズ!」とかいうかなり攻めたものまであった。

 宮島が遠い目で「あれを私もやるのね……」と言っていたのが印象的だったが、ダークマター先輩にも全くできる気はしない。

 後半の自由なアピールタイムも含めて、果たしてあの現代社会不適合者の変人にちゃんとできるのだろうか。


 楽しみな気持ちも多少はあるが、それ以上に何か不味いことをやらかすのではないかという不安な気持ちが僕の心を覆いつくしている。


「今のところいかにも高校生の好きそうな内輪ウケのノリで死ぬほどつまらないわね」


 相変わらずの無表情で宮島が言った。自分の番が近づくにつれてちょっとずつ機嫌が悪くなっている。


「……まあそう言うなよ。高校の後夜祭なんてこんなもんだろ」


「ああいうやつらがきっとユーチューバーとかになるのよ」


「色んな人を敵に回す発言はやめろ」


「このドブ川のように腐りきった流れを先輩が変えてくれるといいのだけれど」


「でも先輩は『ちゃんと勝ちに行くから普通にやる』って言っていたぞ」


「先輩が普通って言って普通だったことは一度もないから大丈夫よ」


「……たしかに」


 あーなんだかやっぱり不安になって来た。どうか先輩が大人しくしていますように。それ以前にちゃんと素顔で出てきますように。


 そう願っていると、ついに先輩の番が来たようで、


「お待たせいたしましたーっ!準備が整いましたので次の方にまいります!エントリーナンバー三番の方の入場です。どうぞーっ!」


 司会進行の女子生徒の言葉と共にズンズンと大股で先輩が入ってきた。


 うおおおお!ちゃんと素顔のままだ!一切のボケ無し!


 先輩は壇上の中央まで来ると僕と宮島の方を向きニカッと笑いながら手を振ってきた。僕と宮島は壇上で美しく輝く先輩に向かって一生懸命手を振り返す。


 肩までの艶やかな黒髪に透き通るような白い肌。そして力のある切れ長の目。普段学校内では見ることが出来ない「麹町美生」としての先輩だ。

 服装も滅多に見れない制服(僕は多分二度目)で完全なる美人女子高生の登場だ。申し訳ないけどさっきの二人は全く敵ではない。


 ……やっぱりこれ先輩が勝っちゃうんじゃないか?


 ただでさえ盛り上がっていた会場は一気にヒートアップした。そ「あの美人は誰!?」といたるところから聞こえてくる。


「これはものすごい美人が登場しましたーっ!まずはクラス学年お名前をどうぞ!」


 司会者もノリノリのテンションで先輩にマイクを向ける。

 しかし先輩はその最初の質問に、


「え……。それは言わないといけないのか?」


 と、困惑した表情で聞き返した。


「はい。一応そういうルールで……」


「ならルールは変更だ。とりあえず三番と呼べ」


 見た目は美人女子高生でも中身はいつもの傍若無人っぷりだった。しかもなんだ三番って。一人だけ囚人か。


「…………なーんとぉ!三番さんは名前も明かせぬ秘密の存在のようです!正体不明の美女!これはますます楽しみになってきましたーっ!」


 司会の実行委員は意外とノリがよく、すんなり先輩の勝手な発言を受け入れた。

 まあ問題はこの後だな。果たしてこの司会の女子生徒が先輩の意味不明な言動にどこまでついていけるか。


「では早速質問コーナーに移りたいと思います!まずは趣味から。三番さんの趣味を教えてください」


 頑張れ三番!ここで可愛い趣味をちゃんと言うんですよ!男子ウケも女子ウケも良さそうなやつ!手芸とか料理とかそういうやつ!


「趣味か。ふむ……」


 と、壇上の先輩は考える素振りをみせた。しかしチラチラと目線を僕と宮島の方に飛ばし、何かを訴えている。


 ……これはきっと何も思い浮かばないから何かヒントをくれということだな。


 僕は先輩に伝わるよう全身で鍋をかき混ぜるジェスチャーをした。

 ほら料理ですよ料理!実際に得意なんだし料理って言っとけば問題なしです!


 しかし先輩は僕の全力のジェスチャーにも首をかしげるばかりだった。


 んー厳しいかな。全く伝わってないな。


 僕が諦めかけていると、先輩は急に「あっ!」と声をあげ、閃いた顔をした。


 良かった!伝わったっぽい!先輩!それをマイクを通して言っちゃってください!


「あ!あれか!あのアメリカのアニメでよく出てくるハンマーで何かをぶっ叩いておもりを持ち上げて鐘にカツーンて当てる遊具!」


 ……そんな趣味の女子高生はこの世に存在しません。


 当然の如く静まり返る会場。そりゃそうだ。何のことを言っているのか誰も理解できていないだろう。

 何故か僕の隣の眼鏡っ子だけ腹を押さえて笑いを堪えているが、まあこいつは放っておこう。


「……え? それが趣味ですか……?」


 司会の女子も先輩の意味不明な発言に狼狽えている。今までの二人はネイルとプリクラで、三人目が急にハンマーでおもりカツーンだもの。それは処理できないだろう。


「い、いや!違うぞ? ジョークだジョーク!ハッハー。えーっと本当の趣味は……」


 どうやら先輩はまだ挽回しようとしているようで、またこちらをチラチラと見始めた。


 すると今度は宮島が何か思いついたようで、


「思いついたんだけれど、どうやって伝えようかしら」


「一番前だし口パクで伝わるんじゃないか?」


「そうね。やってみるわ」


 宮島は先輩に向かって手を振ってアピールし自分の方を向かせた。そして口を大きくパクパクと動かし何かを伝える。果たしてこれで伝わるのか。


「冴子!伝わったぞ!ナイスだ!」


 先輩はそう言ってこちらに向かって親指を立てた。そして司会の女子生徒に「すまん。待たせたな」と声をかける。


「なんとかなるものね」


「ちなみに何て伝えたんだ?」


「コースター集め」


「…………あ、そう」


 女子高生の趣味で出てくる最初の一個がコースター集めって。もっと可愛いもの集めて。チャーミングシールとか。


「それでは三番さん!発表してくださいっ!」


 司会の言葉を受け、先輩は胸を張って自信満々に言った。


「コブラ集めだ」


 ……何を収集しているんだお前は。どの国で生まれてもその趣味はサイコパスだ。


「…………次の質問に移りますっ!」


 ついに掘り下げるのを放棄した!?


 司会の実行委員の意味不明な答えは無視して次に行くという懸命な判断もむなしく、先輩は一つ目の質問で時間を消費しすぎたため、ここで撤収となった。


 ……これじゃあただ「コブラ集め」という謎の趣味を発表しに来た不思議ちゃんだ。


 優勝は厳しいかな……。


 うん。仕方がない。とりあえず宮島に期待しよう。

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