文化祭と星空銀河⑨
結局田中マスオは罠ではなく、黒魔術で気絶させて拉致という関東○合もビックリのほぼ犯罪と思われる方法で部室まで連れてきた。
「だああああああああ逆襲のシャアああああ!!!はっ……」
部室の椅子を並べて横たわらせていた田中マスオは怖い夢でも見ていたようで、わけのわからないことを叫びながら飛び起きた。顔からは汗が吹き出しており顔色も悪い。
「こ、ここは?」
田中はキョロキョロと部室内を見回した。
「料理研究部の部室だ」
「何で俺はこんなところに」
気絶したショックで記憶が曖昧なのか、それとも先輩の黒魔術で記憶が消されているのかはわからないが、田中は部室に連れてこられた経緯を覚えていないらしい。
「私がお前を無理矢理気絶させて運んできたんだ。すまんな」
ダークマター先輩はサラッとそう言った。すまんとか言っているけど自分が悪いなんておそらく一ミリも思っていない。
「た、確か俺はさっきまであなたたちと廊下で話していて、女の子に動きを封じられたと思ったら急に」
「そうだ。理由があって拉致させてもらった」
先輩、理由があっても拉致はしちゃいけませんよ。学校で教わらなかったのかしら。
「な、拉致!?ふざけないでください!こんな乱暴な真似をして、許されると思っているんですか!?」
うん。これがまともな反応だ。ていうか学校にこの事を報告されたら普通に考えて退学だろ。大丈夫なのか僕たちは。
「乱暴な真似はしたが、私は一つもふざけていない。ただ学校側にはバレると面倒だからこの事は言うな。そしてお前は料理研究部に入れ」
自分勝手もここまでくると清々しい。しかもこのタイミングで勧誘かよ。こちらの要望だけ一方的に押し付けして相手の話は全然聞いてない。
「……え?」
会話が噛み合わなすぎて田中マスオは先輩が何を言っているのか理解できていないようだ。
さすがにこんなタイミングで入部を打診されて受けるヤツなんていないだろうな。
「料理研究部に入れ」
「……嫌ですけど」
「いや、入れ」
「すみません。料理出来ないんで」
「出来なくていい。入れ」
「俺、コンピュータ研究会に入ってますし」
「辞めろ。入れ」
「仕事で来れない日も多いですし」
「構わん。入れ」
「それに人のことを拉致するような部活には正直あまり……」
「悪かった。入れ」
「入ります」
やったー。田中マスオ、入部決定☆
「どおおおい!待てえええええええ!!」
「え?」
「え? じゃねえわ!」
「ど、どうしたんだ純。そんなに興奮して」
「どうしたもこうしたもない!まず田中!お前入んのかよ!簡単に仲間になりすぎだろ!ピッコロかお前は!気絶させられた上に拉致までされてるんだぞ!? そこはマスターボール投げられても霜降り肉四個積まれてもグッと耐え忍べよ!」
「いや、でも謝ってもらったし……」
「謝ったら何でも解決すると思ってるのか!? 国会議員かお前は!」
「落ち着け純。田中も自分から入るとて言っているんだし、いいじゃないか」
「絶対に良くない!先輩も先輩ですよ。なんだあの誘い方。『入れ』しか言ってねえじゃねえか!沼編のカイジかお前は!段階踏めよ!まずはお友達からだろうが!!」
「か、風早くん。冷静になって。ツッコミがブレまくっているわ」
宮島が慌てて激昂する僕を止めに入った。いや、感情的にもなるわこんな状況。先輩はツッコまれたからしゃがみこんでプルプル震えてるし、田中マスオはどうしていいかわからない顔で挙動不審にウロウロしてるし。カオス!正にこれぞ正真正銘のカオス!
「はあっん……はぁ……。と、とりあえず純の意見を聞こうじゃないか。田中が料理研究部に入るのは反対か?」
「反対ではありません。むしろ賛成です。たださっきまで『拉致ふざけんな』と憤っていた人間が急に入部は展開に無理があります」
「そんな過程を気にしたところで何にもならん気がするが」
「当の本人は入ると言っているのだし、私も入部でいいと思うのだけど」
「いいや!ダメだね。おい田中。お前はもう少し入りたくない素振りを見せろ。そんで一旦こんな部活なんて絶対入りませんみたいな態度を見せて、それを徐々に軟化させて入部するんだ」
僕は田中に詰め寄り捲し立てた。
「……こいつが一番まともなのかと思っていたら大分やばいヤツですね」
田中は僕から目を逸らし、先輩と宮島の方を向いてそう言った。
「ええ。多分一番の変人よ。普段は猫を被っているけど、スイッチが入ると手がつけられないわ。まあでもそろそろあの子が来るから収まると思うのだけど」
「待て待てお前らこの野郎!ボクを変人だと!? 僕なんかに比べたらお前らの方が……」
「おはようございまーすっ♪」
僕が宮島と田中に食って掛かっている最中、ガチャッと部室のドアが開く音がし、それと同時に姫様がルンルンで部室に入ってきた。
「今日もいいてんきでございますね♪ぶんかさいの二日目もがんばって…………あれ? だれじゃ?そこにいるものは」
姫様は不思議そうな顔で首を傾げながら田中の方をじっと見つめた。
「いいタイミングで来たな優衣。こいつは新入部員の田中マスオだ」
「ふおぉー!ぶいんがふえるのでございますか!それはめでたいことです♪」
姫様はニコニコしながら田中に近付き、
「あねがさきゆいじゃ。六さいじゃ。なにかわからぬことがあればなんでもゆいに聞くがよいぞ」
と得意気に言った。どうやら姫様は田中マスオの入部に賛成のようだ。
「しょ、小学生!? 何でここに?」
「おい田中。お前姫様がこう言っているんだ。四の五の言わずにとっとと入部しろ」
僕は再び田中に詰め寄った。姫様の言うことは絶対だ。最早迷う必要はない。
「なっ……!こいつさっきと言っていることが百八十度違う……」
「うるさい。つべこべ言うな」
「……こいつっていつもこんななんですか」
「まあ時々こうなるな」
「このせいで文化祭の出し物が危うくかくれんぼになるところだったし」
「こんな変人がうちの学校にいたんですね……。聞きたいことは山ほどありますが、とりあえずよろしくお願いします」
こうして星空銀河こと田中マスオは料理研究部に入部することになった。入部は入部でいいのだが、こいつは今日の文化祭のライブはどうするつもりなのだろうか。




