後夜祭でもとんがる④
「み、宮島!?」
「幼馴染みのことを忘れちゃう忘れんぼはこうしてやる。えいえい」
宮島は僕の背中に細い腕を回し、ギュッと抱きついた。いつもは怪人のような力の宮島だが、今抱きついている力は強いものではなく、心地よいくらいの力加減だった。
「幼馴染み……?」
「そうよ。純くんと私は四歳の時から一緒なのよ?」
「四歳の時って、確か僕は剣道に夢中で毎日道場に…………」
あ。
そうか。宮島も剣道をやっていて実家が道場なんだっけ。じゃあ対外試合とか出稽古とかで会ってたってことか?
「御簾納剣友会」
「それは昔僕が入ってた道場……」
「私の家よ」
「えええええええええええ!? だってあそこの先生は御簾納先生だったし、宮島なんて名字どこにも……」
「母方の実家なの。師範の御簾納先生は私のおじいちゃん」
な、なるほど。どおりで名字が違うわけだ。宮島の名字が御簾納だったら一発で気がついていただろう。
ただ、とはいえだ。僕は道場で宮島には会っていない。あの時僕の同年代は運動神経抜群で活発な女の子が一人いただけだ。確か名前はアヤちゃん。冴子ちゃんはいなかったはずだ。
「で、でもその時宮島は道場に出てきてなかっただろ?」
「いたわ。毎日。と言うより同年代の子供なんて私と純くんしかいなかったじゃない」
「待て待て待て待て!だってあの時一緒に剣道をしてた子はアヤちゃんって子で」
「それが私よ」
「お前の名前は冴子だろ!」
「あや取りが好きだからアヤちゃん」
何て安直なネーミングだ。それだとバーが好きな人はばーちゃんになってしまう。
「なっ……!でも確かその子は足がめちゃめちゃ速くて」
「私」
「でもゲームも得意で」
「私」
「睫毛が超長い……」
「私」
うん。どう考えても宮島だわ。自分で言ってて途中で気がついたわ。
「なんだ。ちゃんと覚えてるじゃない。良かったわ。ウフフ……。本当に、本当に良かっ……」
パタリ。と宮島は僕の胸に倒れ込んだ。
「宮島!? お、おい!!宮島あああああああああ!」
「死んでないわ」
「あ、すまん。つい……」
「でも……やっぱり何だか眠たいわ。夢でも純くんが覚えてくれていて良かっ……」
宮島ああああああああ!とここで言うとエンドレスになるので割愛し、僕は眠ってしまった宮島を部室の仮眠用のベッドに横たえた。
宮島がアヤちゃん……か。どうして気が付かなかっただろう。こんなに近くにいたのに。
いや、冷静に考えれば無理か。名前が冴子なのにアヤちゃんてあだ名は反則だろ。誰が気が付くんだそんなもん。
改めて眠っている宮島を見る。整った顔立ちに長い睫毛。スラッと綺麗に伸びる長い脚。
この子が僕の幼馴染みで、ずっとそれを覚えてくれていた女の子なのか……。
部室のドアが開く音がした。
「お疲れ様。戻ったぞ」
姫様を送りに行っていた先輩が部室に戻ってきた。今日は一日いつもの変な格好をしていない。
「あ、先輩。お疲れ様です。ありがとうございました」
「冴子は……寝てしまったのか?」
「はい。かなり疲れていたみたいで」
「そうか。じゃあ私と純で手続きに行くか」
「手続き? 何のです?」
「何ってミスコンに決まっているだろう。私も出ることにした」
あ、そういえばそんな話だった。
…………。
え、先輩も出るの?




