後夜祭でもとんがる⑤
そんなこんなで後夜祭のメインイベント、ベロニカ高校ミスコンテストに参加することになった料理研究部の女性陣二人。
場所は本日田中マスオがライブをやる予定だった芸術ホール。映画館のようなゆったりした座席に大きなステージと、普通の高校には無さそうな金のかかった設備だ。
ちなみに今日ここでライブをやる予定だった田中マスオ本人は仮病を使ってライブを中止にし、今はきっと家でゼルダをやっている。あいつも後夜祭くらい来ればいいのにとも思ったが、仮病を使っている手前家から出れないのだろう。まあマスオの話はどうでもいいか。
僕たちはステージ近くの席に陣取り、ミスコンが始まるのを待っている。
「二人とも出場するのに客席にいていいんですか?」
「ああ。もうエントリーは済ませたからな。自分の順番が近付いたら舞台袖に行けばいいということだ」
「へー。なんか待機場所みたいなところにいなきゃいけないもんだと思っていました」
「控え室も準備されているみたいだけど、特にすることもないし」
宮島はあまり乗り気じゃないらしく、少しテンションが低めだ。人前で喋ったりするのが嫌いなタイプだもんな。ミスコンに出るのはさぞ辛かろう。
「順番とかってもう決まってるんですか?」
「ああ。私が三番で冴子が九番目だ」
「参加者は何人いるんです?」
「九人」
「宮島大トリじゃん」
「……本当に帰りたいわ」
「まあそう言うな冴子。このミスコンで私か冴子のどちらかが優勝すれば必ず料理研究部のためになるから」
「一応最善は尽くしますが……」
乗り気じゃない宮島とそれを嗜めるダークマター先輩。ミスコンの優勝が部のためになる、か。先輩は急に出るとか言い出したけど何か特別な賞品でもあるのだろうか。
本来はダークマター先輩だって人前で顔を出すのが嫌いな人だ。余程の理由がない限り出場したりはしないだろう。しかも宮島まで巻き込んでるし。
時刻が午後六時を回ったところでステージの脇に司会進行と思われる女子生徒がマイクを持って登場した。パラパラと私語が聞こえていた客席も静かになり、いよいよこれからミスコンが始まるという雰囲気になってきた。
「さぁーあ!皆さん!これからベロニカ高校文化祭のミスコンテストを開催いたします!準備はいいですか!?」
司会の女子生徒の言葉に客席は一気に盛り上がった。「うぉーっ!」とか「いぇーい」とか至るところから歓声が聞こえてくる。
「本日ミスコンの司会をつとめさせていただきます、三年A組の茨木アダルジーザです」
名前すっごいカッコいいな。
「さて、これからミスコンが始まるわけですが、その前にゲストの紹介をしましょう!ダンスユニット『四代目毛ぇ剃ーるブラザーズ』のチョウスケさんです!」
アダルジーザの紹介と共に舞台袖からサングラスをかけたスキンヘッドの男が現れた。客席に向けて軽く手を上げると「キャー」とか「ひゃー」とか黄色い歓声が飛び交った。
あれがチョウスケか。美しさすら感じられるツルッツルの頭だ。さすが「毛ぇ剃ーるブラザーズ」。名は大意を表すとはこのことだ。
「チョウスケさんは本校の卒業生で、現在は四代目のリーダーを務めており、先月発売したニューシングル『恋の豚コマ100グラム』は三週連続チャート一位を獲得しました」
とりあえず曲名が死ぬほどダサいな。よく売れたなそんなんで。
「へー。オリコンシングルチャート三週連続一位か」
と、感心した様子のダークマター先輩。
「そんなに有名な人だったんですね。僕音楽は全く聞かないので全然知らなかったです」
「ふむ。星空銀河の件もそうだが我々は流行に疎すぎるところがあるな」
「ですね。知ってる風だった宮島も結局知ったかぶりでしたし」
「へ? 私?」
私?じゃないだろ。さっきの部室での知ったかぶりをもう忘れたのか。
「……宮島は今言ってたオリコン三週連続一位の曲知ってるか?」
知っているはずも無いと思うがとりあえず聞いてみる。
「知っているわ」
「嘘だろ」
「う……嘘じゃないわよ?」
「お前そうやって意味もなく自分を追い込むなよ」
「追い込んでなんかいないわ。余裕よ余裕」
「じゃあどんな歌か歌ってみろよ」
「えーっとあの……あれよね?」
「あれじゃわからん」
「ヨー!恋の豚肉プチャヘンザッ!しっかり焼いてプチャヘンザッ!てやつよね」
「……僕も知らないけど多分違う」
また知ったかぶりを。ダンスユニットだぞ。なんだその独特の節回しは。ラップか?ラップなのか?
「ではチョウスケさん。ベロニカ生に一言お願いいたします」
壇上では司会のアダルジーザがチョウスケにマイクを手渡していた。お、これからチョウスケが話すのか。一体どんなヤツなのか少し楽しみだ。
「えー、ベロニカ生のみなさん。こんばんは。四代目リーダーのチョウスケです。本日はよろしくお願いします。えー、私が学生の時分は……」
……クソつまらん普通の挨拶だった。PTA会長でももっとましな挨拶するぞ。「ファッキュー。ゴミめら」くらい言ってみろよ。
「チョウスケさんにはこのまま壇上に残っていただき特別審査員としてミスコンに参加していただきます。それでは皆さん、もう一度大きな拍手を!」
チョウスケが手を上げると、再び拍手と黄色い歓声が沸き起こった。
特別審査員か。あのハゲにうちの部活の二人の魅力がわかるといいんだが……。
「そして今回のミスコンの優勝賞品ですが、なんと!優勝者には一日校長になれる権利が与えられます!」
……おい。
なんてものを賞品にしているんだうちの学校は。教員も文化祭実行委員も全員馬鹿か。
「ふふふふふふ。これだ。これさえあれば……」
隣を見ると、ダークマター先輩が不敵な笑みを浮かべながら目を輝かせていた。なるほど。やっとわかった。これが狙いだったのか。
「先輩。急にミスコンに参加するって言い出したのって……」
「そうだ。私たちが一日校長になってこの学校を私物化するぞ」
その言葉を聞いた宮島も、キラーンと妖しく目を光らせた。
「それは面白そうですね。全力で行きましょう先輩」
どうやら宮島もやる気になったらしい。
「もちろんだ冴子。死力を尽くして取りに行くぞ」
「……二人の全力ってなんかすごい不安なんですけど」
ミスコンだからね?間違った方向に全力を尽くしちゃダメだからね?
まあそんなわけでミスコンが始まった。果たしてどうなるか。




