それでも料理研究部はブレない③
あっという間に月曜日はやってきた。先輩が入院している間、僕たちは各々に与えられた仕事にひたすら没頭した。
宮島はすでに当日使う衣装の発注を終わらせ、姫様が当日身に付ける小物の作成にかかっている。姫様お気に入りのウサギのぬいぐるみは宮島が作ったと聞いたし、裁縫とかの手芸は得意なのかもしれない。
姫様は可愛らしい歌詞を書き終え、歌の練習に入っている。アカペラで一生懸命歌う姫様可愛すぎワロタ。
そんで姫様の書いた歌詞が、ホント可愛すぎでワロリンヌ。これ多分、当日聴いたら全員Aメロで萌え死ぬわ。萌え死んだ客の屍で山が出来るわ。
そんな歌詞の一部がこちら。
曲名:さえこはすごいのじゃ!
作詞:姉ヶ崎優衣
ゆいはせいぎの ひめさまじゃー
むかしからきた ひめさまじゃー
すきなたべものは しゅーくりーむ
ふわふわさくさく あまいのじゃー
すきなどうぶつは うさぎのうさたん
ふわふわもふもふ さえこがつくったのじゃー
さえこはぶかつのなかまじゃ
やさしいしかわいいしだいすきじゃ
さえこはけんどうもつよいのじゃ
あねがさきぐんのたいしょうにしたいくらいじゃー
でももしさえこがけがをしたら
ゆいはかなしくてないちゃうのじゃ
だからやっぱりー
いまのはなしはー
いまのはなしはー
なかったことにしてほしいのじゃ
ゆいより
「天才だあああああ!!!天才がいるぞおおおおおおおおおお!!!!!」
「……なっ、急にうるさっ!……どうしたの?風早くん」
「すまん。思い出し叫びだ」
「思い出し叫び……?」
宮島は怪訝そうな表情を浮かべたが、すぐに再びチクチクと自分の作業へと戻った。
それにしても姫様の歌詞。六歳にしてこのワードセンスである。天才以外の何者でもない。後半はほとんど宮島の紹介なのに、なぜあそこまで可愛く仕上がるのだろうか。
この歌詞の歌を毎日練習しているわけだが、毎回最後の「ゆいより」っていうところで姫様は恥ずかしそうにニコッと笑う。それがもう可愛いすぎて死ぬ。萌え死ぬ。可愛いというより、もはや尊い。尊すぎて命を落としそうになる。
毎日聞いているこの歌だが、一つ気掛かりなことがある。それはこの歌のメロディーだ。この歌についている姫様にピッタリなラブリーでキュートでキャッチーなメロディー。はっきり言って素人が作れるレベルではない。アイドルの新曲と言われても違和感がないだろう。一体誰が作ったのだろうか……。他の二人も知らないらしい。
そして最後に僕。僕はあの日からというもの、作家の神様が乗り移ったかのごとく台本のアイディアが湧いてきて、これまでの出遅れが嘘のように一気に完成させる……気でいたのだが、乗り移ってくれなかったわ神様。ぜーんぜん終わんねーわ台本。
全く進んでないわけではないのだが、今日先輩に仕上げて見せようと思っていたにもかかわらず、まだ八割程度しかできていない。……うん、今盛ったわ。七割弱くらいかな。まあ七割も八割も変わらないよね!大切なのは誠意のこもった謝罪だよね☆
まあそんな感じで、各部員作業を進めながら久しぶりに部活に来る先輩を待っているわけだが……。
「……だいまおうしゃまはまだかの?」
「そうね。遅いわね……」
宮島はそう言いながら腕時計に目をやった。
「え!?もう五時二十分じゃない!」
確かに遅すぎだ。先輩はいつも四時過ぎには部室にやってくる。五時を過ぎたことは一度もなかったはずだ。
体調不良がまだ長引いているのだろうか。いや、でも今朝部員全員宛に「今日は部活に行くぞ!」とラインをしてくれていたし……。
「ちょっと僕が電話をしてみる」
二人にそう言いスマホをもって立ち上がると、ちょうどそのスマホに着信が来た。
「……先輩から?」
液晶を見ると、登録されていない番号だった。
「多分、ちがうな」
来るはずの先輩が一向に現れず、このタイミングで知らない人からの着信……。得体の知れない嫌な予感が頭を埋め尽くした。
恐る恐る通話ボタンを押し、スマホを耳に当てる。
「……はい」
「……風早純一さんですか?」
低い男性の声だった。知っている人の声ではない。渋い大人の重厚感のある声だ。
「はい、風早です。どちらさまでしょうか……」
「麹町鉄幹と申します。美生の父です」
「…………」
お父様キタアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!




