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後夜祭でもとんがる②

「私がミスコンに……?」


 僕が文化祭実行委員の八戸から伝えられた内容をそのまま宮島に伝えると、宮島は寄りかかっていた壁から起き上がり目を丸くした。 


「だってよ。文化祭実行委員が今日司会をやってるお前を見て後夜祭のミスコンに出て欲しいんだと」


 八戸曰く、うちの後夜祭ではミスコンをするのが恒例らしく、文化祭の裏メインイベントとして大人気らしい。審査員にはわざわざ芸能人も呼ぶとか呼ばないとか。


 宮島は顎のあたりに手を置いて少し考える仕草を取り、


「ミスコン…………。マントヒヒの生態くらい興味がないわ」


 とサラッと言った。

 いや、分かりづらいわ。むしろ僕はちょっと興味あるけどな、マントヒヒの生態。


「……さえこ、じゅんいち。みすこんとはなんじゃ?」


 僕の背中で寝ていた姫様も、僕らの会話が少しうるさかったらしく目を覚ましてしていた。ただ僕の背中が居心地が良いらしく、まだおんぶをしたままだ。


「俗物共の顔面の競い合いよ」


「おい宮島。もう少し言葉を選べ」


 まあ言っていることは間違っていないんだが。姫様に悪影響を与えてしまうから自重してね。


「うちの学校出身の芸能人が審査員で来るらしいぞ」


 と、ダークマター先輩。八戸が置いて行った後夜祭のパンフレットを眺めている。

 それにしてもまたうちの学校の芸能人か。大丈夫かそれ。まさか星空銀河じゃないだろうな。


「OBの方ですか?」 


「ああ。四代目毛ぇ剃ーるブラザーズというダンスユニットのメンバーらしい。冴子は知っているか?」


 すごいグループ名だ。ゲイ臭が尋常じゃない。もしかしたらゲイ能人ということか?


「いや先輩。宮島に聞いても無駄です。こいつはそういう芸能関係のことは知らないですよ」


 まあ僕も全く知らないから人のことは言えないけど。


「失礼なことを言わないでくれる? 風早くん。それくらい知っているわよ。えっと……今巷で話題の四代目とかいうやつよね?」


「宮島。聞いたことあるのと知っているのは違うぞ」


 どう考えても口調が知らない人のそれだ。


「と、当然よ。ちゃんと詳しく知っているわ。その……大会も観に行ったことあるもの!」


 ……これは冴子さんは完全にむきになっていらっしゃるな。得意の知ったかぶり泥沼モードに突入している。

 そもそも大会ってなんの大会だよ。そこは普通にライブとかでいいだろ。


「じゃあリーダーの名前は?」


 まあそんなこと聞いたところで僕もわからないけど。そもそもリーダーがいるかも知らん。


「えっと……。ちょっとド忘れしちゃったわ。何だったかしら……。頭文字がわかれば思い出すんだけど」


 宮島は「うーんと、えーっと」と必死に考えるふりまでしている。田中マスオとは大違いで、見ているこっちが恥ずかしくなるほどの大根芝居だ。


「ふむ。どうやら今日ミスコンの審査をするのがそのリーダーのようだな」


 ダークマター先輩はパンフレットの表面を見ながらそう言った。


「え、じゃあ名前も載っていますか?」


「載っているぞ。芸名はフルネームではなく下の名前だけみたいだな。頭文字は『ち』だ」


「ち………………? えっと、男性ですよね?」


 宮島は予想外の平仮名がきたようで、少し狼狽えながらおかしなことを言い出した。

 お前はそんなことも分かってないのに知っているとか言い出したのかよ。リーダーが男性かどうかも知らない時点でファンでも何でもない。


「ああ。もちろんそうだ」


 そりゃあ「毛ぇ剃ーるブラザーズ」で女性はさすがにキツい。


「……私が知っている限りでは、この世に『ち』から始まる男性の名前は存在しないはずなのですが」


 こいつ随分思いきったことを言い出したな。確かに少ないけどゼロじゃないだろ。まあ僕もさっきから考えていてまだ「チヒロ」くらいしか思い付いてないけど。


「いや、ちゃんと『ち』から始まっているぞ。ちなみに五文字だ」


「ち…………。ちで五文字…………。チンギス……いや、さすがに違うわね。ち………………」


 あーでもないこーでもないと真剣な表情で考え込む宮島。この時点で知ったかぶりをしていたことは確定なのだが本人だけがそれに気が付いていない。


 それでも何か答えを思いついたらしく、ハッとした表情を浮かべた後、得意げな顔で僕と先輩の方に向き直った。 


「わかりました。力太郎(ちからたろう)?」


 なんだその日本おとぎ話みたいな名前は。しかも五文字じゃないし。よくお前それで得意げな顔をしたな。


「残念」


「も、もう一回チャンスをください!」


 何でこいつはこんなに必死になっているんだ。もう好きにすれば。気が済むまで頑張って下さい。


「ち…………あ!ちんぺい!」


 だから五文字だっつーの。しかもなんだちんぺいって。宮島はこれで本気で言っているから始末が悪い。


「残念。答えは『長介(ちょうすけ)』だ」


「ちょっ……!当たりませんよそんなの」


 宮島は答えに納得がいかないらしく、珍しく先輩に向かって少し強い口調でそう言った。


「いや、お前が知ってるって言うからだろ」


 勝手にクイズみたいな流れにしているが、頭文字を言えば思い出すと言ったのは宮島だし。


「ぐっ…………。バレたわね。確かに本当は全く知らないわ。私がダンスユニットに興味があるはずないじゃない」


 さすがは宮島さん。予想通り清々しいまでの開き直りようだ。澄ました様子で腕を組みだした。別にいいけどなんでそんなに偉そうなの。


 つーかこの話よく考えたらすごいどうでもいい!ミスコンだろミスコン!宮島が実行委員の推薦でミスコンに出るのか出ないのかという話だ。

 それなのになんだ「ちんぺい」って。いい加減にしろホント。

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